~律部屋~


律「律っちゃんはね、律て言うんだ本当はよ♪」


律「なんちって」プッ


律「(眠・れ・な・い・よ~っと)」ポチポチ


時刻は深夜0時過ぎ、なかなか寝付けない。
こんな時は寝れるまで親友に付き合ってもらおうかとメールを打つ


律「(さすがにもう寝ちゃったよな…)」


寝てるのを起こしてしまうのは悪いと思って、送信はしないまま携帯を閉じる。


律「(羊が1匹…羊が2匹…羊が3匹…)」


まだまだ眠れそうもないな…と駄目元で羊を数えてみる。お前は子供か田井中律…!


律「(羊が24匹…羊が…羊は……)」スースー


律は心地好い眠りについた


~~~

日は昇り、部屋に朝日が差し込む


律「(う~…眩しっ)」


眠るのが遅かったせいか少し体が怠い。


律「さてっ…んっ~~…!」


思いっきり屈伸をした後、通学の準備をする。
鏡の前でブラッシング…!カチューシャを付ける…!

律「よしっと!ん、電話か」


律「(こんな朝早くか…澪だな)」


律「はいはーい、澪しゃん」


澪『ゴホッ…ゴホッ…あぁ、律…』


律「おいおい、大丈夫か?」


澪『ゴホッ…あぁ…律…あのさ』


律「ん?なになに」


澪『今日、学級閉鎖で…休みだってさ、インフルエンザが流行っててさ』


律「なにぃ…」


澪『私もなっちゃったみたい…ゴホッ…唯もムギもなったって』


律「なんだよー、休みなら皆で遊びに行けたのにさ」ブー


澪『自宅学習になってるから…ゴホッゴホッ…律は勉強しろよ』


律「わかったわかった、それより律ちゃんは澪しゃんの体が心配だなっ」


澪『ありがと…』


律「お大事にな、ゆっくり休みな」


澪『うん…それじゃあ』プチッ


律「(さてさて…どこで遊ぼうかな)」


律「(よりによって皆インフルか…梓は学校だろうし)」


親友の忠告なぞそっちのけで今日の予定を考える律。

律「(1人で時間つぶせるとこ…むむむ…)」


律「ゲーセンだな」


平日に学校が休みになって遊ぶことになるとお得感が2倍だ
皆さんもそんな経験ありませんか?


律「~♪」


律は自転車を走らせる、胸に秘めた思いを載せて

今日は1人だ。
唯達と行くような、プリクラがたくさんあるような小洒落たゲームセンターNo Thank you!


律「相変わらずだなここも…」


着いたのは廃れたゲームセンター、看板は今にも消えそうな弱々しい光を放っている。
おそらく学校では私しか知らない穴場だ


律「(どれどれ、新しいゲーム入ってるかなー)」


ドアを開けると、煙草の臭いに思わず顔をしかめる。真っ暗な空間
まるでゲームの液晶画面が照明の代わりのようだ


光男「おう、ここは女の来るとこじゃ…」


律「久しぶり、みっちゃん」


光男「おめぇ、律坊か…!!久しぶりじゃねぇか」


律「当たり!」


光男「ちったぁ女らしくなったじゃねぇか」ニヤニヤ


律「ずっと女の子なんですけどー…まぁいいや、瓶コーラおくれ」


光男「待ってな」


カウンターに控えしは、店主・田中光男(63)。
律が中学の時からの知り合いだ。中学の時は頻繁に来ていたが、高校で部活が始まってからは全然来れないでいた


光男「ほらよ、おめぇ学校はどした?サボりか」ケラケラ

律「違うし、インフルエンザが流行ってさぁ、休みだって」


光男「ふーん、そういや馬鹿は風邪ひかないっていうな」


律「るせー、ほい代金」


光男「あーいらんいらん、それより久しぶりに店の売上に貢献しやがれ」


律「マジか!はいはいわかりましたよー」


憎まれ口を叩きながらも女には甘い光男であった


律「まずは格ゲーかな」


椅子に着くとまずは一口
キンキンに冷えたコーラが喉を潤す。


律「(懐かしいな…)」ゴキュ

瓶コーラも今では希少なもので、地元で飲めるのはこのゲームセンターぐらいだ。懐かしさも加わりその味は格別であるの


律「さて…やるかぁ!」


袖を捲れば戦闘準備は万端だ


しばし、ゲームに没頭する律…


律「おっ、乱入かぁ。負けないぞー」


律のゲームの腕は中々のもので、ブランクがあるとはいえ、そこら辺の相手には負けたことはない


律「とどめっ…よしっ」


難無く乱入者を返り討ちにする律。
対人戦の興奮は格ゲーの醍醐味であろう。
チーム編成、攻撃的、守備的な戦い方など十人十色であるからだ。


DQN1「だぁーっ!お前何やってんだYO!」


DQN2「うっわぁ、マジヤっベェ」


律「(楽しそうだ…)」ニヨニヨ

隣の二人組は大声で話しながら、ゲームをプレイしている。


律「(誰か誘えばよかったな…)」ゴキュゴキュ


隣が騒がしいとちょっぴり寂しい。
ワイワイやるのが好きな律だが、今は黙々とCPUを片付けていく。


律が瞬獄殺を決めた時…


店の扉が開かれた


光男「おう…っと、嬢ちゃんここは初めてか?ここは男だけの戦場だ、けぇりな」


?「……ゲームセンターに国境はないはずだけど…」

光男「国境?ガハハ、冗談がうまいな」


?「しかも、あたし…男だし…」


光男「あんまり大人をからかうもんじゃねぇぞ、まぁ、いいや入りな」


?「ありがと…」


光男「ほれ、こいつは餞別だ」


そう言うと瓶コーラを渡す光男、やはり女には甘い光男、それでいいのか光男


DQN1「おい、見ろよ女が来たぜ」


DQN2「ヒュー…すげぇ可愛いじゃん」


