すかさず蹴りあげる。
ヒットしたのは信代の顎。

信代「がっ…しまっ…」


律「顎は急所だもん…」


信代がぐらつく。
強靭な肉体を持つ信代には体を狙っても倒せない、そこで律が狙ったのは、急所である顎。


律「窮鼠猫を噛むとはこのことだな」


信代「てめぇ…!」


再び掴みにかかる信代だが、その手には力なく、かわされる。


律「MAXゲージ消費だ」

律「スクリュー…アッパー!!!」


信代「ぬぐあぁぁ!!」


律の全身全霊の拳が信代に炸裂した。
難攻不落の巨城はここに墜ちた。

律の勝利を合図するようにチャイムが鳴る。


信代「負けた…この俺が…」


天を仰ぎ信代は呟く。
まさかあの状況から、敗北するなど微塵も思わなかった。


律「あぁ…そうそう、後でカチューシャのお金請求すっから」


信代「おk」グッ


教師「ほいほい、じゃあ田井中の勝ちってことで」


死闘は終わった。
先程の雷雨が嘘のように晴れ渡る、
まるで律を祝福するように…


律「(本当に…死ぬかと思った…)」


律「あ…れ?」ガクッ


性も根も尽き果てたのか、力無く膝から倒れこもうとした時、後ろからいちごが支えてくれた。


いちご「はいっ…」ヒシッ


律「いちご…サンキューな」


いちご「すごい血だよ…?保健室で止血しなきゃ」


律「だな…、フラフラする」


いちご「肩貸す」


律「頼むわ」


勝利したとはいえ、体へのダメージは相当大きかった。ひょこひょこと歩く。


いちご「濡れちゃったから着替えも持ってくるね」


律「あぁ…へっくち」


いちご「(可愛いくしゃみ…)」


2人は保健室に肩を組みながら向かった。



一方、信代は…


信代「不覚…!」ギリッ


放心状態のまま土俵の上で仰向けに横たわる。

余裕で勝てるはずだった。相手は格闘技を経験してもいない、まったくの素人。

信代「ふははは…!」


教師「…どうした?」


信代「あまりにも自分が不甲斐なくてさ…」


教師「……」


教師は信代の悔しさが痛いほどにわかった。


信代「まぁいいさ…自分の弱点がわかった、詰めが甘いっつうな」


教師「それがわかったなら、お前はまだまだ強くなれるな」


信代「ありがとう、先生」

信代「(田井中律…その名前覚えておくぞ…!)」


自分に負けをつけた強敵の名を改めて心に刻む。

彼女はさらに精進し、強さを増すに違いないだろう。



~保健室~


いちご「誰もいないみたい…」


律「そっか…いちち」


いちご「りっちゃはベッドで座ってて、救急箱取ってくる」


律「悪いな」


戦闘の興奮状態で気付かなかったが、体のあちこちが痛む。
ヨロヨロとベッドに倒れこむ。


いちご「お待たせ」


律「あぁ…いちごも座れよ、疲れたし、痛むだろ?」

いちご「私は平気、じゃあ…消毒するから」


いちご「おいで」ポンポン


律「(ひっ…膝枕だとぉ…!)」


いちご「ほら…優しくしてあげるから」


律「(それは誤解を招く発言…!)」


律「じゃあ…よっと」ドキドキ


どきまぎしながら頭をいちごの膝に上に乗せる。
程よい柔らかさに、ほのかに香る石鹸の臭い。こんな枕があったなんて…。


律「(ふわふわだぁ…)」


いちご「前髪長いね…」


律「あぁ、そういやカチューシャしてなかったんだ」

いちご「結んだげる」


そういうと、いちごは自分の髪のゴムを解き。律の前髪を束ねて結んだ。

これでパイナップルりっちゃの完成だ。


いちご「ちょっぴりしみます…」チョンチョン


消毒液の染みた脱脂綿が額の傷口にあたる。痛みを紛らわすために律は他のこと考えた。


律「(いちごの太股…いちごの太股…)」


いちご「包帯を巻いたら…完成です」


律「ふぃー、なんかハチマキみたいだなぁ」


いちご「じゃ…脱いで」


律「なっ…!?」


積極的ないちごにたじろぐ。膝枕もこの展開への布石だったのか…


律「(どうしよ…どうしよ…けど、いちごならいいかなー…って何を考えている…!)」


いちご「早く」グイグイ


律「はっ…はい…!」


律は脱ぎ始める。
再びあらわになる律の体。相変わらず、控え目な二つの果実が撓わに実っている。


いちご「はい」


