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和「部屋暗くするわね、憂、ケーキを…」
憂「うんっ! 今持って来るね~♪」
さわ子「ふふん…私もケーキ作り手伝ったのよ?」
律「すげぇ、さわちゃんケーキ作れたんだ?」
和「…先生には、ケーキの上にイチゴを乗せてもらうお手伝いをお願いしたのよ」
さわ子「あ~ん、和ちゃんそれは言っちゃダメでしょー?」
律「私の言ったすげぇを返せっ! って…前にも無かったかこのやりとり…?」
そんなこんなで憂ちゃんが大きめのショートケーキを持って来る。
暗くした部屋にローソクの火が灯り、誕生日パーティー独特の雰囲気が私達を包み込んでいった。
憂「おもちゃのオルガンですけど、私、演奏してみますね」
さわ子「いいわねぇ、雰囲気出てていいんじゃないの?」
憂「いきます…♪」
~~~♪ ~~~♪
唯「はっぴーばーすでーとぅーゆー♪」
澪「ハッピーバースデートゥーユー…」
律「ハッピーバースデーディア…」
一同「―――ムギちゃーーーん!!!!」
梓「はっぴーばーすでーとぅーゆー…♪」
―――パチパチパチパチパチ!!!
紬「ありがとう…! みんな…ほんとうにありがとう……!!!」
唯「ほらほらムギちゃんっ! ローソク吹き消してっ」
紬「そ、そうね……えっと…すぅぅ…」
ふーっと、勢いよく息を吐きだし、ムギはローソクの火を消す。
―――なあムギ、お前がやりたかったパーティーって…きっとこう言う、どこの家庭でも普通にやる、そんなパーティーの事なんだよな。
これぐらいだったらさ、私達に言ってくれれば、いくらだってやってやれるよ。
だからもう、私達に遠慮して、自分一人で抱え込まなくてもいいんだ。
――そうだろ、ムギ…。
律「みんな! プレゼント持って来たよな!」
唯「もっちろん!」
梓「唯先輩、またキスとハグだけなんてオチじゃ…」
唯「ぶ~、そんなこと無いよぉ~」
律「まぁまぁ…じゃあ、まず和から!」
私はまず和に振る。
和「ええ…はい、どうぞ」
紬「わぁ…これは…?」
律「…これ、ハム?」
そう、和がカバンから取り出したのは、達筆なフォントで書かれた『特性燻製ハム』と呼ばれる物だった。
和「ハムをね、一応美味しいって好評なのよ?」
律「あのー生徒会長、ますますお歳暮加減に磨きがかかってる気がするんですけど…」
和「あら、そう?」
…なんか、違くないか、いいのかそれは…?
紬「和ちゃんありがとう! 美味しく頂くわねっ♪」
さわ子「私はこれよ、みんなで遊べる物が良いと思ってねぇ」
さわちゃんが革のカバンを取り出す、ジャラジャラとした音を立てて出てきたそれは、おおよそ女子高生には馴染みが薄い物で…。
律「って……これ麻雀牌じゃん! アンタはオヤジかっ!」
さわ子「えー、ダメだった?」
律「ドンジャラとかならともかくあんた……麻雀牌って…」
澪「なんていうか…相変わらずだな……」
律「まったくだ…私もこの二人のセンスだけはマネできねーよ……」
紬「私、一度でいいからまーじゃん、やってみたかったのよ…♪」
それから、唯と憂ちゃんからはペンケースと手製のキーホルダーが、澪は可愛いぬいぐるみ、梓と純ちゃんからはゲームソフトと漫画本が送られて…
そうそう、ちなみに私は、前にムギが好きだと言っていた駄菓子の詰め合わせをプレゼントした。
…確かに、どれも決して高価な物ではないのだけど、それでも、ムギはとても喜んでくれていた。
それでプレゼントも配り終え、私達のムギの誕生日パーティーは、本格的に盛り上がって行ったんだ―――。
――――――――――
さわ子「ねえねえムギちゃん、あの宝石、少しだけ触らせてもらっていいかしら…?」
