番外編「冬の日」



その日は朝から雪が降っていた。

お正月、クリスマス、冬休みなどのイベントも終わり、

その雰囲気を引きづった、ふわふわした空気が学校内に充満している。

授業を終えて、相変わらずのこの部室。

わたしたち5人はいつものように、ムギの紅茶で冷えた体を温める。

律「ふー、温まるな」

唯「やっぱこれだね!」

梓「これ飲んだら練習しますからね!」

紬「ふふ、今日のおやつはマドレーヌよ~」

唯「マドレーヌ大好き~」

梓「…もう」

澪「でも本当に寒いな、指がかじかむ」

唯「ほら、あずにゃんの手も冷たいよ」

梓「さりげなくこっちに来ないで下さい、で離して下さい」

唯「冷たいのは手だけじゃないね…」

律「お前らほんと仲良いな」

唯「えへへ」

梓「えへへじゃないです」

紬「そういうお二人はどうなの~?」

澪「へ?」

唯「とぼけちゃって~」

梓「デ、デートとかしないんですか?」

律「あー…」

澪「デート…」

律「澪…デートする?」

唯「え、まだしてないの?」

澪「えっと…」

律「昨日、学校帰り…」

紬「制服デートね!?」

唯「青春ってやつだね!」

澪「…コンビニ行っただけだ」

唯「それだけなの!?」

澪「律がお腹すいたって言うから肉まん買って、あ、でも律は金欠で」

律「澪の肉まん半分もらって、『うまいなー』って」

梓「うわー…」

唯「かっこわるーい」

紬「りっちゃんにはガッカリよ…」

律「まあ、それは否定出来ない…」

唯「うーん…それ以外は?」

律「んー」

澪「特には…」

梓「そんなの変です!お二人は付き合ってるんですよね!?」

唯「結婚式は済ませたんだもん、むしろ夫婦だよ!」

律「いや…普段から一緒だし、な?」

紬「な?ってわたしたちに言われても…」

澪「…特別どっか行こう、とはまだなってなかったかな」

唯「…そんなだから和ちゃんに嫉妬しなきゃいけないんだよ」

律「何だと!?」

梓「そうですよ」

律「梓まで!?」

紬「女の顔してたわね、あの時のりっちゃん」

律「わたしは女だ!」

唯「ほら澪ちゃん、黙ってないで何か言わなきゃ!」

澪「…律とデート、したいな」

紬「…きゅん」

唯「…きゅん」

梓「…きゅん、です」

律「まあこの話は後でゆっくりな、澪」

澪「…うん」

律「梓!練習するぞー!」

梓「都合悪くなったらそれですか…」

澪「…そうだな、体も温まったことだし」

唯「澪ちゃんまで!」

紬「まあまあまあまあまあまあ」

唯「6回!」


2、3曲合わせただけで、その日の練習は終了。

どんどん冷えていく部室。

それに耐えられなくなった5人は、薄暗い廊下に出た。


わたしはムギと梓と並んで、彼女は唯と並んで前を歩く。

唯は彼女に耳打ちをする。

何を話しているのかは聞こえなかったが、

彼女は首をかしげたり、唯を小突いたり。


その様子から、話の内容はきっと…今日話題になったあのことだろうと思った。


ここ最近みんなで居るとき、わたしたちが並ぶことは少なくなった。

寂しい気もする反面、お互い意識してのことだから少し嬉しくもあった。


彼女は時々こちらを振り返る。

わたしと目が合うと慌てて前を向く。

次は唯も振り返り、こちらに笑いかけ、また前を向く。

唯に釣られて、笑いそうになるのを堪えた。

隣のムギと梓はお構いなしに、目と目を合わせて笑っていた。

ムギと別れ、唯と梓とも別れ、2人きりになった。

会話も特になく、ただただ歩いた。

少し前を歩いてた彼女が急に立ち止まる。


律「澪、明日時間あるか?」

澪「…デート?」

律「土曜だしな、出掛けよっか」

澪「デートなのか?」

律「…そうだよ!好きあってる2人が出掛けるならデートだろ!」

澪「律、ちょっとちょっと」

律「何だ?」


そう言って、彼女の頬に触れてみた。

寒さもあるだろうけれど、異様に熱を持っている。


澪「…あったか、照れてるんだな」

律「うるっせ…」

澪「でも、どこ行くの?」

律「お金ないから、ただブラブラになるだろうけど…」

澪「お昼ぐらいなら出すぞ?」

律「だめだ!」

澪「昨日肉まん食べたくせに」

律「…くそっ」

澪「大体なんで金欠なんだ?お年玉いっぱいって自慢してただろ?」

律「ああ…まあな、色々」

澪「考えて遣えよな」

律「いや、こんないい金の遣い方はしたことないね」

澪「何買ったんだ?」

律「それはー…まあ、いいだろ」

澪「そう、言いたくないならいいけど…」

律「とにかく!お金かからず遊べる方法考えるから!」

澪「うん、わかった」

律「よし、そういうことで」

澪「なあ律」

律「ん?」

澪「…楽しみに、してる!」

律「おう、任しとけ」

澪「律は?」

律「何がだ?」

澪「楽しみ?」

律「もう…決まりきったこと言わせんな!」

