姫子「・・・そうですね。北海道の距離を走るのなら、バイクを整備する知識は必要ですよね」

玉恵「その通り。案の定、タイヤ空気が抜けて立ち往生しちゃった訳だ」

信代(・・・さっきまでおちゃらけていたのに・・・なんか怖いな)

純(どうしたんだろ・・・)

玉恵「そこを通りがかったのが轍さん。その時は顔見知りだったから声をかけてくれた」

唯「どゆこと?」

轍「船の上で出会っていたんだ」

唯「なるほどぉ」

さわ子「・・・」ヒョイ

パキパキパキパキ

玉恵「あっという間に直してくれてとても助かった。それでも私は自分の愚かさには気づかなかった」

憂「愚かさ・・・」

玉恵「うん・・・。自分の意志で北海道の大地に降りて、自分の力を試していたハズなのに
   初っ端から無力さを思い知らされたのに、助けられた事自体にきづかなかったんだよ」

梓「・・・」

紬「・・・」

玉恵「『なんとかなった』ってね」

さわ子「『運が良かった』よね」

玉恵「そうなんだ。自分の力で乗り越えたような、自由になれた気分でいたんだよ」

唯(・・・怖い)

玉恵「轍さんと別れて、とりあえず走った。目的地なんてなかった。
   後ろから来るなにか、から逃げるようにひたすら前に進んだ」

風子「・・・」ブルッ

姫子「・・・」ヒョイ

コロコロ

姫子(・・・コントロールが・・・・・・)

紬「・・・」スッ

姫子(あ・・・拾ってくれた・・・)

紬「・・・」ヒョイ

パキパキパキパキ

律(なんだよ、この空気・・・)

