梓「じゃぁ……じゃ~んけ~んポン」グー

律「ポン!」パー

梓「あ……」

律「いょし!」グッ

梓「う~」

律「言いだしっぺが負けてちゃ世話ないな」ニヤニヤ

梓「仕方ないですね、負けは負けです」

律「そうだな……じゃあどうしようかな~」

梓「簡単なお願いにして下さいよ」

律「オッケー。じゃあ『他の誰かが来るまで梓は私にタメ口』で!」

梓「……何ですかそれ?」

律「だって梓いっつもビシッとしてて敬語でつまんないんだもん」

梓「つまんないって……」

律「憂ちゃんとか代々木さんとかと居る時はダラっとしてる癖にさ~」

梓「代々木って……純の事ですか?まぁそれは友達ですし」

律「ヒドイわ!?私達は友達じゃ無いって言うのね!?」キーッ

梓「いや、先輩後輩じゃないですか……」ハァ

律「そうゆうのじゃなくてさ~、同じ軽音部の仲間だろ~?」

梓「そりゃそうでしょうけど」

律「もっとこうさ~、フレンドリーにさ~」

梓「今でも十分仲良くして戴いてると思ってますけど」

律「まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ」

梓「まぁが多いですよ……」

律「誰か来るまでで良いしさ。お遊びだろ?」

梓「そう言われましても……」

律「仲良くしようよぉ~」ユサユサ

梓「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど~」ユラユラ

律「ダメ?」

梓「出来れば別のお願いの方が」

律「だったら『今日一日ネコミミ装着』とどっちが良い?」ニヤリ

梓「なっ!?」

律「それだって『損得の無い簡単なお願い』だろ?」

梓「え~……私損じゃないですか?ソレ」

律「私はどっちでも良いぞぉ?」ニヤニヤ

梓「……前者でお願いします」

律「……します?」

梓「……お願い」

律「よろしい」

梓「ハァ……で?」

律「ん?」

梓「いや、じゃあもう、諦めてそうするけど」

律「おっ!良い感じ良い感じ」

梓「何か無いの?」

律「何かって?」

梓「話題。喋らないと意味無いじゃん」

律「……あぁ」ポンッ

梓「何か話振ってよ」

律「そうだな~……う~ん」

梓「……律っていつも行き当りバッタリだよね」

律「うぐぅ」

梓「このまま二人ともダンマリじゃジャンケンした意味すら無いじゃない」

律「ごもっともです……」

梓「そんなんで大学行けるの?」

律「行けるよ!頑張ってるよ!」

梓「ちゃんと勉強してる?」

律「もちろん!」

梓「本当に?」

律「そりゃもう!」

梓「じゃあ6+2×4=?」

律「……えっ、算数!?」

梓「いくつ?」

律「え~っと……8で……だから……」モジモジ

梓「うんうん」

律「14!」ビシッ

梓「え」

律「え?あ、合ってま、すよね?」

梓「律の事だから絶対『6+2=8で8×4だから32!』って言いだすと思ったのに」

律「そんぐらい分からぁ!」ガーッ

梓「えらいえらい」ナデナデ

律「いや~、それ程でも~」テレテレ

梓「御褒美に抱きしめてあげる。ほら、おいで?」パッ

律「わ~い」ダキッ

梓「可愛いね、律は」ギュー

律「あ~ずさ~」ギュー

梓「り~つ~」ギュー

律「あ~ずさ~」ギュー

梓「り~つ~」ギュー

律「あ~ずさ~」ギュー

* * *

梓「……最高ですね!」ムフー

澪「長いよ」

梓「え?」キョトン

澪「別の話が紛れ込んできたかと思った」

梓「良いじゃないですかたまには」

澪「途中から先輩後輩が逆転しちゃってるし」

梓「妄想なんですからその位大目に見て下さいよ」

澪「まぁ良いけど」

梓「っていうか何で澪先輩が私の妄想にツッコミを入れれるんですか?」

唯「あずにゃん隊員、全部口から出てたから」

梓「あ、そうでした?いやお恥ずかしい……」テレテレ

紬「まぁ、妄想は本番までの予行練習って事でね」

澪「そうだな」

唯「じゃあ後はいつも通りで」

紬「ええ。あくまでも二人きりの時に」

梓「行動はこの部室内限定で、ですね」

澪「よし。じゃあ先ずは誰から?」

唯「今週は……ムギちゃん隊員からかな?」

紬「はい!」ビシッ

澪「それじゃ、明日はムギ以外が用事で遅れるって事で」ギュー

唯「よしっ!じゃあ今日の『第三回!りっちゃん隊長可愛過ぎてきゅんきゅんしちゃう!隊員活動会議』はココまで!」ドンドン

ガチャ!

