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紬父「――――それで、来月の2日に我が家でパーティーを開くことに決まったんだ」


 ………………やっぱり。

 ……また、パーティーだ。

 今日いた来賓、その人達と、また顔を合わせる事になる。


 私にとって大事な記念日…誕生日に、私はまた…あの人達と、顔を合わせるんだ…。

 鏡を見ずとも表情が曇るのが自分でも分かる。 でも、それを父にも母にも悟られない様、私は振舞う。


紬父「早速斎藤にも準備を任せておかないとな…はっはっはっ」

紬母「…あなた、そんな勝手に…紬の事情も聞かず…!」

紬父「良いじゃないか、せっかく大勢の方が祝ってくれると言うんだ」

紬父「私も紬が喜ぶプレゼントを用意しておこう、紬、楽しみにしててくれ、な?」


 強めの口調の母の声を受け流し、父はニコニコとした顔で私に語りかける。

 そんな楽しそうな父の顔を見てしまっては、私も今更嫌だと言えるわけがない…


紬「……………」

紬母「……紬…」

紬「………お父様…」


 感情を押し殺し、私は父に言う…。

 出来る限りの笑顔で、父に微笑みながら…私は言う……


紬「…ありがとう…ございます、パーティー…楽しみにしてます…わ」


 ぽつり…ぽつりと、言葉を紡ぐ。

 我慢だ…我慢……父も、私の為を考えてくれるんだ……。

 みんなが…私の誕生日を祝ってくれるんだ………。

 その気持ちは大事にしなければ………。

 感謝を…しなければ………。


紬父「ああ、紬の為に父さんも頑張ろう、私も母さんも、手伝ってくれるかな?」

紬母「…まったく……あなたは…」

紬「お母様…お父様は私の事を思ってくれて…」

紬母「…紬……」

紬「お母様…」

 怪訝そうな表情の母をなだめる。

 その気持ちを悟ってくれたのだろう、母も、それ以上を言う事は無かった…。


紬父「ああ、紬も明日は学校だろう、今日はもう…おやすみなさい」

紬「はい…ありがとうございます」

紬父「ふあぁ…私も眠くなってきたな…今日はもう休もう、母さんも今日は疲れただろう、一緒に休もうか?」

紬母「…………ええ」

紬「おやすみなさいませ、お母様、お父様」


紬父「おやすみ…紬」

 父は一足先に部屋に戻る。

 母も、私の顔を見て…申し訳なさそうな声で話してくれた。


紬母「…紬、本当に苦労を掛けるわね…」

紬「いいえ…お母様、私…お父様の気持ちも、来賓の皆様のお気持ちも、すごく嬉しいんです」

紬「こんな私でも、誕生日を祝ってくれる方がいて…すごく…すごく、幸せです」


 その気持ちに嘘は無い。

 でも、何故だろう…言ってる自分が、すごく…白々しく思えた…。


紬母「…紬、あなたは……本当に立派になったわ…」

紬母「紬がそこまで決めたのなら私も何も言いません、あなたのお誕生日、私も精一杯お祝いさせてもらうわね」

紬「…ありがとう…ございます」

紬母「それじゃ、おやすみなさい」


 ばたんっ…と、扉が閉まる。

 私はそのままベッドに横たわり、枕に顔を押し付ける…


紬「………………っ…ぅっっ…っう……っ…っ」

 涙が溢れる…

 何故だろう…止めようとしても…涙が…止まらない……

 めでたい事なのに…楽しい事なのに………涙が…止まらない……っっ

 なんで…私は…泣いているの?

 どうして…私は………こんなに辛いの?