律「(まーたこいつらは…)」


律「(女が来ただぁ?ここは男だけの戦場だぜ?どれどれ…)」


どんな奴が来たのか、振り返り出口付近を見てみる…

律「え…!あれって…」


律は自分の目を疑う、もう一度目を凝らして見てみる…間違いない


律「いちごじゃないか…!」シェー


思わぬ来訪者の正体は律のクラスメイツ、若王子いちごであった。


律「(意外だ、いちごもこんな所にくるんだ…)」


驚きを隠せない田井中律18歳…
おそらく、クラスで一番ゲーセンには縁がないだろうと思われた若王子が目の前にいるのだ。


いちご「……」キョロキョロ


いちごが向かったのは、太鼓の○人。周りを目を伺うように辺りを見回している

律「(キョロキョロしてる、可愛い)」プークスクス


いちご「……」ゴソゴソ


いちごは鞄から取り出したものは、MYバチであった

律「ブホォ」


思わず口に含んでいたコーラを噴き出してしまった、周りの視線が痛い


律「(相当、やりこんでるのか…)」


どのぐらいの腕だろうか拝見してみようかと、後ろから様子を伺うことにした


いちごは深呼吸する…
いつも感情を表に出さない彼女であるが、この時の彼女はこの…そう…キリッとしたような面持ちだ


レベルを選べドン!
ここで、いちごは選んだレベルは「おに」


律「(おにかよ…!)」


レベル「おに」
太鼓の○人では限られた者しか辿り着けない境地


曲を選ぶドン!


いちご「(Sweet bitter beautuy songにしよ…)」


選曲が終わりいよいよ若王子いちごの腕前が披露される…
律は固唾を呑んでこれを見守る


律「(どれどれ…)」


それじゃあ…始めるドン!

光男「(どれどれ…)」


店主も気になっているようで、煙草を吸いながらカウンターからこちらを伺う


イントロが流れる
Aメロが始まろうかという所で、画面上に流れる赤と青の○の羅列を見て驚愕する律…!


律「(隙間が…ない…)」


やれるのか…若王子…!!律の不安は募るばかりであった…しかし、その不安は次の瞬間に打ち砕かれる


いちごは、とても人間業とは思えないスピードで太鼓を叩き始めた。


いちご「……」ポコポンポコポンドンチャッドンチャ


ぬわー!すげードン!!
画面上の太鼓のキャラクターの阿鼻叫喚
スコアは伸び続ける


律「すごいよぅ…」


曲は最後のサビに差し掛かかろうという所、時間にしておよそ3分弱だろうか。とても短く感じられた。


律「へへっ…ワクワクしてきた…!」


いちごの神業を目の当たりにして沸き上がる高翌揚。ドラマーの血が騒ぐのだろう


そして曲は終わった。

おま…すげードン!ハイスコアだぜドン!
いちごはなんなく店のハイスコアを更新。


ランキング画面のトップに「Wおうじ」が君臨した


律「なるほど、若王子で…Wおうじって訳ね…」ザッ

いちご「…!」ハッ


律「せっかくランキングのトップになったみたいだが…残念ながらそのランキングはすぐに更新されることになる」


いちご「今日は自宅学習のはずだけど?」


律「あたしの辞書に勉強という文字はないのさ、つーかお前が言うな」


いちご「そう…じゃあ、一緒にやってみる?」


律「ああ、勝負だいちご」

いちご「いいけど…」


いちごの腕前を見て、沸き上がる興奮を抑え切れずにはいれなかった。

不思議と恐怖はない。
律は、この強大な敵「Wおうじ」を倒すことだけを考えていた。


律「(見てろよ…そのポーカーフェイスを苦悶の表情に変えてやる!)」


いちご「準備はいい?」


律「よっしゃ、いいぞ」


カウンターから一部始終を見ていた老父。


光男「こいつぁ…おもしれぇことになってきやがった」


これから始まる戦闘に興味津々だ。


律はゲームは様々なジャンルを経験済ではあるが…主に格闘ゲームをプレイする律が絶対的不利なのは明白であった。


律「(太鼓の○人は久々だなー、部活帰りにちょっと触ったぐらいか)」


いちご「じゃ…曲決めて」

律「よーし…じゃあ、ふわふわ時間で!」


レベルは勿論「おに」で、無謀なる挑戦者が王者に挑む。


それじゃあ…始めるドン!


戦いの火蓋は切って落とされた…!!


イントロが流れる…


律「(大丈夫だ…ドラムを叩いてるイメージで…)」

いちご「(田井中さんは軽音楽部だよね…一応、用心しとこ…)」


君を見てるといつもハートドキドキ♪


律「……」ダンダンポコポコ


いちご「……」スッポコポンポン


律「(なんだ、いけるじゃん)」タカタカダンダン


いちご「(流石、ドラム経験者…けど、お楽しみはこれから)」ドンチャスッポンポン



律「(サビの部分が勝負だ!)」


あーあ、神様お願い2人だーけーの♪


いちご「……」ダダダダピヨピヨ


律「くっ…!」ダンダン


いちごは、怒涛の如く押し寄せる画面上の○を、コンピューターのように正確に画面上のアイコンを次々と打ち消していく
対する律は…



律「(ダメだ…!ついていけない…!)」



律を置き去りにするように音楽は流れ続ける


ふわふわ時間♪ふわふわ時間♪


いちご「ふぅ…」ホッ


律「(これが…LEVEL鬼か…)」


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最終更新:2011年10月27日 22:20