玉恵「それからは轍さんと何回か観光名所で会って、話をするようになった。
   話を聞けば『最高の一枚』を撮りたい・・・とね」

唯「うまさんのお父さんの?」

轍「うん・・・親父が撮った『最高の一枚』を越える為に、俺は北海道を旅していたんだ」

純「それは・・・越えることが出来たんですか?」

轍「それはまた話が変わるから。今は玉恵の話ね」

梓「・・・」

純「は、はい」

玉恵「・・・被写体を探しているけど中々みつからないと言って焦っていた」

轍「そんな風に見えていたのか・・・?」

玉恵「うん。『最高の一枚』は別に人を写さなくてもいいはずでしょ?」

轍「・・・」

姫子「あの雑誌のように・・・ですね」

いちご「・・・うん。他にもいい写真がたくさんあった」

玉恵「・・・それで、私を被写体に撮りたいと言い出した」

轍「言い出したってなんだよ、俺が必死に催促してるみたいじゃないか」

律「うわ・・・」

信代「うわぁ・・・」

梓「・・・フッ」

轍「見ろ、ドン引きだ!」

玉恵「あっはっは!」

唯「あはは」

風子「ふふっ」

純「梓・・・鼻で笑った・・・」

轍「・・・ったく」

さわ子「・・・引き受けたんですか?」

玉恵「ううん。すっぽかした」

轍「旭川で約束したんですよ。キャンプの段取りを教える代わりに、被写体になるって」

和「・・・どうして・・・?」

玉恵「・・・事故っちゃいまして」エヘヘ

紬「!」

梓「え!?」

轍「嘘つけ・・・。俺、警察に調べてもらったんだぞ。近くの病院にも連絡したけど
  それらしい人は運び込まれてない、診察されていないってな」

玉恵「・・・」

轍「・・・1週間、調べたんだからな」

玉恵「・・・てへっ」

轍「腹立つ・・・」

律「嘘かよ・・・」

轍「4年前の話だから・・・もういいけど、なんともなくて良かったよホント」

玉恵「痛み入る」

憂「侍ですね」

姫子「・・・玉恵さんは、その旅で得たものってありますか?」

轍「いい質問だ」

唯「どうなの、どうなの!?」フンフン

澪「落ち着け」

玉恵「得たものは無かった。という事実を得たかな」

風子「何もなかったって事ですか・・・?」

玉恵「うん・・・。家に戻って、虚無感・・・っていうのかな。とてつもない、やりきれなさを感じた
   私は・・・北海道へ・・・何をしに行ったんだろう?」

律「・・・」

澪「・・・」

唯「・・・っ」

紬「・・・」

憂「・・・」

純「・・・」

梓「っ!」ゾクッ

さわ子「・・・それからどうしたんですか?」

玉恵「バイクに乗って・・・走った。ひたすら・・・走った・・・」

信代「それで・・・」

クイッ

信代「姫子?」

姫子「待って・・・そこから先は・・・」

いちご「・・・き、聞きたくない」

春子「・・・」

轍「お前は・・・!」

玉恵「・・・」

轍「ちょっと来い。話がある」

玉恵「いいじゃんここで」

轍「・・・なにがしたいんだよ」

玉恵「黙っていることが悪いことだと、教えたいだけだよ」

梓澪律「「「 ! 」」」

和純姫子「「「 ・・・ 」」」

さわ子「・・・」

憂「・・・」

轍「・・・」

唯「どうしたの、みんな?」

紬「・・・」

玉恵「轍さん、気づいていたの?」

轍「どっちだよ」

玉恵「私の方だけど・・・」

轍「今もそんなに冷えていないのに、一人だけジャケット着てるからな・・・
  話の流れもおかしいから、もしやとは思っていたんだよ」

和(そういう意味だったのね・・・)

玉恵「・・・さすが轍さん・・・4年前より頼もしいよ」

轍「今さらおちゃらけるなよ。沖縄の話がひかえているんだから、さっさと話してしまえ」

玉恵「・・・うん。ごめんね、空気を換えてくれたのに」

梓「・・・」

姫子「・・・」

玉恵「ひたすら走って、本当に事故った」

梓「!」

姫子「!」

紬「・・・!」

玉恵「これ・・・みて・・・」ズルッ

律「・・・っ」

澪「ッ!」

信代「うわ・・・・・・あっ・・・ごめんなさい・・・」

玉恵「ううん・・・正直な感想だもんね、気にしてないよ
   目が覚めたら病院のベッドの上。4日寝てたみたい。その後1年ちょっとのリハビリ」

律「ま、マジかよ・・・」

風子「・・・っ」

玉恵「この腕の傷が証拠だよ。でもね、そのおかげで今の私がいるんだよ」

紬「・・・」

玉恵「とっても強くなれた自分がね。それが北海道の旅で得られたモノになった」

梓「・・・」

春子「・・・よく・・・バイクに乗り続けていられますね」

玉恵「好きになったからね。旅が、バイクで走るのが」

姫子「・・・」

律「・・・」

梓「・・・」

紬「・・・」

風子「・・・」

玉恵「おしまい」

シーン

玉恵「・・・」

轍「冷えきったぞ」

玉恵「沖縄の暖かさで上昇させてよ」

轍「勝手なことを・・・」

さわ子「あの料理の名は・・・なんでした?」

轍「あぁ、スクガラスですよ」

さわ子「スクガラス・・・はご自分で?」

轍「いえ、お土産に持たされたものです。もちろん自家製」

唯「最初は塩辛くて大変だったけど、噛んでいると味が出ておいしかったよ」

梓「のどに骨がささって大変でしたよ」

轍「頭から食べて、って言ったのに・・・。骨が硬いからよく噛まないと」

梓「・・・聞いてませんよ」

轍「・・・」シーン

憂(相性悪いのかな・・・)

澪「どうして沖縄へ?」

轍「『ニライカナイ』から手紙がきたから」

「「 ? 」」

轍「シャンバラ、マグ・メル、シャンゼリゼ、さっきも出てきた桃源郷などが・・・」

「「 ??? 」」

轍「あー・・・、まぁ、理想郷だよ」

唯「うむ」

和「分かってないでしょ」

唯「なんとなく分かったよ」

律(この表情は・・・分かってねえな)

