○月○日
昼休み、1組の教室行ったらみおが和と笑ってた。
何か、わたしの知らない人に見えて、あせった。
みおが遠くに行っちゃうような…そんな気がした。
昨日のこと謝って、練習しようってさそいたかっただけなのに、
無理やり和から引きはなして、引っぱって部室に連れて行った。
弁当もまだなのに。
部室にはわたしたち以外も先に来てた。
みんな楽器の調整してるのに、みおにちょっかいかけて、わざとおこらせた。
みおが「帰る」って言うと、「帰れば?」って言ってしまった。
いやみな言い方で、
「和との楽しいランチタイムをジャマして悪かったな」
とも言った。
みおがむちゃくちゃおこった。
みんな困った顔して、結局練習始めても、わたしは途中で教室戻った。
だれに何も言わないで、部活も休んだ。
家帰って、和にみお取られちゃうって思って、泣いた。
みおはわたしの物じゃないのにな。
かぜ引いたっぽい。
○月○日
こんな時期なのに、もう何日も練習してない。
みんなに迷わくかけてるな。
…わたしのヤキモチで。
ほんと最低だよ、わたし。
○月○日
とうとう熱出た。
学校休んで、病院行った。
もう寝る。
…続き。
あれから寝てたら、みおが来た。
足音でみおってわかったら、みおが「超能力者か?」って言った。
みおはおこってない、って言ってくれた。
他のみんなも、おこってないらしい。
…良かった。
帰ろうとするみおを引き止めて、寝るまでそばにいてもらった。
久しぶりに、手をつないだ。
みおの手は冷たかったけど、あったかい気がした。
それから色んな話をした。
みおが和に取られる、って思ったことも、
みおが特別だってことも。
それからみおは何も言わなくて、だんだん眠くなってきた。
ぼーっとなってきた時に、やっとみおが何か言おうとした。
何言おうとしたか何となくわかったけど、寝たフリした。
ちょっと期待したけど、続きは言ってくれなかった。
聞いちゃダメだよな。
突き放したのはわたしなんだから。
起きたら1人だった。
軽音のみんながおみまい来てくれてたみたい。
みんなありがとう。
○月○日
結局講堂なんとかかんとかを提出しなかった。
また和が部室来て、一緒に生徒会長に頭下げてくれた。
みおだけじゃない、和にだってひどいことしたのに。
「ええ人や!」とか言ってごまかしたけど、
本当は謝んなきゃいけない。
唯の幼なじみだし、みおが友だちになる奴だ。
悪い奴なわけないし。
うちのみおをよろしく。
…唯がかぜを引いた。すみません。
○月○日
ライブ、無事?成功!!!
一時はどうなるかと思ったよ…。
まあこれも原因はわたしなんだけどな。
代打・さわちゃんのギターはバッチリだったけど、
やっぱりうちらは5人で1つなんだ、そう思った。
誰か1人欠けてもダメ。
りつ・みお・ゆい・つむぎ・あずさ +さわこ
けいおん 大好きー!
(唯の言葉パクった☆)
○月○日
クラスのギャル軍団が集まって、彼氏の話をしてた。
その輪に入って、唯とムギはキャッキャしてた。
2人のテンションが下がらず、昼休み突入。
昼休みごはん食べてたら恋の話になった。
2人は初恋すらまだらしい。おこちゃま~。
そこからは質問ぜめ。
「初恋はいつ?」
「付き合ったことある?」
「キスは?キスは??」って…テンション上がりすぎだろ。
全部ちゃんと答えた。
初恋は小学生だったし、付き合って…はないけど、
その子とキスしたって。
きゃー!どんな人?
きゃー!りっちゃんおとなー!
きゃー!顔あかーい!
