157. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:45:17.47 ID:hNaTs+3Io
ザワザワ

紬「・・・」

「どうしたの?」

「どうして琴吹さんと先生が一緒に入ってくるんですか?」



理由があるんだよ

みんなに伝えなきゃいけない事がな



さわ子「みんなしずかにして、大事な話だから」

紬「・・・」コクリ



みんなそれを感じ取ったみたいだな

急に静まり返った

いや、沈黙かなこれは



紬「・・・」

さわ子「琴吹さんは―――」



やべえ

現実を突きつけられるようで

怖い


さわ子「―――声を発する事ができなくなりました」

紬「・・・」コクリ

「―――え」

姫子「・・・」

信代「・・・」

いちご「・・・」

春子「・・・」

風子「・・・」

「うそ・・・」
158. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:47:45.56 ID:hNaTs+3Io
時間が止まったような

自分だけが置いていかれるような感覚になるよな

一番前の席でよかった

みんなの表情をみずにすんだ

それをみたら多分、飲み込まれたかもしれない



春子「どうして・・・ですか?」

さわ子「失声症とは違うみたいだけど、今は説明省くわね。時間が無いから」



時間が無いってなんだよ

授業より大事なことじゃないのかよ

ちゃんと教えてくれよさわちゃん



紬「・・・」コクリ

さわ子「・・・どうしてもやるの?」

紬「・・・」コクコク

テッテッテ

ガチャ

バタン

「・・・え?」



そうだよな

なんで出て行ったのか分からんよな

さわちゃんを除いたこの部屋の人全ての頭の上に疑問符が浮かんでいるだろうな

ん?

なんで私をみるんだよ、さわちゃん
159. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:49:38.34 ID:hNaTs+3Io
さわ子「・・・入ってきて」

ガチャ

スタスタ

紬「・・・」ペコリ

スッ

カツカツカツ



黒板に

琴・・・吹・・・紬・・・って

自己紹介してどうすんだよ

あ・・・もしかして・・・

分かったよ、乗ってやるよ

しょうがないな

ヤタガラスは太陽の化身だって言うからな

頼むぜー守護神様

教室の空気が凍ってるから、力を貸してくれ

一緒にこの空気を溶かそうぜ

―――むぎ
160. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:51:45.62 ID:hNaTs+3Io
さわ子「・・・今日から登校することになった琴吹紬さんです」

紬「・・・」ペコリ

律「知ってるよ!転校生かっ」

紬「・・・」キラキラ

律「やってみたかったのか!」

紬「・・・」コクコク

姫子「あ、そういう意味ね」

信代「律のツッコミが無かったら理解できなかった」

さんきゅー

姫子、信代

紬「・・・」ギュ

律「いや・・・、転校生ごっこかなぁ・・・って思っただけだぞ」

春子「律のツッコミが夏前とは比べ物にならないくらい光っているんだけど」

和「さすがね」

唯「りっちゃん冴えてるよ」

さんきゅー

春子

律「和は知ってただろ?」

和「・・・遠いわよ。それにツッコミなんてスキル持ち合わせてないわ」

唯「りっちゃんだけだよ」

「クスクス」

姫子「ふふっ」

紬「・・・」キラキラ

律「いや・・・そんな嬉しそうにしなくてもいいんじゃないか・・・?」

いちご「・・・クスクス」

律「喜べむぎ、いちごがウケた」

紬「・・・」ニコニコ

いちご「・・・笑ってない」イジイジ

さんきゅー

いちご
161. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:53:02.04 ID:hNaTs+3Io
さわ子「もういいでしょ、席に着きなさい」

紬「・・・」コクリ

スタスタ

風子「やっと揃ったね」

紬「・・・」コクリ

さんきゅー

風子

みんなが声をかけてくれたから

凍った空気が溶けた


一人だけ

教室の空気が和らいだこの時に

一人だけ俯いているけどな
162. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:55:57.30 ID:hNaTs+3Io
―――バカだ私は

