―――――放課後
澪「練習するぞ!」
律「はは、そんなバカな」
梓「練習しましょう!」
唯「またまた、そんな~」
澪梓「「 冗談で言ってるわけじゃ・・・ 」」
紬「・・・」ポポロポポロロン
律「そうだな、ひさしぶりだし」
唯「そうだね~」
澪梓「「 ・・・ 」」
律「スタンバーイ!」
唯「よいしょっ、おっけ~」
紬「・・・」コクリ
澪「・・・」
梓「・・・」
律「なんか二人のテンション下がってるけど、ワン・ツー・スリー!」カンカンカン
ジャジャンジャジャンジャーン!
澪「・・・これは・・・・・・」
梓「・・・ビックリです」
律「私たち・・・」
唯「おぉ・・・」
紬「・・・」ゴクリ
律唯「「 下手になってる・・・ 」」
澪「・・・私も指が動かなかった」
梓「・・・はい」
律「やべえ・・・」
唯「なんてこったい・・・」
紬「・・・」ポン
澪「?」
梓「『メジャーのB』です」
唯「ティータイムだよ!」
律「よしよし、そうするか」
梓「そうですね」
澪「・・・」
ガチャ
さわ子「練習してるー?」
紬「・・・」
テッテッテ
さわ子「あら、丁度いい所に来たのね~」
デンデンデーン
澪「・・・」
律「みお~?」
澪「うん・・・」
梓「けいおん部でティータイムをするのは久しぶりですね」
唯「そうだね~」
紬「・・・」コクリ
さわ子「待ちに待っていたのよ」
律「顧問としてどうなんだ・・・」
唯「おっやつ~」
律「いただきまーす!」
紬「・・・」
コト
澪「ありがとう、むぎ」
紬「・・・」ニコニコ
唯「うまうま」ムシャムシャ
律「うめうめ」ムシャムシャ
さわ子「はぁ・・・待っていた甲斐があったというものよ」シミジミ
紬「・・・」ニコニコ
梓「・・・やっぱりおいしいです」ズズーッ
澪「・・・」ジー
梓「・・・どうしたんですか?」
澪「ううん・・・なんでもないよ」
梓「?」
―――――・・・
紬「・・・」コクリ
澪「帰るか・・・」
スタスタ
律「ん~、今日は結構頑張ったな~」ノビノビ
紬「・・・~」ノビノビ
唯「そうだね~」
澪「夏前とはえらい違いだな」
梓「もうちょっとだらけると思っていました」
律「ほぅ」
唯「このあずにゃんめっ」ダキッ
梓「ちょっ!」
唯「うへへ~」スリスリ
梓「離してくださいっ」ジタバタ
紬「・・・」
律「むぎー、電車で帰るのかー?」
紬「・・・」フルフル
澪「斉藤さんが迎えに来るの?」
紬「・・・」コクリ
唯「あ、本当だ」スリスリ
梓「・・・」
斉藤「・・・」ペコリ
紬「・・・」フリフリ
唯「じゃあね~」スリスリ
澪「明日な」
律「じゃあなー」
梓「明日です」
ガチャ
紬「・・・」
バタン
斉藤「それでは失礼致します」ペコリ
バタン
ブオオオオオオ
―――――公園
キィコキィコ
和「・・・」
姫子「ブランコに乗るなんて・・・何年ぶりだろ」
和「私は中学以来ね」
姫子「唯と?」
和「そう・・・、とっても楽しそうに漕いでいたわ」
姫子「想像つくな」
和「想像したとおりよ、きっと」
姫子「クスクス」
和「・・・」
キィコキィコ
姫子「・・・」
和「・・・高くはこげないわね」
姫子「うん・・・格好とか・・・軽さ・・・とか、色々ね」
キィコキィコ
和「姫子はいつ以来?」
姫子「・・・小学校4年生以来」
和「やけに具体的ね」
姫子「・・・ちょっとトラウマがあってね」
和「そう・・・」
姫子「でも・・・そのトラウマも今では懐かしく感じて・・・くすぐったい」
和「・・・そう」
姫子「うん・・・そう・・・」
和「・・・」
キィコキィコ
姫子「聞かないの?」
和「・・・なにがあったか?」
姫子「・・・そう」
和「言っちゃなんだけど、興味ないわ」
姫子「ふふっ・・・和ってこんなに面白い事言う人だっけ?」
和「さぁ・・・。面白い事言ったつもりもないんだけどね」
姫子「充分面白いよ・・・。なんていうか、キャラが濃くなった」
和「薄かったの?」
姫子「唯のキャラが濃いでしょ?和は黒子って感じだから」
