紬「あふ…」
大きく欠伸をする紬。
作曲にかまけて、気付いたらもう日付は変わっていた。
紬「もうちょっとなんだけどな…」
明日は休日だから徹夜でもいいか、しかし、眠気に勝てそうにない。
紬「むぎゅ…」
机に突っ伏していると、部屋のドアが小さくノックされる。
執事の斎藤が見回りに来たようだ。
斎藤「失礼致します…」
紬「むぎゅぎゅ…?」
斎藤「お嬢様、お疲れのようですな」
紬「むむぎゅ…」
斎藤「おやすみなさいませ」
掛け布団を紬にかけると、起こさぬように静かに退室した。
紬「うぅ…ん?」
しばらく眠りについた後、目を覚ました紬。
紬「あ…」
見馴れない風景。しかし、どこか懐かしい気がする。
唯「ぷう…」
紬「(わぁ)」
自分のお尻を枕に寝ている唯を見て、思わず顔がほころぶ。
紬「(澪ちゃんも、梓ちゃんも…律っちゃんもいる)」
間違いない、夢の時の家族だ。
唯「ママ…?」
紬「あぁ…起きちゃった?ごめんね」
唯「ううん、いいよ」
唯が目を覚ましてしまったようだ。
紬「ほら唯ちゃん、おいで」
唯「うん…」
むぎゅぎゅむぎゅう…
寝相が悪いのか、布団から飛び出してしまっていた唯を抱きしめてやる。
唯「ママ、あったかぁ…」
紬「ふふっ、唯ちゃんもね」
紬「(可愛いよぉ…)」
悶える紬をよそに唯は心地よさそうに眠りについた。
紬「(けれど、夢なのよね…)」
夢なのは最初からわかっている。覚めた後、喪失感があるのもわかっている。
どうか前回よりは長く夢が続くように紬は唯を抱きしめながら思うのだった。
時刻はAM7:00
ちょっと早いけど、皆の朝ごはんを作ろう。
唯を起こさぬようにそっと離れようとすると…
唯「ママ」パチクリ
紬「あ…起きちゃった?ママ、朝ごはん作らなきゃだから」
唯「いやー」ムムギュ
紬「あらあら…もう」
甘え足りないのか、自分の胸にしがみついて離れようとしない。
紬「じゃあ…唯ちゃんもお手伝いしてくれる?」
唯「うん!いいよ」
抱き着いている唯をそのまま抱っこして、キッチンに向かう。
重くはなく歳の割には軽い気がした。
唯「ママ力持ちー」
紬「ねー」
毎日、キーボードを担いで登校していた紬には余裕のよっちゃん♪
紬「(寒…)」プルプル
季節は冬なのだろうか、布団から出ると寒さで奮える。
唯「今日はね、大晦日だよ」
紬「そうなのー」
通りで寒いわけだ。カレンダーを見ると12月のページであった。
唯「皆でじいじのお家に行くんだー♪」
紬「(じいじ…まさかうちのパパ…)」
唯「楽しみだね、ねっ」
紬「うん、そうね」
10年後の父親と会うなんてなんだか緊張する。
斎藤は元気だろうか、自分の部屋はどうなっているのか、10年の月日でどのぐらいの変化があるだろう
紬「唯ちゃんー、卵」
唯「ほいっほいっ」
キッチンを忙しなく走る我が子を見て紬は微笑む。
唯「お待たせしましたー」
紬「はい、ありがとー」
小さな助手のおかげで朝食の準備も捗る。
小さな手で卵を手渡され、慣れた手つきで卵を割ると、唯は目を輝かせる。
唯「すごっ」
紬「ふふっ、唯ちゃんもやってみて」
唯「えと…えいっ」
紬「わぁ、上手ね」
唯「えへへ」
こやつ、なかなか器用である。
この器用さがあれ程までにギターが上達した秘密なのだろうか。
唯「混ぜますよーママ」
紬「はいはーい」
的確にツボをスナイポしてくる唯。
眠気なぞとうに吹っ飛んだ。朝食の準備をこんなにも楽しくできるなんて
唯「ほっほっ」
紬「(この掛け声は…どこで覚えたんだろ)」クスクス
紬「あら?」
脚に小さな感触。
この感触…まるでマシュマロのよう…。末っ子の梓が来たみたいだ。
梓「ぷぁ…」
唯「梓、おはよー」
梓「お姉ちゃんおはよ…」
むぎゅぎゅむぎゅう…
唯は梓を抱きしめる。
紬「(学校の時の唯ちゃんね)」
幼くなったとしても2人の間には愛を感じた。