むぎは喋れない

むぎは声を上げて笑えない

むぎは歌えない

むぎは誰とでも話をすることができない

むぎは――言葉で――気持ちを―

―――伝えられない

偉そうに

梓を諭そうとした

悟った顔で

律に語った

自分に出来る事があると

唯と聞く側にまわる事で安心していた

私は状況を理解していなかったんだ



――――――現実が―――追いついてしまった

・・・・・・

・・・

さわ子『むぎちゃん・・・今、ドイツにいるのよ』

『えっ!?』

さわ子『あ、でも今は日本に向かっているところね』

『・・・』

さわ子『むぎちゃんの症状を研究しているチームがあるんだって』

『・・・ドイツ・・・』

さわ子『かなり特殊な症状らしくてね、最先端の治療法で研究しているらしいわ』

『そこで・・・検査を・・・?』

さわ子『いえ・・・治療を兼ねたリハビリを行うつもりだったらしいわ。琴吹家としては』

『治療って事は治るんですか!?』

さわ子『・・・保証はないって言われたらしいけどね』

『・・・それでも・・・可能性があるなら・・・』

さわ子『ドイツでなくちゃいけないの』

『え・・・』
163. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/01(木) 23:58:09.54 ID:hNaTs+3Io
さわ子『その期間は半年・・・一年・・・それ以上らしいわ』

『それじゃ・・・どうして日本へ・・・』

さわ子『高校生活を・・・桜が丘をみんなで卒業したいからよ』

『!』

さわ子『むぎちゃんとしては、みんなとの時間を過ごすことに決めたって事ね』

『なんで・・・っ』

さわ子『・・・』

『・・・』

さわ子『もう一つ』

『・・・』

さわ子『この症状は早いうちに治療に取り掛からないと、取り返しがつかなくなるらしいわ』

『え・・・、それじゃあ・・・一生喋れなくなる・・・かもしれない・・・』

さわ子『・・・そう』

『・・・』

さわ子『時期が来たらみんなに教えてあげて』

『どうして―――』

・・・

・・・・・・

どうしよう

涙が零れそう

ここを選んでくれたむぎ

声が出せなくなるむぎ

時間が大切で

大切だから嬉しい―辛い

どうしよう

俯いていても分かる

隣にむぎがいること

二年半むぎのもつ空気を感じていたんだから

分かる

今は顔をみせられないんだ

むぎの顔を見れないんだ

きっと、声を出して泣くから

楽しいわけじゃない、悲しいわけじゃない

嬉しすぎて、辛すぎて

ただ、泣きたくなるんだ  だから
165. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:00:17.59 ID:qmEGUPh0o
紬「・・・」ヒョイヒョイ

澪「・・・?」

信代「なにやってんの?」

風子「・・・髪をどうするの?」

唯「みつあみがお勧めだよ」

和「癖になるわよあれは」

唯「え!?」

姫子「やったことあるの?」

和「えぇ」

「「  え!?  」」

和「なによ、みんなして」

唯「いつ!?」

和「忘れたのね・・・」

紬「・・・」キラキラ

信代「・・・本当にみつあみにしたな」

風子「一本だけってバランスおかしくないかな?」

澪「・・・まっ・・・たく・・・っ・・・しょ・・・しょうがないなむぎは・・・」

さわ子「あのねぇ・・・HR始めたいんですけど」

紬「・・・」テクテク

唯「・・・」

和「・・・」

姫子「・・・」

信代「・・・」

風子「・・・」

澪「・・・」

いちご「・・・」

春子「・・・」

律「・・・」

紬「・・・」ストッ

さわ子「それではHRを始めます」
166. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:04:57.15 ID:qmEGUPh0o
―――昼

