ゲシッ
梓「にゃ…」ビクッ
梓「(律先輩か…寝相悪いんだから)」
自分の足に律の足が乗っかっている。当の本人は心地好さそうに眠りについている。
起こすのも悪いと思って足はどけなかった。
唯紬「スースー…」
梓「(なんで…二人とも私に抱き着いてるんだろ…)」
抱きまくらのつもりなのだろうか。抱き着いた時にフィットするからなのか…。
梓「(ちょっと…苦しいけど柔らかいな)」
唯と紬と合わせて4つのクッションが梓を挟む。
それはもう…プルンプルン…と
梓「(明日は練習しよう、今日は遊んでばかりだったけど…)」
場所は紬の別荘。
例年、夏は合宿の場所として使わせてもらっている。
梓「(寝なきゃ…)」プニプニ
明日に備えて眠るため無理矢理目を閉じて眠る。
柔らかな感触を楽しみながら、この二人の枕があれば安眠できるだろう。
梓「(むぎゅ先輩のほうがボリュームあるな…唯先輩の弾力も捨て難いけど…)」
梓「…!」
澪「やれやれ律は…」
トイレから戻ったのか、澪が律の足をどける。さすが巨乳。
梓「(ありがとう…澪先輩)」キュルルルン
梓「スースー…」
律の足がどいたせいか、眠りにつけた様子。
~~~
中野!
梓「へっ…!?」
教師「何をボサッとしてる」
梓「え…あっはい!」
梓「(職員室だ…夢…?)」
間違いない。むぎゅの別荘で寝ていたはずが、職員室にしかも教師を目の前に立たされている。
教師「見ろ、この点数」
梓「はぁ…」
教師「部活に打ち込むのはいいが…ちょっと酷いんじゃないの?」
梓「くっ…」イラッ
怒りを、拳を握り締め抑える。
教師「ギターの演奏より、勉強すべきじゃないのかな?ん?」
梓「(抑えるんだ…梓…)」
なんで怒られなきゃいけないんだという疑問より、自分を抑えることに集中した。
教師「マスタングね…へっ…」
梓「?」
教師「がはは、ロボットかっつーの」
梓「…それは言い過ぎだと思います!」
教師「口を慎みたまえ、中野」ギロ
梓「うぅ…ぬぬぃ…」
殴りたい。体中の力を拳に込めて殴りたい。
しかも誰だこいつ。こんな教師いたっけ…。
梓「はぁ…」
やっと教師の説教から解放された梓。
梓「(イライラする…)」
部活に向かうはずであっただろうが長い足止めをくった。こんな不機嫌な状態で部活に向かうのも…今日は部活をサボろうか…とも考えた。
梓「(いや…負けるな私!)」
そう自分に言い聞かせ音楽室に駆け足で向かう…が。
梓「あっ…いたっ」ドガンガラガラ
梓「ぐぬぬ…」イライラ
階段で躓き転んでしまう。段々とフラストレーションが蓄積されていく。
梓「すいません!遅れました」ガラガラピシャン!