唯澪紬梓「はっ!?」ガタッ

和「やっぱり今日も会議してるのね。もうすぐ先生と一緒に上がってくるわよ」

唯「和ちゃんか~。丁度終わったところだよ」テテテ

和「へぇ、そうなんだ。今回は……両手を広げて『おいで~』?」

唯「うん。こうやって、おいで~って」パッ

和「成る程」ダキッ

唯「わおっ」

和「確かに、キュンとして抱き締めちゃうわね」ギュー

唯「でしょ?」

和「また日替わりで律に仕掛けるの?」

澪「まぁタイミングを見計らってな」ギュー

和「……澪、珍しい事してるわね」

澪「梓の『おいで~』にやられちゃってさ」ギュー

和「そうなんだ。律が来るまでに離れときなさいよ」

梓「そうですね、勘違いされちゃいますしね」

澪「そうだな」スッ

和「今日で三回目?飽きないわね、貴女達も」

紬「飽きる訳ないじゃない」

和「……そうね、そうよね」

唯「ん?どうしたの和ちゃん?」

和「気にしないで。にしても貴女達の会議って前進しないわね」

紬「前進?」

和「律の愛で方を考えるのは結構だけど、律と付き合えるのは一人だけでしょう?」

唯「付き合う?」

和「いや、律とどうなりたいとか無いの?」

唯「ん~」

梓「あぁ~」

澪「そうだなぁ……無い事は無いけど」

紬「皆で愛でる事しか考えてない、かな?」

和「やれやれね。そんな考えじゃ誰かに先を越されるわよ」

唯「その時はその時だよ~」ネー

澪「そうそう。律の幸せが一番だからな」ネー

紬「りっちゃんが好きな人と一緒に居るなら、それで良いわよ」ネー

和「そ。後悔しなければ良いけど」

梓「後悔?」

和「本気の人は貴女達みたいに伊達や酔狂で行動しないのよ」

唯「私達だって本気だよ!愛してるよ!」

和「愛し方のベクトルが違うじゃない」ヤレヤレ

紬「どういう事?」

和「誰かが本気出したら、奪われるのはすぐじゃないのって事」

梓「それは……そうかもしれませんけど」

和「その時、どうするのかしらね?貴女達は」

唯「大丈夫だよ~。りっちゃんの事は私達が一番くわしいもん」

澪「そうそう。今の所私達以上の隊員は居ないさ」

和「……まぁ良いわ。じゃあ私、生徒会室行くね」

唯「うん!また明日ね!」

和「皆も、バイバイ」

澪「うん」

紬「また明日」フリフリ

梓「さようなら、和先輩」

ガチャ バタン

和「やれやれね……ん?」

律「あれ?和」トントン

和「あら、律に先生。ナイスタイミングね」

律「ナイスタイミング?」

和「こっちの話よ」

律「あ、そう」

和「それじゃ。先生も、サヨウナラ」トントン

律「おう!また明日な」

さわ子「ハイ、さようなら」

和「……」トントン ピタッ

律「ん?どうした?」

和「……いや、少し考える節が有ってね」

律「あ、そう。悩み事?」

和「似たような物ね」

律「珍しいな、和が悩み事なんて」ネー

さわ子「そうね。いつも即決即断で動いてる感じだものね」ネー

和「私だって人の子ですよ?」

律「そりゃそうだ」

さわ子「で、どんな悩み事?」

和「悩みというか……進むか進まないか決断を迷っているといいますか」

律「ハッキリしないなぁ」

和「どっちにしろ、階段ですれ違い様に話す様な、軽い話じゃ無いわね」ハァ

さわ子「あらそう?」

律「真面目な話なんだな」

和「まぁ、私にとっては」

律「ふ~ん……」

和「まぁ、気にしないで」

律「……だったら、進んじゃった方が良いんじゃないか?」

和「え?」キョトン

律「今だって足を前に動かして降りないと生徒会室に行けないんだし、何だって進まなきゃ進めないだろ?」

さわ子「あら、良い事言うわね」

和「……」

律「……な、何かちがったか?」

和「いえ、まさか律に背中を押されるとか思ってなかったから」

律「なんだよ、失礼だなぁ」ムー

和「えぇ、そうね。進まなきゃ駄目よね」ウン

律「そうだよ。ウジウジしてるのはらしくないぞ?」

和「ありがと」

律「どういたしまして」

和「そうだ、律?」

律「何だ?」

和「この間の書類、不備が有ったから直しに来てもらって良いかしら」

律「マジで!?ゴメン、すぐ直すよ」

和「お願いするわ」

律「すぐ行こうやれ行こう。さわちゃん、皆に言っといて~」トントン

さわ子「ハイハイ」

* * *

ガチャ 

律「ただいま!我が生徒会室よ!」クルクル

バタン カチャ

和「貴女のでも私のでも無いわよ」

律「相変わらずクールなツッコミですこと」

和「どういたしまして」

律「そういえば間違えてた書類ってどれ?」

和「最近は忘れずにしっかり提出してくれてるし、不備なんて無いわよ」