風子「ユートピアですよね。とても理想的な場所だけど、どこにもない場所」

轍「そう・・・。詳しいね」

風子「本に出てきたのを思い出しました」

轍「大抵は死後の世界として認識されているんだ。手紙もそこから来たんだ」

信代「オカルト・・・?」

澪「・・・」ゴクリ

紬「・・・」ゴクリ

轍「・・・相棒からの手紙だったんだ」

玉恵「・・・!」

澪「・・・」ホッ

梓(澪先輩はこういう話苦手のはず・・・)

純「・・・?」

律「・・・」

さわ子(死後の世界のニライカナイ・・・そこにいる相棒さんからの手紙・・・ってことかしら)

姫子(・・・詮索しないほうがいいかな)

風子「律さん・・・、相棒さんって・・・?」ヒソヒソ

律「あぁ・・・、親友だった人・・・だってさ・・・」

風子「・・・だった・・・って・・・」

律「そういう事だ」

風子「・・・!」

轍「導かれているような気がしてさ、沖縄へ、ニライカナイへ」

風子「ど、どうしてそう思ったんですか?」

轍「旅が好きだからこの仕事をしていられるわけだけど、旅から旅へ身を投じて
  俺の辿り・・・いや、俺の話はいいか」

梓「・・・」

轍「ニライカナイは海の向こうの遥か遠くに、その場所は存在すると云われている
  そこから神様がきて、五穀豊穣や祝福、生命などをもたらし幸福を与えてくれる・・・とね」

紬「・・・」

唯「いいですな」

轍「様々な恩恵を受けているけど、その逆もある」

さわ子「・・・」

轍「病気や災厄、人に不幸をもたらすあらゆるものも海を越えてくると」

風子「それなのに理想郷と呼んでいるんですか?」

轍「うん・・・。そうだな、それじゃ俺が聞いた話を一つ」

玉恵「短めにね」

轍「分かってるよ!・・・砂浜を歩いていた男が櫛を見つけるんだ
  それはとても綺麗で持ち主が大切にしているだろうと一目で分かるくらいの物だった
  それを持ち主に返そうと砂浜をあるいてみたけど、持ち主らしき人は見つからなかった」

憂「・・・」フムフム

轍「次の日の朝、砂浜で何かを探している女性の姿を男はみつける」

唯「出会いだね」キラン

轍「・・・う、うん。・・・案の定その櫛は女性のものだった
  そのお礼にと、女性は男を海の底へ連れて行くんだ。竜宮城へね」

信代(竜宮城と言ったら・・・)

律(トンちゃんか・・・)

轍「城の者たちは男を歓迎した。男は連日宴会で時間が経つのを忘れるくらい楽しんだ」

和「・・・」

轍「男はふと故郷の事を想い出す。そして帰る事に決めるんだ
  だけど、女性は引き止める。男はそれでも家族や友達に会いたいがために振り切るんだ
  女性は言う。この包みを持っていってくれ、と
  これはこの場所とあなたの世界を行き来することが出来る物だから
  だけど、決して包みを開けてはいけない、と念を押す」

春子(似ている話だな・・・)

轍「男は故郷へ辿り着くと、雰囲気が違うことに気づく。風景が変化していたんだ
  家があった場所へ行くと見覚えのない家が建っている。知らない人が住んでいて、
  勝手に上がりこんだ男を白い目で見る
  家族がいない。友達もいない。知り合いもいない。独りぼっちだと気付く」