律「は…?」


いちご「着替え、私のだけど同じくらいのサイズだから…」


律「そっか…ははは…」


どうやら思い過ごしだったようだ。
恥ずかしいけど、ちょっとがっかりした自分を許してもらいたい。


律「おっ、ぴったし」


いちご「でしょ?」


律「さぁて…この後の授業はサボるかなー、下校まで寝れそうだし」


いちご「じゃあ…」


律「ぬ?」


いちご「私も一緒に…添い寝したげる」


律「(なんだか…胸がトキメキメモリアル)」


いちご「嫌…?」


律「…なわけないだろ、カモンカモン」


いちご「(やったぁ)」


着替えはしたものの、雨に濡れたので、体を冷やさぬように布団をかぶる。


いちご「ねぇ…りっちゃ…」


律「なんだ?」


いちご「最後に決めた、スクリューアッパーって…何?」


律「あー、あれ?あれは格闘ゲームでキャラが使う技だよ」


いちご「ふふっ…そうなんだ」


律「いや、かっこよく決めたいじゃん?」


いちご「うん、かっこよかったよ…」


むぎゅぎゅ…
手を繋いできたいちご。不思議ともう緊張はしなくなった。

こういことがいとも当たり前な行為のように


いちご「今度、お出かけしよう」


律「いいね、行こうか」


いちご「カチューシャ壊れちゃったから…新しいの買わなきゃね」


律「あとさぁ、この前のゲーセンも行こうぜ」


いちご「うん、格ゲーもやってみたい…」


律「よっしゃ、もちろん太鼓の○人もな」


いちご「うん…」


この2日でかなり親密な関係になれた。
今度の休日の予定を話し合う。


律「ふぁ…」


いちご「おねむ?」


律「うにゃ…まだ平気」


いちご「いいよ、無理しないで」


律「そっかぁ、じゃあ…」

激闘の疲れか、ものの5分もしない内に寝息をたてる律。


律「……」スースー


いちご「(おやすみ…)」ナデナデ


律の心地好さそうな寝顔を見て、いちごは微笑む。本当に無事でよかったと。

額に巻かれた包帯。
痣や傷だらけの顔や体。

それを見て、自分の敵討ちの為にこんな大怪我をしてまで約束を守ってくれた律に感謝していた。


いちご「(りっちゃ…頑張ったご褒美…)」チュ


そっと口づけする。
その、プルプル唇で


律「……」スースー


いちご「(起きてたら恥ずかしいから…///)」


いちご「私も…おやすみ」

熟睡していた律は、いちごの唇が触れたのには気付かなかった。

夢の中で見た夢はシチュエーションは違えど、正夢だったのだろうか。


二人はお互いの温もりを感じながら深い眠りについた。


~~~

聡「おーい、姉ちゃん」


律「うぅーん…いちごぇ…」


聡「…?起きろってば」


律「あ…」ハッ


聡「朝だぞ」


律「(全部、夢だったのか…いいとこだったのに…)」


またしても我が弟に邪魔されてしまった様だ。


律「おい、聡待って」


聡「ん?どうし…」


律「スクリューアッパー!!」


聡「ぐわぁぁあ!!」


律「これで済ましてやろう」スッキリ


聡「な…なんで…」


律「愚弟よ…空気を読めってことさ」


聡「意味わからん…ぐふっ」ガクッ


気を失う弟をよそに、清々しい笑顔の姉。


律「いってきまーす」


律母「はい、気をつけてね。今日は早いのね」


律「~♪」


通学路を歩きながら、あの子を探してみる。
いつもより早く出たのも、あの子に会いたいから


律「あっ、おーい」


いちご「あ…田井中さん…」


いちごは少し驚いた様子。
いつもは遅めに来る律とは通学時会うことはないからだ。


律「いちご、あのさぁ…」

いちご「?」


律「今度、ゲーセン行かないか?」


いちご「え…別にいいけど…」


律「じゃあさ、今度の休日でいい?」


いちご「うん…」


いちごは、律が急にフレンドリーに接してくるのがわからなかった。


律「(現実ではもっと一緒に遊んで仲良くなれますように…)」


「りっちゃ」と呼んでくれないいちごに少し寂しい気もした。
夢の世界のように仲良くなれるのか不安であった律だが、その後、2人の仲はとても親密になったそうだ。



律編終了!



13 ※澪編
最終更新:2011年10月27日 22:31