自信たっぷりにいちごに挑んだ律であったが、完敗であった。


勝てなくとも、もっと健闘するはずだった…だがそれは過信でしかなかった



律「ちくしょう…」チラッ


いちご「……」フッ


律「(ちょっと笑った!?)」


律「ぐぬぬ…いちご!も一回勝負だ!」


いちご「いいけど…」


ここまで馬鹿にされて引き下がるわけにはいかない。王者の微笑が律に火をつけた。


律「(見てろよ…澪、唯、むぎゅ、梓…)」


もはやあるのはドラマーとしてのプライドと、軽音楽部部長としての責任



光男「(律坊に火をつけちまったか…こうなったら少々手強いぜ、おさげの嬢ちゃん)」フーッ



観戦していた光男は煙草を吹かしながら戦況を分析する。初戦は差は歴然であったが



光男「下手したら…」



光男「食われるぜ?」キリッ



学生「おっちゃんジュース頂戴」


光男「あ、はい」


律「(頑張れりっちゃん、負けるなりっちゃん)」ブツブツ



いちご「(なんか言ってる…)」



いちご「準備OK?」



律「よっしゃ、OK!」



2回戦の幕があける…



律「(最初らへんは大丈夫なんだが…問題はサビだ…)」ダンダンポコポコ



いちご「(さすがドラム経験者だけあって…なかなかのセンス…)」 ピョンピョンピョンピョン



イントロやAメロは律が若干のミスをするものの、ほぼ互角といったところだろう



律「くる…!」ダダダダピヨピヨ



いちご「……♪」コロコロコロコロ


律が警戒していたサビのパート
しかし、頭で思っていても体はついていかない。またしても、サビで差をつけられてしまう



Wおうじの勝ちだドン!
太鼓のキャラクターが勝者の名を宣言する



律「ぬぬぬぃぃ…」



いちご「……」フッ



またしても嘲笑うかのように微笑む王者
いかにも、余裕しゃくしゃくといった表情



律「むむむー…!いちごもう1回お願い!」



いちご「うん、いいよ」



光男「(ふふふ、流石に1回や2回で勝てるわきゃあるめぇな、おさげの嬢ちゃんも相当な腕と見える)」



その後も律はいちごに挑み続けた、そしたら2時間過ぎてた。



律「また負けた…」ゼェゼェ


いちご「(なんという執念…)」フゥフゥ



実に29戦29敗
流石にお互い疲れを隠せない。2人の額には汗が滲む


律「ちょっとハーフタイムだ」ヒュウヒュウ



いちご「ええ」ハッハッ



律「(いつの間にかギャラリーがこんなに…)」



すっかり勝負に没頭していた律はギャラリーに気づかなかった。



いちご「(末恐ろしい存在だわ…Rithu Tainaka…)」


いちごの余裕な表情は真剣そのもの、前半の余裕は微塵も感じられない。
1戦終えるごとに律はスコアを着々と伸ばし続けた。
結果はいちごが勝利してきたが、もはや戦いはほぼ互角といっていいだろう。



