あれから五年


時は巡り


とても長い時間が流れた


聞いて欲しい出来事がたくさん起きた


伝えたい事がたくさんある


ようやく会える


――いた!



9月28日



梓「むぎ先輩!」

紬「・・・!」

梓「お、お久しぶりです!」

紬「・・・」ニコニコ

梓「髪を切ったんですね!」

紬「・・・」コクリ

梓「似合ってますよ!」

紬「・・・」ニコニコ

梓(17の私だったら抱きついてたのに!)

紬「・・・」

梓(お、落ち着け・・・私・・・)フゥ

紬「・・・」クイックイッ

梓「はい。私も切りました。少しは大人っぽくみえますか?」

紬「・・・」コクリ

梓「あはは、視界は相変わらずですけど、気持ち的には大きくなりましたよ。なんて」

紬「・・・」ニコニコ

梓「ちょうど五年前の今日、この場所で別れたんですよね」

紬「・・・」コクリ

梓「帰国するのはこの日と決めていたんですか?」

紬「・・・」コクリ

梓「・・・そうですか」

紬「・・・」ニコ

梓「あ、荷物持ちますね。行きましょう」

紬「・・・」


結果として

治療の甲斐は無く

声を取り戻せてはいない


なにが原因なのか、なにが足りないのか

あの学園祭までの時間がそうさせてしまったのか

誰にも分からない


昔の私なら 恨みもしただろう

こんな悲しい道 誰も望んでいないのだと


梓「あと一年でゴールド免許なんですよ」

紬「・・・!」

梓(ふふっ、驚いてる)

紬「・・・」クイックイッ

梓「はい。在学中に取ったんです。さ、乗ってください。私の愛車です!」

紬「・・・」コクリ

ガチャ

梓「よいしょっ」

バタン

梓「さて、どこへ行きましょう」

紬「・・・」ガサゴソ

梓(あ・・・鍵盤ハーモニカ・・・)

紬「・・・」プップププー

梓「懐かしいですね・・・。それで会話をしていたんですよね」

紬「・・・」ニコニコ

梓「・・・あ、もう一度お願いします」

紬「・・・」プップププー

梓「唯さんのコードボイスですか?・・・私もキーボード弾いているんですよ
  ですから聴き取れるんですね」

紬「!」

梓「とりあえず、車を発車させますけど・・・。向かう先は『あの場所』でいいですか?」

紬「・・・」コクリ

梓「はい。それでは発車します」

ブォォオオオオオ


私とむぎ先輩の時間は止まってしまった


唯先輩から唯さんへ呼び方が変わった

それは、私の先輩ではなくなったから

高校の外で先輩と呼ぶことに違和感を感じて以来

さん付けで呼ぶようになっていた



私とむぎ先輩の時間はあの時から進みだした


むぎ先輩だけ、まだ先輩付けで呼んでしまっている

これは嬉しいことなのかな 寂しいことなのかな


梓「澪さんも違うバンド組んでて、キーボードを弾いているそうですよ」

紬「!」

梓(驚いているんだろうなぁ・・・。多分、私と一緒で澪さんもむぎ先輩に教えていないはず)