ってさわいで、本当に2人ともうるっせ。
「みおには言うなよ」って言うと、
「みおちゃんも知らないことなの!?」って。
…みおは知りすぎてるくらいだよ。
初恋の相手がどんな人かも、2人ともよく知ってるよ。
○月○日
郵便受けに変な手紙が入ってた。
これ…ラブレターなのかな。
○月○日
あのラブレターもどき、みおが書いた歌詞だった…。
びっくりしたのと、がっかりしたのと…うれしかった。
でも…ダメなんだってば…。
○月○日
生理来た。
別に男に生まれたかったわけじゃないけど、
何で女なんだろうって、来るたび思う。
男に生まれてたらなんか違ったかな。
ちょーはらいてー。
○月○日
「何であの歌詞ダメなの?」
ってみおが聞いてきた。
「何でも」って言うと、「わたしの気持ちだから?」って…。
うれしいよ、すっごく。
うれしいけど…。
「昔のことは忘れろよ」って言った。
みおだけじゃない。
わたしにも、そう言い聞かせなきゃ。
別れるとき、こっち向いてくれなかった。
だんだん小さくなっていくみおを、家にも入らず見てた。
忘れなきゃいけない。
一緒にいるには、友だちじゃなきゃダメなんだ。
日付はどんどん新しくなって、残すは昨日のページになった。
絵だったり、彼女の好きな曲の歌詞だったり、
他のことも確かに書いてあるけど、自分の名前の多さにびっくりした。
わたしの知ってることも、知らないことも、
たくさん、この中に詰まってた。
彼女はただ、わたしを突き放していたわけじゃないんだ。
彼女なりの考えで、それを選んだ。
彼女なりに、わたしと同じように、きっと悩んでた。
苦しんでいるのは、わたしだけじゃなかった。
それなのにわたしは、ただの被害者みたいな顔をして。
解ろうともせず、彼女にあんなことをしてしまった。
休むことも忘れて、ただ字を追った。
足りないものを、1つ1つ埋めていくように。
彼女は昨日のことも書いてるんだろうか。
書いてるとしたら、何を、どんな風に?
不意にページをめくる手が止まる。
ため息をついて、またページを進めた。
…何が書いてあっても、自分の目で確かめよう。
どんな風に責められても、受け止めよう。
○月○日
今日、みおの背中をたくさん見た。
背中って正直だよな。
高校入って、バンド組んで、ずっとみおの背中見てきた。
こんなにかなしそうな背中、初めて見たよ。
「病気なら治るかもしれない」なんて言わせた。
見てられなくて、わたしからはなれていく気がして、
後ろから抱きついた。
もうそんな背中を見なくて済むように。
はなれないで、って思った。
はなれるなら今にして、とも思った。
だから「キライ」って言わせようとした。
わたしは勝手だ。
みおにキスされた。
胸がぎゅーってなった。
キスってこんなかなしいものだったっけ。
昔すぎて忘れちゃった。
向き合っても、やっぱりかなしい顔してた。
みおが出て行った。
本当に、はなれてった。
もう苦しいのも終わるかな。
最後も、背中しか見せてくれなかった。
日記はそこで終わっていた。
ところどころ文字が滲んで、その部分は濡れたように紙質が変わってる。
涙の跡だ。
そのまま閉じたのか、隣のページには何も書いてないのにインクで汚れていた。
そのページを何となく撫でてみた。
すると、少し指に引っかかる。
1ページ開けて、裏に何か書いてあるようだ。
そのページを開いてみる。
澪へ
ここまで読んでくれてありがとう。
一緒に居てくれてありがとう。
今までありがとう。
それから…ごめんなさい。
何回お礼言って、何回謝っても足りないくらい、ずっと澪は一緒に居てくれた。
澪が言おうとした言葉は、きっと一番聞きたい言葉だった。
なのに、聞けば終わるって思ってた。
だから「キライ」って言わせようとした。
結局あんな形だったけど、聞いた瞬間、少しホッとしたんだ。
もう、苦しいのも終わるんだって。
なのに呼び止めてた。
それが何になるかなんて、聞かれてもわかんなかったよ。
澪が離れて行って、追いかけてもこっち見てくれなくて、
楽になるどころか、からっぽになった。
もっと苦しくて、悲しくて、心のどっかを失くしたみたいだった。
おもちゃ取り上げられた子どもみたいに泣いた。
情けないって思っても、止まらなかった。
澪を守らなきゃって思ってやってたことが、
結局は自分しか守れてなかった。
澪を理由にして、それが正しいって思い込んでた。
結局、自分が逃げるのに必死だった。
自分勝手に振り回して、たくさん傷つけて、本当にごめん。
澪のことになると、わたしはいつも自分勝手になる。
忘れろって澪に言って、自分に言い聞かせてたんだ。
思い出を捨てられなかったのは、わたしだった。
澪にはわたしが居ないと心配、とか思ってたけど、
こんなわたしにこそ、澪が必要だったんだ。
終わる、って思った。
終わった、って思った。
なのに、終わらせたくないって思ってる自分がいる。
自分で手放して、また求めて、本当に勝手だよな。
顔も見たくないってわかってる。
それでも、わたしはやっぱり自分勝手だから、
澪に会いたい。
今日17時、公園で待ってる。
最終更新:2011年10月15日 01:43