夏「起こるなよ~」

梓「聞いてあげるから話続けていいよ」

夏「えっらそう!」

梓「夏に言われたくないけど」

夏「・・・そうだよね」

梓「また、そうやってからかう」

夏「ううん、あたし・・・。人にモノを言う資格なんてないんだ」

梓「・・・」

夏「冬がマネージャーとして入部してから、髪を切った。元は今の冬と同じ長さ」

梓「・・・」

夏「どうして切ったのか。それは、『冬』がここにいるから」

梓「?」

夏「あたし達さぁ、よく間違えられるんだよね。親父でさえ、あたしの事冬と呼ぶ時がある」

梓「・・・」

夏「呼ぶことがあった・・・。でも、こうすれば判別つくでしょ」サラサラ

梓「・・・うん」

夏「どうして切らなかったのか。それは、『冬』がそこにいなかったから」

梓「・・・」

夏「あたしが『冬』としてそこに居れば・・・。誰かの・・・っ・・・こころ・・・っに・・・いて・・・くれる・・・」

梓「・・・」

夏「『冬』を・・・っ・・・見てくれる・・・っ・・・て・・・そう・・・思った」

梓「・・・」

夏「バカ・・・だよ・・・な・・・っ・・・。・・・こんな事してさっ・・・」

梓「うん。バカだね」

夏「っ!」

梓「それは冬の居場所じゃないよ。・・・人の居場所は他人が作れるモノじゃない・・・」

夏「でもっ・・・そうしてでも・・・誰かに・・・冬を・・・見て・・・欲しかった・・・」

梓「夏の居場所がなくなるでしょ」

夏「そんなの・・・いらない」

梓「冬はそう思ってないよ」

夏「そんな事はどうでもいいよ。あたしの・・・意思なんだから」

梓「本人の意思を無視して言い訳がない。それは自分勝手な行い」

夏「梓はさ・・・。紬先輩がいるから・・・先輩たちがいるからそう言えるんだよ」

梓「・・・」

夏「普通に過ごして来た梓と、冬とあたしの価値観は違うよ」

梓「価値観・・・」

夏「病室には気の合う人。優しい人。暖かい人。たくさんいたよ。
  けど、冬とケンカできる人なんていなかったよ・・・。価値観を押し付けられて怒る冬じゃない
  価値観を押し付けてくる人も居ない。みんないい人・・・。楽しい人・・・」

梓「・・・」

夏「それは間違いを正せる機会が少ないって事・・・」

梓「・・・」

夏「あたしは学校で同じ歳の子達とたくさんバカできた」

梓「・・・」

夏「冬は・・・違う歳の子達と接してきた。たまに妹になったり、姉になったり、孫になったりってね」

梓「・・・」

夏「それもいつまでも続かない。・・・あたしは」

梓「そんな事はどうでもいいよ」

夏「なっ!」

梓「旅の途中で大事なのは前を見ること」

夏「・・・?」

梓「過ぎ去った場所での楽しかった思い出に耽って、到着した場所で時間を潰す?
  私は嫌だ。その場所でしか楽しめないことがたくさんある。そう、むぎせんぱいは教えてくれた」

夏「・・・」

梓「それを思い出させてくれたのは冬だよ」

夏「!」

梓「今までの冬を・・・っ!」

夏「・・・」

梓(私にそれを言う資格は・・・ない・・・。・・・苦い言葉・・・・・・)

夏「・・・」

梓「何時まで、過去の冬を見てるの?」

夏「・・・っ!」

梓(・・・私が言っていい言葉では・・・ない・・・よね・・・)