律「……はぁ?」ポカン

和「しっかりしてるわよね、最近の律は」

律「なんだよ、嘘ついたってのか?」

和「えぇ」

律「なんで?」

和「そうねぇ……律は、女の子同士の恋愛ってどう思う?」

律「はぁ!?いきなり何の話だよ」

和「真面目な話よ。クラスにも居るでしょう?そんなカップル」

律「あぁ~……まぁ別に良いんじゃないか?」

和「そう?」

律「お互いがそれで良いんなら、他人がとやかく言う問題じゃないだろ?」

和「大人ね」

律「分かってないだけだって」

和「第三者だから?」

律「まぁ、そうだな」

和「じゃあ……律が澪とか唯とかに言われたらどう?」

律「どうって……想像出来ないな」

和「……ハァ」

律「なんだよ、もっとしっかり考えろって?」

和「いえ、分かってないわねって」

律「なにが?」

和「まぁ良いわ」

律「なんだか納得いってないみたいだけど」

和「まぁ、ね。例えば同性の子に告白されたらどう?」

律「そりゃ相手によるけど……好きになってくれるのは嫌じゃ、ない……かな?」

和「そう。それは良かったわ」

律「良いのか」

和「律って、甘えたい?甘えられたい?」

律「今度は何だよ?」

和「大事な話よ」

律「ホントか?」

和「ええ、とっても大事な話」

律「……う~ん」

和「律ってどちらかと言えば『甘えられる側』よね」

律「まぁ……そうだな」

和「そっちの方が良い?」

律「どうだろ?でもそれを言えば和だってそうじゃないか?」

和「え?」

律「和もいつも頼られて、甘えられてるじゃないか」

和「そうね」

律「そっちの方が良いか?」

和「……相手によるわ」

律「ふぅん……じゃあ私もそれで」

和「あら、そういう返しはズルいわよ」

律「まぁ実際、和には甘えてるしな」

和「確かにそうね」

律「いつも感謝してるよ」

和「私だって律が好きでやってるんだから、構わないわよ」

律「そっか、ありがと。で?」

和「ん?」

律「今の話と和が嘘をついた事とどう繋がるんだよ?」

和「……ハァ」

律「またタメ息!?」

和「今の話聞いてた?」

律「聞いてたよ!」

和「聞いた上で分かってないの?」

律「分かんないから聞いてるんだろ?」

和「分かったわ……アプローチを変えましょう」

律「あぷろーち?」

和「そうねぇ……先ずは嘘を吐いた理由だったかしら?」

律「おう」

和「律と二人きりになりたかったから、じゃあ不満?」

律「……え?」

和「……駄目だったかしら?」

律「いや……だったらそんな回りくどい事しなくてもさ?普通に誘ってくれれば」

和「普通に誘ったら二人きりになれないでしょう?」

律「んな事ないって」

和「いいえ。例えばさっきの階段で『話が有るんだけど』と誘うとするじゃない」

律「うん」

和「きっと貴女は『じゃあ折角だし一緒にお茶しながら喋ろうぜ!』とか言って私を部室に誘うわ」

律「……あ~、否定出来ない」

和「でしょう?だからこうやって、嘘吐いてまで二人きりになったって訳よ」

律「え~……なんで?」

和「ストレートに言わなきゃ分からない?」

律「ストレートとかシンカーとかじゃなくてだな」

和「そうね……さっきからお分かりの通り律は鈍感だものね」

律「鈍感って……何に対して」

和「私達の気持ちよ」

律「……達?」

和「鈍感な田井中さんには、どんな変化球もボール球なのよね」

律「あのさ和、さっきから何の話なんだよ」

和「自分で気付いて欲しいものなのだけど、ここまで言っても分からないのね」

律「和が自分で今言ってたろ?『田井中さんは鈍感だ』って」

和「あら、認めるの?」

律「認めちゃないけど……そうしとかないと話進まないみたいだし?」

和「確かにそうね」クスクス

律「だからさ、教えてくれよ」

和「分かったわ。じゃあ飛びっきりのストレートをお見舞いしてあげる」

律「おう!しっかりキャッチするぜ!」バッ

和「今は二人きり、誰にも見えない聞こえない、今ココでしてる話は全部、二人だけの秘密よ」テクテク

律「お、おう」

和「私が何をしても、律が何をしても、私達以外誰も知る事が無い、二人だけの空間」テクテク

律「何だよ、『ストレート』っていう割にはヤケに回りくどくないか?」

和「今はまだ投げる構えもしてないわ。マウンドをならしてる様なモノよ」パッパッ

律「そ、そうか」

和「じゃあ、行くわよ」


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最終更新:2011年10月25日 21:25