紬「・・・」

梓「腕が鈍らないように、ですね・・・」

紬「・・・」プップププー

梓「律さんですか?・・・連絡来ないんですよ。どこを旅しているんでしょうね」

紬「・・・」

梓「むぎ先輩に手紙届きましたか?」

紬「・・・」プップッププー

梓「届いていたんですか!?」

紬「・・・」プッププー

梓「エジプト・・・って・・・」

紬「・・・」

梓「澪さんは『心配いらない』と言っていたから・・・心配はしていなかったんですけど」

紬「・・・」


『つまらん。ちょっと旅してくる』

律さんはそう言うなり旅立って行った

澪さんも唯さんも地元から離れてしまったから当然なのかもしれないけど

まさか、まだ世界を旅していたなんて


紬「・・・」プップップー

梓「澪さんから葉書届いたんですね。私にも届きましたよ」

紬「・・・」ププップップー

梓「はい。利尻島での夕焼けを背景にした写真ですね」


澪さんは札幌の大学へ進学した

むぎ先輩がドイツへ旅立った後


『北海道へ行きたいんだ』


部室で宣言された

律さんはすんなり受け入れて 

背中を押した


梓「私たちが卒業して、一年後の夏に姫ちゃんさんも北海道をバイクで走りましたよ」

紬「!」

梓「あれ、手紙に書かれていませんでしたか?」

紬「・・・」ププッププー

梓「秘密だったのかな・・・。どうしよう・・・」

紬「・・・」プップッププー

梓「あ、えぇと・・・玉恵さんを覚えていますか?」

紬「・・・」プップー

梓「はい。あのキャンプで出会った玉恵さんです
  姫ちゃんさんが『澪に会ってくる』と言って・・・。船に乗るところを私見送りましたよ。
  北の大地へ期待あふれる表情をしてました。印象的で、今でも覚えています」

紬「・・・」

梓「玉恵さんの轍をなぞったみたいです
  細岡展望台、和琴半島でキャンプ、ナラワナ、多和平、神の子池、カムイワッカ
  ワッカ原生花園、コムケ、常盤公園・・・などなど」

紬「・・・」プップププー

梓「はい。冬と夏も一緒にです。二人とも北海道の大学へ進学しましたから
  澪さんが運転する車に3人で乗って・・・。想像したら楽しそうですね」

紬「・・・」コクリ

梓「釧路の市場にですね、勝手丼と言って、店先でどんぶりにご飯をよそってもらい、
  市場をまわって新鮮な海産物を少しずつ盛っていくという独特のメニューを堪能したらしいです。
  夏がはしゃいで食べていたとか・・・」

紬「・・・」コクコク

梓「釧路湿原でカヌーに乗ったり・・・
  岬周りもして、霧多布岬やアゼチの岬を見て周ったらしいです。道北、道東を中心に」

紬「・・・」プップップップー

梓「むぎ先輩覚えていたんですね・・・。二人の『約束の場所』の事を・・・」

紬「・・・」

梓「それが、葉書の写真の利尻島になるんですけどね」

紬「・・・」コクコク

梓「夏がいちいち『楽しい』って報告メールを入れてくるから、少し鬱陶しかったです」

紬「・・・」ニコニコ

梓「帰ってきた姫ちゃんさんから写真を見せてもらいましたけど、雄大って言うんですかね。
  私もその場所に立ってみたくなりました」

紬「・・・」

梓「野付半島にナラワナっていう名所があるんですけど、海の中に突き出た細い半島なんですね
  走っていると視界の両側に海が見えそうなんです」

紬「・・・!」

梓「その先にトドワラという名所もあるんですけど、そこへ向かう道がすごく楽しかったそうです。
  両端にハマナスなどの花が咲いてて、澪さんと冬は感動したそうですよ
  とてもいい旅をしてきたみたいです」

紬「・・・」コクリ

梓「あ、しまった・・・」

紬「?」

梓「自分でその感動を伝えたいから・・・姫ちゃんさんはむぎ先輩に報告してなかったんですよ」

紬「・・・」

梓「すいませんけど、今の話聞かなかったことにしてくれませんか・・・」チラッ

紬「・・・」ニコ

梓(ひきつってる・・・。後で同じ話聞かされるんだから困るよね・・・。ごめんなさい!姫ちゃんさん!)

紬「・・・」

梓「冬は・・・ウィンターシーズンはスノボを楽しんでいるそうですよ」

紬「・・・」プップッププー

梓「手紙に書かれていましたか。澪さん、冬、夏、春子さん・・・あと、あの人」

紬「・・・」コクコク

梓「春子さんは何度か遊びに行ってますね。私も冬たちに呼ばれた事ありますけど、我慢していました」

紬「・・・?」

梓「・・・」


私はこの場所で時が過ぎるのを待っていた

律さんもいなくなってしまったこの場所で

ただ、1人

待っていた


紬「・・・」プップッププー

梓「沖縄からの手紙ですか?」

紬「・・・」プップー

梓「はい。私のところには葉書が・・・。唯さん、憂、いちごさんと風子さんが写った写真ですよね?」

紬「・・・」プップププー

梓「し、知らないですよ!?」

紬「・・・?」

梓(暦さんとも会っていたなんて・・・聞いてないですよ!唯さん!!)

