信代(あの姫子がねぇ・・・)

潮「なんか、意外だね」

慶子「・・・うん。優しい一面っていうか・・・」


紬「・・・」ツンツン

夏「どうしたんですか?」

紬「・・・」

夏「?」

紬「・・・」チョンチョン

夏「枕・・・?・・・あぁ、さっきの枕投げの時の」

紬「・・・」コクリ

夏「あ、あれは・・・えぇと・・・」

梓「話があるんでしょ?聞いてくれるそうだから頑張って話してよ」

夏「う・・・」

風子「梓ちゃん意地悪だねぇ」

梓「なっ!?」

夏香(言われたくない人に言われたね・・・)

姉「・・・ぅ・・・ん」

夏「冬ねぇ、タッチ」チョン

冬「話ならなんでもいいんですか?」

紬「・・・」コクリ

風子「オッケイだよ」

冬「私、旅をする事に憧れているんです。自由になれる旅に」

姫子(自由・・・)

唯「ほほぅ」

梓「・・・」

冬「入院した時は・・・。見舞いに来てくれるの夏くらいで・・・。両親は仕事で忙しいのであまりこられなくて
  仲良くなった人はすぐ退院していって・・・世界中で自分ひとり取り残されたような気になっちゃって
  ずいぶん鬱々していたんですよ」

姫子「・・・」

冬「私、旅行することが好きだったんですよ、でも小さい頃からあまり丈夫なほうじゃなかったんですね
  だからいつも旅行雑誌とかばっかりみてて」

夏「・・・」

冬「ふふ、バカですよね、いくら想像しても、本当の旅じゃないっていうの分かっているのに」

紬「・・・!」

梓「・・・」

冬「それを・・・。ある人にそのままメールで愚痴ってしまったんです」

純「それって・・・」

冬「うん。・・・相馬轍さん」

梓「・・・」

風子「・・・」

冬「返ってきたメールにはこう書かれていました」


『人の心には翼があるんだよ。例え、旅をしても、そこで何も感じることがなければ、そんなの本当の旅じゃない』


唯「おぉ・・・」

梓「それを・・・どう受け取ったの?」

冬「私自身も旅をしているって伝えてくれた。顔も見えない私を励ましてくれた」

律「・・・」

冬「相馬さんが見た景色を私も感じたい。と、強く願えたんですよ」

澪「・・・」

冬「それを・・・前回の鍋の時に思い出しました。梓と・・・その、ケンカをしたとき・・・」

姫子「・・・」

夏「そうだったんだ」

冬「うん。・・・来年、行こうよ」

夏「うん。・・・来年に、行こうか」

冬夏「「 『約束の場所』へ・・・ 」」

梓(約束・・・か・・・)

姉「・・・っ」グスッ

夏香「起きてたの?」

姉「嬉しくてつい・・・もう寝るから・・・」グスッ

夏香「・・・」

澪「その場所は見当がついているの?」

夏「展望台だったような・・・」

冬「岬じゃなかったかな・・・」

姫子「・・・どこなの?」

夏「北海道の釧路辺りかなぁ」

冬「親戚の家が釧路なので」

澪「なるほど・・・」

律「んー?話が見えないけど、澪は知ってんのか?」

澪「むぎもな・・・」

唯「詳しく聞かせてもらおうか」キラン

梓「寝ないんですか?・・・みなさん寝ちゃってますよ?」

姫子「それじゃ、寝ようか・・・」

いちご「・・・うん」

唯「えー・・・」

冬「釧路と言えば・・・。相馬さんもフェリーで降り立ったのが釧路港なんですよね」

夏「ふーん・・・」

唯「そう言ってたね」

姫子「・・・ふぁ・・・ねむ」

紬「・・・」

梓「むぎせんぱい、起きてますか?」

紬「・・・」トントン

梓「そうですか・・・。って話を聞いていたんですから当然ですよね」

風子「・・・私も起きてるよ」

梓「そ、そうですか・・・」

律「玉恵ちゃんも釧路からスタートしたって言ってたな」

冬「滝沢玉恵さんですね」

姫子「知ってるの!?」

冬「え!?」

澪「ひ、姫子・・・声が大きいっ」ヒソッ

姫子「どうして知ってるの!?」

冬「え、えぇと・・・観光名所で会っていたと記事にあって・・・」

夏「冬ねぇ怯えてますよ」

エリ「姫ちゃんうるさーい」

ちか「姫ちゃんうるさいよー」

未知子「姫ちゃんうるさいよー」

多恵「ひ、姫ちゃん・・・」

律「なんで姫ちゃんって言ってんだよ」

春子「さわ子先生が起きたから・・・」

憂「起きちゃいましたか」

さわ子「ほら、言いなさい」

美冬「姫ちゃんうるさーい」ボソッ

アキヨ「」スヤスヤ

姫子「もしかして、玉恵さんの記事が載っている雑誌を知ってるの冬!?」

いちご「・・・おちついて」ビシッ

姫子「いたっ」

律澪唯「「「 えっ!? 」」」

紬「・・・!」

純(チョップした!)