紬「ええ、ふふっ、どうぞー」
さわ子「いやっほう! 私、一度でいいから高価な貴金属類を身に着けてみたかったの~♪」
律「さわちゃん似てなさすぎー」
さわ子「もう、いいじゃないっ! ねえねえ、どう、私キレイ?」
唯「なんていうか…成金のおば…」
さわ子「ゆーいーちゃん? 今度の衣装危ない水着にしてもいいのよー?」
唯「す…すみましぇん…」
憂(私、それ少し見てみたいかも…)
梓「ん、憂、どうかした?」
憂「な…なんでもっ…!」
律「やっぱり、あーゆーのはムギが一番似合ってるよ」
紬「ありがとう…でも、私はもう…いらないかな…」
紬(あんな宝石よりも輝いてる物…みんながたくさんくれたんだもの…)
――――――――――
梓「でもでも、あの時のムギ先輩かっこよかったです!」
律「あんな強そうなSPの腕を掴んで『彼女を離しなさい』だもんなぁ…なんていうか、覚醒したってああいう事を言うんだろうなぁ」
和「あら、そんなにすごかったの?」
律「そりゃもう! まぁ…でも本気で怒ったさわちゃんと澪には負けるかな…あははっ!」
澪さわ子「りーつーーーー(りーっちゃんーーー)」
律「ちょ…あれ? あーれーーー!」
澪「おでこに『肉』って書かれるのと、デコピン10連発どっちがいい?」
律「ゆ…許してくだしゃぃぃぃ!」
純「ご愁傷様です、律先輩…」
憂「あははっ…やっぱり、みんな揃ってると楽しいですねっ♪」
紬「ええ、そうねぇ~♪」
平沢邸 門前
声「…………あははっっ! ムギ腕相撲強すぎーっ!!」
声「っくぅ…教師魂舐めんじゃないわよー!」
声「ダイヤの指輪ぁ~~~~!!!! ……あへっ!?」
声「ぶいっ♪」
声「またまたムギの勝ちーー!! さわちゃんこれで20連敗だよもういーかげん諦めろって!」
声「むぅぅぅ~~~!!」
――――――――――
斎藤「如何なさいますか…奥様……」
紬母「……いえ…あれだけ楽しそうな声がしてるんですもの…私が割って水を差すのも悪いわ…」
斎藤「…心配は、無用でしたかな?」
紬母「全くね……斎藤、紬に連絡を、今はまだ家がめちゃくちゃなので、今日明日は帰ら無い方が良い…と」
斎藤「かしこまりました……」ピッピッピ…
斎藤「………どうぞ」
紬母「…斎藤……?」
斎藤「ここは、是非奥様の口より…お伝えください…」
紬母「…そうね……。 斎藤、車を出してちょうだい」
斎藤「かしこまりました…」
―――――――――
紬『もしもし?』
紬母「つむぎ…どう、楽しんでるかしら?」
紬『はい…おかげさまで…』
紬母「ええ…それは何よりね。 あの、今日はそちらの家にお邪魔なさい、こっちの家はまだまだ大変だしね」
紬『お母様……』
紬母「もうその呼び方も止しましょ…昔のように、ママと呼んでくれて良いのよ…」
紬『お母……いえ……ママ……』
紬母「…つむぎ………」
紬『ありがとうございます……それと、ごめんなさい…』
紬母「気にしなくて良いのよ…パパもママも、今回の事で色々と考える事があったと思うしね」
紬母「改めてお祝いさせて貰うわ…つむぎ、お誕生日おめでとう」
紬『ママ…』
紬母「ほんと、立派になったわね…あんなに素敵なお友達を見つけて…」
紬母「パパも言ってたけど…今度、是非お友達を我が家へ連れてきてちょうだい、ママ、腕によりをかけてご馳走作るわよ?」
紬『うふふ…ママのアップルパイ、すごく美味しいですから…楽しみです…えへへっ…』
紬母「それじゃ、お友達にもよろしくね…おやすみなさい」
紬『おやすみなさい…』
……ピッ…
紬母「……ふぅ………っ…」
斎藤「奥様……」
紬母「ねぇ斎藤……私は、紬の母として、立派だったのかしら…?」
