律「それじゃあ宴もたけなわということで・・・」

律が鞄から何かを取り出した。

律「ジャジャーン!大人への階段、ビールでーす!」

澪「って駄目だろっ!」ゴチン!

律「いってー、せっかくウチの冷蔵庫から盗んできたのに・・・」

和「ふふっ、相変わらずね」

この懐かしい雰囲気に触れているのが、何だか心地よかった。

唯「はいみんなどいてどいてー、ケーキ様の入場だよー」

台所から唯と憂が、ケーキを持ってやってきた。

それほど大きいものではなく、人数分で分けたらかなり小さくなってしまうようなものだ。

和「今年のケーキは小さめなのね」

紬「・・・りょ、料理を作りすぎちゃったから!」

澪「そ、それに甘いものは控えたほうがいいし、な」

和「・・・?」

何かをたくらんでるのは、律だけじゃないみたいだ。

和「でもケーキを7等分って・・・難しいわね」

憂「任せてー」

憂がそう言うと、ためらい無くケーキに包丁を入れた。

そして瞬く間にケーキは綺麗に7等分され、それぞれのお皿の上に盛り付けられた。

梓「憂・・・凄い・・・」

澪「良く出来た、妹だな・・・」

憂「それじゃ、みんな、食べましょう」

憂は満面の笑みで、返事をした。

その後、ケーキを食べ、ゲームや話をしたりし、クリスマス会は大いに盛り上がった。

澪はやっぱりサンタ服を着せられたり、梓ちゃんも何故か着せられ、結構ノリノリだったり

ボードゲームでムギが圧倒的な強さを見せたり、楽しかったことは挙げればきりが無い。

時間もあっという間に過ぎ、気づけば日付が変わる頃となっていた。

はしゃぎすぎた分、今はみんなゆっくりとテレビを見ている。

和「・・・今年も終わりね・・・」

テレビでは司会者が必死にクリスマスムードを盛り上げようとしている。

でも日付が変われば、一気に世間は新年へ向けて雰囲気を変える。

今年のクリスマスは、もう残り5分を切っていた。

憂「私、食器とか片付けてきちゃいますね」

唯「あ、私も!」

唯と憂がおもむろに立ち上がる。

和「私も手伝おうか?」

唯「いいよぉ、和ちゃんはお客さんなんだし、休んでて」

和「そう?」

昔なら唯はもう少し、私を頼っていたかもしれない。

でももう、唯は私の傍にはいない。

気づけはもうクリスマスの終わりまで、本当に数えるほどになっていた。

時計の秒針が、頂点へと向かっていく。

10・・・9・・・8・・・

夢のようなこの時間も、終わりに近づく。

クリスマスが終わることが、こんなに寂しく感じられたのは初めてだ。

5・・・4・・・

私は本当に、唯たちに助けられてばかりだな。

3・・・2・・・

律「おーい、和ー」

なんだかネガティブになっていた私に、律が声をかけた。

和「どうしたの?り・・・」


「ハッピーバースデー!!」


部屋中にクラッカーの音が鳴り響き、色とりどりの紙テープが舞った。

和「え・・・?」

突然の出来事に、私はどうすることも出来なかった。

唯「はいみんなどいたどいたー!バースデーケーキ様の入場だよー!」

憂「和さん、誕生日おめでとうございます!」

唯と憂が持ってきたケーキは、先ほどのとは比べ物にならないほど巨大なケーキだった。

上には大量のイチゴが飾り付けられている。

和「これって・・・?」

唯「お誕生日おめでとう、和ちゃん♪」

・・・今日は12月26日、私の、誕生日だった。


和「ふふっ、なるほどね・・・一本、取られたわ」

律「プレゼントもあるぜー!ほれほれー!」

みんなが私に綺麗に包装された箱を渡す。

和「始めから、こういう計画だったのね・・・」

唯「うん!だから25日にクリスマス会をやったんだよ!」

律「よーし、それじゃあこれからは和のお誕生日会だ!今日は徹夜で遊ぶぞー!」

和「・・・みんな、ありがとう」

私は本当に、この仲間たちに、感謝の気持ちでいっぱいだった。


・・・・・・
・・・・
・・


和「ん・・・」

寝てしまっていたみたいだ。

辺りを見回すと、全員力尽き、雑魚寝をしていた。

今、何時だろうか。

外はまだ暗い。

私は物音を立てないように、静かに部屋を出た。

家の扉を開けて、外に出る。

深夜ということもあり、外はかなり冷えていた。

和「ふぅ・・・」

私は壁に寄りかかり、空を見上げた。

和「・・・誕生日なんて、私が忘れてたわよ・・・」

独り言をつぶやきながら、今日のことを思い返した。

ふとその時、静かに扉が開き、唯が顔を出した。

唯「・・・和ちゃん?」

和「あら、唯。起こしちゃった?」

