律『梓のところに行こうかと迷っていた所だ』
唯『ちょっと気がかりだから、話したいな~って』
『そうですか・・・』
律『大丈夫だ、いつものようになれるって』
唯『純ちゃんも行こうよ』
『いいです・・・ここでもう少しボンヤリしてます』
律『そっか、じゃあな』
唯『明日部室に来てね。むぎちゃんとティータイムしよう!』
・・・
・・・・・・
純「モヤモヤじゃないや・・・」
憂「え?」
純「ムカムカしてたんだ・・・」
憂「純ちゃん・・・」
――――
律「むぎが笑うと顔を逸らしてるよな」
澪「・・・」
律「なんでだ?」
澪「・・・なんでもないって」
律「・・・」
澪「なん・・・でも・・・ない・・・よ・・・」
律「あるって言ってるようなもんだろ」
澪「・・・ない・・・よ・・・」
律「・・・」
澪「・・・ない・・・」
律「私は、聞きたいんだ」
澪「・・・っ!」
うぅ・・・
こんなに意気地が無いとは思っていなかった
部室に行けば会えるのに
会いたかったのに
あれは・・・澪先輩と律先輩・・・
い、一緒に
律「マジかよ・・・」
澪「・・・うん」
律「・・・」
澪「辛いんだ・・・」
―――どういう意味ですか
律「自分の声と引き換えに、この時間を選んだのか」
澪「うん・・・。早期治療にとりかからないと・・・希望は無くなるのに・・・」
―――なんですかそれ
律「・・・」
澪「・・・一緒にいたいという私は自分勝手かな」
律「そんなん誰も責められねえよ」
澪「・・・」
律「・・・」
――――
梓「はぁ・・・はぁっ・・・」
ダダダッ
二人が話していたこと
治るかもしれないという事
それなのにここにいるということ
そのせいで声が出なくなるという事
胸が痛むけど
嬉しい
会いたい
いつもの階段が鬱陶しくさえ感じる
梓「・・・っはぁ・・・はぁ」
ガチャ
梓「こんにちは」
紬「!」ビクッ
梓「むぎ・・・せん・・・」
紬「・・・」ゴシゴシ
梓「・・・」
紬「・・・」ニコ
今、涙を拭きましたよね
泣いていたんですか
どうして
なにがあったんですか
どうしたんですか
教えてください
紬「・・・?」
梓「む、むぎ先輩・・・今・・・」
紬「・・・」
テッテッテ
紬「・・・」ニコニコ
どうして笑顔でいるんですか
今
泣いていたんじゃないんですか
なにがあったんですか
紬「・・・」
ギュ
グイグイ
梓「あ・・・」
唯「ん~」ムニャムニャ
唯先輩寝ていたんだ
そうか、今のは
あくびで出た涙だ
びっくりした
なんだ
そうか
でも
どうして
胸の動悸が激しいの
紬「・・・」プップップー
梓「あ・・・」
唯「・・・あ、あずにゃん・・・おはよ~」ボケー
紬「・・・」プップップ
唯「そだね、夕方だね~」ボケー
梓「っ!」
聞こえなかった
むぎ先輩の声が
聴こえなかった
紬「・・・」プー
梓「・・・」
唯「・・・あずにゃん?」
梓「・・・え・・・?」
紬「?」
唯「むぎちゃんが呼んでるよ?」
呼んでるって
どうして分かるんですか
唯「『メジャーのA』だよ今の」
紬「・・・」プー
梓「!」
聞き取れなかった
聴こえない
なんで動悸が治まらないのっ!
紬「・・・」プップププー
唯「また、むぎちゃん~」
唯先輩には分かるんだ
私は分からない
何を伝えようとしてるのか
何を言っているのか
分からない
私
さっき
何を思った
むぎ先輩の声が治るかもしれないけど
ここを選んだ事に
この時間と引き換えに治らないのに
どう思った
―――嬉しい
ズキィッ
激しい動悸は治まった
変わりに胸が重くて痛い
ガチャ
律「なんだ、梓来てたのか」
澪「・・・」
唯「あれ、掛けるものは?」
律「あ、忘れた」
紬「・・・」
梓「・・・」
澪「・・・どう・・・した?」
唯「あずにゃんが・・・」
紬「・・・」ギュ
あ、また掌に書いてくれるんですね
音を声にじゃなく
文字ヲ声ニ
ワタシハ聴キトレナカッタカラ
梓「っ!」バッ
紬「!」
唯「あずにゃん!?」
律「梓!?」
澪「あ、梓・・・」
梓「ぁ・・・!」
―――イマ
何をしたの、私
むぎ先輩の手を振り払ってしまった
違うんです
今のは
チガウんです
違うチガウ違うチガウチガウ!