ちょっと嫉妬しちゃう
――――
唯澪律紬梓「いただきまーす」
澪「ふぁ…」ムシャムシャ
唯「んまーい」モシャモシャ
律「今日はムギの実家行かなきゃだな」パクパク
紬「ええ…、そうね」モグモグ
律「お義父さん、お義母さん、元気にしてっかな」
紬「うーん、まぁ元気なんじゃない?」
律「夏場に会ったきりだもんな」
夫婦で今日の予定を話し合う。
以前の夢では季節は夏だった、今は冬でどうやら今日は年末の挨拶に行くらしい。
紬「あなたの実家には行かないの?私、行きたい」
律「ああ、年明けてからだな」
紬「そう…」
ちょっと残念だ。
普段から見ている自分の両親より、律の両親がどんな人か見てみたかったが…おそらく年明けを迎える前には夢は覚めているだろう。
梓「ママ、ねーねー」
紬「梓ちゃん、口の周りマヨネーズだらけよ」
こういうところに幼さを感じる。それがまた可愛くもあるのだが
澪「…」コックリコックリ
紬「澪ちゃん、食べながら寝ないで…」ユサユサ
唯「…」パクパクパクパク
唯「んっ…」プウ
紬「唯ちゃん!食事中、おならしないのー」
唯「えへへ…ごめんなさい」
なかなかに母親は骨が折れる。3人ともなるとそれは忙しい。
紬「(母親って大変…まぁ、可愛いからいいんだけど)」
母親らしく子供達に躾をする。それが楽しかった。
律「ゲプ」
紬「あなた!」
律「おう…わりぃわりぃ」
どうやら旦那にも躾が必要らしい。
紬律唯澪梓「ごちそうさまでしたー」
律「さてさて…食後の一服かな」
唯「皆、おきがえだよ!」
澪「うむ、そうだな」
梓「はぁい」
各々、出掛ける準備を始める。自分も準備をしたいが食器を洗ってからだ。
紬「(皆、流しに持ってきてくれたのね…)」
我が子に感心しながら、洗い物をすませようとすると…
紬「うっ…おぇっ…」
急に吐き気を催す紬。
紬「はぁっ…はぁ…」
なんでだろうか、体調は悪くないはずなのに…
律「おい…ムギ大丈夫か?」
紬「大丈夫じゃない…」ムギュギュ
律「甘えるんかい」
ここぞとばかりに旦那に体を預ける。
律「もう半年だもんなぁ」
紬「むぎゅ?」
律「赤ちゃんだよ」
紬「え…!あっ…そうね…」
妊娠で悪阻からくる吐き気だったとは。
どうやら、このお腹には新たな命が宿っているらしい
お腹を摩ってみると確かに少しぷっくりしてるわ
律「ムギも準備しとけよ」
紬「あ、はぁい」
洗い物を済ませ、メイクをするために寝室に向かうと、3人が着替えている。
梓「マーマー」
紬「ん?」
梓「梓の髪結んでほしいの」
紬「うん、じゃあおいで」
少し短いけれど、ツインテールにしてあげる。
唯「唯も唯も」
紬「はいはい」
パチンとピンを付けてあげる、やっぱり見慣れているせいかこの髪型がしっくりくるわ
紬「澪ちゃんは…そのままでいいわね」
澪「えー嫌だよ」
紬「澪ちゃんは綺麗な髪だから…とかすだけで大丈夫」クシクシ
澪「えへへ…そうかな」
子供達の髪型を整えたら…仕上げはお母さーん。
紬「(お化粧♪)」
澪「ママの髪とかしてあげる」
紬「本当?じゃあお願い」
さすが長女、しっかりしているしよく手伝ってくれる。
澪「♪」
楽しそうに髪をとかす澪。その姿を見たらトキメキMemorial…
紬「お化粧終わりましたー」
澪「ママ、澪もお化粧したい」
紬「大人になってからね、教えてあげるから」
澪「うん…」
紬「(寂しそうな顔しないで…)」
自分もこの頃は母親の化粧をする姿を羨望の眼差しで見ていたものだった。
紬「じゃあ…はいっ」
澪「わあ」
紬「ちょっとだけね、澪ちゃん髪とかしてくれたから」
澪「うんっ」
軽くグロスを澪の唇に塗ってあげる。
機嫌を直してくれたようだ
律「おーいぼちぼち行くぞー」
紬「はぁい、じゃ皆行こ」
澪唯梓「はーい!」
最終更新:2011年10月27日 22:14