――それから一週間――

紬「……」タンタングルグル

律「……」タタタン

梓「ムギ先輩も律先輩も、すごいですね。あっという間に上達してます」

唯「私だって上手になったんだよ? あずにゃんが教えてくれたおかげだね」

梓「そんなことありませんよ。まさかリュウでPP4000を超えられるなんて思いませんでした」

唯「そうかな? PP5000オーバーのあずにゃんはもっとすごいじゃん」

梓「まあユンですから。基本的に不利キャラはいませんし、なにより簡単です」

さわ子「そうね。私のフェイロンよりもずっとコンボも簡単で、セットプレイも豊富だから」

梓「フェイロン使いがそれ言いますか……」

紬「うーん……きついなー」

律「やっぱりセスザンギはザンギきつすぎるよな。……まあ、それでも10本中3はとられてるけど」

澪「律はコンボミスが多すぎるんだよ。それに攻めが単純で、逆二択になってる」

律「そうかもなー。よし澪、ちょっとやろうぜ」

紬「私もちょっと疲れちゃったから、澪ちゃんに代わってほしいかな」

梓「なにより澪先輩ですよ。サクラのコンボをすぐにできるようになっちゃったんですから」

さわ子「春風ループはかなりのものよね。澪ちゃんがミスしてるところ、殆ど見てないもの」

唯「空中春風がうますぎて、対空もしにくいんだよね。ほら、りっちゃんの昇龍がまたからぶってる」

澪「律は反応はいいよ。でもさ、釣り行動にももれなく釣られてるぞ」

律「確かにそうなんだけど、釣りかどうか見てたら遅れちゃうだろ」

梓「律先輩はセス使ってるんですから、リスキーな行動は控えるべきですよ。体力少ないんですから」

律「そっか……ちょっと立ち回り考え直した方がいいかな」

梓「ですね」

唯「あずにゃん、本当に教えるのうまいね~」

梓「そうですか? ありがとうございます」

律「……うーん」

澪「律?」

律「私、セスやめる!」

梓「え?」

律「だって向いてないんだもん! こんなキャラつまらん!」

澪「なんてやつだ……」

梓「律先輩、ダンとかどうですか? 合ってますよ。キャラ的にも色々と」

律「どういう意味だぁーーーー!!!!」

唯「りっちゃん落ちついてー」

律「これが落ちついていられるかってんだ! キャラ変えだ! 見つけるぞ! 私のキャラを!」

紬「りっちゃん……」

律「じゃあな!」

ドア「バタン」

さわ子「……いつかセスにキレるとは思ってたけど、案外早かったわね」

梓「でも、律先輩に合うキャラなんているんでしょうか」

唯「どうなんだろうね」

澪「……」



――田井中宅――

律「私だけのキャラクターを見つけるぞ!」

律「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」

律「まずはケンだあああああああああああああああ!!!! ちげええええええ!!!! こいつは私に
合わねえええええ!!!!」

ドア「がちゃ」

聡「姉ちゃんうるさいよ……」

律「ちょうどいい! 聡、こっちにこい! 私に付き合え!」

聡「姉ちゃん、セスに決めたんじゃないの?」

律「合ってない。だから変える。それ以外に理由はあるか?」

聡「ないけど……。とりあえず対戦してみる?」

律「うむ。……あれ? お前コーディにしたんだ」

聡「小足が早くて長いからさ。ちょっと重いけど技も揃ってるから使いやすいよ」

律「でも切り返しがゾンクくらいしかないから、守りが弱いよな」

聡「その辺はガードアンドグラップだよ」

律「ないわ」

聡「なくはないよ。基本だよ?」

律「その基本っていうのがなー。こうなんというか……こかして、そっから一方的に倒せるキャラとかいないかな」

聡「いるわけないだろ……馬鹿か姉ちゃん」

律「うーん……。あれ?」

聡「どうしたの?」

律「こいつ、けっこうすごくない? 投げると……ほら、二択になる」

聡「ホントだ……でも、これって見てからなんとかできない?」

律「いや、多分無理だろ。私も、これを見てからガードするのは出来ないと思う」