 どうして…私は………どうして…………。


紬「……ぐずっ…うっ……ううぅぅぅ…っっ…!」

紬「う…ぁ……っっ……あっ……ぁぁぁ……っっ!」


 理由のわからない涙が枕を濡らす。

 私は……私…は………。




 翌日放課後 部室


 開け放した窓からはぬるい風が通る。

 6月の終わりの異常な暑さ。 太陽はもう既に元気真っ盛りだった。


律「ぁ…暑い……」

澪「言うな……余計に暑くなる…」

唯「今年の暑さは堪えるねぇ…だめ、力出ないよぉぉ」

梓「唯先輩…気持ちは分かりますけど、練習しましょうよ…」

紬「みんな~、冷たいデザートが用意できたわよーっ」

 ここ最近の暑さでばててるみんなに、一際元気な声で私は声をかけた。

 …学校に来れば、昨日の事は忘れられる。

 だから、もう昨日の涙の事なんて、私は気にしてはいなかった……。

 そう…気にしてなんて……いなかった。

律「きたっ♪ 今日は何だろーな☆」

澪「さっきのダルさはどこ行ったんだ…?」

紬「今日はメロンのシャーベットを持って来たの~」


 持って来たクーラーボックスからメロンのシャーベットを取出す。

 先日のパーティーで来賓から貰ったもので、その人が言うには、それなりに高級なメロンだそうだ。


唯「わぁぁ~~♪ おっきなメロン~」

梓「…メロンをそのままシャーベットって、なんて贅沢な…」

澪「まさか、これ丸ごと一個が一人分なのか?」

紬「ええ、先日のパーティーで頂いた品なの、私ひとりじゃ食べきれないから、みんなにもおすそ分けしようかと思ってね」

澪「おみやげでこんな立派なの貰うんだ…すごいよな…ムギ」

律「へへっ…早く食べようぜぇ~」

紬「はいはい、少し待っててね~」

 我慢しきれないりっちゃんをなだめ、全員分のシャーベットを机に並べる。

 全員分を配り終えた時、顧問のさわ子先生が来たタイミングで、今日のお茶会は始まった。

―――
――

梓「お…おいしい…」

澪「でも、今日のデザートはいつもよりもその…気合、入ってるよな」

紬「はい、アイスティーも用意できたわよ♪」

唯「んんん…冷たくて美味しいいいい♪」

律「甘くて美味しひ…」

さわ子「……私、こんなに素敵なデザート、初めて食べたわぁ…♪」

紬「私には、これぐらいしかできないから…」

唯「そんな事ないよー、ムギちゃんのおかげで、みんなすっごく助かってるんだよっ」

律「そーだそーだ、ムギがいてくれたから、私達はこうして毎日美味しいデザートに……なんってね。 …でも、ムギのおかげで、放課後ティータイムは成り立ってるんだと思うよ」

