………な曲を歌います





―――――

私が桜ヶ丘高校に合格して二日。

憂「ん……朝…」

目を開けると私の部屋の天井が見えた。枕元にはデジタル時計。いつもの起床時間を指してる。

顔を左に向けると

唯「……」

すぐ横のお姉ちゃんが仰向けで熟睡中。私はそのまま人差し指でお姉ちゃんのほっぺを軽く押す。
この弾力と柔らかさはクセになる。

唯「ん~……」

憂「おっと」

慌てて引っ込めた。
お休みのじゃましてごめんね。

私は朝ごはんを作るために体を起こそうとした。でも

唯「ん~……ん」

憂「!」

寝返りをうった拍子に、お姉ちゃんの唇が私の唇に軽く押しつけられた。いわゆるキスしてる状態。
お姉ちゃんの乾いた唇と静かな鼻息が私を温める。

お姉ちゃんったら♪

そのまま最後にお姉ちゃんとキスした幼少期を思い出していると

唯「ん~…ん?」

お姉ちゃんの目がほんの少しだけ開いた。

唯「んひゃ!?」

憂「お姉ちゃんおはよ♪」

私とキスしてるとわかると、お姉ちゃんは赤面しておおげさに私から離れた。

憂「お姉ちゃんがしてきたんだよ?」

唯「ごっごめん!」

憂「謝んなくていいよぉ、姉妹だしいいじゃない」

唯「うぅぅ…」

そんなに私とキスするのが恥ずかしいのかな?
お姉ちゃんは夜使っていた毛布に真っ赤な顔をうずめて動かなくなった。なんという小動物。
朝ごはんができたら呼ぶことをお姉ちゃんに伝えて洗面台へ向かった。


――私がシチューをかき混ぜ温めていると

唯「……」

死角から顔だけ覗かせて私をじっと見る恥ずかしがり屋さんがいました。隠れたつもりなのかな?

憂「そんなところでどうしたの?」

唯「ばれた! 目が覚めちゃって寝れないよぉ」

憂「じゃ朝ごはん一緒に作ろ?」

唯「ん~…いいよなんでも来なさい! フンス!」

憂「うん。 お鍋を見てて欲しいな」

唯「おっけぇ!」


――朝食を食べ終えた私たちは学校へむかった。

唯「えへへ~合格おめでとう~」

憂「もうそれ何十回も聞いたよ?」

唯「いいの♪」

私たちは道路脇に並ぶ桜を眺めながら歩いている。そんな中にお姉ちゃんの鼻歌が舞う。

お姉ちゃんは一昨日からルンルンです。私以上に合否の心配をしてくれるほどだからその反動だと思う。
その日からお姉ちゃんと一緒に寝るようになった。うれしいけど…もういいよね?

……今日は一昨日と違って抱き着かれないまま下駄箱に着いた。


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始業式を終えて教室に着くと、中学時代の友達に会えた。

憂「鈴木さんと同じクラスだぁ」

純「おっ平沢さんじゃん」

軽い社交辞令を済ませた。

純「純でいいよ憂」

憂「そう? じゃ改めてよろしくね純ちゃん」

そうだ、たしか純ちゃんは音楽やってたっけ。

横から純ちゃんのお友達も加わり雑談した。その時に三人を軽音楽部に誘ってみた。
純ちゃんだけ釣れました♪

――軽音部を覗いた帰り際、下駄箱でツインテールの女の子と目があった。ちょっと冷めた雰囲気の漂う子だったなあ。


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||||||||||||||||||||||||||||||||||AT NIGHT||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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唯「新入生連れてきてくれてアリガトね~」

憂「うっうん…」

私は少しひきつった顔を見られないよう振り向かず、料理に集中しする。

結果は芳しくなかった。まさか軽音部のみなさんがメイドさんになってるとは……。純ちゃんも軽くヒイてた。

そんなお姉ちゃんは居間で一生懸命ギターを引きながらご飯を待っている。去年よりずっと頑張り屋さんでうれしいよ♪

……あれ、ギターの音が聞こえない?