紬「・・・」プップップー

唯「おなか・・・?」

紬「・・・」コクコク

和「唯と同じ鍵盤ハーモニカね」

紬「・・・」プッププー

澪「す・・・いた・・・かな?」

紬「・・・」コクコク

律「じゃあ食べろよな」

紬「・・・」プップププー

和「・・・た・・・」

姫子「・・・」

律「・・・と・・・し・・・?」

紬「・・・」フルフル

律「じゃ、もう一回」

紬「・・・」プププー

律「・・・の・・・し・・・い・・・か?」

唯「楽しいんだ!」

紬「・・・」コクコク

和「ダメね・・・反対から鍵盤を見てるから余計分からなくなるわ」

姫子「でも、『た』は合ってた」

和「出だしはね」

姫子「・・・」

紬「・・・」プップップー

澪「おなか・・・」

紬「・・・」プッププー

律「だから食べろよ!」

紬「・・・」ニコニコ

姫子「・・・うん。母音は覚えた・・・と言っても、手元みないと分からないけど」

紬「・・・」プッププップー

姫子「い、え、お・・・だけ。子音はだめだね」
167. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:07:03.82 ID:qmEGUPh0o
唯「最初の子音はソの『H』だよ〜」

姫子「『ひ』・・・?」

澪「次の子音はラの『M』」

姫子「『め』・・・」

和「レの『K』」

姫子「ひめこ・・・?」

紬「・・・」コクリ

姫子「あ・・・」

紬「・・・」プップップー

律「ド#」

澪「ラ、レ#」

姫子「ちょっとまって、鍵盤と照らし合わせてみるから」

唯「おけ〜」

姫子「もう一回おねがい」

紬「・・・」プップップププー

姫子「あ・・・り・・・、・・・レレ、ド#は『が』で・・・・・・」

和「ド、ラ#で『と』」

姫子「ファ#・・・」

紬「・・・」プップップー

姫子「・・・うん」

紬「・・・」ニコニコ

律「早く食べないと昼休み無くなるぞ」

紬「・・・」アセアセ

姫子「・・・オヤスミ」

唯「食べてすぐ寝たら・・・なにになるんだっけ、りっちゃん」

律「牛」
168. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:07:49.98 ID:qmEGUPh0o
澪「ボケろというフリだな」

紬「・・・」モグモグ

律「牛若丸だ!」

和「頑張ったわ」

唯「ごめんね、りっちゃん」

律「唯・・・いつか仕返しするからな」

姫子(二つの言葉だけで・・・嬉しくなるなんて・・・変なの・・・)

和「食べ終わったらもう一回しましょうか」

唯「そだね〜」

律「彼女はまたキラキラ星を聞くのであった」

紬「・・・?」モグモグ

和「姫子がイヤホンで聞いている曲の事よ」

紬「・・・」コクコク

姫子「・・・」

唯「反応しないね・・・」

澪「姫子が寝ているから、紙鍵盤だけにしような」

姫子(聞く練習しようと思っていたけど・・・素直に起きて見ていればよかったかな・・・)

ピッ

ジャカジャカ

姫子(おやすみ・・・はどうやるんだっけ・・・ラ#、ド#、ファ#、レ#で『おあうい』
      音を拾って声に変換してる唯たちはすごい・・・)

ジャカジャカ
169. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:08:59.91 ID:qmEGUPh0o
―――――放課後

紬「・・・」プップップー

律「・・・むむ」

澪「も、もう一回だ」

紬「・・・」コクリ

紬「・・・」ププップー

唯「あれ、さっきと違うよ?」

紬「・・・」ププッププー

律「で・・・た・・・」

紬「・・・」プププー

澪「・・・らめ・・・出鱈目?」

紬「・・・」コクリ

律「適当かよ〜」

唯「も〜」

紬「・・・」スッ

澪「『ごめんね』って!」

律「ちくしょう!許す!!」

唯「あはは」

紬「・・・」ニコニコ
170. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:10:03.56 ID:qmEGUPh0o
紬「・・・〜」

唯「・・・ふぁ」

律「なんだ・・・眠いのかむぎ?」

紬「・・・」コクリ

澪(飛行機に乗って疲れたのかな・・・)

