澪「よし…っと」


中に入れた荷物を確認した後、カバンを閉じる。


澪「(高校生活最後の夏休みか…)」


思い返せば時の流れとは早いもので、気づけばもう最上級生だ。
明日、学校に行けば翌日からは夏休み。今年も紬の別荘で合宿を企画していた。


澪「(エンジョイするぞ~…)」


受験生ということもあり夏期講習もある。それが始まるまでは思いっきり遊ぶつもりだ。


澪「あ…こんな時間か…寝なきゃ」


準備に手こずり、時刻はすでに夜23時。
あさってに備えてエネルギーを充電すべく、ベッドに向かう。


澪「あ、パンツ履いてなかった…」


季節は夏…!!
無防備な下半身を固める。


澪「暑いけど風邪ひいちゃ困るからな」ハキハキ


純白のパンティーを履き終えると、ベッドに横になる。


澪「(ノーパンティー!思い出なんていらないよ~♪)」


澪は寝た。


~~~

雀「チュンチュン」


朝を知らせるかのように小鳥が囀る。
澪が目を覚ましたのは携帯のバイブだった。


澪「ん…ふ…」


澪「律か…」


親友からくる朝のメールの内容は大体予想がつく。
おそらくは、寝坊したから先に行ってて…だろう。


律『先に行ってるよーん、まだ寝てたみたいだから』

澪「え…」


時計を見るとすでに学校が始まる30分前だった。


澪「うわわ…!遅刻しちゃう」


準備に頭がいっぱいで、目覚まし時計をセットしわすれた。
ベッドから飛び起き、大急ぎで制服に着替える。


澪「ちくしょう…!」


自戒の念にかられるが、そんな暇はない。今は一刻も早く学校に向かうことが先決だ。


澪「(遅刻なんて…いやだぁぁぁ!)」


1学期の締め。
ファンクラブの目もある。遅刻などという醜態を晒すわけにはいかない。

発育よく育った胸を揺らしながら、澪は学校へ走った。


澪「はぁっ…はぁっ…」


まだ朝なのに夏場はすでにうだるように暑い。体力の消耗も激しい。


澪「(律や梓なら…身軽なんだろうな…)」プルルンプルン

胸が邪魔だ。地を蹴る度にプルプルと揺れる胸が憎い…。この胸が無かったら…鳥のように空を飛べるのだろうか…



澪「もう少しだっ…」


校舎が見えてきた。
まだ予鈴は鳴っていない。

澪「っっ…セーフ!」


澪の激走は実を結び、なんとか間に合った。

人気のないグラウンドで拳を天に突き上げた。この時の澪の中では、ロッキーのテーマが流れていただろう。


澪「あっつい…シャワー浴びたい…」


当然だろうが、大粒の汗が滴る。しかし、そんなことはどうでもいい…彼女は勝ったのだ。自分との戦いに


澪「ふふっ…」ニコニコ


満足げな表情で澪は教室に向かう。


澪「(危なかった…)」


ぶっちゃけ濡れた。
今頃、クラスでは私が遅れてどよめき始めているだろう。律なんて不安で泣きはじめているかもしれない。
だがな…ヒーローは遅れてくるものさ…


澪「…」スゥ


扉の前で一呼吸おく。
呼吸を整える意味も含め、皆を驚かすためだ。


澪「おっはよー!」ガラガラピシャン!


勢いよく扉を開けると生徒の視線が澪に集まる。


澪「え…」


曽我部「…秋山さん?」


すぐ目の前の席にいたのは、卒業したはずの曽我部先輩の姿が…



澪「なんで…曽我部先輩がっ」


曽我部「クラス間違えちゃった?ここは3年の教室」

澪「」


何が何だかわからない。
教室からクスクスと笑い声が聞こえる。
せっかく派手に登場したのに…こんな屈辱は学祭で縞パンを晒した時以来だ…!

澪「しっ…失礼しました…!」


曽我部「あっ…待って!秋山さん!」


澪「先輩…もういいですよ…」


曽我部「そんなに落ち込まないで」ヨシヨシ


澪「恥ずかしくて死にそう」プルプル


曽我部「大丈夫、私に任せて」


澪「…?」


どうすると言うのか、生徒会長の特権でも使うのだろうか。
訳もわからぬまま先輩の後についていった。


曽我部「じゃあ、ちょっと待っててね」


澪「はい…」


教室の前の廊下に着いた。中からはクラスメイトの声が聞こえる。
なぜだろう、3年生であったはずが2年生に戻っている。タイムスリップでもしたというのだろうか。


澪「(夢…?)」


先輩は何やら先生と話している。それをぼんやりと眺めながら物思いにふける。

曽我部「…はい、私が体調を崩して、それで秋山さんが付き添ってくれたんです」


さわ子「そうだったの、わかりました。遅刻は取り消すわね」


曽我部「すいませんでした」


