・・・・・・



梓「海琴さんと話をしたのは・・・音楽の魅力だけです」

律「なんて言ってた?」

梓「音楽はいいですよね・・・って」

澪「・・・うん」

―――うん

音楽はいい

一つになれる

一つの曲を先輩方と紡ぐことが出来る

それはとても素敵で

それはとてもかけがえのないものになった

音楽をやってて、よかった


玉恵さんが言った

『黙っていることは悪いこと』だって

唯先輩だけ知らない

知ったら

背中を押しちゃうから

私たちは準備をしたかった

むぎ先輩の背中を心から推す事ができるような

そんな強さを持てるようになるまでの時間が欲しかった

『いい風吹いてるよ』

今その言葉がありがたく感じる


律先輩―――いいですか?


律「・・・」コクリ


澪先輩―――?


澪「・・・」コクリ



・・・・・・



唯「教えてよ~」

紬「・・・」スー

和「・・・?」

姫子「私たち・・・?」

信代「え・・・?私も入ってんの?」

風子「おぉー」

春子「な、なんで・・・?」

いちご「・・・私たちの旅が始まったって・・・どういう事?」

紬「・・・」フンス!

唯「よく分かんないよ、むぎちゃん」



・・・・・・



憂「お姉ちゃん・・・」

玉恵「唯ちゃんだけ知らないんだね・・・」

さわ子「しょうがないんだけどねぇ」

憂「・・・」

玉恵「そんな顔しないで」ナデナデ

憂「ぁ・・・」

玉恵「憂ちゃんのお姉ちゃんは芯がないようで、実はしっかりもっているんだよね」

憂「・・・」

さわ子「それ、褒めてるの?」

玉恵「そ、そうだよ」

憂「・・・はい」

純「おーい!」

玉恵「純ちゃんが呼んでるね」

さわ子「行きましょうか」

憂「はい」



・・・・・・



姫子「信代、風子、春子、いちご」

信代「ん?」

風子「なぁに?」

春子「なんだよ?」

いちご「・・・?」

姫子「私らはなりゆきをみている事しか出来ないから・・・ね」

信代「・・・」

風子「・・・」コクリ

春子「分かった」

いちご「うん・・・」



・・・・・・



さわ子「どうしたのよ?」

唯「あずにゃんが大切な話をするんだって」

玉恵「・・・」

さわ子「・・・そう」

唯「なにかな!?」ウキウキ

憂(お姉ちゃんは強いから・・・。さっきの旅の話を聞いて確認したよ。だから・・・大丈夫)

純(どうしてだろう・・・緊張する。私は部外者のはずなのに)

和(見守ることしかできないのね)

律(私も、もう振り返らない。大切な想い出と一緒に進むからだ)

澪(むぎは言ってくれた)

梓「むぎせんぱい」

紬「・・・?」

梓「あ・・・えーと、その・・・」

紬「・・・」ニコ


ずっといたい


梓「・・・」

紬「・・・」ニコニコ


ずっとこの笑顔をみていたい


梓「・・・っ」

紬「・・・?」


ずっと一緒にいたい


梓「ドイツへ行ってください」

紬「!」

唯「え・・・」

梓「唯先輩以外は知っていますよ」

紬「・・・」

唯「ど、どういう事!?」

梓「ドイツへ行けば・・・むぎせんぱいの声は治るかもしれないそうです」

紬「・・・」

唯「そ、そうなの!?むぎちゃん!?」


ゆっくりうなずく


紬「・・・」コクリ

唯「そ、そうなんだ・・・よか・・・っ・・・たぁ・・・」


唯先輩の声が潤む

澪先輩の顔が見えない

律先輩はまっすぐむぎせんぱいを見ている

私は言葉を―気持ちを伝える


梓「卒業まであと数ヶ月ですが・・・。今すぐ行ってほしいんです」

紬「・・・」

唯「今すぐ・・・?」

梓「時間が経てば経つほど、治る確率が低くなるのだそうです」

唯「ぇ・・・」

紬「・・・」


まっすぐにわたしをみる

いつもほわほわしているむぎせんぱいとはちがう表情

初めて見た

それはそうだ

自分の声よりこの時間を選んだのだから

その、むぎせんぱいの決意を私は拒否しているのだから


梓「今の時間は今しかありませんけど
  私たちが一緒に学校に通う時間は、今・・・しか・・・ありません・・・けどっ」


泣くな

最後まで伝えなきゃ

私が伝えたい言葉なんだから

私が伝えなきゃ


紬「・・・」

梓「それでも・・・、あなたに素敵な言葉を紡いでほしいから」

紬「!」


ワタシハナニヲイッテイルンダロウ


梓「あなたの暖かい笑い声を聞きたいから」

紬「・・・」


コレハタダノワガママ


梓「あなたの透き通る歌声を聞きたいから」

紬「・・・」


ワタシヒトリノカッテナオシツケ


梓「むぎせんぱいと・・・言葉を交わしたいから」

紬「・・・」


オモイヤリノナイコトバダ


梓「・・・あなたに・・・私の名前を呼んで欲しいからっ」ホロリ

紬「・・・」


ナイチャッタ


梓「・・・」グスッ

紬「・・・」

梓「だから・・・っ・・・だから・・・行って・・・ください」

紬「・・・」


この瞬間を

私は一生忘れない

忘れることができない


紬「・・・」コクリ

―――伝わった


紬「・・・」


どうして笑顔になるんですか

私のワガママなんですよ

言葉を出せないむぎせんぱいに対してひどい事を次から次へと

私は言ったんです


チガウ


イマエガオニナルアナタガイヤダ!