律「ソファで寝るか?」

唯「お言葉に甘えて」

スタスタ

唯「よいしょっとー」ボフッ

律「掛けるものいるか?」

紬「・・・」コクリ

唯「どうしたの、今日はお母さんみたいで変だよ」

律「変だよって余計だろ」

澪「・・・」

律「じゃ取ってくる。澪・・・行くぞ」

澪「え・・・?」

律「いいから、行くぞー」

澪「う、うん・・・」

スタスタ

ガチャ

バタン

唯「むぎちゃん、そこでいいのー?」

紬「・・・」プップー

唯「そっか・・・」

紬「・・・」プー

唯「『メジャーのA』・・・あずにゃん?」

紬「・・・」プップー

唯「来ないね、どうしたのかな〜」
171. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:12:56.54 ID:qmEGUPh0o
純「・・・行かないの?」

梓「・・・行く・・・けど」

憂「・・・」

純「なんでさ」

梓「・・・ちょっと、怖い」

憂「紬さんが?」

梓「むぎ先輩に迷惑かけるのが・・・」

純「なんだそりゃ」

憂「・・・」

梓「・・・」

純「ウジウジしてんなって、行ってこーい!」バシッ

梓「あいたっ」

憂「それじゃ、明日ね」

梓「・・・来ないの?」

純「部室に出入り出来ないでしょ、部外者だよ私ら」

憂「うん」

梓「・・・じゃ、あした」

トボトボ

純「・・・」

憂「純ちゃん・・・?」

純「うん?」

憂「・・・いつもと雰囲気が違うから」

純「あー・・・うん」

憂「なにかあったの?」

純「昨日さー、唯先輩と律先輩に会ったんだよね、河川敷で」

憂「?」

・・・・・・

・・・

律『なにしてんだよ、相馬さん』

『それ私じゃないです!』

唯『あはは』

律『一人で川なんか眺めちゃって・・・』

唯『青春ですな』

『・・・』
172. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:15:47.46 ID:qmEGUPh0o
律『なにがあったんだ、言ってみなさい』

唯『りっちゃん父さんだ』

『・・・』

律『・・・恋か』

唯『あらまぁ』

『はい・・・』

律唯『『  えっ!?  』』

『昨日・・・駅前で見かけたんです・・・』

律『お、おう・・・』

唯『う、うろたえてはダメですのよ、りっちゃん父さん』

『・・・はぁ、胸が苦しいんですよ』

律『か、母さん今日は鯛だ、めで鯛つってな』

唯『いいえ、恋だけに鯉よ』

『・・・』プクク

律『よ、よし。キューピットになってやろうではないか』ドン

唯『まぁ、素敵』キラキラ

『・・・あ、ごめんなさい』

律唯『『  え?  』』

『冗談・・・です』

律『なぬぃー!』

唯『ちぇー』

『あっはっは』

律『こんのやろー』ワシャワシャ

『あ、ご、ごめんなさいー!』

唯『あはは、こんにゃろー』ワシャワシャ

『唯先輩まで!?』

律『ったく』

唯『・・・』

『・・・えへへ』

律『で?』

唯『どうしたの?』

『?』

律『誤魔化しきれたと思ったか?』

唯『りっちゃん父さんは鋭いのです』

『あ・・・』
173. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:17:16.27 ID:qmEGUPh0o
唯『言いなさい!』

律『問い詰めるな』

『・・・いいなぁ』

律唯『『  ?  』』

『・・・梓の事で』

律『・・・』

唯『・・・』

『最近の梓みてると、なんていうか、モヤモヤしてしまって』

律『・・・』

唯『・・・』

『梓の気持ちは分かるんですけど、よく分からなくて、それでモヤモヤと』

律『そっか・・・』

唯『・・・うん』

『・・・』

律『やっぱり行くか、唯!』

唯『そだね!』

『え?』

律『梓のところに行こうかと迷っていた所だ』

唯『ちょっと気がかりだから、話したいな〜って』

『そうですか・・・』

律『大丈夫だ、いつものようになれるって』

唯『純ちゃんも行こうよ』

『いいです・・・ここでもう少しボンヤリしてます』

律『そっか、じゃあな』

唯『明日部室に来てね。むぎちゃんとティータイムしよう!』

・・・

・・・・・・

純「モヤモヤじゃないや・・・」

憂「え?」

純「ムカムカしてたんだ・・・」

憂「純ちゃん・・・」
174. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:24:14.14 ID:qmEGUPh0o