聡「それだったら、このキャラやばいよ。起き攻めが色んなところからかけられるじゃん」

律「大足、投げ……エトセトラ、エトセトラ……」

聡「これはすごいよ……姉ちゃん」

律「フーファッハッハッハッハ!!!!! 待ってろ中野! 私はこいつでおまえをぶったおしてやるぜえ!」



――夜・平沢宅――

唯「……」タンタン

憂「ねえお姉ちゃん。今日はなにが食べたい?」

唯「……」

憂「ハンバーグ? わかったー。美味しいハンバーグ作ってあげるから待っててね」

唯「……」バチバチ

憂「もうお姉ちゃんったら、褒めてもなにもでないよー」

唯「……ふぅ」パチ

憂「お姉ちゃんったら……」

唯「……あ、憂、どうしたの?」

憂「ううん。もういいよ」

唯「そっか。ならよかったよ」

憂(……)

憂(お姉ちゃん、画面の向こうの人ばかり気にして、私なんてどうでもいいのかな。……ううん。そんなことない。
お姉ちゃんはゲームにハマってるだけだもん。私は妹なんだから、どうでもいいわけないよね。でも、でも――)

憂(――そうだ。私も、私もがんばればいいんだ。そうすれば、お姉ちゃんは私を見てくれるんだ――!)



――次の日・部室――

唯「あずにゃん、ベガってどうすればいいんだろ」

梓「ベガですか。……リュウなら、屈中Pでダブニーをどこまで落とせるかですね。結構きついんじゃないで
すか?」

唯「そうなんだー。昨日も負けちゃって……」

梓「そうですか。ただ、無理ってほどキャラ差はないんで、がんばってください」

唯「うん!」

澪「律、遅いな」

紬「今日も教室でずっとにやにやしてて、正直言って気持ち悪かったね」

澪「あの雰囲気だから、きっとマイキャラを見つけたんだろうけど、あれはちょっとな」

唯「なんか、あずにゃんを倒すことが今日の使命とか言ってたよ」

梓「そうなんですか。まあ、大丈夫ですよ。律先輩には負けませんから」

律「その言葉、忘れるなよ中野ォ!」

梓「!?」

律「梓! 準備しろ! 10本先取でいくぞ!」

梓「……」

律「お前は相変わらずユンか! 強キャラ使いは感心しないぜ!」

梓「そういう律先輩だって……」

豪鬼「うぬが修羅――見せてみよ!」

梓「思いっきり強キャラじゃないですか」

律「うるさい! 昨日私が発見した起き攻め! りっちゃんスタイルを見よ!」

パシュン

パシュン

パシュン

律「あれ? あれ?」

梓「露骨な投げですね。グラップは基本ですよ?」

律「ムム……」

ガっ

ガッ

梓「今度は大足ですか。……わかってるんですよ。律先輩。なにを狙っているのか。なにをしたいのか。
――そう。律先輩はただ、莫迦みたいにときど式を狙ってるだけなんですよ」

澪「ときど式か……それをよくもりっちゃんスタイルだなんて言えたものだな」

律「え? なにそれ? ときど式?」

梓「プロゲーマーときどが考えた豪鬼の起き攻めですよ。めくり竜巻からの大足を代表とする、表裏二択やリ
バサ昇龍を空かす飛び込みで、一躍豪鬼を最強キャラに押し上げたセットプレイです」

律「もしかして、私のこれって既出?」

梓「はい」

律「……おいおい」

唯「落ち込まないでりっちゃん! パクったんじゃなくて偶然だよ! 偶然ならりっちゃんスタイルだよ!」

律「アーティストにそんなものはない……」

澪「3週間練習してないやつがアーティストとかなにを言ってるんだ」

梓「それに、豪鬼はリュウやケンと同じで基本がなってないと安定して勝てませんよ?」

律「またぶつかる基本の壁!」

唯「だから、基本は一番大事なんだよ!」

律「……梓、基本から教えてください」

梓「わかりました。……それじゃあ、今週末はうちに泊まり込みでがんばりましょう」にこっ

律「へ、へい……」



――中野宅――

梓「入って、どうぞ」

律「おじゃましまーす。って、あれ? 梓、今日親いないの?」

梓「けっこう色んなところに行ってるんで、唯先輩の家じゃないですけど、うちも家を空けてることが多いんです
よ。――と、まあそんなことはどうでもいいんで、早速やりますか」