和「なによそれ」
姫子「・・・さぁ」
和「変なの」
姫子「変だねぇ」
キィコキィコ
和「・・・」
姫子「・・・」
和「私も変わっていたのかもね」
姫子「・・・」
和「・・・うん」
姫子「あ、勝手に納得した」
和「思い当たる節があったからよ」
姫子「・・・そう」
和「うん・・・そう・・・」
姫子「・・・」
和「・・・」
キィコキィコ
姫子「言わないの?」
和「どうして?」
姫子「言いたそうな雰囲気だから」
和「ふふっ、どうかしらね」
キィーコキィーコ
姫子「そんなに漕いでいいの?」
和「少しなら平気よ」
キィーコキィーコ
姫子「・・・そろそろ聞かせてくれる?」
和「私のキャラが濃くなった理由?」
姫子「ううん・・・どんな旅をしてきたのか・・・かな」
和「・・・」
姫子「あ、興味が無いわけじゃ」
和「ふふ、答えは一緒よ」
姫子「?」
和「姫子の質問の答えが私のキャラが濃くなった理由」
姫子「・・・」
和「私より、唯や澪の方が見てきた景色が多いんだから、そっちの方がいいんじゃない?」
姫子「そうなんだろうけど、中々機会がなくてね」
和「部室に行けばいいじゃない」
姫子「・・・けいおん部に?」
和「そうよ」
姫子「部外者だから、私は」
和「それを言ったら私も、憂も純も部外者ね」
姫子「そんな事ないと思うけど」
和「一緒よ。私たちも姫子も」
姫子「・・・」
和「・・・」
姫子「それじゃ・・・機会があれば・・・」
和「そう言っているうちは行かないわね」
姫子「う・・・」
和「・・・」
キィーコキィーコ
姫子「・・・トラウマと言っても・・・そんな深い傷ってわけじゃないし、恥ずかしい出来事でもないよ」
和「そう・・・それなら興味沸いたわ」
姫子「さすが唯の幼なじみだね」
和「どういう意味?」
姫子「懐が深い」
和「なによそれ、唯に失礼じゃない・・・」
姫子「ごめんごめん、そういう意味じゃなくてね」
ガサガサ
いちご「・・・」
唯「お・・・?」
いちご(聞き出してよ姫子・・・)
唯「?」
姫子「『旅』と『旅行』の違いってなに?」
和「・・・私なりの解釈で言うなら・・・旅行は目的地へ行く事ね。
道中が目的地への想いであふれて、その事自体をそう呼ぶんじゃないかしら」
姫子「・・・」
和「よく『帰るまでが遠足です』っていうでしょ?」
姫子「うん」
和「家に辿り着いたらそこでお終い。それが旅行」
姫子「・・・」
和「旅は・・・自分自身が求める場所を探すって事かしら
その場所に辿り着いたらそこでお終い。それが旅」
姫子「・・・」
和「自分の言葉で分からなくなったわね・・・短絡的だったかしら」
姫子「・・・うん、もうちょっと教えて欲しい」
和「そうね・・・。例えば、まだ見た事の無い自分自身を探していたとするでしょ?」
姫子「見た事の無い自分?」
和「そう・・・。澪がジェットコースターに乗ってはしゃいでいたりとか」
姫子「そんな事があったの!?」
和「・・・例えばよ。そんな澪がいたら、新しい澪って事になるわよね」
姫子「うん」
和「そんな自分に出会うことが、旅の終わりだったりするのよ」
姫子「・・・」
和「辿り着く場所を見つけること。それが旅となる・・・という事なんじゃないかしら」
姫子「『目的地へ行く』と『辿り着く場所を探す』は同じ意味みたいだけど?」
和「そうかしら、後者はそう簡単にはいかないと思うけど」
姫子「・・・どう・・・して?」
和「与えられる場所じゃないからよ」
姫子「・・・」
和「この説明で分からなかったら、私はまだ旅というものを分かっていないのよ」
姫子「私の経験・・・そのものが無いからじゃないの?」
和「どうかしらね。梓なら・・・説明ができそうだけど」
姫子「けいおん部の・・・」
和「えぇ・・・。あの子は出会ったたくさんの人を通して、むぎと一緒にいろんな景色をみてきたから」
姫子「・・・」
和「今の説明も、私たちが出会った人の、旅そのものを代弁しただけなのよ」
姫子「・・・そうなんだ」
