律が眠りにつき始めた数分後…携帯は鳴る。
「りっちゃんね、恥ずかしいけど頑張るゆ」
夢の中で眠りについた律は、夢の中で夢を見たそうな…
いちご『りっちゃん…』
律『ん?』
いちご『しゅき…』
律『なんだって…噛んでるぞ…』
いちご『好き…好き…』
律『いちご。まー…落ち着け』
いちご『私のこと嫌い…?』
律『いやっ…そんなんじゃないけどさー…。あたし達女の子同士だよ?』
いちご『嫌いなんだ…』ジワッ
律『ちょっと…泣くなよー…』
いちご『だって…だって…』ジワワッ
律『う…』
いちごの涙に動揺してしまう律。
律『えぇい…もうっ…』
いちご『あっ…』
むぎゅぎゅむぎゅう…
そうっと抱き寄せる。
泣き止んでほしくて、とっさに考えた打開策。
思いは通じたのか、いちごはぴたりと泣き止んだ。
いちご『キス…』ボソッ
消え入りそうな声でいちごは言った。
至近距離で目を閉じキスをせがむ。
律『(これは…キ…キキキ…)』
いちごのおねだりに逆らえる気がしない。
この申し出を断ったらまた泣いてしまうだろう。それは御免だ。
律は観念し、いちごの肩を掴むと
律『じゃ…じゃあ…行くぞ…』
いちご『ん…』
お互いの唇が触れ合う。
律にとって始めてのキス。おそらく、この感触は生涯忘れることはないだろう。
いちごの唇はとても柔らかく、しっとりしていて…ほんのりミントの風味。
律『……ぷはっ』
いちご『嬉しい…』
キスを終えると、いちごは目を逸らす。自分からキスをせがんだものの、照れがあるのだろう。
もちろん、律も心臓の鼓動が聞こえそうなほどに緊張していた。
律『落ち着いた…か?』
いちご『うんっ…』ニコ
律『ははは、現金だなー』
いちごの笑顔を見て、律も笑顔になる。
いちごが、いつも笑顔でいられるように、自分がいちごを守るんだと律は固く決意するのだった…。
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聡「姉ちゃん、朝だぞー」ユッサユッサタユンタユン
律「うぇっ!?」ガバッ
聡「やっと起きたか、んじゃ先行くな」
律「あぁ…」
ロマンチックな夢は愚弟によって終わりを告げた。
あのまま夢が続いてたら…今頃はあんなことやこんなことを…
律「(聡め…覚えてろ…)」メラメラ
復讐に燃えつつも、通学の準備を始める。
律「あっ…!メール」
一通り準備を終え、律は昨晩のいちごとのメールのやり取りを思い出す。
昨晩の最後のメールを確認し、先に寝てしまったお詫びのメールを送る。
律「今日は早めに出よう」
なぜかって?いちごに会いたいからに決まってる。
いつもは遅刻ギリギリな彼女をこうも掻き立てる
律「いってきまーす!」
律母「律!玄関先にパンツ………」
母親が何か言いかけていたが、ドアにその声は遮られた。
律は駆け足で学校に向かった。
早く出たせいか、いつもの通学路が違う道を歩いてるような不思議な感覚になる。
律「涼し…」
風が律のスカートをめくる。
けどそれが?こちとら伊達に死線をくぐり抜けちゃいねぇぜ。
通学路を歩いていると、見覚えのあるおさげの女の子。
律「あっ、おーい!」
いちご「あ…おはよ…」モグモグ
律「昨日はゴメンなー」
いちご「ううん、あのあと私も寝ちゃったから…」
律「そっかぁ」
怒っていないようで安心した。おそらく塾での勉強で疲れたのだろう、少し眠そうな目をしている。
いちご「ガム食べる?」モグモグ
律「おっ、サンキュー…これは…」
彼女から差し出されたガムはミント味。
不意に昨晩の夢が思い出される。あんなに激しい夜を過ごしたのに…いちごは普段と変わらぬ様子だ。
絶対にキスの前にこのガムを噛んでた。
いちご「田井中さん…ミント苦手?」