斎藤「私めにはなんとも……ですが、今の奥様と旦那様がいてくれたからこそ…紬お嬢様はかのように、立派なお友達に巡り会えたものだと思っております」
斎藤「それに…私も琴吹家に仕えて10数年…今日ほど涙ぐましい事はございませんでした……。 今宵は18年前…そう、紬お嬢様が御生まれになられた時よりも、感動しておりますよ…」
紬母「あら、あなた泣いてるの?」
斎藤「奥様こそ…目が腫れておられるのではございませぬか?」
紬母「っはぁ…使用人にこんな事言ってるようじゃ、私もまだまだね…」
紬母「帰りましょう…紬がいつ帰っても良いように…家を片付けておかなきゃ……」
斎藤「ええ……」
―――
――
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深夜 平沢邸
さわ子「……くか~~zzz おっちゃんもういっぱーい!…ぐがぁ~~zzz」
澪「すぅ…すぅ…zz」
純「む~~…ほうきじゃないよぉ~私だよぉ~」
梓「だ…だれがごき…ぶりですかぁ…ムニャムニャ…zzz」
和「………zzz」
―――…カタッ…
手洗いから出た私はみんなを起こさないよう慎重に布団まで戻る。
リビングに無造作に敷かれた布団に潜り込んだ時…隣で人が起きる気配がした…。
律「……ん…? ムギ?」
紬「あ、起こしちゃった…?」
隣にいたのはりっちゃんだった。
起こしてしまったか、悪い事しちゃったかな……。
律「…トイレか」
紬「うん…起こしちゃってごめんなさい…」
律「いいって…唯と憂ちゃんは…ああ、部屋だったな…」
紬「ええ…仲良く寝てるみたいよ」
律「まぁいいや……あのさムギ、明日…みんなで遊びに行かないか?」
紬「…明日?」
律「そ、ここにいる全員で、カラオケ行ったりボーリングしたり…夜まで遊び倒すんだ。 どう、楽しそうじゃない?」
紬「ええ…! 9人で遊ぶの…きっとすごく楽しいと思うわ…!」
これまでにも、私達5人に憂ちゃんや和ちゃんを交えて遊ぶ事は過去にもあった。
けれど、これだけの大人数で遊ぶなんて無かったから…今から明日の朝が待ち遠しいな…。
律「喜んでもらえて嬉しいよ…それじゃ、明日に備えて寝ておこう、な?」
紬「ええ…………。 ねえ…りっちゃん」
目の前にいる彼女に、私は真面目な口調で話しかける。
律「ん…どした?」
そして、照れる感情を抑えながら、一言だけ、私は彼女に言うのだった…。
紬「…私、りっちゃんの事、大好きよ…」
律「ぶっ…お…お前、何言って…」
紬「あら、だって私達、愛し合ってるんでしょ?」
くすりとはにかみ、照れる彼女を私は見つめる。
暗い部屋の中でも、彼女の顔が赤くなるのがよく分かった。
律「お…お前なぁ~~……あれは、あの時の冗談で……てか、私にそんな気は……」
紬「そっか……あーあ、りっちゃんが男の人だったら、私、りっちゃんのお嫁さんにしてもらおうと思ったのになぁ~」
律「ばかっ…」
それは照れ隠しなのか、はた冗談にまた怒ってしまったのか、寝返りを打ったりっちゃんはそれっきりこっちを向いてくれる事は無かった。
そして、最後に一言だけ、りっちゃんは私に向けて言ってくれた。
律「ムギ」
紬「…なーに?」
律「…おやすみ……」
紬「―――ええ、おやすみなさい…」
―――夜が更けていく。
でも、明日への期待に胸が踊る私は、まだしばらく眠れそうに無かった…。
今日は、色々な事があった…それはこれまでの退屈な毎日を、掛け替えの無い瞬間に変えてくれる一時で、何よりも素敵な1日…
私にとっても、みんなにとっても、一生忘れられない1日……
みんな……ありがとう…。
瞼にこみ上げるものを感じつつ、次第に私の意識はまどろみに溶けて行った………。
最終更新:2011年10月26日 21:42