ガサガサ
いちご(よく分からない・・・)
唯「・・・」ウンウン
いちご(・・・もうちょっと聞き出してくれないかな)
唯「いい事言ったよ和ちゃん」
いちご「ッ!?」ビクッ
唯「ん?」
いちご「い、いつからそこに・・・」ドキドキ
唯「さっきからだよ~」
いちご「気づかなかった・・・」ドキドキ
唯「あ・・・」
和「唯?」
姫子「・・・と、いちご?」
いちご「・・・」アセアセ
和「なにしてるのよ」
唯「聞き耳を立てていたんだよ」
姫子「・・・」
いちご「・・・そ、それじゃ」ビシッ
姫子「まって」
いちご「う・・・」
和「・・・どうしたの?」
唯「いちごちゃんが隠れていたから」
いちご「・・・」
姫子「・・・ちゃんと聞けばいいのに」
いちご「・・・」
和「?」
唯「なにを?」
姫子「けいおん部の雰囲気が変わった理由・・・かな」
いちご「・・・」
和「・・・」
唯「どゆこと?」
姫子「私は分かるからいいんだけどね」
いちご「・・・意地悪」
姫子「・・・」ニヤリ
和「私もよく分からないわね」
唯「説明するがいいよ!」
いちご「・・・仲良しグループから、なんていうか・・・その・・・」
姫子「芯のあるグループになったって感じかな」
和「そんな風に見えていたんだ・・・唯たちは・・・」
唯「でへへ」テレテレ
姫子(和って自分を客観的に見られないんだ・・・意外・・・)
いちご「・・・旅ってなに?」
姫子「和の話聞いてなかったの?」
いちご「・・・よく分からなかった」
唯「えぇ~、分かりやすかったよ~?」
和「それは当事者だからよ」
唯「そっか」ウッカリ
―――――夜・立花邸
「ふんふん♪」ガチャガチャ
姫子「・・・」
「おっと、いけねえ」ゴシゴシ
姫子「・・・」
「・・・で?」
姫子「・・・」
「どうしたんだよ、バイクのメンテナンスなんて興味あんのか?」
姫子「まぁね」
「・・・つまんねえだろ」
姫子「うん」
「なら邪魔すんなよ、俺の大事な時間なんだからな」
姫子「・・・」
「・・・」ガチャガチャ
姫子「・・・どのくらい乗ってるの?」
「今日はどうしたんだ?」
姫子「バイクに興味を持った・・・かな」
「へぇ・・・」
姫子「・・・」
「今のお前と同じ歳に出会った。・・・それだけなら邪魔」
姫子「乗ってどう変わった?」
「・・・景色が変わった」
姫子「・・・」
「怪我が増えた」
姫子「・・・」
「母さんと出会った」カァア
姫子「そういうのいいから」
「大事なとこだろ!」
姫子「年頃の娘にいう事かよ」
「じゃあ聞くなよ」
姫子「面白い?」
「やめとけやめとけ、どうせ続かねえよ」ガチャガチャ
姫子「・・・」ムッ
「俺の娘がバイクを放り出す、なんて見たくもねえ」ガチャガチャ
姫子「あっそ」
「そういうこった」ガチャガチャ
姫子「・・・じゃ頑張ってね」
「だが、興味を持つのは悪くないからな・・・そこの棚にある雑誌みてみろ」
姫子「?」
「いきなりバイクの本なんか読んでも面白くねえだろ」
姫子「あ、バレてた?」
「まぁな・・・」
姫子「古いなぁ・・・汚くない?」
「古いのは認めるが、汚くは無いぞ、17、18年前のものだが」
姫子「古・・・、・・・こんな雑誌持っていたんだ・・・」
「お前が興味示さなかっただけだ」
姫子「・・・どれ読めばいいの?」
「『心光展』特集ってのがあるはずだが・・・」
姫子「しんこうてん・・・ないよ?」
「こころ、ひかり、展示だ」
姫子「あ、あった・・・」
「20代前半のヤツがその写真部門でいい順位を取っててな」
姫子「バイク関係ないじゃん」
「そいつが見てきた景色が重要なんだよ・・・」
姫子「景色・・・」
「ん?」
姫子「その写真を撮った人も・・・バイクに乗っていたの?」
「いや・・・」
姫子「・・・」
「ただのカメラマンなんだがな・・・色々と旅をしていたみたいだ」ガチャガチャ
姫子「旅か・・・とりあえず読んでみるよ、ありがと親父」
スタスタ
最終更新:2011年10月03日 00:14