律「(ありがとう…みっちゃん…)」
勝利への助言をくれた光男を見遣る。
光男「……」ニヤリ
光男は煙草を吹かしながら親指を立てる。
「よくやった」と言わんばかりにほくそ笑む
いちご「そんな…私が…負けた…」
王者は放心状態であった。戦績だけ見ればいちごの圧勝であるが、まさか自分のハイスコアを更新されるとは夢にも思わなかった。
律「なぁ…いちご…」
その表情を見て律は心配そうに声をかける。
いちご「うぇっ……」ジワッ
いちごが顔を紅潮させ、涙が頬を伝わる。
律「うっ…おーい、いちごさん?」ギョッ
いちご「ごめんッッ…帰るね…!」ダッ
律「おい…!いちご…!」ダッ
いちごは店から出ていってしまった。
ほっとけるはずはない、すぐに律は追い掛ける。
いちごは店を出て細い路地裏を駆けていく。
悲しみを風が忘れ去ってくれるかもしれない、そんな淡い期待を胸に駆けていく。
いちご「うっ…うぇ…」ポロポロ
しかし、涙は止まらない。負けるはずはなかった。負けてはならなかった。
今まで戦ってきた数多くの強敵達に申し訳が立たない。
まったくの素人に負けた挙げ句、ハイスコアを更新されるという屈辱的敗北。
いちごの心は張り裂けんばかりであった。
律「いちごーーーー!」
いちご「……!」ハッ
後ろから律が駆け寄ってくれる。
律から逃れようと再び走りだすいちご。しかし
いちご「あんっ…」ドシャア
律「おいっ…!大丈夫か?」ハァハァ
いちご「何か用?」ツーン
律「いや…お前が泣いてたからさ…」
いちご「別に…泣いてないよ?」
律「そうかって…嘘つけぇ!」
こんな状況でも強がるいちごに思わず苦笑してしまう。
いちご「敗者に言葉はかけないで…全部、同情みたいになっちゃうから」
律「同情なんかじゃないよ…。ただお礼を言いたくてさ」
いちご「お礼…?」
何を言ってるのだろう…いちごは小首を傾げる。
先程まで死闘を繰り広げた相手にお礼などないはずだ。
律「いちごと戦った30回戦さ…すっげぇ楽しかった!」
いちご「え…」
律「思わず学祭のライブぐらい興奮してさぁ…、それもこれも、いちごのすっごい上手かったからさ」
いちご「(そんな嬉しそう顔しないで…)」
いちごの感情には悔しさや憎しみしかなかった。
しかし、律には一切そんな感情はなく、相手を敬い感謝していた。
いちご「うっ…えっ…」ポロポロ
自分が恥ずかしい。
涙が再びこぼれる。
まさか感謝されるとは思わなかったから…
律「おぉぃ…泣くなって」
ポケットからハンカチを取り出し、頭を撫でながら涙を拭いてやる。
律「(いちごがこんな感情を出すなんて…)」
いちご「すん…すん…」グスッ
いちごが泣き止んだのを見て、律は手を差し出す。
律「いい勝負だった。ありがとうな、いちご」
いちご「こちらこそ…ありがとう…」ギュッ
固く結ばれた2人の手。
2人の間に好敵手(ライバル)という名の絆が生まれた。
いちご「そうだ…」
いちごは鞄からメモ帳を取り出し、何かを書いている。
いちご「はい、これ」サッ
律「ん、いちごの携帯の?」
メモ翌用紙に書かれたのは、携帯番号とメールアドレス。
いちご「また一緒にゲームできたらなって思って…」
少し視線を逸らしている、照れているのだろうか。
彼女なりにはかなり踏み切った行動だったのだろう。
律「オッケー、まだまだ29敗負け越してるからな。こっちからお願いしたいぐらい」
いちご「そうだね」ニコッ
普段は無愛想で大人しい彼女が見せた満面の笑み
律「いちごっちゃん…」
いちご「え?」
律「いや…いちごの笑った顔可愛いなって」
いちご「たっ…田井中さん、おだてるの上手だね」
律「おやぁ、もしかして照れてる?」プニ
いちご「違うもん…」
口では否定するも顔に出てしまっている。その照れた顔を見るといじらしくて…もうね…
律「ふふっ、このあとどうする?」
いちご「あっ…ごめん、今日はこれから塾なんだ」
律「そっかぁ、残念だなぁ…まぁ、あたしがゲームに長い間付き合わせちゃったし」
いちご「ううん、いいの…また今度遊ぼうね」
律「うん、じゃあ後でメールするな」
いちご「うん…それじゃあ」バイバイ
律「またなー」バイバイ
いちごの後ろ姿が見えなくなるまで見送ろう。