澪「少しくらい言ってくれたっていいだろ…」

律「…超楽しみだよ」


そう言って彼女はわたしの手を取った。

特に話すこともなく、心地良い沈黙のまま家路を歩いた。


夕飯とお風呂を済まし、宿題も片付けた。

後はベッドに入るだけ。

そんなとき、携帯から聞き慣れた着信音が流れた。


澪「もしもし」

律「起きてた?」

澪「んー、そろそろ寝ようと思ってたところ」

律「あーごめんごめん」

澪「大丈夫、どうした?」

律「明日のことなんだけどさ」

澪「決まった?」

律「明日4時頃にうちに来て」

澪「4時?そんな時間から遊ぶのか?」

律「うん、わたしが夕飯作るからさ、一緒に食べよう」

澪「ふふ、わかった」

律「あと明日は泊まりな、おばさんに言っておけよ」

澪「え…泊まり?」

律「久しぶりだろ、まずいか?」

澪「いや、いいけど」

律「大丈夫、みんな親戚んち行ってわたししかいないからさ」

澪「あ、うん…」

律「…襲わねーよ、安心しろ」

澪「わ、わかってる!」

律「…なら決まりな!」

澪「でも、律も親戚の家行かなくていいのか?」

律「澪と約束あるからって断った」

澪「そうか、悪いな」

律「あと温かくして来いよ、出掛けるから」

澪「ご飯の後?」

律「うん」

澪「どこに?」

律「まだ内緒!じゃあゆっくり寝ろよ!」

澪「…ん、おやすみ」

律「おやすみ~」

澪「…」

律「…」

澪「…えっと」

律「…早く切れよ」

澪「律だって」


そんなやり取りが数分続いて、やっと切れた電話。

握り締めた携帯を見つめ、余韻に浸る。

それが終わったのは、やがて暗くなったディスプレイに自分が映った時だった。


「早く寝なきゃ」

わざと口に出して、ベッドに入る。

そう意気込んだくせに、なかなか寝付けない。

暗い部屋の中で、何度も寝返りを打った。

意識が薄れていく度に、明日のことを考えてしまう。

律と2人で遊ぶのは、当然初めてじゃない。

なのにこんなにドキドキして、顔も熱くなって。


誰が見ているわけでもないのに、隠すように深く布団へ潜り込んだ。




明るくなった部屋で目を覚ます。

目覚ましはかけていない。

なのに、いつもと変わらない時間に起きてしまった。

朝食をとって、シャワーを浴びて。


からかわれる、とはわかってるけど、おしゃれして行こうかと思った。

買ったはいいが、なかなか着れないでいるワンピースを引っ張り出す。

姿見の前で、ワンピースを肩にあててみる。

「うーん…」

可愛い、って言ってくれるかな。

気合入れすぎ、って笑われるかな。

鏡の前で、何度も表情と角度を変えた。

すると、その姿を見ているように彼女からのメールが入る。


From 律

「防寒具一式持ってくるように!
 あと言い忘れてたけど、今日はスカートやめた方がいいぞ~」


…超能力者か。

いつか言った言葉を口にして、ワンピースをクローゼットへ戻した。


そわそわと時計を何度確認しても、さほど時間は経っていない。

ため息をいくつもついて、時間が経つのを待った。


いてもたってもいられなくなったわたしは、結局いつもと同じような格好で外に出た。


冷たい風がこちらに枯葉を運ぶ。

それを少し蹴飛ばしたりしながら、冬の空気を楽しんだ。

寒さに負けず走り回る小学生や、まるでこちらに興味ない野良猫。

いつも目にするものだったけど、何だか今日は違って見えた。


行き先も決めずに歩いていると、近くの河原に着いた。

自販機でココアを買って、草野球をぼーっと観戦しながら過ごした。


そろそろ陽も西の方へに傾いてきた。

時間を確認すると、そろそろいい時間になっている。

冷えたココアの缶を捨て、彼女の家に向かった。

インターホンを鳴らすと、応答することもなくバタバタとした足音が近づいてくる!


律「いらっしゃい!」

澪「ああ、お邪魔するよ」

律「お昼いつ食べた?」



澪「朝しか食べてないぞ」

律「お腹空いてる?」

澪「ううん、大丈夫」

律「よかった、まあすぐ用意するからさ」


澪「わたしも手伝うよ」

律「いいよ、お客さんなんだから」

澪「でも待ってる間暇だし…」

律「マンガでも読んでろ」

澪「…律と一緒にキッチン立ちたいなー、なんて」

律「あー、はいはい」


待ってろ、そう言って彼女はその場を離れた。

戻ってきた手には、エプロンが握られてあった。


律「ほら」

澪「え、いいよ」

律「服汚すぞ?」

澪「そんなに不器用じゃないぞ?」

律「でもほら」

澪「何だよ」

律「…エプロン姿、見たいし?」

澪「…もう」


「仕方ないな」

わざとそう言いたげに、彼女の手からエプロンを手に取った。


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最終更新:2011年10月15日 23:24