澪「(先輩…私のために嘘を…)」


曽我部「じゃあ…ありがとうね、秋山さん」


澪「はあ…」


去り際に悪戯なウインクをして先輩はその場を後にした。


さわ子「澪ちゃんご苦労様、出席とるから席について」


澪「はい、先生」キリリッ


後ろめたい気持ちなったけど、先輩の好意を無駄にはできなかった。


律「澪ー、遅いぞー」


澪「いや…ははは…」


案の定、律に茶化された。


澪「合宿の準備で遅くなっちゃってさ」


律「もう準備してんだ?」

澪「ぽ?」


律「まあ、期末試験終わってからだしなー」


澪「(なんだって…)」


おかしい。
確か明日からは夏休みのはずが…


さわ子「はい、皆席ついてー」パンパン


雑談で賑わうクラス教室を静かにさせるために手拍子するさわ子。


いちご「起立…、礼」


皆「おはよーございまーす!」


さわ子「グッモーニン♪私の教え子共」


皆「HAHAHAHA!」


澪「(なんだこのノリ…)」

さわ子「皆、わかってると思うけど…来週から…」



皆「ゴク…」



さわ子「期末試験です♪」


皆「えーーーー!」


さわ子「うふふふふ、タモさんの気分よ」



皆「HAHAHAHA!」


バラエティーの司会のように軽快なトークで皆の笑いを誘う先生。彼女が人気者であるのも頷ける。


澪「(やっぱりおかしい…夢か…?2年生に戻ってる…。)」


皆が笑っている中、澪は考え込んでいた。


期末試験が近々あるらしい。ちっ


律「しばらくは部活禁止だなー」


澪「ああ、まあ少しなら自主練はできるし」


律「澪達はいいよなー、ドラムは持って帰れないしよ」


澪「ビート…刻めよ…!」

律「へへっ、ゲームセンターでやるかな、太鼓の○人てあんじゃん」


いちご「…!」ピク


澪「馬鹿、追試になったらどうするんだよ」


律「ちょっとだけな、明日は土曜だし」


いちご「…!!」ピクピク


澪「やれやれ(いちご…どうしたんだろ…)」


夢の中では律が隣の席だった。唯と紬は別のクラスなのだろうか見当たらない。1時間目が始まるまで雑談で時間をつぶす。


澪「(2年の試験なら楽勝かな)」


現実では3年だったため、ちょっと復習すれば大丈夫だろう…


教師「おーし、じゃあ授業始めっぞ」


1時間目の授業が始まる。


教師「…であるからして~」


澪「」


律「こうか…うん合ってる」


澪「(できない…!)」


どれも見覚えのある問題のはずが、まったく教科書の問題を解くことができない。


澪「(なんで夢の中の律はこんなに頭がいいんだ…)」


律「~♪」


スラスラとノートにペンを走らせる律を隣にして、澪は焦燥する。


教師「秋山ー、この問題解いてー」


澪「はっ…はいっ!えーと…その…」


澪「(わからないよー…)」

律「…!」スラスラ


律が澪のノートに2Xと書いた。


澪「あっ…2Xです」


教師「正解ー」


澪「サンキューな」ヒショヒショ


律「いいっていいって」ヒショヒショ



律のおかげでやり過ごすことができたが、その後の授業もまったく内容を理解することができなかった。


ベル「キーンコーンパンポーン」


4時間目の終業のベルが鳴る。
試験のため短縮授業であり、皆、続々と下校していった。



律「よっしゃー、帰ろうぜい澪」


澪「……」ホゲー


律「おーい、秋山さーん」

澪「(私…馬鹿じゃん…)」

優秀な成績をおさめてきた澪だけにショックだった。

澪「律、先帰ってていいよ…」


律「ええ?ちょっと寄り道しようよー」


澪「居残り勉強していく…悪いな」


律「家でやればいいじゃーん」


澪「いいからテーピングだ!!」クワッ


律「!」ビクッ


澪「あ…ごめん…」


律「ちぇっ、わかったよ。先に帰るもん」


澪「早めに終わったらメールするからさ」


律「へいへい、じゃあな。頑張れよ」


澪「ああ」


律も下校していった。
律は気にしていないようだが、つい声を荒げてしまった…後で詫びのメールを送ろう。


律「あーあ…唯とムギを誘うか」


律「ん?」ギュッ


廊下を歩いていると手に柔らかい感触。


いちご「もう帰る…?」


律「いちご…?そうだけど」


いちご「一緒に遊ぼ」


律「ん…ああ別にいいけど」


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最終更新:2011年10月27日 22:42