律「あっ…いやぁ、それよりいちご、田井中さんは止めるんじゃなかった?」
いちご「あっ…」
律「忘れたとは言わせないわよ?」ウフフ
いちご「むむ…」
悪戯に笑ってみる。
少し困った表情で、考え込むいちご。照れがあるのだろう。
いちご「ふぅ」コホン
覚悟を決めたのか、軽く咳ばらいをする苺。
いちご「り…り…」
いちご「りっ…」
律「ぬ…」
いちご「りっちゃ…」
律「りっちゃ?」
いちご「りっちゃ」
律「んはどうした…」プルプル
いちご「りっちゃて可愛い気がする…これで呼ぶね」
律「りっちゃ…まぁ、いいけども」
いちご「りっちゃ、学校行こ」
「りっちゃ」か…
悪くないかもしれない。
お茶の名前ぽいけど…
律「そうだなぁ、けど夏なのにインフルエンザておかしいよなぁ」テクテク
いちご「ミスしたね」ポテポテ
律「夏なら食中毒とかじゃん?」
いちご「うん、>>1が季節設定間違えたんだよ…」
律「だよなー」
何気ないことだけど、いちごが普通に話してくれるようになって、少し嬉しい。
小さな幸せを噛み締める律。
2人で歩きながら談笑し、学校に着いた。
2人でいる時間は短く感じられ、もっと話したいけど、我慢しよう。
律「(放課後に可愛がってやるぜ…ぬふふ)」
いちご「…?何笑ってるの?」
律「いや、どんくらい来てるかな」
いちご「私達だけだったりして…」
律「ははは、そんなわけないだろー」ガラガラ
教室の扉を開けると、そこには…
ドシンッ、ドシンッと揺れる教室。信代が壁に向かって突っ張りをしている。
信代「ふんっ…!ふんっ…!1・2・3・4・ちゃんこ!!」
律「(なんという迫力…!)」
いちご「りっちゃ…怖い…」グイグイ
律「心配すんな、大丈夫だって」
恐怖を感じたのか、いちごがスカートの裾を引っ張り、声をかける。
不安にさせまいと手を握ってやる。
信代「トュルトュトュトュトュトュトュールトュトュトュトュトュ!1・2・3・4・ちゃんこ!」ドドドドド
律「(ぬ…この歌…どこかで…)」
幸いにも奴はこちらの存在に気づいていない…。まともに立ち会えば勝ち目はない。
信代「おう、りっちゃんといちごじゃん」
律「しまっ…」
先手を打つつもりが、先を越された。
信代「珍しい組み合わせだな、おいどんビックリ」
律「いやぁー…たまたま会ってさー」
信代「さぁて…ラストは四股ね!ちょっとうるさいけどごめんね」
いちご「……」ホッ
安堵のため息。
どうやらこちらに敵愾心はないらしい。
律「朝からヒヤヒヤしたぜ…」フィー
いちご「…他はお休み?」
律「そうだなー」
信代の四股を踏む音が響き渡る中、教室を見渡す。
いつもはHRが始まるまでは、賑やかに皆がお喋りをしているものだが…
律「静か過ぎだろう」
いちご「うん…」
今日も休みならいちごとゲーセンに行けたのに…。
そんなことを思う。
さわ子「皆、おはよう」
律「あっ、さわちゃん」
いちご「おはようございます…」
さわ子「こらこら、教室で四股は禁止っていったでしょう」
信代「あっ…すいませーん」ドスドス
さわ子「むぎゅちゃんは?」
律「休みだってさ」
さわ子「(今日のケーキはなしね…)」ガックリ
担任の登場で皆席に着く。とはいっても3人しかいない教室は違和感がある。
席が離れ離れだからだ。
さわ子「むむむ…」
何やら考え込んでいる様子。
さわ子「ふぅ…今日は少ないから皆固まって座りましょう」
律「(やったやったぁ)」
心の中でガッツポーズ。
いちごの隣りに座れる。
律「隣失礼しまーす」
いちご「どうぞ…」
信代「うっす」
律「どうも…」
さわ子「じゃあ…今日は人数少ないから居眠りもできないからね?田井中さん」
律「ぬっ…確かに…」
今日は眠るつもりはないけれどね、ティーチャーー
最終更新:2011年10月27日 22:29