紬「・・・」ププップップー

梓「真鶴とも会っていたんですか!?」

紬「・・・」プップー

梓「・・・多分。風子さんの意地悪だと思います。『教えないでおこう』とか
  そんな風に吹き込んだんですよ・・・もぅ」

紬「・・・」プップッププー

梓「はい。沖縄にも、憂に何度か誘われましたけど、我慢しました」

紬「・・・?」

梓「・・・」


澪さんの宣言の後

唯さんが感化されたようにつぶやいた


『そうだ、沖縄の大学に行こう』



私はなぜかすんなり受け入れられた

海の向こうを見ていた人だったから


梓「暑いの苦手なのに、クーラーも付けられないハズなのに・・・夏の時期は頑張ってるようですね」

紬「・・・」ニコニコ

梓「でも、暑いけど風があって、カラッとしてるから不快じゃないと言っていました」

紬「・・・」コクコク

梓「いちごさんと風子さんが帰ってきて話を聞いたんですけど
  金髪の女性に案内されて世界遺産になっている斎場御獄へ
  その後にグスク巡りをしたそうです。グスクというのはお城の事ですね
  やっと謎が解けましたよ。金髪の女性って真鶴だったんですね・・・」

紬「・・・」プッププー

梓「はい。唯さんがグスクに興味があるって・・・。仙台の青葉城址にも観光で行ってましたから
  なぜか、楽しいんでしょうね」チラッ

紬「・・・」

梓(ふふ、驚いてる。五年の月日はあまりにも長いから。時間は人と場所を変えてしまう)

紬「・・・」

梓(唯さんが行ったという、東御廻りの事話すべきかな・・・
  むぎ先輩の為に、聖地巡礼をして、声を取り戻すために祈願をしたという)

紬「・・・?」

梓「あ、そうか・・・。真鶴にむぎ先輩の事を伝えたから、斎場御獄・・・聖域を案内されたんだ」

紬「???」

梓「あれ・・・、律さんってもしかして、太陽神を探しているとか・・・?」ブツブツ

紬「・・・」

梓「純から天照大神の話を聞いた後に・・・旅立って行ったから・・・間違いない・・・?」ブツブツ

紬「・・・」

梓「北海道から帰ってきた姫ちゃんさんから、澪さんが律さんに渡して欲しいと・・・トカプチュプカムイ・・・」

紬「・・・」

梓「これも太陽神のはず・・・。守ってもらうように・・・」

紬「・・・」

梓「あ、すいません。1人で喋ってしまって」

紬「・・・」プップップー

梓「いえ、今は言えません。後でちゃんとお話します」

紬「・・・?」


五年の空白は埋めるように彼女は言葉を紡いでいく

梓「私その時まだ19ですよ?お酒を扱う場所に連れて行くなんて
  元担任のすることじゃないですよね」


楽しそうに紡がれた言葉を 彼女は胸に受け止めていく 楽しそうに

紬「・・・」ニコニコ


彼女はハンドルを握り 前を見て それでも言葉を止めない

梓「姫ちゃんさんには内緒にしていたから、玉恵さんの顔みてとっても驚いていましたよ」


彼女はその言葉を聴く

紬「・・・」ニコニコ


彼女は安心して言葉を続ける

梓「和さんが『約束』覚えていたんですよ。3人で交わした約束なのに
  玉恵さんとさわ子先生はすっかり忘れていたらしいです。ひどいですよね」



彼女は心地よく耳を傾ける

紬「・・・」


一台の車が河川敷へ到着する

1人の少女が空を眺めていた

あの頃彼女がそうしていた様に


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最終更新:2011年10月06日 18:25