律「むぎが笑うと顔を逸らしてるよな」

澪「・・・」

律「なんでだ?」

澪「・・・なんでもないって」

律「・・・」

澪「なん・・・でも・・・ない・・・よ・・・」

律「あるって言ってるようなもんだろ」

澪「・・・ない・・・よ・・・」

律「・・・」

澪「・・・ない・・・」

律「私は、聞きたいんだ」

澪「・・・っ!」
175. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:29:10.45 ID:qmEGUPh0o
うぅ・・・

こんなに意気地が無いとは思っていなかった

部室に行けば会えるのに

会いたかったのに

あれは・・・澪先輩と律先輩・・・

い、一緒に


律「マジかよ・・・」

澪「・・・うん」

律「・・・」

澪「辛いんだ・・・」


―――どういう意味ですか


律「自分の声と引き換えに、この時間を選んだのか」

澪「うん・・・。早期治療にとりかからないと・・・希望は無くなるのに・・・」


―――なんですかそれ


律「・・・」

澪「・・・一緒にいたいという私は自分勝手かな」

律「そんなん誰も責められねえよ」

澪「・・・」

律「・・・」

176. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 00:32:06.84 ID:qmEGUPh0o
梓「はぁ・・・はぁっ・・・」

ダダダッ

二人が話していたこと

治るかもしれないという事

それなのにここにいるということ

そのせいで声が出なくなるという事

胸が痛むけど

嬉しい

会いたい

いつもの階段が鬱陶しくさえ感じる

梓「・・・っはぁ・・・はぁ」

ガチャ

梓「こんにちは」

紬「!」ビクッ

梓「むぎ・・・せん・・・」

紬「・・・」ゴシゴシ

梓「・・・」

紬「・・・」ニコ



今、涙を拭きましたよね

泣いていたんですか

どうして

なにがあったんですか

どうしたんですか

教えてください
177. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:06:23.49 ID:qmEGUPh0o
紬「・・・?」

梓「む、むぎ先輩・・・今・・・」

紬「・・・」

テッテッテ

紬「・・・」ニコニコ


どうして笑顔でいるんですか



泣いていたんじゃないんですか

なにがあったんですか



紬「・・・」

ギュ

グイグイ

梓「あ・・・」

唯「ん〜」ムニャムニャ



唯先輩寝ていたんだ

そうか、今のは

あくびで出た涙だ

びっくりした

なんだ

そうか

でも

どうして

胸の動悸が激しいの
178. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:07:50.88 ID:qmEGUPh0o

紬「・・・」プップップー

梓「あ・・・」

唯「・・・あ、あずにゃん・・・おはよ〜」ボケー

紬「・・・」プップップ

唯「そだね、夕方だね〜」ボケー

梓「っ!」



聞こえなかった

むぎ先輩の声が

聴こえなかった



紬「・・・」プー

梓「・・・」

唯「・・・あずにゃん?」

梓「・・・え・・・?」

紬「?」

唯「むぎちゃんが呼んでるよ?」



呼んでるって

どうして分かるんですか



唯「『メジャーのA』だよ今の」

紬「・・・」プー

梓「!」



聞き取れなかった

聴こえない

なんで動悸が治まらないのっ!