唯「うん、和ちゃんが外へ出てくの、見えたから」

和「そう、それは悪かったわ」

唯「・・・外は寒いよ。はい、これ」

唯はそう言うと、長いマフラーを差し出した。

唯「二人で巻けば、あったかあったか、だよ」

和「・・・そうね」

私たちは、マフラーを一緒に首に巻いた。

和「・・・今日の企画、唯が考えたの?」

唯「うんっ、そうだよ」

和「そう・・・驚いたわ」

唯「えへへ」

こうして唯と二人きりで話すのは、久しぶりだ。

唯と話しているだけで、私の心は温まってゆく。

唯「和ちゃん、元気出た?」

和「え・・・?」

唯「最近の和ちゃん、元気ないみたいだったから」

唯は、いつも私を、支えてくれる。

和「・・・すごいわね、唯は」

私は、唯がいなかったら、どうなっていたのだろう。

和「私は、色んなものを、唯に貰ってばかりね・・・」

唯「色んなもの?」

和「ええ、とっても大切なものを、あなたはいつもくれるわ」

和「今日だって、唯から、大切なものを貰った」

和「考えてみると、私は唯に何もしてあげられてないわ」

風が、少し強く吹いた。

唯「・・・ううん、そんなことないよ」

唯は、静かに答えた。

唯「いつも私に良くしてもらってるのは、和ちゃんだよ」

私は、風の冷たさを感じなかった。

和「・・・唯は、優しいのね」

唯は優しすぎるから、ついその優しさに甘えてしまう。

あなたに伝えなくてはいけない言葉を、後回しにしてしまう。

和「唯・・・」

あなたは、いつも私の傍にいてくれた。

だから、あなたに伝えたい、ありったけの、感謝の気持ちを――


和「・・・ありがとう、唯」


唯「・・・お礼を言うのは私のほうだよ」

唯「いつも、私の傍にいてくれて、ありがとう、和ちゃん」

和「・・・続きを先に言うなんて、ずるいわ」

唯「えへへ、早い者勝ちだよ」

唯はそういうと、静かに寄りかかってきた。

唯の体は、温かかった。

和「唯が傍にいるのが、当たり前じゃなくなっちゃったんだものね・・・」

和「いなくなって、初めて気づくなんて、皮肉よね・・・」

風が再び強く吹き、私たちは身を寄せ合った。

私は、意を決して、口を開いた。

和「唯、笑わないで、聞いてくれる?」

唯「うん・・・」

和「ずっと、友達で、いてね」

唯「・・・うん!」

唯はとびっきりの笑顔で、答えた。

和「・・・寒いし、家に入ろっか」

唯「そうだね・・・・・・あっ」

唯が空を見上げたので、私もつられて空を見上げる。

和「あ・・・」

暗闇に覆われた空に、白い雪がちらつき始めた。

唯「ホワイトバースデー、だねっ」

和「ふふっ、何よそれ」

お互いの吐く息が、白く輝いていた。

唯「・・・和ちゃん、お誕生日、おめでとう」

和「・・・ありがとう、唯」

白い雪は少しずつ、町を銀世界に、染めていった。


数週間後


年も明け、冬休みも終わり、私は再び普段の生活へと戻った。

今日は学友会の総会の日。

資料もしっかりと準備してきている。

先輩「お、真鍋さん、あけおめ~」

和「あけましておめでとうございます。先輩」

先輩と顔を合わすのも、今年初だ。

先輩「さて、新年一発目の会議、頑張りますかぁ」


・・・・・・
・・・・
・・


先輩「ふー、終わったぁ」

和「お疲れ様です」

先輩「いやー、新年ってこともあってだらけてたけど、真鍋さんがいて助かったわ。フォローありがとね」

和「お役に立てたのなら、嬉しいです」

会議も終わり、各自が帰る支度を始めた。

先輩「さて、帰りますかぁ」

和「あ、先輩・・・」

私は先輩に、提案をした。

和「もしよければ、これからどこか遊びに行きませんか?」

先輩「・・・真鍋さんが珍しいねぇ、テスト期間で忙しいんじゃないの?」

和「私、もう頑張るのは、やめたんです」

先輩「・・・そっか、そのほうがいいよ。じゃあどこ行く?」

和「おまかせします。先輩の好きなところで」

これからは一人で頑張るより、傍にいてくれる人を大切にしたい。

大切な親友から教えてもらったことだ。

和「先輩・・・」

そして、もう一つ、教わった大切なこと。

それは、ありがとうの、感謝の気持ち。


和「・・・ありがとう、ございます」


私は頭を下げる振りをして、恥ずかしさで赤くなった顔を隠したのだった。





終わり



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最終更新:2011年10月06日 23:47