梓「あ、いけない、そろそろ明日からの準備しましょうか」

紬「・・・」コクリ

梓「私はもう準備出来てますから、荷物を取って出発できますよ」

紬「・・・?」

梓「うちの編集長が『お前も記事を書いてみろ』とか言うから迷っていたんですね
  丁度むぎ先輩が帰ってくる事を知った後でしたので、この企画案を提出したんです」

紬「・・・」コクコク

梓「そしたら、『ふざけてるのか』と突っ返されまして・・・」

紬「・・・」ゴクリ

梓「『そういう受け取り方をなされるのでしたら、私この会社を辞めます』」

紬「・・・!」

梓「しばらく膠着としていたんですけど、編集長が折れました」ブイッ

紬「・・・」ニコニコ

梓「北海道か沖縄か行き先が決まっていない旅を提案したんですから当然ですけど
  こんなチャンスを逃すなんて私の人生後悔しますよ」ウシシ

紬「・・・」

梓「また話し込んじゃいましたね・・・。ついつい喋ってしまう・・・」エヘヘ

紬「・・・」

梓「とりあえず、二人旅の進路を決めましょう」

紬「・・・」

梓「その場所で放課後ティータイムは再結成するんですから」

紬「・・・」

梓「車で向かいますから、まだ考える時間はありますけど・・・」

紬「・・・」

梓「北海道か沖縄か」

紬「・・・」

梓「行き先が決まったら、その逆の人は移動しなきゃいけないから大変ですよね
  今か今かと待っているはずですよ」ウシシ

紬「・・・」

梓「行き先が北海道なら唯さんが北海道へ」

紬「・・・」

梓「行き先が沖縄なら澪さんが沖縄へ移動するんですから」

紬「・・・」

梓「いや、向かう途中で合流するのもありか・・・」

紬「・・・」

梓「この企画を話したとき二人とも積極的に乗ってくださいましたよ
  律さんには澪さんが話を通していると思いますけど・・・ちょっと心配ですね」

紬「・・・」

梓「北海道にいるのか・・・沖縄にいるのか・・・読めないです・・・」

紬「・・・」

梓「・・・」

紬「・・・」

梓「むぎ先輩のクラスメイトが今夜、春子さんの道場に集まるんです。
  冬と夏も、憂、純、和さんも
  唯さん、澪さん、律さんを除いてですけど」

紬「・・・」

梓「夏と冬、憂がそれぞれ持ってくるお土産を食べてから決めてもいいかもしれませんね」

紬「・・・」

梓「唯さんは那覇で憂は石垣島だから、結構お土産が異なるんですよね
  石垣島育ちの海琴さんが勧めた土産を憂が持ってきた時はみんな苦笑いしてましたよ」プクク

紬「・・・」

梓「東と言えば東京ですけど、和さんは今ベストセラー作家の担当をしているんですよ。
  その作家はあの人なんですけどね。無理やり和さんを担当につけたみたいです
  二人が仕上げた作品もベストセラーですから呆れます。尊敬を通り越してです」

紬「・・・」

梓「純も和さんと同じ職場で頑張っているみたいです。雑誌関連ですけど」

紬「・・・」

梓「そんなバラバラな場所に居るみんなが、今日集まるんですよ」

紬「・・・」

梓「すごいです。むぎ先輩は」

紬「・・・」

梓(そうだ・・・。ちゃんと話さなきゃいけない事があった・・・)

紬「・・・」

梓「準備するまえに、聞いて欲しい事があるんです」

紬「・・・」

あどけなさの残る彼女の顔をじっとみつめる

「・・・」


その視線に気付かない彼女は空を見上げながら問う

「むぎ先輩、シーサー持ってます?」



袋に包まれた携帯ストラップを取り出す

「・・・」



それを眩しそうに確認する彼女

「もっと立派なヤツを渡せばよかったのに・・・17の私はそれが精一杯だったんですね・・・」



静かに首を振る彼女

「・・・」


その仕草を見落としてあるものを取り出す


「これ、トカプチュプカムイというらしいです」

「・・・」

「澪さんから律さんへ渡すようにいわれたモノなんですけど、正直分かりませんでした」

「・・・」

「アイヌ語でカムイは神を指しているんですね。これは恐らく、太陽神だと思います」

「・・・」

「1年半くらい前に律さんはインドに居ました。
 それも恐らく、ヴィシュヌを探していたんだと思います。ヒンドゥー教の太陽神ですね」

「・・・」

「世界各地で守護神を探しながら、巡拝していたんだと思います。
 むぎ先輩の事を想って」

「・・・」

「旅の目的がそれだとは言い切れませんけど」

静かに瞳を閉じる 友の顔を瞼に浮かべて 18のままの彼女を写して 胸が一杯になる

「・・・」



それに気付かず 視線を空へ戻して言葉を紡ぐ

「唯さんも同じことを沖縄でやっていたんですよ」


瞳を開ける 隣で空に想いを残すように話す その彼女をじっとみつめて 聴く


「・・・」

「東御廻りと言って、昔は五穀豊穣を祈願して聖地を巡礼しながら参拝していた行事なんです」

「・・・」

「あの人の記事をを読んだ事があるんですけど、真鶴はそういう信仰に纏わる場所
 沖縄の伝承にとても詳しいらしいです。
 それで、真鶴に案内させられて唯さんも祈願したんですね」

「・・・」

「最初、その話を聞いた時は名所巡りをしているんだと思っていたんです」

「・・・」

「ですが、澪さんの台詞で繋がりました」

「・・・」

「『これを律に』」

「・・・」

「全てあなたが中心にいたんです」


もう一度瞳を閉じて 18のままの彼女たちを想い浮かべる 胸が満たされていく 

五年の空白が 隣に居る彼女の言葉で埋め尽くされていく


「・・・」

「あなたの事を想い、行動していたんです」

「・・・」

「今夜会う人たちも、その場に居ないあなたを中心として集まっていたんです」


言葉を紡ぐ彼女は気付かない その場所を守っていた事を 

言葉で満たされていく彼女は知っている 隣に居る彼女が その場所を守っていた事を


「・・・」

「遠い遠い空の下、私たちが繋がっていた証です」

「・・・」

「やっぱりむぎ先輩には敵いません」


空を眺める少女がいた


「樹ちゃんは空を眺めて・・・オーロラを探していたのかな・・・」

「・・・」




記憶の彼方に居る彼女の姿と重ねて


「この空に想いを残そうとしていたのかな・・・」

「・・・」


一つの旅が始まろうとしていた


「北海道は玉恵さんと冬と夏が旅をして、樹ちゃんが憧れる大地
 沖縄は暦さん、海琴さん、真鶴が旅をした島・・・
 どっちも魅力的ですね」

「・・・」

それは一つの旅の終わり


「あの人の言葉があったからここにいられるようなものなんです・・・」

「・・・」


かつて少女が憧れていた その場所へと誘う


「暦さんから未来に踏み出す勇気を貰いました」

「・・・」


空から視線を下ろし 今も尚尊敬しつづける人と想いを交わす



「まだまだ時間はあります」

「・・・」


二人で歩む道を見据えて


「行きましょうか、むぎ先輩!」

「・・・――」



旅は遥かに







「――あずさちゃん」







           終






最終更新:2011年10月06日 18:29