冬「し、知ってますよ・・・」ガクガク

夏「持ってますよ。あたしは読んだ事ないけど」

姫子「・・・」

紬「・・・」

梓(聞く側にまわってしまう・・・)

澪「釧路を中心に周っていたの?」

冬「い、いえ・・・。道北から道東にかけてです・・・」

律「うわ・・・。すげえ範囲だな・・・」

姫子「多和平について触れてる記事ってあった?」

冬「玉恵さんの記事でですよね?」

姫子「うん」

律(なんだこの食いつきは・・・)

紬「・・・」

梓(明かりが無いから手元を見る事が出来ない・・・。それは私たちに伝える手段がないってこと・・・)

冬「ありませんでした」

澪「多和平って?」

姫子「大地の緑と空の青のツートンカラーの世界、どこをみても地平線、どっちを向いても空と大地。視界のほとんどが空。・・・という場所」

唯「」ウトウト

冬「どうしてですか?」

姫子「今の多和平の紹介はそのまま引用しただけなんだよ」

冬「あ・・・。相馬さんの記事・・・」

紬「」ウトウト

梓(声でしかキャッチボールができない今のこの場所で・・・むぎせんぱいは心細くならないのかな・・・)

澪「相馬さんの北海道の記事って姫子は持っているの?」

姫子「父さんのだけどね。大体読んだよ」

冬「ファンになりますよね!」

夏「続きは明日にして、みんな寝ているから」

冬「あ、うん・・・」

風子「」スヤスヤ

律「はは、ここで寝ちゃってるよ」

冬「風邪ひくといけませんから・・・」ファサ

夏「冬ねぇがひいちゃうでしょ」ファサ

風子「」スヤスヤ

律「三の字で寄り添って寝ろよ」

澪「枕の位置変えないといけなくなるだろ」

紬「」スヤスヤ

梓(私だったらどう思うんだろう・・・)

律「姫子が免許取る決意が生まれたのって、やっぱ玉恵ちゃんの影響?」

姫子「影響は受けたけど、背中を押してくれたのは相馬さんだよ」

律「マジで・・・?どうしてだよ」

姫子「昔の記事・・・といっても、まだ新人扱いの隅っこの欄に載ってたんだけど」

冬「そ、それは・・・!?」ゴクリ

夏「動かないでよー」

姫子「それはね―」


『むき出しの身体で、バイクと一緒になって、風を切り裂くように走ったり、のんびり穏やかに流れてみたり、

 全身使って動かして、身体中で世界を感じながら走る。そんな気分になった

 車よりも不便だけど、自転車よりも早くて。鉄道よりは疲れるけど、思いついた瞬間に曲がって止まれるバイク

 旅する相棒としては最高だなって、真剣にそう思うぜ』


姫子「―ってさ。私も自分で走ってみたいって思った。誰かの後ろじゃなくて」

冬「わぁ・・・」キラキラ

夏(表情見えないけど嬉しそうな顔してるのは分かるな・・・)

律「『思うぜ』って・・・若いなソーマ・・・」

姫子「高校卒業してすぐ書いたみたいだから・・・。実質私らと変わらないよ」

いちご「・・・」

紬「」スヤスヤ

梓(果たせる約束を私たちは結ぶ事ができるのかな・・・)