振り向くと同じ場所でギターを抱えているお姉ちゃんと目が合った。
と同時にお姉ちゃんは慌ててギターの練習に戻った。

憂「ごはんもう少しだよ~」

唯「ほっほい!」

お姉ちゃんのほっぺが若干赤くなってるのに気づいたけど、なんとなく声はかけなかった。お姉ちゃんはいつもよりジャカジャカと指を動かしている。

おっと、ご飯の炊ける音。

私は鍋の火を止めて炊飯器からお茶碗にご飯をついだ。

憂「ごはんだよ」

唯「ほいさ!」


――たびたびお姉ちゃんは箸を止めて私をぼーっと見た。そのたびに私は

憂「アイス遅くなっちゃうよ?」

唯「はっ! アイスアイス!」

うん、かわいい生き物です……けど…。



――お姉ちゃんは私より少し遅く食べ終えてアイスを舐めきると、駆け足でお風呂に入った。
というのもアイスを食べてる最中にもぼーっとして、シャツに甘い液体をこぼしたから。

私は液体を拭ききれてない床を濡れティッシュで上書きした。


……去年の年末にもこんなことがあったね。

お風呂場のトビラの閉まる音が響いた。やけによく聞こえた気がした。


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||||||||||||||||||||||||||||||||||AT BATHROOM||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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唯「はぁ……」

なにやってるんだろわたし…。変なおねえちゃんだって思われたかなぁ…。

洗面台で自分の顔を見てみる。…しょげてるなあ私…。
シャツを脱いでブラをは…ずした。憂より小さい残パイが鏡に移る。

唯「こんな貧相な胸にも恋心って持てちゃうんだなぁ…」

何度目かわからない感想が口からこぼれた。


――最初に憂を意識したのはいつだっけ……私が桜校に合格した時かな。

唯「やった! 和ちゃんとおんなじ学校に入れたよ!!」

憂「わぷっ!? だったらわたしも!」

唯「おお我が妹よ!」

和「二人とも落ち着きなさいよ、周りの視線釘づけじゃない」

小学校以来久しぶりに憂と抱き合って喜びを分かち合った。中学時代はほとんど活動しなくて、抱きつくなんてことはなかった。
抱き着いた時、懐かしい感触が私をほんわかにした。憂の体温ももちろんだけど、それ以上に胸の内から沸き上がる熱が私を気持ち良くした。

もっと憂に触れていたくなった、

それからはうれしいことがあるたびに私から抱き着いた、あの感触が忘れられなくて。クセになっちゃって。

――お風呂場を開けるとあったかな蒸気が流れ込んでくる。

唯「こんなのじゃない」

私が感じたいのはあの心の温もりだもん。

私は床に座り込んでシャワーで髪を濡らし始める。身体だけはあったまる。


――事あるごとに抱きついて時には抱き合っていくうちに、込み上げてくる喜びはどんどん増していった。鼓動が以前より速くなっていくのもわかっていた。
この快感にずっと浸りたかった。憂はいつもうれしそうな顔をしてくれた。


――シャワーを止めてシャンプーで髪を洗う。少しして

唯「…ちょっとさむい」

4月なのに。
普段より素早く髪を洗ってシャワーで流し始める。やっぱり身体だけでも暖かくしてたい。


――快感が羞恥心に変わったのは去年のクリスマスの夜。軽音部のみんなとか和ちゃん、ついでにさわ子先生も交えて遊んだなぁ。

夜は憂と昔を思いだして、久しぶりに一緒にお休みすることになった。
……あの頃までは例の快感を寝るとき欲しがらなかったなぁ。


唯「ぅ……ん……まだ夜…」

目覚めた時間は知らない。そんなこと気にしてられない状況が暗闇にセットされていた。

私は憂の左隣でゆとりをもって寝ていたはず。
でもいつのまにか憂と私は背中をくっつけあって寝ていた。寝てる間に毛布をお互いに取り合ってたみたいで、毛布は密着した私たちを包みこむようだった。

あの快感と熱が私の手を汗ばませた。

唯「ぅ~ぃ」

漫画によくある、背中合わせで寝ている相手に呼びかけるシーンを再現してみた。優しい寝息だけが耳に聞こえる。

唯「……しつれいしま~す」

小声でそう言うと、毛布の形がずれないよう憂の方に身体を向けくっついた。
そのまま憂のお腹を右腕で抱いた。
普段抱き着く時とは一味違う快感。ドクンドクンって胸の内から鳴る。それになんだか顔が熱い。


待って待って熱いなんてもんじゃないよこれ!?