いちご「(たった2時間でここまで進化するとはね…)」フゥフゥ



いちごはハンカチで汗を拭きながら、体力の回復に勤めた



一方、その頃律は…



律「あーんもう!」ドガンガラガラ



29連敗という記録的連敗という屈辱。
後一歩というところまで来ても勝てない焦燥。
そして財布がやばい。



律「(ゲームオーバーなのか…)」



半ば諦めの表情に変わってきた律



光男「おう律坊、見事な負けっぷりだな」ニヤニヤ



律「うるしゃい」ハァハァ



光男「見ろよ、ギャラリーがあんなに集まってきやがった」



律「ああ…さっきまで気づかなかったよ」



光男「もうギブアップか?」


律「うーむ…まだまだやりたいのは山々なんだけど、財布もやばくてさ…」



それを聞いた光男は煙草に火をつけ、口を開く…



光男「一つ昔話をしようか…お前さんが中坊の時のな」



律「あ?」


光男「この店で格ゲーの大会があったの覚えてっか?」



律「あー…2回戦で負けたけどな」



光男「それだ、お前さんが1回戦で負かした奴はここら辺じゃ有名なゲーマーだったんだぜ」



律「そうなのか!?ふぇー知らなかった」



光男「勿論、その大会でも優勝候補だった。お前さんとやり合ってた時はギャラリーがわんさといたもんだ」



律「ふーん、けど、それがどうしたんだよ」



光男「わからねぇか?今の状況があん時に似てるってことさ」



律「ぽ?」



光男「目立ちたがりのおめぇのことだ、ゾクゾクするだろ」



律「……!」ハッ



光男「オラ行ってこい、いい加減に勝ってきやがれ」


律「……うん!ありがとう、みっちゃん!」



光男の言葉で何かを悟った律、疲弊しきった表情が清々しい笑顔に変わった。


その顔を見て光男は親指を立てた。グッb←こんな感じの


光男「(察しがよくなったな…少しは勉強したか)」ニヤリ


律「(目立ちたがりね…)」クスッ



学祭のライブでもそうだった。普段の練習以上に、沢山の人の前で演奏する時は調子がいい。



律「(今はライブ、このギャラリーは観客だな)」



自分に言い聞かせ、律は戦場に向かう。
太鼓を叩く腕はすでに限界を超えていた。しかし、この独特の集中がそれすらも忘れさせる。



いちご「休憩は終わりね…」


律「ああ…うふふっ」



いちご「!?」



不敵な笑みを浮かべた律を見て、いちごは驚きを隠せない。29連敗し、2時間の激闘を終えて、精神、肉体的にも追い詰められた状況で…



いちご「(開き直り…かな?)」



律「ああそうだ…いちご」ズビシッ



そう言うと律は、いちごの目の前で人差し指を立てた。



律「これがラストバトルな」



いちご「そう…」



王者いちごは感じとっていた、律の変化を。
この表情から初めて恐怖を覚え、一瞬、敗北という文字が脳裏をよぎる…



いちご「(いや、私は負けない…絶対に)」プイプイ



流石、王者である。
首を横にプイプイと振って、不安を一掃する。



いちご「(次が節目の30戦目…いいわ、潰してあ・げ・る)」



そして、ファイナルバトルの幕が開ける…!!



光男「(律坊の奴…敢えて自分を追い込んだか…)」



光男「(大会の時もそうだ、2タテくらった後…3タテ連取で逆転勝ちしやがったんだ)」



今のシチュエーションが限りなくあの時と酷似している。
大舞台、逆境
この2つが律の力が最大限に発揮できる要素なのだ。


光男「(こりゃあ…ひょっとして、ひょっとするかもな…)」



これから始まる最終決戦に思わず武者震いが起きる。


律「よし準備OK!」



いちご「こっちも…OK」


決戦に選んだ曲は「Listen!!」某アニメのEDである。


ギャラリーの喧騒を余所に2人の戦いは始まる



律「……」ダダダダダポンポコ



いちご「(流石に…イントロとAメロではミスはしないか…)」テケテケテケテケ



序盤は2人共ノーミスで切り抜ける。



いちご「やはり勝負は中盤から終盤…!」



2時間に及ぶ激闘で、いちごは周知していた。
とうに2人の腕は激痛で悲鳴をあげていた。握力が段々と弱まってくる。



律「(くっ…いてぇ…)」ズキズキ



いちご「(痛い…よぉ…)」ウルウル



しかし、決してバチは離さない。バチを離すぐらいなら2人は死を選ぶだろう



律「流石だな、いちご」フゥフゥ



いちご「次はサビね…ついてこれる?」ハァフゥ



律「なめんなぁ!」



ウィルシング?歌うよー感じるそのまま♪どんなに小さくても世界で1つの歌♪
画面上に○の嵐が吹き荒れる…!
お互いが雌雄を決さんと最後の力を振り絞る。



いちご「え…!」ダダダダダ



律「(まだまだ…!)」タカタカタカダダダダ



いちごは驚愕する。ついさっきまで最大の弱点だったサビを律は克服。
ギャラリーからどよめきが起きる。



いちご「(なに…なにが起きたの…?)」



律「(へへっ…盛り上がってるな)」


ギャラリーと連動するように律のテンションも上がっていく。



いちご「(この状況で…なんて楽しそうな顔なの…)」スッポコポンポン



律「それそれっ」ポンポンポン



光男「(あれだ、あの表情だ…。覚醒しやがったな…!!)」ゴクリ



曲はサビから間奏に入り。いよいよ勝負は終盤に差し掛かる。



いちご「(負けたくない…絶対に…!)」スッポコポンポン


律「(勝つんだ…!)」スッポコポンポン



最早そこにあるのは、憎しみでも殺意でもない…あるのはプライドのみ

ウィルシング?歌うよー感じるそのまま♪


曲は最後のサビ。
ここまでお互いノーミスで切り抜けてきた。



いちご「(ここまで追い込まれたのは初めてよ…田井中さん…)」ホッ



いちごは敗北はないと確信した。
引き分けであろうと思われた次の瞬間…!





律「まだだ!」



いちご「!!」



リッースン♪
澪が最後の歌詞を言い終えた。その後に、連打が待っていた



律「うおりゃあぁぁ」ダダダダダ



いちご「あっ…」ビクン



律「よっしゃあぁぁ!」



律は雄叫びをあげた。
ハーフタイムを挟み、実に3時間に及ぶ激闘は終わった。



2Pの勝ちだドン!
すげードン!ハイスコア更新だドン!



ギャラリーから歓声があがる。なかには嗚咽を漏らすものまで…


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最終更新:2011年10月27日 22:22