紬「・・・」プップププー

唯「また、むぎちゃん〜」
179. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:09:41.99 ID:qmEGUPh0o
唯先輩には分かるんだ

私は分からない

何を伝えようとしてるのか

何を言っているのか

分からない



さっき

何を思った

むぎ先輩の声が治るかもしれないけど

ここを選んだ事に

この時間と引き換えに治らないのに

どう思った


―――嬉しい

ズキィッ


激しい動悸は治まった

変わりに胸が重くて痛い



ガチャ

律「なんだ、梓来てたのか」

澪「・・・」

唯「あれ、掛けるものは?」

律「あ、忘れた」

紬「・・・」

梓「・・・」

澪「・・・どう・・・した?」

唯「あずにゃんが・・・」

180. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:10:55.66 ID:qmEGUPh0o
紬「・・・」ギュ


あ、また掌に書いてくれるんですね

音を声にじゃなく

文字ヲ声ニ

ワタシハ聴キトレナカッタカラ


梓「っ!」バッ

紬「!」

唯「あずにゃん!?」

律「梓!?」

澪「あ、梓・・・」

梓「ぁ・・・!」


―――イマ

何をしたの、私

むぎ先輩の手を振り払ってしまった

違うんです

今のは

チガウんです

違うチガウ違うチガウチガウ!

違ウッ!!!


紬「・・・」

梓「っ・・・」


そんな顔

しないでください!

悪いのは私ですから!!

むぎ先輩が悪いわけじゃないんです!

声を聞き取れない私が!!


ワタシガワルイ


ナニヲヤッテイルノワタシハ
181. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:11:22.34 ID:qmEGUPh0o
梓「っ!」

ダダダッ

律「待て梓ッ!」

バンッ

律「ちっ!」

タッタッタ

バンッ

紬「・・・」

澪「・・・」

唯「・・・」
182. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:12:21.99 ID:qmEGUPh0o
律「待てって!」

ガシッ

梓「っ!」バッ

律「・・・」

梓「私・・・喜んだんですよ・・・!」

律「え・・・?」

梓「むぎ先輩が自分の声より、この場所を選んだ事に・・・!」

律「聞いていたのか」

梓「・・・一緒にいられるって・・・喜んでしまったんですよっ!」

律「・・・」

梓「そ・・・っ・・・それ・・・っ・・・なのにっ・・・!」

律「・・・」

梓「声が・・・っ・・・聞こえな・・・っ・・・くて・・・」

律「・・・」

梓「・・・っ」

ダダダダッ

律「・・・私もだよ、梓」
183. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:13:55.63 ID:qmEGUPh0o

律「憂ちゃんと純は?」

「え・・・、あ、憂は帰りましたよ」

「純はジャズ研に・・・」

律「そっか・・・ありがと」


・・・・・・


律「部長さーん」

部長「田井中さん?」

律「純を貸してくれませんか?」

部長「ちょっとまってね、鈴木さーん」

純「はい・・・律先輩?」

律「ちょっと来て」

部長「今日は終わりにするから自由にしていいよ」

純「は、はい。お疲れ様でした」

184. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:15:08.82 ID:qmEGUPh0o
純「どうしたんですか?」

律「むぎと梓がトラブった」

純「え・・・」

律「というより、梓が暴走してるって感じか」

純「・・・」

律「頼めるか?」

純「先輩方の出番じゃないですか」

律「・・・いや、まぁ・・・そうなんだけどな」

純「・・・」

律「頼む」

純「私も暴走するかもしれませんよ」

律「丁度いいじゃん」

純「・・・そうですね」スッ

ピッピッピ

trrrrrr

律「いい判断だ」

純「どうして分かるんですか」

『もしもし、純ちゃん?』

純「憂、今どこ?」

『いつものところ』

純「梓いる?」

『・・・』

純「今行くから」

『分かった』

ピッ

律「どうして分かるんだよ」

純「私らにも絆があったって事です」

律「そっか・・・。よろしくな」

純「はい」
185. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:16:08.33 ID:qmEGUPh0o

梓「ごめん・・・」

憂「どうして謝るの?」

梓「・・・」

憂(今の、私に対しての言葉じゃないよね・・・)