姫子「・・・」

轍「竜宮城で過ごしている間、外では数百年の時が過ぎていたんだ
  男は思い出す。女性がくれた物を・・・」

紬「・・・」ゴクリ

轍「包みを開くと無数の髪の毛が入っていたんだ」

澪「ヒィッ!」

いちご「・・・」ブルブル

轍「・・・その髪の毛は男を包み込み、やがて男は老人となり、衰弱して死んでしまう。というお話」

「「 ・・・ 」」シーン

轍「・・・」

梓「風子先輩の質問の答えがそれですか?」

轍「うん。ニライカナイは竜宮城を指しているのかもしれないでしょ?」

梓「・・・」

さわ子「海の向こうにあると言っていましたよね?」

轍「海の向こうの空の上、海の底・・・と、色々説があります」

和「時が忘れる程の場所であるのに、女性が男にもたらした物は・・・理想郷とはかけ離れていませんか?」

轍「うん。その包みは男にとって幸福でもあり、災厄でもあった。・・・ってね」

風子「なるほど・・・だから、ニライカナイ」

律「御伽噺じゃん」

轍「似たような話は全国各地にあるんだよ。沖縄にだって羽衣伝説はあるからね」

風子「・・・ふむふむ」

春子「ふ、風子・・・?」

純「浦島太郎ですよね」

紬「・・・」コクリ

いちご「・・・うん」

梓「・・・災いですか」

律「?」

轍「そう。感謝の心と畏怖の念を抱いて・・・」

玉恵「話が硬いよ。年齢層を考えてくださいな」

轍「うっ」グサッ

姫子(・・・あまり面白い話ではなかったかな)

風子「一つのモノで対称的な感情を持つ事になるんですね・・・面白いです」

姫子「え・・・」

轍「そ、そう言ってくれると助かる」

純「・・・話を戻しますけど、北海道で『最高の一枚』は撮れたんですか?」

轍「それは俺の過去に踏み込む事になるんだけど・・・。それでも聞く?」

純「そ、それは・・・」

梓「勝手に人のプライバシーに踏み込むあなたがそれを言うんですか」

轍「・・・ッ」

唯「あずにゃん・・・」

憂「・・・」

轍(この子・・・・・・面白い・・・)

紬「・・・?」

梓「・・・」

純「はい!」

玉恵「元気良し!」

律「なんだよその評価」

姫子(ご両親の話・・・)

轍「キミは写真見た?」

純「写真?」

姫子「見ていないです。私、唯、和、律、いちご、風子・・・は観ています」

轍(誰がどの子なのか分からない・・・)

春子「あの雑誌・・・?私見ていないね」

澪「見ました」

紬「・・・」コクリ

さわ子「8人が見たという写真・・・。内容は?」

律「女性が笑顔で写った写真だ。当時は・・・結婚していた?」

憂「当時は?」

轍「親父とお袋が周囲の反対を押し切ってアラスカを目指し、
  オーロラの下で永遠を誓った瞬間の写真」

さわ子「あら」キラキラ

玉恵「まぁ」キラキラ

憂「素敵ですね」キラキラ

いちご「うん」キラキラ

律「・・・」キラキラ

信代「律も!?」

純「おぉ・・・」

轍「全てを委ねた最高の笑顔のお袋。その視線の先には若き日の親父
  撮る側と被写体の心が完全に一つになって完成した、一枚の写真
  それはお袋と親父の『最高の場所』、『最高の瞬間』だったはずだ」

唯「『最高の場所』・・・」


澪「それが『最高の一枚』・・・」

姫子「その写真を越える為に北海道を・・・」

轍「うん」

和「撮れたんですか・・・?」

轍「うん・・・。撮れたよ」

玉恵「・・・!」

さわ子「・・・」

律「両親の話を恥ずかしげもなく・・・」

和「・・・」

轍「そんな両親を俺は誇りに思っているのさ!」

玉恵「カッコつけた!」

姫子「ふふっ」

和「あははっ」

律「あはは!」

唯「あっはは、おっかしー!」

澪「・・・」

梓「・・・」

紬「?」

憂「・・・?」


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最終更新:2011年10月03日 22:59