さわ子「・・・今日から登校することになった琴吹紬さんです」

紬「・・・」ペコリ

律「知ってるよ!転校生かっ」

紬「・・・」キラキラ

律「やってみたかったのか!」

紬「・・・」コクコク

姫子「あ、そういう意味ね」

信代「律のツッコミが無かったら理解できなかった」

さんきゅー

姫子、信代

紬「・・・」ギュ

律「いや・・・、転校生ごっこかなぁ・・・って思っただけだぞ」

春子「律のツッコミが夏前とは比べ物にならないくらい光っているんだけど」

和「さすがね」

唯「りっちゃん冴えてるよ」

さんきゅー

春子

律「和は知ってただろ?」

和「・・・遠いわよ。それにツッコミなんてスキル持ち合わせてないわ」

唯「りっちゃんだけだよ」

「クスクス」

姫子「ふふっ」

紬「・・・」キラキラ

律「いや・・・そんな嬉しそうにしなくてもいいんじゃないか・・・?」

いちご「・・・クスクス」

律「喜べむぎ、いちごがウケた」

紬「・・・」ニコニコ

いちご「・・・笑ってない」イジイジ

さんきゅー

いちご

さわ子「もういいでしょ、席に着きなさい」

紬「・・・」コクリ

スタスタ

風子「やっと揃ったね」

紬「・・・」コクリ

さんきゅー

風子

みんなが声をかけてくれたから

凍った空気が溶けた


一人だけ

教室の空気が和らいだこの時に

一人だけ俯いているけどな


―――バカだ私は

むぎは喋れない

むぎは声を上げて笑えない

むぎは歌えない

むぎは誰とでも話をすることができない

むぎは――言葉で――気持ちを―

―――伝えられない

偉そうに

梓を諭そうとした

悟った顔で

律に語った

自分に出来る事があると

唯と聞く側にまわる事で安心していた

私は状況を理解していなかったんだ



――――――現実が―――追いついてしまった

・・・・・・

・・・

さわ子『むぎちゃん・・・今、ドイツにいるのよ』

『えっ!?』

さわ子『あ、でも今は日本に向かっているところね』

『・・・』

さわ子『むぎちゃんの症状を研究しているチームがあるんだって』

『・・・ドイツ・・・』

さわ子『かなり特殊な症状らしくてね、最先端の治療法で研究しているらしいわ』

『そこで・・・検査を・・・?』

さわ子『いえ・・・治療を兼ねたリハビリを行うつもりだったらしいわ。琴吹家としては』

『治療って事は治るんですか!?』

さわ子『・・・保証はないって言われたらしいけどね』

『・・・それでも・・・可能性があるなら・・・』

さわ子『ドイツでなくちゃいけないの』

『え・・・』

さわ子『その期間は半年・・・一年・・・それ以上らしいわ』

『それじゃ・・・どうして日本へ・・・』

さわ子『高校生活を・・・桜が丘をみんなで卒業したいからよ』

『!』

さわ子『むぎちゃんとしては、みんなとの時間を過ごすことに決めたって事ね』

『なんで・・・っ』

さわ子『・・・』

『・・・』

さわ子『もう一つ』

『・・・』

さわ子『この症状は早いうちに治療に取り掛からないと、取り返しがつかなくなるらしいわ』

『え・・・、それじゃあ・・・一生喋れなくなる・・・かもしれない・・・』

さわ子『・・・そう』

『・・・』

さわ子『時期が来たらみんなに教えてあげて』

『どうして―――』

・・・

・・・・・・

どうしよう

涙が零れそう

ここを選んでくれたむぎ

声が出せなくなるむぎ

時間が大切で

大切だから嬉しい―辛い

どうしよう

俯いていても分かる

隣にむぎがいること

二年半むぎのもつ空気を感じていたんだから

分かる

今は顔をみせられないんだ

むぎの顔を見れないんだ

きっと、声を出して泣くから

楽しいわけじゃない、悲しいわけじゃない

嬉しすぎて、辛すぎて