梓「・・・」

スッ

憂「あ・・・」

純「立て、梓」

梓「・・・どうして?」

純「座って話したくないから」

梓「・・・なに?」

憂「ちょ、ちょっと二人とも」

純「いつまでそうしてるつもり?」

梓「いきなり・・・意味が分からない」

純「いつまでふらふらしてんのって意味だよ」

梓「・・・余計分からない」

憂「・・・」

純「今の自分がどう映っているのか分かってる?」

梓「遠まわしに言わないでいいよ」

純「先輩方にこれ以上心配かけるな」

梓「知った風な口を・・・聞かないで」

純「知ってるよ!
    律先輩が気にかけている事!
    唯先輩が引っ張っている事!
    澪先輩が支えている事!  
    紬先輩が梓を見守っている事!」

梓「!」

純「大切な人が辛い状況にあるのは分かるけどっ」

梓「・・・分かってないよ」

純「なに!?」

憂「・・・」

梓「むぎ先輩がどう思っているのか分かってないでしょ!」

純「・・・」
186. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:18:51.50 ID:qmEGUPh0o
憂「・・・」

梓「どうしてズレたんだろう」

純「なにそれ」

梓「おかしいよ、こんな世界」

憂「おかしくないよ」

梓「おかしいよ、むぎ先輩が」

純「それ以上言うと引っ叩くから」

梓「!」

憂「・・・」

純「もしかして、この世界の他にも違う世界が存在するとか思ってる?」

梓「・・・」

純「違う世界の紬先輩は声を出すことが出来て、今は部室でティータイムしてるはずだと」

梓「・・・っ!」

純「梓・・・紬先輩を見ていないよね」

梓「・・・っ」

純「おかしいと思った。夏の旅であんなに紬先輩に懐いていた梓が、いまはそっぽ向いてるんだもんな」

梓「向いてない!」

純「じゃあどうして隙が生まれたの?」

梓「それを言わないでッ!」

純「夏の梓なら、そんな自分自身を受け入れていたよ」

梓「っ!」

純「年下の梓があの人に言っていい言葉ではないと、ちゃんと理解できたはずでしょ」

梓「見透かし・・・たよう・・・に言わ・・・ないで」

純「人に使っていい言葉じゃないし、・・・私たち人に使えるほどの人生歩んでないよ」

梓「・・・っ」

純「・・・」

憂「私も純ちゃんと同意見だよ」

梓「・・・」

憂「今までの紬さんを見ているのか、違う世界の紬さんを見ているのか、分からないけど
    今の紬さんをみていないのは事実だよね」

梓「っ!」

憂「なにがあっても、なにが起こっても、紬さんは紬さん・・・だよね」

梓「っ・・・ぅん・・・」

憂「・・・」
187. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:20:52.84 ID:qmEGUPh0o
純「ったく・・・紬先輩だけじゃないでしょ、梓をみてくれているのは」

梓「うん・・・ごめん・・・っ・・・ご・・・めん・・・っ」グスッ

憂「梓ちゃん・・・」

純「なにに謝ってんだか」

梓「むぎ先輩の声・・・治るかもしれないって・・・」グスッ

憂純「「  え・・・  」」

梓「でも、治すの時間がかかるから・・・『今』は『今』しか・・・ない・・・から・・・っ」

憂「・・・」

梓「今の・・・この・・・場所を選ん・・・でくれ・・・たんだって・・・」グスッ

純「・・・っ」

憂「そうだったんだ・・・」

梓「でも・・・時間が過ぎれば・・・治らなくなる・・・って」グスッ

純「うそっ・・・」

梓「・・・だけど・・・この・・・場所を・・・むぎ先輩は・・・選んでく・・・れたっ」ボロボロ

憂「・・・」

梓「そ・・・れ・・・なのに・・・それなのにっ・・・」ボロボロ

純「・・・」

梓「むぎ先輩の手を・・・振り・・・払って・・・っ・・・しまった・・・」ボロボロ

憂「!」

純「梓・・・」

梓「じ・・・ぶん・・・が・・・許せ・・・な・・・い・・・」ボロボロ

憂「梓ちゃん」ギュウ

梓「!」
188. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:21:21.91 ID:qmEGUPh0o
憂「・・・そうだったんだね、偉そうな事言ってごめんね」