名残惜しいけど、連絡先はゲットしたし
律「さてさて…あたしも帰るか」
いちごを見送った後、ゲームセンターに自転車を取りに走ってきた道を戻る律。その先に見据えるものは何なのか…それは誰にもわからない。
~ゲームセンター~
律「ただいま」
光男「おう、新王者のお出ましか」
律「なんだよー、それ」
光男「見ろ、お前らが行った後、あんなに集まっているわ」
律「へぇ…」
太鼓の○人のスペースでは2人の戦いに触発されてか沢山の人だかり。
元々は格闘ゲームが人気なこの店では珍しい光景だ。
光男「まぁ…お前らの記録はそうそう抜かれることはあるめぇ」
律「あのさ…みっちゃん」
光男「あ?」
律「ありがとう、みっちゃんが助言してくれたから…」
光男「ガハハ、今日は売上に貢献したからそのお礼だ」
律「ふふっ、そうだな」
光男「その力を勉強に活かせば頭もよくなりそうなもんだがなぁ」ニヤニヤ
律「うっせー」
久々に来たが、中学の時と変わらずに接してくれる光男。
そこには確かな師弟関係?があった。
律「それじゃあ今日は帰るわ、また来るよ」
光男「おう、気ぃつけてな」
みっちゃんに見送られ、りっちゃんは戦場を後にする…。
律「ふぅ…」
帰り道、律は力無く自転車を漕いでいく。
坂道を登っている様なスピードで、ゆっくりと漕いでいく。
律「(この脱力感…なんだろ…)」
激闘の疲労のせいだろうか、否…!
律「(もっといちごと話したかったな…)」
あのあとできれば、お洒落なティータイムに洒落込み、2人で激闘を振り返り語り合いたかった。
律「メールしよっと」
自転車から降りると、いちごから貰ったメモ翌用紙を取り出し、アドレス帳に登録する。
「いちご」
なんとも可愛らしい名前だろう…。アドレス帳の名前を見てそんなことを思っていた。
律「今日はお疲れっと…」ポチポチ
律「泣き虫いちごっちゃん(笑)…よし…!」
送信が完了し、携帯を閉じる。
いちごは、おそらくまだ塾で勉強をしているだろうが返事が待ち遠しい。
律は再び自転車を漕ぎ始める。
ギラギラと照り付ける太陽。
家に着いた時には日は沈みかけていたが、まだまだ気温は下がりそうにない。
律「ふぃー…あっちあっちぃ」
こんな時は…シャワーでも浴びて、その後にカルピスを1杯ね♪
そうすると、玄関口で脱ぎ始めた。
あらわになる10代の裸体。
ブラを外すと、控えめではあるが、撓わに実った二つの果実。
そしてパンティーを脱ぐと…………………
律「~♪」
開放的な気分になり口笛を吹きながら、風呂場へむぎゅむぎゅう。
シャワーのつまみを思いっ切り捻ると、お湯が汗を洗い流してくれる。
律「ふぅっ、ありがと」
お湯に感謝しながら、頭をシャンプーで洗う。
リンス?そんなものはNo Thank you!!
頭を洗い終わった後は、ボディソープでスポンジを泡立てる。
大雑把なイメージな律だが、体を労るように体をスポンジで擦る。
律「サッパリサッパリ♪」
シャワーで泡を洗い流したらそこはもうパラダイス。
シャワーから上がって、携帯を確認してみる。
画面には、新着メール1件。
律「おっ、きたきた~」
待ちに待った泣き虫いちごっちゃんからの返事だ。
なぜだろう。メールが来ただけなのに、思わず頬が緩んでしまう。
「今日は楽しかったよ。今度は一緒に行こ(ハァト田井中さん上手だけど、次は負けないよ」
律「ハァト…」キュルルン…
この胸の高鳴り…。私はいちごに惹かれているのだろうか。
最初は絡みづらい存在であったはずなのに、たった数時間遊んだだけなのに、
いちごの泣き顔、笑顔を見てから律の中で何かが変わっていく。
律「もっともっと…仲良くなりたいな…」ポチポチ
そんなことを呟きながらメールの返事を打つ。
明日まで辛抱しよう…明日まで待てば、いちごに会える。
「そうだなー。あと、田井中さんは他人行儀だからやめよ(ハァト りっちゃんて呼んでもよろしくてよ?」
まずは呼び名から変えてもらおう。「田井中さん」はよそよそしい感じがするから
律「送信っと…ふぁ…」ピッ
眠気に襲われ、目を擦りながらも返事が待ち遠しい。
律「眠…」ウツラウツラ
律「スー…スー…」
夢の中でも寝ちゃった…
最終更新:2011年10月27日 22:27