幸か不幸か、また彼女と同じクラスになる。

「やったな!」と喜ぶ彼女を見て、複雑な気持ちだった。

ちょうど3年前の、あの時のようには喜べない。

嬉しいけど…辛い。

また彼女に一喜一憂する毎日が続く気がした。

出来るだけ、自分の足で歩こう。

自分で考えて、自分で選ぼう。

いつまでも彼女に依存しててはいけない。


中学の頃、部活には入っていなかった。

高校では、あえて何かに打ち込んでみよう。

彼女以外に何かを見つけなくては。

そう思って、文芸部に入ることにした。

本は好きだし、ものを書くことにも興味があった。

何より、彼女はそれらに興味がない。

彼女と距離を取るには絶好の場だ。


それなのに、彼女はわたしの方へ駆けてくる。

そしてまた腕を引いて走る。

わたしはまたそれを拒めないんだ。


文芸部への入部希望用紙は破られた。


彼女が入部を希望した軽音部は、廃部寸前。

それが彼女を

「このまま行けばわたしが部長」

という更なる期待へ駆り立てた。

「どうするの?」

「入部希望者を待つ!」

「…待つの?」

「待つ!」


「…帰ろっか」


入部希望者は来なかった。

代わりに、合唱部への入部希望者が訪ねてきた。

強引に勧誘する彼女に呆れ、帰ろうとする。

すると彼女は思い出話を始めた。

…わたしの記憶にないことも。


「捏造すんな!」

「…何だか楽しそうですね」


「キーボードくらいしか出来ませんけど、わたしで良ければ入部させてください」

そうして入部を決めたのが、ムギ。


「ありがとう!これであと一人入部すれば…」

わたしも…人数に入ってる。

その後1週間、入部希望者は現れない。

軽音部らしい活動はほとんどしなかったが、3人で過ごすのは楽しかった。

何よりこんなにやる気になってる彼女を見ると、見放せないわたしが居た。

友達として、彼女を応援しよう。

そう思った。

すると、タイミングよく入部希望者が訪れる。

それが唯。


なのに、入部を止めると言う唯。

必死で引き止めたのは、彼女もムギも、わたしも一緒だった。

演奏だけでも。

その言葉に食いついて、そのまま唯は入部を決めた。

これで4人揃った。

彼女の、わたしたちの軽音部のスタートだ。


唯のギターを買うためにしたバイト。

ほとんど遊んだ合宿。

初ライブにしてトラウマになった学祭ライブ。

クリスマスもトラウマを残して、唯の家で年明け。

一年があっという間だった。


部活動と言うよりは、遊んでばかり。

部長と唯はすぐにだらけるし、ムギはああ見えて意外とおてんば。

何故かわたしが、必死で4人をまとめようとしていた。

入学当初の意気込みは、気付けば消えていた。

彼女への思いも消えることはなかったが、段々収まりかけていた。

いつの間にか、居心地のいい場所を見つけた。


2年に上がり、4人の中でわたしだけ別クラスになった。

唯とムギを連れて階段を上がっていく彼女。

「寂しい…」と囁いてみたものの、少しホッとしていた。

不安もあったが、同じクラスには和が居た。

人見知りのわたしでも、すぐに打ち解けることが出来た。

なるべくこの穏やかなまま、楽しい高校生活を終えたかった。


新歓ライブも成功し、1人ではあるけど入部希望者が現れる。

それが梓。

5人になっても相変わらずの軽音部だった。


2度目の学祭ライブ。

梓のテンションはいつも以上だった。

ふわふわ時間を鼻歌で歌ったり、「楽しみ」って顔に書いてある感じ。

仕方ない、梓にとっては軽音部初めての舞台だから。

他のメンバーも、いつもよりは少なからずはりきっていたと思う。

1年の時のライブDVDを見せられてしまい、わたしの意識は遠のいた。

そんな時、和が部室に現れた。

「去年にもこんなことがあったな…」

そう言って彼女を一発殴った。

講堂の使用申請書は出されてなかった。

バンド名が何か、で揉めたりしてる間に、和が去ろうとする。

「じゃあ書類、後で生徒会室に持ってきてね」


唯は立ち上がって和に声を掛けた。


「たまには帰りにお茶しようよ」

「わかった、後でメールする」


その後、唯がギターの調子が悪いと言い出した。

帰りに、みんなで楽器屋に行くことになる。

「じゃあわたし、ここで待ってるから…」

「澪、レフティフェアやってるよ?」

ずらりと並んだ左利き用ベースが目に入る。

おもちゃを見つけた子どもの様に、その場から動けなくなった。

ギターの調整も終わってもそれは続いて、そんなわたしを律が引っ張る。

聞き分けのない子どもを諭すように。


するとわたしは、バランスを崩して尻もちをついてしまった。


悪いのはわたしだった。

なのにわたしは謝れなかった。


「バカ律」

そう言うと、律は少し驚いたように固まった。


唯が和と約束がある、というから着いて行った。

3人でおしゃれなカフェに入って話していると、彼女が急に現れた。

「うちの澪がいつもお世話になってまーす」

「ちょっと律…」

「なに?何かやなの?」

そんなことを言って、会話に割り込んでくる。