純「ごめん」グスッ

梓「ううん・・・あり・・・がと・・・」

憂「・・・」

梓「・・・二人の言うとおり、私・・・むぎ先輩を見ていなかった」

純「・・・」

梓「見ていないから、違うむぎ先輩を見ていたから・・・隙が生まれたんだと思う
    そして、そんな自分を見て見ぬフリしてきたんだと・・・思う」グスッ

憂「・・・」

梓「そのせいで・・・みんなに・・・むぎ先輩に・・・」グスッ

純「・・・私はいいけどさ」

憂「うん・・・」

梓「・・・」

純「顔洗ってくる・・・」トボトボ

梓「どこ・・・で?」

純「そこに水が流れているでしょ」

梓「そうだね」トボトボ

憂「水・・・」
189. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:21:48.06 ID:qmEGUPh0o
純「落ち着いた?」

梓「・・・うん」

憂「・・・」

純「・・・憂はどうしてここに?」

憂「私も考え事をしていたんだよ」

純「そっか・・・」

憂「そしたら梓ちゃんが来て」

梓「・・・」

純「・・・」

憂「しばらくボンヤリしていようか」

梓「・・・うん」

純「・・・」

憂「・・・」

梓「・・・」ボー

純「憂・・・」ヒソヒソ

憂「?」

純「どうしてさっき梓を抱きしめた?」ヒソヒソ

憂「・・・えぇと」テレテレ

純「びっくりしたんだけど」ヒソヒソ

梓「・・・」ボー

憂「梓ちゃんと紬さんの間にあるものが愛おしくて」ポッ
190. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:23:16.84 ID:qmEGUPh0o
梓「ちゃんと謝りたい」

純「学校戻る?」

梓「・・・うん」

憂「今日も暑かったね〜」ニコニコ

純梓「「  はい?  」」

プー

梓「『メジャーのA』?」

紬「・・・」プー

梓「むぎ先輩!?」

純「おぉ!・・・おぉ?」

憂「来たね」

律「待たせたな!」ドン

澪「・・・」

唯「来たぞ〜!」

さわ子「ありがたく思いなさいよね〜」

和「私は見物」

梓「・・・?」

純「なんでジャージ?」

憂「お姉ちゃん、私たちの分は?」

唯「あるよ〜」

律「ほら、早く着ろよ」

純「なぜ・・・?」

梓「むぎ先輩・・・さっきは」

紬「・・・」

ギュ

梓「あ・・・」

紬「・・・」スラスラ

梓「・・・謝るのは私の方ですよ・・・。すいませんでした」

紬「・・・」フルフル

梓「・・・」

紬「・・・」スラスラ

梓「っ!」バッ

紬「!」
191. VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/09/02(金) 01:24:34.28 ID:qmEGUPh0o
梓「もういいです。私が悪いんですから」

紬「・・・」フルフル

ギュ

梓「・・・」

紬「・・・」スラスラ

梓「っ!」バッ

紬「!」

和「なにやってるのあれは?」

澪「謝りたいむぎと、謝らせたくない梓だな」

律「なんでジャージ着ないんだよ和は」

さわ子「水着でもいいのよ?」キラキラ

唯「そっちがいいよ」

純「水着でも、って?」

律「お、着たか・・・そんじゃ行くかー!」

唯「よっしゃー!」

テッテッテ

ジャブジャブ

律唯「「  冷たーい!  」」

憂「ふふっ」

純「えぇー・・・」

澪「や、やっぱり私はいいや」

さわ子「せっかく着替えたのに〜」

梓「着替えたの間違いだったかな・・・」

紬「・・・」ギュ

梓「ちょっ!」

グイグイ

紬「・・・」ニコニコ

梓「ちょっ、ま、待ってください!」

純「諦めるか、いくぞー」

憂「行こう〜!」

紬「・・・」キリ

梓「・・・そんな意気込まなくても」

澪「しょうがないな」

和「結局行くのね」


最終更新:2011年10月05日 23:14