―――――――

紬父「……そうか…………」

紬母「あなた…私は……」

紬父「いや…みなまで言うな…分かっておる……」

紬父「私も眼鏡が曇っていたようだな……娘と、その友人に言われるまで…娘の本心に気付けぬとは……!!!」

 怒り心頭した父は、腕を大きく振り上げ…


 ――――――バキィィィ!!!


 そして、自分の頬に、思いっきり拳を叩き込む…。

紬母「あなた……!」

紬「お父様…!」

紬父「母さん…私は、社長としても…親としても…間違っていたようだ…っ!」

紬母「あなたったら……」

 母が父に歩み寄り…父の腫れた頬に手を差し出して…


 ―――パシンッ!!


 …強烈な平手を一発、打った…


紬母「馬鹿ですね…そんな事で良ければ…私が紬に変わっていくらでもしてあげます…」

紬父「…はっはっは……これは、一本取られたな……」

紬母「紬、あなたの気持ちを無視して長い事振り回していた父さんと母さんを許してちょうだい…今まで、苦労を掛けたわね……本当に…本当にごめんなさい……」


紬「お母様…お父様……!」

紬父「田井中さん、パーティーを壊したのはキミ達ではない…これは、知らず知らずの内に、娘を営利目的に使っていた我等大人の問題だ」

紬父「だから、ここは私に責任を取らせてくれ…田井中さん、平沢さん、秋山さん…中野さん………」

紬母「後は、私達が何とかするから、あなた達はお出かけなさい…」

紬父「みなさん…紬の事、よろしくお願いいたしますぞ………!!」

律「おじさん……」

紬「……みんな…行こう!! 私の誕生日は、これからなのよ!!」

唯「ムギちゃん…うん、そうだよ!」

澪「ムギ、お帰り…」

紬「ただいま…澪ちゃん、みんな……!」

梓「そうと決まれば早く行きましょう! 唯先輩の家で、和先輩に憂に純…きっとさわ子先生も待ってくれてますよ!」

紬「ええ、そうね! わぁ…今からすごく…すごく楽しみだわ…!」


斎藤「ここは我々にお任せを…さぁお嬢様もお友達も、外に車を用意してあります、どうぞお乗り下さい!」

 斎藤に連れられ、私達5人はホールを駆け足で出て行く。

 お父様…お母様……斎藤…りっちゃん、唯ちゃん、澪ちゃん、梓ちゃん……みんなみんな…ありがとう…ありがとう………!!!


紬母「紬!! 良いお友達を持てたわね…!! お母さん、正直驚いたわよ!」

紬父「皆さん、今度我が家へ是非遊びに来て下さい! 紬が学校で、皆さんとどんな学園生活を送っているのか…是非、お聞かせください!!」

律「はいっ! おじさん、ありがとうございました!!」



客「おいおい…どうすんだよコレ…?」

紬父「皆さんっ! 聞いての通り、娘の希望により今日のパーティーはここでお開きとさせて頂きます!! わざわざ遠方よりお越しいただいた方には誠に申し訳ありませんが! 娘のたっての希望という事ですので、何卒この場は寛容な心で受け入れてやってくだされ!!!」