梓「どうして・・・っ・・・どうして笑顔になるんですか!?」

紬「・・・」

唯「あずにゃん・・・」

梓「残り数ヶ月の時間を捨てろと私は言ったんですよ!?」

澪「・・・」

梓「確実に治るわけでもない賭けに、私はそうしろと!失うものが大きいのに
  両方とも捨てる事になるかもしれないのに!そうしろと私は言ったんです!」

律「・・・」

梓「な・・・ッ・・・なんであなたは!そこで笑顔になれるんですか・・・ッ!」

紬「・・・」

梓「時間は戻らないんですよ!?」

紬「・・・」


バカダ

ワタシハドウシヨウモナイバカダ


梓「・・・なんで・・・っ」

澪「一人で背負わなくていいよ、あずさ」

律「まったくだ」

唯「ドイツへ行ってほしいっ・・・よ」グスッ

梓「!」

紬「・・・」

ギュウ



この温かさは

反則です



梓「ごめんなさいっ」グスッ

紬「・・・」フルフル

梓「私っ・・・むぎせんぱいがここに残ると・・・言ってくれるのを少し・・・っ
  期待していたんです・・・っ」グスッ

紬「・・・」

ギュウ

梓「伝わったこと・・・がどうしようもなく・・・嬉しくて、どうしようもなく・・・悲しくて」

紬「・・・」コクリ

梓「・・・だから・・・っ」

スッ


離れる

私の目をまっすぐ見て

何かを伝える


紬「・・・」

梓「お礼を言うのは・・・私ですよっ」

紬「・・・」ニコニコ


唯「会話したよっ!」

律「マジかよ」

澪「・・・ふふっ」

梓「っ・・・」グスッ

紬「・・・」ニコニコ

唯「あずにゃんと同じ気持ちだよ。むぎちゃん!」

紬「・・・」コクリ

律「寂しくなるけどな。いや、寂しいなんてもんじゃねえ!
  ポッカリだ。心に穴が開くんだぞ!」

紬「・・・」コクリ

澪「言ってくれたよね。
  『時間と距離が私たちを隔てようとしても、わたしはいつもみんなを想ってる』」

紬「・・・」コクリ

澪「私たちも・・・むぎを想っているから・・・な」

紬「・・・」ニコ

梓「ですから・・・」

梓唯律澪「「「「 行って 」」」」

さわ子「ちょっと待った!」

梓「え・・・?」

唯「ちょっとさわちゃん」プンスカ

律「さわちゃん・・・ひどいぜ」

澪「・・・」

さわ子「まだその台詞は早いわ」

紬「・・・?」

梓「でも、斉藤さんは・・・」

さわ子「26、27の学園祭はどうするのよ」

律「どうするって・・・。どうすりゃいいんだよ」

さわ子「一緒に参加しなさいよ」

澪「で、でも・・・」

憂「梓ちゃん、斉藤さんはいつでも行けると?」

梓「・・・うん」

玉恵「言っていたね」

さわ子「むぎちゃんは向こうの学校に行く事になるわねぇ」

和「そうなの?」

紬「・・・?」

姫子「首を傾げているって事は・・・まだ無計画?」

紬「・・・」コクリ

信代「今決めた事だから当然っちゃ当然か」

さわ子「通うとしても手続きが必要になるから、とりあえず月末までは時間がかかるわ」

風子「・・・と、いう事は!」

さわ子「学園祭までいなさい」

紬「・・・」コクリ

春子「・・・これは企画を練り直さないとなぁ」

いちご「・・・うん!」

梓「お、おぉー!」フルフル

唯「少しの時間があるんだ!」

澪「よ、よし!」

律「大切に進むぞー!」

さわ子「・・・ふぅ」

玉恵「ちょっと苦しくなかった?今の話の進め方」

さわ子「ちょっとなんてもんじゃないわよ。すぐにでも病院へ行けばいいだけの話なんだから」

玉恵「ですよね~」

さわ子「強引にこじつけたけど・・・。これを許さない神様がいたら、私が許さないわ」

玉恵「・・・悪魔に魂を売ったかのようだ」

さわ子「あら、そう名乗っていたのよ私は」

玉恵「あぁ、唯ちゃんから聞いたよ。HEALTH DEVILだっけ?」

さわ子「器用に間違えてるんじゃないわよ。DEATHよ、DEATH DEVIL」

玉恵「健康な悪魔だ」

さわ子「自分で説明してると空しいわよね~」

玉恵「まったくです」

さわ子「面白いわねあなた」スッ

玉恵「お互い様だよ」スッ

カン

和「それ、お酒じゃないですよね?」

さわ子「あなた達がいるのに、飲まないわよ」

玉恵「そうそう。ただのむぎ茶だよ~」

和「雰囲気が・・・」

さわ子「信用ないのね~」

玉恵「じゃ、今度三人で飲もうよ」

和「今度って二年後になりますけど」

さわ子「二年後にくる予定あるの?」

玉恵「未定だった予定が確定になるのだよ、約束する?」

和「それは面白いですね」

さわ子「教え子と飲むなんて・・・時間の流れが怖くなるじゃない・・・」


―――――・・・

ちゃーらら~らら~らら~♪

梓「え・・・と、こうですか?」

紬「・・・」コクリ

梓「・・・で、つぎは・・・こうですね」

紬「・・・」コクリ

梓「ありがとうございました」ペコリ

紬「・・・」ペコリ

ちゃらっちゃちゃっちゃ♪

梓「次は・・・風子先輩ですか」

風子「よろしく~♪」


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最終更新:2011年10月03日 23:04