澪「『緑』と『風』・・・」

律(最近・・・見ている方向が・・・違う気がする・・・・・・。気のせいかな・・・)ウトウト

冬「起きてて・・・よかっ・・・たぁ・・・」ウトウト

夏「限界だね、おやすみ」

冬「」スヤスヤ

澪「おやすみ」

姫子「おやすみ」

律「」スヤスヤ

梓(気軽に約束を交わせなくなったのかな・・・それはそうだ。月曜日には・・・)モゾモゾ

純「聞いてた?」

梓「え?」

純「・・・なんでもない」

梓「?」

夏「・・・」モゾモゾ

梓「・・・夏に聞きたいことが」

夏「ん?」

梓「その・・・あの発作・・・っていうのかな」

夏「・・・うん」

姫子「・・・」

梓「発作が起きるのに・・・どうして冬の近くに・・・いたの?」

夏「・・・それは」

純「・・・」

夏「嬉しいじゃん。冬ねぇの側に誰かが居てくれんの・・・。忘れるくらい見ていたかったから」

梓「・・・」

夏「逃げて楽になるより、ちゃんと噛み締めていたい時間だったから」

梓「・・・そう」

姫子「・・・っ」

夏「・・・・・・ありがと」ボソッ

純「・・・」

梓「・・・え?」

夏「おやすみぃー」

梓「うん・・・。おやすみ」

姫子「目が覚めちゃった・・・」

いちご「みんな寝てるのにね」

純「まだ起きているのって、私たち4人だけですか・・・?」

梓「・・・」

シーン

梓「・・・なんだか心細いです」モゾモゾ

純「母親が先に寝ちゃって不安になる子供みたい」

梓「・・・まだ、子供だよ」

姫子「どうしてむぎは・・・自分を表現することにためらいがないのかな・・・?」

いちご「・・・」

梓「きっと、あるがままの心を持っているんです。人をまっすぐみて、人のこころに触れてしまえるから
  周りの人を安心させて・・・。それがどんどん広がって・・・だから、むぎせんぱいも楽しいのではないでしょうか
  そんなこと聞いたこと無いですから分からないですけど」

紬「」スヤスヤ

いちご「あるがままの心を持てないのは弱さ・・・なのかな」

梓「弱さだとしたら・・・それはきっかけになると思います」

純「自分が強くなる為の?」

梓「うん」

いちご「いつの間にか築いた、自分らしさの檻の中で・・・もがいて・・・」

姫子「それは私?」

いちご「違う・・・。私・・・」

姫子「・・・」

いちご「自分ができなかった事を、姫に押し付けてた・・・。ごめんね」

姫子「いいって・・・」

梓「・・・」

純「・・・」

いちご「・・・梓」

梓「なんですか?」

いちご「旅って・・・なに・・・?」

純(核心をつく問いだと・・・思う・・・)

姫子「・・・私も聞きたい」

梓「夏の旅で・・・むぎせんぱいと出会った人がいて・・・その人と一緒に『旅に出た意味』を探していたんです」

姫子「『旅に出た意味』・・・」

梓「出会いがあって別れがあるのが旅・・・。唯先輩とあの子が別れた後、とても寂しそうだったんです」

唯「」スヤスヤ

いちご「・・・唯が?」

梓「はい。でも、すぐいつもの唯先輩の戻りましたけど・・・」

姫子「・・・」

梓「唯先輩が感じた寂しい事、出会ったその人が見つけた楽しい事。時間が過ぎればそれは忘却の彼方です」

純「・・・」

梓「それはとても切なくて、苦しくて、大切だから取り戻したくて・・・」

いちご「・・・」

梓「だから人は、新しい時間を見つける為に・・・、旅をするんです」

姫子「それは、時間の上書きになるんじゃない?」

いちご「・・・代わりの時間を見つけるだけなら、埋もれていった時間がいつかは消える」

梓「・・・」

純(紬先輩と見てきた旅を問いただされた・・・)

姫子「時間の流れはそんなに優しいものじゃないよね」

梓「・・・そうですね。この先に避けきれない別れがありますから」チラッ

紬「」スヤスヤ

いちご「別れの時に学ぶことがあるから、人は出会うの?」

梓「・・・そうなんだと思います。誰かとずっと一緒にいられることは絶対ではありませんから」ジー

紬「」スヤスヤ

純「・・・」

姫子「・・・」

いちご「・・・」

梓「時間が流れれば、その場所は風化していくんでしょうね。あるいは風景を変えてしまって
  元々あった、残っていて欲しいと思う場所ではなくなるんです。時間はそういうものです」

紬「」スヤスヤ

梓「それでも、人のこころにはずっと残るものだと信じています」

姫子「どうして?」

梓「あるがままの心を持っている人がいるからです」

紬「」スヤスヤ

いちご「!」

梓「だから、私は・・・今までむぎせんぱいと、先輩方と過ごした旅を疑わないです」

純「・・・」

梓「ずっと・・・残して・・・いきたい・・・です・・・」

姫子「そっか・・・。ありがとう」

いちご「おやすみ」

梓「おやすみ・・・なさい・・・です」ウトウト

純「・・・」

いちご「・・・」

梓「」スヤスヤ

唯「」スヤスヤ

姫子「私も寝る」

いちご「・・・うん」

純「おやすみなさーい」

律「」スヤスヤ

夏(難しかったけど、なんとなく分かる気がした・・・。怖い別れってある・・・)

冬「」スヤスヤ

夏(ごめん・・・逃げてばっかりで・・・)グスッ

姫子「・・・」ナデナデ

夏「・・・っ!」

紬「」スヤスヤ

澪「・・・」




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最終更新:2011年10月05日 20:24