夏「あたしは・・・今の・・・冬を・・・見られない・・・」

梓「?」

夏「・・・・・・奪ってしまう・・・とこ・・・だ・・・ッ・・・た」

梓「夏っ!」

夏「今の・・・っ・・・ふゆ・・・のっ・・・いば・・・しょを・・・」

梓「いいからっ!」

夏「・・・・・・それ・・・がっ・・・とても・・・こわ・・・い・・・っ」

梓「・・・」

夏「・・・た・・・ま・・・・・・らな・・・く・・・怖いッ!」

梓「いるから」

夏「・・・っ・・・!」

梓「ちゃんといるから、大丈夫だよ」

夏「・・・っ・・・」

梓「『冬』は私たちと一緒に・・・いるから」

夏「・・・っ・・・うん」

梓「ずっと私のこころの中にいるから」

夏「ほん・・・と・・・?」

梓「うん。私は、この季節を一生忘れない」

夏「き・・・せつ・・・」

梓「夏から冬へかけて」

夏「・・・」

梓「絶対に忘れない」

夏「・・・うん」

梓「だから、絶対にいなくならない」

夏「・・・うん」グスッ

梓「・・・」

夏「・・・ありがと、梓・・・っ」グスッ

梓「・・・別に・・・気にしなくていいよ」

夏「・・・っ・・・・・・ありがとぉ」ボロボロ

梓「な、夏が泣くなっ・・・調子・・・狂うっ」グスッ

夏「ふゆと・・・あず・・・さが出会えて・・・よか・・・っ・・・たぁ」ボロボロ

梓「っ!」

――・・・

夏「目真っ赤」

梓「そっちもね」

夏「プールから出た後みたいになってるよ」

梓「だから、そっちもね」

夏「・・・」

梓「・・・」

夏「・・・・・・」

梓「・・・・・・・・・」

夏「ここは同時に笑うとこじゃないの?」

梓「は?」

夏「ほら、漫画とかであるでしょ。笑いあって爽やかな風が吹いて」

梓「くだらない・・・。行くよ」

夏「『おまえやるな』・・・『おまえもな』・・・」

梓「・・・」

スタスタ

夏「『いや、俺の方がやるな』・・・『はぁ?』・・・二人はまた殴りあう」

梓「・・・っ」

スタスタ

夏梓「「 ブフッ 」」

梓「うわ・・・。自分で言って笑ってる・・・」

夏「想像したらさ、すっごいくだらないじゃん?・・・空気に負けたってヤツ」

梓「あっそ・・・」

夏「『俺らの事夕陽が祝福してくれてんぜ』・・・『ははっ』・・・」

梓「夏バカの対処法は確か」

夏「なにその夏バテみたいな括り・・・」

梓「バカ夏」

夏「常夏みたいに言わないでくれるかな」

紬「・・・」

唯「『そんな事ありません!』」

律「『いや、君は最高に素敵さ』」

冬「・・・」

唯「『知らないんだから!』」

律「『そんな事言わずにこっち向いてくれよ』」

風子「どっちが梓ちゃん?」

唯「私だよ~」

英子「律さんが、夏ちゃん・・・」

澪(勝手にアフレコするなよ・・・。恥ずかしくないのか・・・)

唯「『い、今の台詞・・・もう一度聞かせて下さい・・・』」

律「『何度でも言うさ、君の笑顔が見られるなら・・・何度でも言ってやるさ!』」

憂(二回言いました・・・)