客「お…オイ!! あんた、俺達が一体何のためにココに来たと思って…!」

紬父「申し訳ございません! ですが、この場は…どうかこの場だけはお納めください!!」

客「っざけんな!! 納得できるかこんな事! 大体、俺がここに来たのだってあんたとの取引をだな!」

紬父「……………ええい!! 黙らぬか小童が!!!!」

客「…な…なんだって……?」

紬父「この期に及んでまだ会社会社等と…そのような守銭奴にくれてやる言葉なぞ…一片たりとも無いッッッ!!!」


客「そんな事言って、どうなっても知らないからな!! 琴吹グループとの契約は金輪際打ち切らせて頂く!!」

紬父「構わぬ…欲目の為に心を捨てた者共の助けなど、元より必要ない…!」


客「強がりやがって…! 琴吹の様な小物が、ここに居る全員を敵に回して存続できると思うなよ…!」

紬父「私の会社を舐めるなよ…! 琴吹家の名はそう簡単には折れぬ…! 私の娘も…私も…琴吹の全ては、私が守る…!」


紬母「…あなた……。 …ふふふ……紬、あなたにも見せてあげたかったわ……」

紬母「―――――――私も見た事の無い…パパの一番かっこいい瞬間を…ね♪」


 窓が開かないと知った時。 それでも小鳥達はめげず、何度も窓に体当たりを続けます。

 羽が舞い、ぼろぼろになっても尚、小鳥たちは諦めません。

 傷付く仲間を前に小鳥はもういい、もういいと…ついには泣き出してしまいます。

 ですが、それでも仲間は、必ず小鳥を外へ連れて行くと言い、何度も窓にぶつかって行きました。


 その光景を見ていた親鳥は思いました。

 子供を守る為の窓が、いつの間にか、子供を縛り付ける牢になっていた事に気付いたのです。

 懸命に窓を開けようとする5匹を見て、親鳥は互いに頷き、小鳥の為に力を添えようと誓います。


 小鳥の身体を支える親鳥の大きな羽、その羽が、窓をこじ開けようと力をかけます…

 そして、親鳥と5匹の小鳥、7匹の力が一つになったその時…

 小鳥を閉じ込めていた窓は…静かに、そして大きく開かれたのでした…。



 車の中

 屋敷を抜け、慌てて車の中に乗り込んだ私達は、そのまま唯ちゃんの家に直行する。

紬「そこの交差点を左にお願いね」

運転手「かしこまりました…」

 リムジンを器用に運転する使用人に指示を出し、私は助手席から後の座席を見回す。

 唯ちゃん、りっちゃん、澪ちゃん、梓ちゃん…全員が疲れた顔をしているけど…その表情には一切の曇りは無く、むしろ爽快感すら感じさせる…。


律「っかし…すごかったな……」

澪「…………………」

梓「なんかドラマみたいでしたね、私達っ♪」

唯「一時はどうなる事かと思ったけど…いやぁ……なんか…ねぇぇ?」

澪「………………」

紬「うふふっみんな…本当にヒーローみたいだったわよ?」

澪「………………」

律「澪もなんか言えよぉー? 表情固まってんぞー?」

 おちゃらけた声でりっちゃんが澪ちゃんのお腹を肘でつつく。

 確かに澪ちゃんだけさっきから笑顔のまま表情が固まっていて、まるでお人形か何かの様だった。

紬「澪ちゃん…どうかしたの?」

 私の問いにぼそりと、か細い声で澪ちゃんは言う。

澪「……かった…」

律「な…なんだって???」

澪「こわかった………怖かった…怖かったぁぁぁぁぁ!!」

澪「もーーー!! 一時はどうなる事かと思ったんだからなお前ぇぇ!!」


 澪ちゃんは風船が弾けるように感情を露わにし、りっちゃんに掴みかかる。


律「み…澪だって乗り気だったろ? それにあん時、一蓮托生って言ってたの澪だろ?」

澪「あれは…その……その場のノリって言うか…ううぅぅっっ!」

 上げた声は次第に涙声に変わり…その綺麗な瞳が涙にまみれる……そして澪ちゃんはぽろぽろと涙をこぼし、泣いてしまった…。

律「ちょ…澪、んなマジ泣きしなくたって…」

梓「緊張が緩んでしまんたんですよね…澪先輩、頑張ってましたもんね」

澪「ぅぅうっ…ぐずっ…あ…梓は大丈夫なの…?」

梓「私も…ちょっぴり膝震えてます…あははっ」


 梓ちゃんが澪ちゃんの手をさすり、安心させるようにその手を包み込む…。

 私も助手席から後部座席に移り、澪ちゃんの隣に座って彼女を励ましてあげた。


紬「澪ちゃん…」

澪「みんな…良かった…っ! 無事でよかったっっ」

紬「私もよ……こうしてみんなが無事で、本当にうれしいわ……」

唯「私もワインをひっくり返しちゃったときはどうなったかと思ったけどね…」

紬「みんな、今日は…その…」

 ごめんなさい……と言いかけた時…りっちゃんの声がそれを遮った。

律「ストーップ! ムギ、別に謝る事ないんだぜ?」

紬「でも…私のせいで…」

律「ムギのせいなんかじゃないよ、これは…私g」

唯「私達が考えた事なんだよっ!」

梓「確かに発案したのは律先輩ですけど、私達も計画に乗ったわけですからっ!」

澪「…だからこれは、みんなの責任だ…」

律「だぁー! お前らさっきから美味しいとこ持ってくなー!」


唯「りっちゃんにばっかり美味しいとこは持って行かせないもーん♪」

梓「そうですよー♪」

律「んにゃろぉ~~!」


 痺れを切らしたりっちゃんが二人の脇を器用に抱え、思いっきりくすぐり始める。


唯「あはははっ! ちょっ! りっちゃんくすぐったいぃぃ!」

梓「うわぁぁっ、や…止めて下さいぃぃっ…ひゃっ!」

澪「あははは…まったくあいつらは…」

紬「……♪」

 それを見ていた私もふと、いい事を思い付いたので、さりげなく澪ちゃんに抱きついてみる。