ただ、泣きたくなるんだ だから


紬「・・・」ヒョイヒョイ

澪「・・・?」

信代「なにやってんの?」

風子「・・・髪をどうするの?」

唯「みつあみがお勧めだよ」

和「癖になるわよあれは」

唯「え!?」

姫子「やったことあるの?」

和「えぇ」

「「 え!? 」」

和「なによ、みんなして」

唯「いつ!?」

和「忘れたのね・・・」

紬「・・・」キラキラ

信代「・・・本当にみつあみにしたな」

風子「一本だけってバランスおかしくないかな?」

澪「・・・まっ・・・たく・・・っ・・・しょ・・・しょうがないなむぎは・・・」

さわ子「あのねぇ・・・HR始めたいんですけど」

紬「・・・」テクテク

唯「・・・」

和「・・・」

姫子「・・・」

信代「・・・」

風子「・・・」

澪「・・・」

いちご「・・・」

春子「・・・」

律「・・・」

紬「・・・」ストッ

さわ子「それではHRを始めます」


―――昼

紬「・・・」プップップー

唯「おなか・・・?」

紬「・・・」コクコク

和「唯と同じ鍵盤ハーモニカね」

紬「・・・」プッププー

澪「す・・・いた・・・かな?」

紬「・・・」コクコク

律「じゃあ食べろよな」

紬「・・・」プップププー

和「・・・た・・・」

姫子「・・・」

律「・・・と・・・し・・・?」

紬「・・・」フルフル

律「じゃ、もう一回」

紬「・・・」プププー

律「・・・の・・・し・・・い・・・か?」

唯「楽しいんだ!」

紬「・・・」コクコク

和「ダメね・・・反対から鍵盤を見てるから余計分からなくなるわ」

姫子「でも、『た』は合ってた」

和「出だしはね」

姫子「・・・」

紬「・・・」プップップー

澪「おなか・・・」

紬「・・・」プッププー

律「だから食べろよ!」

紬「・・・」ニコニコ

姫子「・・・うん。母音は覚えた・・・と言っても、手元みないと分からないけど」

紬「・・・」プッププップー

姫子「い、え、お・・・だけ。子音はだめだね」

唯「最初の子音はソの『H』だよ~」

姫子「『ひ』・・・?」

澪「次の子音はラの『M』」

姫子「『め』・・・」

和「レの『K』」

姫子「ひめこ・・・?」

紬「・・・」コクリ

姫子「あ・・・」

紬「・・・」プップップー

律「ド#」

澪「ラ、レ#」

姫子「ちょっとまって、鍵盤と照らし合わせてみるから」

唯「おけ~」

姫子「もう一回おねがい」

紬「・・・」プップップププー

姫子「あ・・・り・・・、・・・レレ、ド#は『が』で・・・・・・」

和「ド、ラ#で『と』」

姫子「ファ#・・・」

紬「・・・」プップップー

姫子「・・・うん」

紬「・・・」ニコニコ

律「早く食べないと昼休み無くなるぞ」

紬「・・・」アセアセ

姫子「・・・オヤスミ」

唯「食べてすぐ寝たら・・・なにになるんだっけ、りっちゃん」

律「牛」

澪「ボケろというフリだな」

紬「・・・」モグモグ

律「牛若丸だ!」

和「頑張ったわ」

唯「ごめんね、りっちゃん」

律「唯・・・いつか仕返しするからな」

姫子(二つの言葉だけで・・・嬉しくなるなんて・・・変なの・・・)

和「食べ終わったらもう一回しましょうか」

唯「そだね~」

律「彼女はまたキラキラ星を聞くのであった」

紬「・・・?」モグモグ

和「姫子がイヤホンで聞いている曲の事よ」

紬「・・・」コクコク

姫子「・・・」

唯「反応しないね・・・」

澪「姫子が寝ているから、紙鍵盤だけにしような」

姫子(聞く練習しようと思っていたけど・・・素直に起きて見ていればよかったかな・・・)

ピッ

ジャカジャカ

姫子(おやすみ・・・はどうやるんだっけ・・・ラ#、ド#、ファ#、レ#で『おあうい』
   音を拾って声に変換してる唯たちはすごい・・・)