いちご「・・・」

唯「『りっちゃん・・・』」

律「『あず』・・・え?」

梓「なにをしているんですか・・・」ジト

唯律「「 なんでもないよ 」」

夏「?」

澪「帰るか、陽も沈み始めたし」

風子「そうだね。よいしょっと」

憂「よいしょ」

冬「・・・」

憂「ほら、捕まって。冬ちゃん」

冬「う、うん・・・」

ギュ

憂「よいしょっ!」グイッ

冬「っとっと」

憂「ご、ごめんね」

冬「ううん。ビックリしたけど、大丈夫」

紬「・・・」ニコニコ

梓「お二人はどうしてここへ・・・?」

紬「・・・」スッ

梓「夕陽?」

澪「そう、夕陽を見に・・・な」

律「見ろ!あの燃え上がる炎を!」ビシッ

唯「りっちゃん・・・!私・・・なんだか燃えてきたよ!」メラッ

風子「・・・うん!」メラメラ

澪「どうしてだ・・・」

紬「・・・」クイックィッ

梓「今からですか?」

紬「・・・!」ダッ

タッタッタ

梓「待ってください!」ダッ

律「おぉー!むぎと梓が夕陽に向かって走ったー!」

唯「さすがむぎちゃんだよ!」

風子「・・・私もっ!」ダッ

律「負けない!」ダッ

唯「熱血だよ!青春だよっ!」ダッ

夏「熱いな・・・。・・・私もっ」ダッ

タッタッタ

澪「私たちは歩いて行こうか」

英子「・・・うん」

冬「夏・・・」

憂「いちごさん?」

いちご「・・・」

憂「どうしたんですか?」

いちご「・・・ううん。・・・なんでも」

憂「どうぞ、掴まってください」

いちご「・・・うん」

ギュ

憂「よいしょ」グイッ

いちご「・・・ありがと」

憂「あ・・・」

いちご「?」

憂「いえ、私たちも行きましょう」

いちご「・・・うん」

憂(お姫様、お手をどうぞ・・・。なんちゃって)ポッ



―――――たいやき屋台


律「・・・」カァァ

風子「・・・」カァア

夏「ぅ・・・」カァア

唯「もぐもぐ・・・おいしいね~」

憂「うん」モグモグ

冬「おいしぃ~」パァア

英子「今度みんなと来よう・・・」モグモグ

梓「ここのたい焼き食べに行こうって、覚えていてくれたんですね」

紬「・・・」コクリ

澪「・・・夕陽に向かって走っていった4人はどう思っているのかな」

律風子夏「「「 っ! 」」」ボフッ

唯「勘違いだったよ~。でも、青春を感じたよねりっちゃん!」

律「い、言うな!」

風子「あぁ・・・恥ずかしい」プシュー

夏「・・・っ」カァア

梓「・・・フッ」

夏「鼻で笑った!?」

梓「夕陽に向かって・・・ぷふっ」

夏「くぅ・・・」プシュー

紬「・・・」モグモグ

冬「う、憂・・・」

憂「どうしたの?」

冬「あ、梓と夏が・・・」ヒソヒソ

憂「どうしたんだろうね」ニコニコ

冬「?」

いちご「・・・」

律「走る意味あったのかよー」

梓「この時間限定のたい焼きなんですよ」

律「へー・・・」

梓「む・・・」

唯「こしあんとつぶあんで言い争っている人がいるよね」

憂「どうしたの、突然・・・」

唯「悲しくなるんだよ。どっちもおいしいのに」

澪「・・・優しいな」

律「適当にコメントするなよ」

澪「青春を感じた人はどうコメントするんだ?」

律「うぐっ」ボフッ

唯「こしあん、つぶあん共にいい味だよね!」メラッ

憂「自分にコメントしてるよ、お姉ちゃん」

冬「ふふっ」

いちご「・・・姫子」

冬「姫子先輩!」

タッタッタ

姫子「冬・・・どうしてここに・・・1人?」

冬「紬先輩たちと来てます!」

姫子「むぎがいるって事は・・・う・・・」

冬「う?」

姫子「しまったなぁ・・・」

律「へっへっへー」

風子「その制服はここの近くにあるコンビニだよね~」

夏「どうしたんですか~?」

唯「どこへ行くのかな~?」

澪「矛先を見つけた!」

英子「・・・」モグモグ

梓「ひどいですね」モグモグ

紬「・・・」モグモグ

姫子「隣町のコンビニだから。そっちの店じゃないから」

律「あーそぉ~なんだ~」

風子「わざわざこの街に来ないといけない用事ってなにかな~?」

夏「姫子先輩らしくありませんねぇ~」

唯「どこへ行くの?」

姫子「い、今から戻る所・・・隣町へ」

律「へ~」

風子「ふ~ん」

夏「ほほぉ」

唯「働いている所見られたくないんだね」

姫子「・・・」

英子「それはそうだよね」

憂「お姉ちゃんってば」

姫子「・・・」ジー

夏「?」

姫子「・・・」チラッ

澪(梓が・・・)チラッ

梓「あんことカスタードのめぐり会いが素敵なハーモニーを生み出したんですね」

紬「・・・」コクコク

いちご「・・・」

姫子「・・・ふーん」

夏「な、なんですか?・・・顔になにか着いてます?」

姫子「あんこがね」

夏「うそっ!」

姫子「嘘だよっ」ビシッ

夏「あたっ!」

タッタッタ

唯「逃げたよ」

風子「隣町って言ったのに・・・」

英子「まっすぐあのコンビニへ向かったね」

夏「いつつ・・・」

律「うっしっし」

澪「りつ・・・」ゴゴゴ

律「な、なんだよ」

澪「今行ったら、明日の朝・・・黒板に夕陽を書くからな!」

律「・・・はい。行きません」

唯「仕事の邪魔したらダメだよ」メッ

冬「そうですよ!」メッ

律「・・・なんだとぉ」スッ

冬「わわ・・・」

風子「・・・」ゴゴゴ

律「くぅ・・・」

英子「律さん、大人しくしていようね」

律「・・・はい」

夏「あっはっは!」

梓「餅が入っているたい焼きもあったりするんですよ」

紬「・・・!」

憂「・・・いちごさん?」

いちご「・・・なんでも・・・ない」パク


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最終更新:2011年10月04日 23:46