澪「ああ、作曲もそうだし、毎年の合宿も綺麗な別荘用意してくれて…ムギには本当、感謝してるよ」

梓「ムギ先輩の作る曲…私達のレベルに合わせてくれて…でもちゃんとリフとか譜も良い感じに仕上がってて…すごく素敵だと思います」

唯「ムギちゃんのぽわぽわした所…私大好きだよぉ~♪」

さわ子「みんな褒めるわねぇ~。 ねえムギちゃん、もうちょっと自分に自信を持っても良いんじゃないかしら?」

紬「うふ…みんな…ありがとうっ」


 心の底から嬉しかった… 

 私を令嬢としてじゃなく…私を『私』と見てくれるのは…ここにいるみんなだけなんだ…

 それが、すごく…すっごく、嬉しかった……。


 …ゆったりとした放課後が過ぎて行く…

 私の、1日で一番素敵な時間が、穏やかに過ぎて行く…

 このままいつまでも、いつまでも、こんな穏やかな日々が続けばいいな……

 そう思いながら、シャーベットを口に運んでいた時だった。


女生徒「あの…琴吹さん」

 部室のドアから同級生の女生徒が顔を覗かせる。

 久しぶりに見たその顔は、1年生の頃、同じクラスだった女の子の顔だった。

紬「はい?」

女生徒「あの…今忙しい?」

紬「ううん、今は大丈夫よ」

女生徒「良かったぁ~~、いやねぇ、ちょーっと頼みたい事があるんだけど、今いいかな?」

紬「うん、分かったわ。 みんなごめんね、私、少し席を外すわね?」

律「あいよー、いってら~」

 女生徒に連れられて、私は部室を後にする。


――――――――

律「そーいえばさ、ムギの誕生日ってもうじきだったよな?」

澪「確か、2日の土曜日だったよな」

唯「あ、あのさっ! もしよかったら、みんなでムギちゃんのお誕生日パーティー開かない?」

律「ああ、私もそう思ってたんだ~」


唯「いつかのクリスマス会みたいにさ、私んちでケーキとかプレゼントとか持ってきて、みんなでやろうよ!」

梓「いいですね、ムギ先輩、きっと喜んでくれますよ」

律「前のお泊り会、ムギは出席できなかったからな…来てくれるといいよな」

澪「…でもムギの予定、大丈夫かな?」

唯「戻ってきたら聞いてみようよっ」

梓「ええ、そうですねっ」

さわ子「あらあら、私は誘ってくれないのかしら?」

律「さわちゃんは…誘わなくても勝手に来るだろ?」

さわ子「…ふふっ、まぁねぇ~♪」

さわ子「それじゃ、私もう行くわね。 お茶会も良いけど、みんなたまには練習しなさいよ?」

一同「は~いっ」

―――
――

女生徒「ホント助かった…いやぁ琴吹さん、ありがとっ♪」

紬「ううん、それぐらいだったらお安い御用よ、じゃあ部活、頑張ってね」

 女生徒と話を終え、私は部室へ戻る。

 ちなみに内容はいたって簡単、うちにあるクラシックのCDを、何枚か借りたいと言う事だった。


紬「ただいまー」

唯「おかえり~~」

律「あのさムギ、今度の土曜日空いてるかな?」

紬「…あら? 何かあるのかしら?」

 私は何気なく理由を尋ねる。

 りっちゃんの言ったその言葉の意味が、どんな大きな意味を持っているのかも知らず、ついいつもの感覚で訪ねてしまっていた。



澪「実はさ…、今度の土曜日に、ムギの誕生日会を開こうって唯がさ」


………………。


 澪ちゃんのその言葉に、一瞬思考が止まる。

 今度の土曜日……私の…お誕生日……会?

 ………あれ、その日って…もう…………。


唯「ムギちゃん、この前のお泊り会来られなかったしさ…だから、今度はムギちゃんも一緒にどうかなって思って…」

 ………なんてタイミング。

 もう少し…あと1日…この話をお父様よりも早く聞いていれば…


紬「その……ね……っ」

 …私は大きく腰を折り、みんなに深く頭を下げる。

紬「ごめんなさいっっっ…!! その日は…私……っ…わたし…!」

 平身低頭、まるですごく悪い事をした子供の様に、私は頭を下げてみんなに謝っていた。

 申し訳なさと寂しさが混合して、昨日あれだけ流した涙が出そうになるのを必死で堪える…。


唯「む…ムギちゃん! そんな…そこまで謝らなくても…」

澪「そ…そうだよムギ、急に思いついた事だから、気にしなくていいんだよ?」

梓「ムギ先輩…とにかく、頭を上げて下さい…」


紬「ごめんなさい……ごめんなさい…みんな…」

 みんなが私をフォローしてくれる…でも、今の私には……満足にみんなの顔を見れる自信が無かった…。


律「………もしかして、家の事情か何か?」

紬「…うん…大勢のお客さんを呼んでのパーティーって…昨日…お父様がね…」

唯「そ…そうだったんだ……ごめんねぇ…ムギちゃん、迷惑…だったよね?」

紬「そんなことないっ! 私の方こそごめんなさい…せっかく…せっかくみんながお祝いしてくれるって言うのに…っ!」

澪「ムギ……」

梓「ムギ先輩……」

紬「本当に…本当に……ごめん…なさい」

律「…………………」


澪「ま…まぁ、最初から予定があったんじゃあ…仕方ないよな…」

唯「…そうだね、翌日とか、落ち着いた時にやってもいいんだし…ね?」

梓「私、ムギ先輩に喜んでもらえるプレゼント、探しておきますねっ!」

律「…………」


 みんなの優しさが胸を打つ…


 どうして私は…こんなにもダメなんだ……

 せっかくの友達の好意すら、満足に受け取れないのか…

 なんで…私は……


 それから、特に練習をする事もないまま、私達は帰る事になった。

 事情を話してからみんなの表情が重苦しかったのが心苦しかった…。

 こういう時、りっちゃんも唯ちゃんもいつもは場を明るくするために面白い事をやってくれるのだけど……そんな様子は微塵もなく…ただただ、重苦しい空気が続くだけだった…


 何もかも私のせいだ…

 みんなには…本当に申し訳ない事をしてしまった……

 どうして…私は………


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最終更新:2011年10月26日 21:32