つい、ドアの開け閉めにも力が入ってしまう。
律「お、遅かったなー梓」
先輩方は仲良くティータイムに勤しんでいた。
唯「あ、あずにゃーん」タタタタ
唯「寂しかったよ~」ムギュギュムギュウ
梓「ゆっ…唯先輩、離してください!」
唯「あれ?あずにゃん機嫌悪い」
梓「そんなんじゃないです…」
唯「じゃ、あたしが癒してあげる」ムギュギュムギュウ
さらに強く抱きしめる唯。いつもなら、このスキンシップを嬉しく思っていたはずだった。
梓「唯先輩…離してっください」
唯「よいではないか~」スリスリムギュムギュ
梓「ぬぬにゅにゅ…」イライラ
梓「にゃあぁぁぁっ!!」ブンッ
唯「あっ…わわわっ」
梓の掛け声とともに、唯は宙に舞い床に叩きのめされた。柔道でいう一本背負い
律「おっおい、梓」ガタン
梓「はあっ…はぁっ…」
唯は呆然としたまま動かない。しかし、その目から涙が零れると
唯「なんで…なんでよぉ…」グスッグスッ
梓「あ…」ハッ
梓を我に帰る。
なんてことをしてしまったのだろう。
唯「あたしは…グスッ…あたしは…あずにゃんに元気になって…貰おうと思っただけなのに…グスッ」
梓「あ…あの…」
泣き出す唯にかける言葉が見つからない。
梓「唯…先輩…」
唯「…触らないでよ」
梓「え…」
唯「あずにゃんなんて嫌い!」
梓「そんなっ…」ガーン
唯「律ちゃん、ごめん、今日は帰るね…」
律「あ…あぁ…わかった」
唯が去った音楽室は静けさに包まれた。
元々、ムードメーカー的な存在であった唯が居なくなっただけじゃなく、あんなことがあった後では
梓「…」
後悔の念に襲われる。
唯は悪くない、ただいつも通りに接しただけで、むしろ励まそうとしてくれていた。
それを八つ当たりで避けてしまい、傷つけてしまった。
律「あー…」
澪「どうした?律」
律「しばらく部活は中止だ!今日も終わり!」
梓「そんな…」
律「なぁ、梓」
梓「…はい」
律「何かあったかは知らないが、しばらく頭を冷やすこと。唯と仲直りしたら部活は再開する…いいな?」
梓「わかりました…」
真剣な面持ちで梓に話しかける律。娘を諭す父親の様に…
澪「珍しく部長らしいな」
律「馬鹿、茶化すなよ」
紬「(パパ…)」
律「よし!本日はこれにて解散!行こうぜ皆」
澪「…そうだな」
紬「私は食器洗うから先に行ってて、梓ちゃんも」
梓「…」
律「梓…帰らないのか?」
梓「少しだけ…ちょっと残らせてください」
律「…わかった、澪行こうぜ」
澪「ああ…じゃあ、またな梓、ムギ」
紬「梓ちゃん…」コポコポ
梓「ムギ先輩…」
紬「…」
呼び掛けたもののかける言葉が見つからない。
紬「帰る前にお茶飲んでってね…」
梓「…帰ります、すいません。カップは洗います」
紬「いいの…梓ちゃん帰ってていいのよ」
梓「だけど…」
紬「大丈夫大丈夫。じゃあね梓ちゃん」
梓「じゃあお言葉に甘えて…失礼します」ペコ
紬「バイバイ」
梓は音楽室を後にした。
帰り際にムギが心配そうにしながらも無理に笑顔を作ってくれ、それが胸をチクリと刺す。
梓「(私のせいで…)」トボトボ
梓「(軽音部が壊れちゃうのかな…)」
嫌な思いは募るばかりだった。力無く廊下を歩く梓。
梓「あぅ…」
唯『あずにゃんなんて嫌い!』
唯の言葉が耳にこびりついて離れない。
梓「(なんとか…なんとかしないと…!)」ブツブツ
考え事をしながら歩いてたせいか、すれ違った人の肩にぶつかったのに気づかなかった。
?「おい!」
梓「あ、はい」
?「人にぶつかっといてその態度か…」
梓「すいませんでした、失礼します…」
?「待てや」
梓「えっ…」
肩を掴まれ動くことができない。凄まじい握力だ。
梓「いたっ…痛いです、先輩!」
?「後輩には礼儀をしっかり教えんとな」
梓「(なんで…なんで…嫌なことばかり…!)」
梓「にゃああぁあ!」
?「ぬっ!?」
梓「はあっ…はぁ…」
?「へぇ…お前いい度胸してるよ」
梓「ぶ…ぶつかったのは謝ります!だから…」
?「かかか、声が震えてるじゃねぇか」
梓「それでも向かってくるというなら…相手になります」
梓は一息つくと、身構える。
梓「くらえ!中野流最終奥義!」
?「む…」
梓「猫パーンチ!!」
?「…」
梓「あ…!」
?「足りねぇ…殺意ってもんが」
拳を振りかぶると、梓は目を閉じた。やられる…と思った。
?「辞めだ」
梓「え?」
?「腹が減った」
梓「…」ヘナヘナ
?「じゃな、オチビちゃん」
梓は力が抜けその場に座り込んだまま、大きな背中を見送ることしかできなかった。
梓「うぅっ…えぇ…っっ」
安堵の涙…否!
情けをかけられた悔し涙だった。
梓「うわぁぁん…」ダッ
梓は駆け出した。
子供のように泣きじゃくりながら。
最終更新:2011年10月27日 22:51