律「えー、お腹減ったー」グー

梓「なに言ってるんですか! 今日はスパ4合宿なんですよ? ご飯食べてる時間があれば波動コマンドを
入力し、トイレに行く時間があれば昇龍を擦ってください!」

律「そんな~」

梓「それじゃあ始めますよ! スイッチオンです!」

ぐ~

梓「……」カァァ

梓「ご、ご飯にしましょう! 腹が減っては戦はできません!」

律「はは……」

梓「さあ律先輩! ご飯を作ってください! 私は練習してますから!」

律「普通逆だろ!」

律「全く……しかたのない後輩だぜ」

梓「お願いします。私は料理は不得手なもので」

ユン「俺の渾身の一撃!」

律「そのキャラ料理人だろうに……」

梓「あ、私竜田揚げ食べたいです。冷蔵庫に材料はあると思うんで自由に使ってください」

律「これはまた面倒くさいものを……まあ、いいけどさ」

梓「――」タンタンタン

律「……」

梓(な、なんか新婚さんみたい)

律(梓、やっぱりコンボ上手いな。練習してるんだろうな)

梓(前々から思ってたんだけど、律先輩って意外に家庭的だよね。いいお嫁さんになりそう)

梓(それに、よく見ると可愛いしいい匂いするしで、おまけにかっこいいし……)

梓(私、律先輩だったら……アリかな……)

律「おーいあずさー。味噌はどこにあるんだー?」

梓「にゃっ!? いきなり話しかけないでください! 味噌ならそこの棚にあります!」

梓「まったく……」

梓(律先輩、台所が似合ってるな……お婿さんかなと思ってたけど、やっぱり律先輩はお嫁さんタイプだよ!)

梓「……」

律「できたぞー。早く手洗ってきな」

梓「は、早いですね」

律「そうでもないぞ。梓の集中力のせいじゃない? どうだ? 美味しそうだろ」にかっ

梓「……!」タタタっ

律「……なんだあいつ」

梓「……心臓が、ジャンプしたかと思った。あの笑顔は反則だよ」

水道「じゃー」

梓「本当に、ひまわりみたいな人だな。あんな人と一緒に暮らしてたら、私も明るくなれるかな」

梓「……7時か。食べて、お風呂入って、9時くらいから練習出来るよね」


律「ごちそうさまでした」

梓「ごちそうさまでした。あの、すごく美味しかったです」

律「そうか? だったらよかった。りっちゃん特製竜田揚げ、苦労したんだぞー」

梓「えへへ。誰かといっしょに晩御飯食べたのが久しぶりだったんで、なんだか楽しいです」

律「たしかに、誰かと食べたほうがご飯も美味しいよな。なんだったら、毎日だって作ってやるぞ!」なでなで

梓「うー、撫でないでください」

律「おっとっと」

梓「それより、お風呂沸きましたから、お先にどうぞ!」ぷいっ

律「一番風呂貰っていいのか。それはありがたい」

梓「洗い物くらいは私がやっておきますから、どうぞ律先輩はゆっくりと浸かっていてください」

律「いいよ。洗い物も私がやるよ。今日は私が弟子なんだから」

梓「いいんです! 私がやりたいんです!」

律「……そっか。それなら、遠慮なく入らせてもらうよ。あ、そうだ。覗くなよ?」いそいそ

梓「覗きません!」


律「ふんふーんふーん(鼻歌)」

律「人の家の風呂って、なんか変な感じだな」ざばぁ

律「シャンプーはどれを使えばいいんだ? これか?」

律「うおっ! エレガンスなシャンプーだな。これは私にはいささか早い」

律「梓はどれを使ってるんだ?」

梓『一番右のやつです』

律「うひゃあ!」ずてん

梓『洗濯物も私が洗っておきますから、くつろいでくださいね』

律「お、おう」

律(覗いてるのかと思った……。梓ってあっち系っぽい雰囲気があるからな)

梓『それじゃあ、着替え置いておきますね』

律「サンキューな」

律(……結構マジでびびったぞ)


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最終更新:2011年10月11日 09:57