澪「な…ちょ…ムギ…へ?」

紬「………うふふ♪」

 びっくりした様子で私を見る澪ちゃんだが、私はそんな澪ちゃんの身体をがっしりと抱え…。

 そして、両腕と両手指を使って、澪ちゃんの身体を思いっきりまさぐり始めた。

紬「こちょこちょこちょこちょ~~♪」

澪「ひぃぃぃっっ!?!? む…ムギぃぃ??」

紬「こちょこちょこちょこちょ~~~~~♪」

澪「ちょ…や…やめ! ひゃっ……! も~~~~! た…助けてぇぇー!」

紬「あははははっっ♪」

唯「も~~~…か…勘弁してぇぇ~~っっっっ」

律「まだまだ…終わらせないかんな~♪」

澪「っっく…あはは…っ! も~、や…やめてくれぇ~~」

梓「律先輩ごめんなさいです…っっっ! だからもう…きゃっ! ごめんなさ~い!」


 みんなが笑いあう…。

 それはいつもの私の日常で…これからも変わらない事。

 そう…これが私が一番望んでいた事………。

 これが私の…一番の宝物………。


 そうこうして笑い合ってる内に、リムジンは唯ちゃんの家に着いたのだった…。


―――

 平沢邸

唯「ただいまぁ~~~」

一同「お邪魔しまーす!」


憂「…あ、帰って来た♪」

和「丁度いい時間ね…憂、そっちのお皿はどう?」

憂「うん、フライもできたし、和ちゃんはもう座っててくれても大丈夫だよ」

和「そう、それじゃ私、向こうで待ってるわね」

純「…む~~~……先生強すぎます…」

さわ子「はっはっは! 音ゲーで私に勝とうなんて100年早いわよっ!」

和「みんな~、唯達も帰って来たし、そろそろ片付けて…」

純「さわ子先生っ! もう一回っ!」

さわ子「おうよっ! 何べんでもかかってきなさいっ!」

和「あの…2人とも聞いてる?」

唯「ただいまぁ~♪」

律「ちーっす、みんな集まってる?」

 唯がリビングのドアを開け放つ。

 エアコンの効いた部屋からは美味しそうな香りが漂い、私達の空腹感を存分に刺激させる。

 …今日の夕飯は先日に引き続き和と憂ちゃんの合作、それはその美味しそうな香りからも、味に十分な期待が出来る感じだった。

 いや、必ずムギを連れて来るって大見得切った甲斐があったもんだな。


 …あ~、腹減った~


憂「いらっしゃ…って…ええ??」

純「おおっ、ドレス姿にメイド衣装!」

さわ子「あらあら、まるでメイドさんに連れられたお姫様ねぇ、みんな気合入ってるじゃない?」

和「迎えに行くって言ってたけど、みんな、そんな格好で行って来たの??」

 私達の姿を見た一同が素っ頓狂な声を上げる…

 ま、普通の感覚で見れば、確かにメイド服姿の女が4人もいて、その中でキラキラの宝石類を身に付けたお嬢様がいれば…その光景はすさまじいモノになってるだろう…

 実際問題、私も今まで自分がメイド衣装姿だったことをすっかり忘れていたわけだし…慣れってのは恐ろしい。


律「んあ…髪降ろしたまんまだった…」

 慌ててカチューシャを取出し、髪を上げる私。 ふう、これで落ち着いた…


唯「と…とりあえず、うい、お着替え出してもらってもいいかな? その…5人分……」

憂「あ、うん! 分かった!」

 唯と憂ちゃんのはからいで服を出してもらう。

 若干サイズが合わなかったけど…この際我が儘は言ってられないよな…。

唯「ごめんね…私達の服じゃ澪ちゃんのサイズに合わないから、お父さんのやつだけど…」

澪「いや、いきなりだったし…仕方ないよ」

さわ子「あのメイド衣装は私が何とかしとくから、あとで私のトランクにでも積んで置きなさいな」

唯「うん、さわちゃんありがとうっ」

和「じゃあ…準備も済んだことだし、冷めないうちに頂きましょうか?」

憂「そうだね…ジュースもお酒も注ぎ終わったし…えと……」

律「じゃーここは、部長である私が司会を務めさせていただきまーす!」

唯「いよっ! りっちゃんさすがっ!」

律「でへへ…えーと、本日は急な催しでしたけど、まさか9人もの人が集まってくれるとは思いもしませんでした」

律「思えば…私がこの誕生会を思いついたのも…」

さわ子「りっちゃん前置きが長いわよー、せっかくのビールがぬるくなっちゃうでしょー?」

梓「そうですよー、お料理冷めちゃいますよ~」


律「だー…じゃあ、主役のムギ! 何か一言!」


 みんなにに促され、私は始まりの音頭をムギに委ねる。

 急に話を振られたムギだったけど、落ち着いた様子で、しっかりとした声で私達に向き合って言った…。


紬「みなさん……本日は、このような素敵なパーティーにお誘いいただき…まことにありがとうございます」

紬「これまで、色々なパーティーに参加してきた私ですけど…今日のそれは、今までのどのパーティーよりも素敵なパーティーだと思います……」

紬「本当に…本当に…んっ……っ」

唯「ムギちゃん、がんばってっ!」

憂「紬さん!」

純「ムギ先輩っ!」


 涙を堪えるムギをみんなで励ます…そして、2~3の深呼吸の後ムギは強く言い切った―――!

紬「…ぅん…っ! えへへっ…みんな…ありがとう! 今日は思いっきり楽しんじゃおう…乾杯っっ!!」


一同「―――かんぱーーーーーい!!!!!!」


 ムギのその一言で私達のパーティーは始まった。

 私達が…ムギが本当に望んでいた…心暖まる誕生日パーティーが今、始まったんだ…!


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最終更新:2011年10月26日 21:41