困惑するわたしと和。

ムギと梓も離れた席に居て、困った様子でこちらを見ている。

唯は目の前のものに夢中になってる。

…それでも彼女は構わず、そのまま1人話し続けた。



次の日の昼休み。

和とお弁当を開いていると、また彼女が現れた。


「これから学園祭までは、昼休みも練習するから」

お弁当も直す暇も与えてはくれない。

強引に引っ張られ、部室に向かう。

その間、お互い一言も言葉を発しなかった。


部室に着くと他のみんなが居て、楽器の調整をしていた。

きっと急に彼女から呼び出されたのだろう。

いつも以上にちょっかいを掛けてくるから、イライラしてしまう。


「練習するんだろ?」

「するよ~」


「もう教室戻るぞ!」

「ふーん、戻れば?悪かったよ、せっかくの和との楽しいランチタイムを邪魔してさ」


「和」という言葉に力を込める。

どうやらそこが気に入らないらしい。


ムギと梓が場を和ませようとした。

重い空気をまとったまま、練習に入った。


なのに、彼女のドラムは「彼女」らしさがなかった。

リズムは完璧だし、うまく力が抜けてる。

なのにどことなく、「良さ」を感じないものだった。

「調子が出ない」と言い残し、彼女は部室を出て行った。


次の日も、その次の日も部室に来なかった。

部室はおろか、朝も待ち合わせの時刻に現れない。

何の連絡もなかった。

「練習しよう」

そう言ったものの、不安は隠せない。

さわ子先生は、代わりを探すことを提案した。


「りっちゃんの代わりはいません!」

ムギは少し震えながら言った。

その通りだ。

わたしが一番思っているはず。

…彼女の代わりなんて、居ない。



2-2を覗いてみると、ちょうど唯とムギがこちらにやってきた。

変に取り繕おうとしているわたしを見て、2人がこう言った。


「りっちゃんね」

「学校休んでるの」


放課後、律の家を訪ねた。

昔から何度も上った階段を上がりきると、ドアの向こうから彼女の声が聞こえた。


「みーおー?」

「超能力者か」

「わかるよ、澪の足音は」


ベッドで横になる彼女。

そこにもたれ掛かるわたし。

カーテンが閉まっていて、薄暗い。

テーブルには風邪薬と、ドラムスティックに教則本。

何となく落ち着くこの部屋。

普段なら、照れくさくて言えないようなことも言った。

すると彼女は目を潤ませて、笑った。

「寝るまでそばに居てよ」

そう言ってわたしに甘える。

今度は彼女が、聞き分けのない子どもだった。

「やれやれ」と笑って、ベッドに腰掛ける。

まだ熱があるという彼女の手は暖かい。


手を繋ぎながら、また少し話をした。

少し和にヤキモチを妬いたと彼女は言った。

澪が誰かに取られる気がした、と。

恥ずかしがることもせず。


「だって澪は、特別な友達だからな」


…そんなこと言うの、ずるいよ。

本当に色んな話をしたのに、

わたしたちはお互い、昔の話だけは避けていた気がする。


少しの沈黙。


「わたし、まだ律のこと…」

言いかけてやめた。

彼女が寝息を立てていたから。

寝息を立てていなかったら…いや、それでもやめてたのかな。

1人ぼーっと、昔を思い出していた。

幸せだったあの頃。

1つ1つ、思い出す度に胸がキュンとした。

彼女の手を少し強めに握りなおした。


軽音部のメンバーが来ても、手は握ったままだった。

茶化すように言った、あの男子の言葉を思い出す。

それでも、この手を離そうとは思わなかった。


やっぱり、まだ諦めきれないよ。

気持ちも消せないし、思い出も大切なんだ。

昔みたいに、好きって言いたい。

その上で、ちゃんと断ってくれるなら諦める。

思い出も、捨てるから。

でも、見ないフリを続けて、友達でいるなんて。

それならいっそうのこと、もっと遠くに行って。

『親友』なんて言葉使って、届きそうで届かない場所にいないでよ。

いくら『特別』でも、友達じゃ嫌だよ。


段々と寒くなっていく。

わたしの思いの方は、どんどん元に戻っていく感じ。

どんなに思っても、どうにもならない。

あの頃に戻れるとは思えないし、高校生活も半分を過ぎた。

何か楽しいことがある度、彼女と居れる時間が減ることを憂いだ。


やり場のない思いを、書き起こした。


どんなに寒くても ぼくは幸せ
白い吐息弾ませて 駆けてくきみを見てると

切り揃えた髪が とても似合ってる
でも前髪を下した きみの姿も見てみたい


わたしが男だったら、なんて思って『ぼく』と書いてみた。

普段歌詞を書くつもりでも、唯や彼女に邪魔されてなかなか書けない。

でもこれだけはすらすら書けた。

胸の中にある気持ちをただ文字にして、

少し前向きに、言葉を弾ませればいいだけだった。

ムギは明るい曲しか作ろうとしないから、合わせるにはその必要があった。

でも本当の理由は、歌詞の中くらいはこの気持ちを

「うれしい」と言いたかった。


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最終更新:2011年10月15日 01:35