唯「ぅ……ぃ…」

自分の胸の鼓動が耳に響く。額から一筋の汗が垂れ落ちた。
頭がぼうっとしてきた…。

思わず抱く力を強めた。

憂「んん……」

かすかに響く誘惑の声。
私の中でなにかが吹き飛ばされた。

唯「ふぅっ…ふぅっ」

呼吸が荒くなる。
私は毛布から右腕を抜いた。その汗ばんだ腕を憂の上をまたがせ、手の平を布団に広げた。冬の寒さなんて感じなかった。
そしてゆっくりゆっくりと上半身を浮かすと同時に左肘で支える。そこから右手に重心を傾けて、憂を真上から至近距離で見た。

唯「ぅぃ…ぅぃ…」

実の妹のほっぺを細めた目で見つめる。今までとは違う快感が私の中を暴れた。

唯「ひゅぅ…ぅぃ……」

自然に私は目を閉じる。そのまま憂のほっぺに顔を近づけていった。

とにかく憂のほっぺが欲しかった。

唯「はぁっはぁっ…」

心臓が爆発しそう…。いくつもの汗玉が私の頬をつたう。私の荒く生暖かい息が憂の頬からはね返って私に吹きかかってくる。

やがて憂の肌から発される体温層を抜けると、私の唇に柔らかい感触が伝わる。

憂のほっぺだぁ。
私の中の暴走が収束し始めた。代わりにかつてない量の快感が駆け巡る。
しかも私の上唇に憂の寝息か吹きかかってこそばゆい。今感じてる感触の全てが私をとろけさせる。
憂の臭い、憂の鼻息、憂の乾いた


ん?


なんでほっぺにキスしてるのに鼻息が私に?


思考停止していた頭でようやく浮かんだ疑問。でもそれを考えようとはしないで目をパッと開くと

憂の閉じた両目が目の前にあった。

………いつのまに寝がえりうったんだぁ…あはは……
ほっぺがすこしうごいたのがくちびるに伝わった……ううん…これほっぺじゃないや

くちびるじゃん

唯「ひゃいん!!!? いた!!」

電流がわたしの身体を流れた気がした。思わず憂から飛びのく。その拍子にベットから落ちた。

唯「はぁっはぁっはぁっ!」

息を吸うのもままならないので、呼吸が整うのを待った。

幸い憂は起きなかった。毛布はなんとか憂にかかっている。

冷たい床に大の字になった。
人差し指で自分の唇を優しくさする。さっきまで……憂の唇がふれてたんだよね…

唯「~~!」

再び心臓が高鳴る。自然に両手がほてる顔を覆う。身体が勝手に縮こまり床をごろごろと転げまわった。

ようやく落ち着いた。
するとクールダウンした頭が私に事実を伝えた。

唯「わたし……恋してたんだ…」

女の子に。妹に。それはあってはならない恋。
それを確認するように、体を起こして憂の横顔を見た。
視線が自然に唇に向かう。私の頭から湯気が出てる気がした。


とにかくもう寝よう、こんなんじゃ体がもたない。
疲れた体というより心にむちうってなんとか立ち上がる。
その時ひんやりした感覚がお股からあった。
私は軽く右手でそこを押さえてみた。

あれ、おしっこ漏らしてる…。

ふれた部分から水気が伝わった。仕方ないから音をたてないように引き出しからパンツを取り替えて、湿ったパンツはビニール袋に入れて隠した。パジャマは…あきらめた。

――不意に浴室を叩く音がした。

憂「お風呂入りすぎ! はやく上がって!」

わしゃわしゃわしゃわしゃ。


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||||||||||||||||||||||||||||||||||AT MIDNIGHT|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ねれない……。
久しぶりに一人になった真っ暗な自分の部屋で、私は床の上にうずくまっていた。

憂。憂。うい。「うい」

一日中頭から憂のことが離れなかった。

今日はいつにもまして憂を気にしてしまった。朝のキスのおかげ……せいだ。
興奮した。あのクリスマスの夜とおんなじだ。思い出すとまた身体が火照ってきた。

不意にあの日の憂の泣き声が再生された。記憶同士が密接に繋がってるからかな。

唯「心配掛けちゃったね…」

独り言を漏らした。


――恋を自覚した夜が過ぎた私は、憂と普段通りのやりとりができなかった。

……憂の料理中では

唯「……」ジー

憂「~♪」クルッ

唯「!」

憂「?」

憂「ふふっもうちょっと待ってね」

唯「ぁぅ…」

憂「?」

……部屋で下着姿の憂を目撃した時

唯「うい~遊ぼ…」

憂「ちょっと待ってて、服着させてね」

唯「…しっしつれいしました!!」

憂「? 階段走っちゃ危ないよ!」

……憂が私の宿題を助けてくれた時なんて

唯「アリガトうい~ぎゅ~」

憂「どういたしまして♪」

唯「ん~……ん? ひぇっ!!? 」バッ

憂「えっえっ?? なんで急に離れちゃうの? 」

唯「ううんなんでもない!」

憂「? 顔赤いよ? 風邪? ちょっとおでこだして」

唯「ほっほんとになんでもないの!!」

憂「おねえちゃん……?」

……憂にさんざん不信がられてきた。


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最終更新:2011年10月06日 23:51