違ウッ!!!
紬「・・・」
梓「っ・・・」
そんな顔
しないでください!
悪いのは私ですから!!
むぎ先輩が悪いわけじゃないんです!
声を聞き取れない私が!!
ワタシガワルイ
ナニヲヤッテイルノワタシハ
梓「っ!」
ダダダッ
律「待て梓ッ!」
バンッ
律「ちっ!」
タッタッタ
バンッ
紬「・・・」
澪「・・・」
唯「・・・」
――――
律「待てって!」
ガシッ
梓「っ!」バッ
律「・・・」
梓「私・・・喜んだんですよ・・・!」
律「え・・・?」
梓「むぎ先輩が自分の声より、この場所を選んだ事に・・・!」
律「聞いていたのか」
梓「・・・一緒にいられるって・・・喜んでしまったんですよっ!」
律「・・・」
梓「そ・・・っ・・・それ・・・っ・・・なのにっ・・・!」
律「・・・」
梓「声が・・・っ・・・聞こえな・・・っ・・・くて・・・」
律「・・・」
梓「・・・っ」
ダダダダッ
律「・・・私もだよ、梓」
律「憂ちゃんと純は?」
「え・・・、あ、憂は帰りましたよ」
「純はジャズ研に・・・」
律「そっか・・・ありがと」
・・・・・・
律「部長さーん」
部長「田井中さん?」
律「純を貸してくれませんか?」
部長「ちょっとまってね、鈴木さーん」
純「はい・・・律先輩?」
律「ちょっと来て」
部長「今日は終わりにするから自由にしていいよ」
純「は、はい。お疲れ様でした」
純「どうしたんですか?」
律「むぎと梓がトラブった」
純「え・・・」
律「というより、梓が暴走してるって感じか」
純「・・・」
律「頼めるか?」
純「先輩方の出番じゃないですか」
律「・・・いや、まぁ・・・そうなんだけどな」
純「・・・」
律「頼む」
純「私も暴走するかもしれませんよ」
律「丁度いいじゃん」
純「・・・そうですね」スッ
ピッピッピ
trrrrrr
律「いい判断だ」
純「どうして分かるんですか」
『もしもし、純ちゃん?』
純「憂、今どこ?」
『いつものところ』
純「梓いる?」
『・・・』
純「今行くから」
『分かった』
ピッ
律「どうして分かるんだよ」
純「私らにも絆があったって事です」
律「そっか・・・。よろしくな」
純「はい」
梓「ごめん・・・」
憂「どうして謝るの?」
梓「・・・」
憂(今の、私に対しての言葉じゃないよね・・・)
梓「・・・」
スッ
憂「あ・・・」
純「立て、梓」
梓「・・・どうして?」
純「座って話したくないから」
梓「・・・なに?」
憂「ちょ、ちょっと二人とも」
純「いつまでそうしてるつもり?」
梓「いきなり・・・意味が分からない」
純「いつまでふらふらしてんのって意味だよ」
梓「・・・余計分からない」
憂「・・・」
純「今の自分がどう映っているのか分かってる?」
梓「遠まわしに言わないでいいよ」
純「先輩方にこれ以上心配かけるな」
梓「知った風な口を・・・聞かないで」
純「知ってるよ!
律先輩が気にかけている事!
唯先輩が引っ張っている事!
澪先輩が支えている事!
紬先輩が梓を見守っている事!」
梓「!」
純「大切な人が辛い状況にあるのは分かるけどっ」
梓「・・・分かってないよ」
純「なに!?」
憂「・・・」
梓「むぎ先輩がどう思っているのか分かってないでしょ!」
純「・・・」
憂「・・・」
梓「どうしてズレたんだろう」
純「なにそれ」
梓「おかしいよ、こんな世界」
憂「おかしくないよ」
梓「おかしいよ、むぎ先輩が」
純「それ以上言うと引っ叩くから」
梓「!」
憂「・・・」
純「もしかして、この世界の他にも違う世界が存在するとか思ってる?」
梓「・・・」
純「違う世界の紬先輩は声を出すことが出来て、今は部室でティータイムしてるはずだと」
梓「・・・っ!」
純「梓・・・紬先輩を見ていないよね」
梓「・・・っ」
純「おかしいと思った。夏の旅であんなに紬先輩に懐いていた梓が、いまはそっぽ向いてるんだもんな」
梓「向いてない!」
純「じゃあどうして隙が生まれたの?」
梓「それを言わないでッ!」
純「夏の梓なら、そんな自分自身を受け入れていたよ」
梓「っ!」
最終更新:2011年10月03日 00:01