ジャカジャカ



―――――放課後

紬「・・・」プップップー

律「・・・むむ」

澪「も、もう一回だ」

紬「・・・」コクリ

紬「・・・」ププップー

唯「あれ、さっきと違うよ?」

紬「・・・」ププッププー

律「で・・・た・・・」

紬「・・・」プププー

澪「・・・らめ・・・出鱈目?」

紬「・・・」コクリ

律「適当かよ~」

唯「も~」

紬「・・・」スッ

澪「『ごめんね』って!」

律「ちくしょう!許す!!」

唯「あはは」

紬「・・・」ニコニコ

紬「・・・~」

唯「・・・ふぁ」

律「なんだ・・・眠いのかむぎ?」

紬「・・・」コクリ

澪(飛行機に乗って疲れたのかな・・・)

律「ソファで寝るか?」

唯「お言葉に甘えて」

スタスタ

唯「よいしょっとー」ボフッ

律「掛けるものいるか?」

紬「・・・」コクリ

唯「どうしたの、今日はお母さんみたいで変だよ」

律「変だよって余計だろ」

澪「・・・」

律「じゃ取ってくる。澪・・・行くぞ」

澪「え・・・?」

律「いいから、行くぞー」

澪「う、うん・・・」

スタスタ

ガチャ

バタン

唯「むぎちゃん、そこでいいのー?」

紬「・・・」プップー

唯「そっか・・・」

紬「・・・」プー

唯「『メジャーのA』・・・あずにゃん?」

紬「・・・」プップー

唯「来ないね、どうしたのかな~」


――――

純「・・・行かないの?」

梓「・・・行く・・・けど」

憂「・・・」

純「なんでさ」

梓「・・・ちょっと、怖い」

憂「紬さんが?」

梓「むぎ先輩に迷惑かけるのが・・・」

純「なんだそりゃ」

憂「・・・」

梓「・・・」

純「ウジウジしてんなって、行ってこーい!」バシッ

梓「あいたっ」

憂「それじゃ、明日ね」

梓「・・・来ないの?」

純「部室に出入り出来ないでしょ、部外者だよ私ら」

憂「うん」

梓「・・・じゃ、あした」

トボトボ

純「・・・」

憂「純ちゃん・・・?」

純「うん?」

憂「・・・いつもと雰囲気が違うから」

純「あー・・・うん」

憂「なにかあったの?」

純「昨日さー、唯先輩と律先輩に会ったんだよね、河川敷で」

憂「?」

・・・・・・

・・・

律『なにしてんだよ、相馬さん』

『それ私じゃないです!』

唯『あはは』

律『一人で川なんか眺めちゃって・・・』

唯『青春ですな』

『・・・』

律『なにがあったんだ、言ってみなさい』

唯『りっちゃん父さんだ』

『・・・』

律『・・・恋か』

唯『あらまぁ』

『はい・・・』

律唯『『 えっ!? 』』

『昨日・・・駅前で見かけたんです・・・』

律『お、おう・・・』

唯『う、うろたえてはダメですのよ、りっちゃん父さん』

『・・・はぁ、胸が苦しいんですよ』

律『か、母さん今日は鯛だ、めで鯛つってな』

唯『いいえ、恋だけに鯉よ』

『・・・』プクク

律『よ、よし。キューピットになってやろうではないか』ドン

唯『まぁ、素敵』キラキラ

『・・・あ、ごめんなさい』

律唯『『 え? 』』

『冗談・・・です』

律『なぬぃー!』

唯『ちぇー』

『あっはっは』

律『こんのやろー』ワシャワシャ

『あ、ご、ごめんなさいー!』

唯『あはは、こんにゃろー』ワシャワシャ

『唯先輩まで!?』

律『ったく』

唯『・・・』

『・・・えへへ』

律『で?』

唯『どうしたの?』

『?』

律『誤魔化しきれたと思ったか?』

唯『りっちゃん父さんは鋭いのです』

『あ・・・』

唯『言いなさい!』

律『問い詰めるな』

『・・・いいなぁ』

律唯『『 ? 』』

『・・・梓の事で』

律『・・・』

唯『・・・』

『最近の梓みてると、なんていうか、モヤモヤしてしまって』

律『・・・』

唯『・・・』

『梓の気持ちは分かるんですけど、よく分からなくて、それでモヤモヤと』

律『そっか・・・』

唯『・・・うん』

『・・・』

律『やっぱり行くか、唯!』

唯『そだね!』

『え?』


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最終更新:2011年10月03日 00:00