外は土砂降りだった。
梓の心境を表すかの様に…

梓「(唯…先輩っ…)」


傘もささずにグラウンドを駆ける。


梓「あっ…!」


ぬかるんだ地面に足を滑らせ転んだ。


梓「うぅっ…」ポロポロ


再び涙が溢れだす。立つことすらできぬ子猫を雨は容赦なく濡らす。
そこに…差し延べられる手


紬「梓ちゃん…」


梓「むぎゅう…先輩…」


紬「立てる?」


梓「あっ…はいっ」


雨で冷えきった体に、暖かい温もりが伝わる。


梓「すいません…傘忘れてしまって…」グシグシ


紬「(泣いてたのね…)」フキフキ


雨粒でごまかされなかった。目は充血し真っ赤だ。


紬「もしもし?紬です……………」


梓「?」グスッ


何やら電話をしているむぎゅう先輩。


紬「家の人が迎えに来てくれるって」パタン


梓「そんな…迷惑かけちゃ」


紬「ぬ」


梓「いやっその…」


紬「大丈夫、私の家に遊びに来たって思えば」


梓「はぁ…」


しばらくすると黒のワゴンが校門の前に到着した。


紬「ご苦労様」


斎藤「はい、どうぞ中へ」

梓「…はい」


梓「(わぁ…広い)」


中へ上がると、昭和の歌謡曲が流れていた。


紬「はい、梓ちゃん」


梓「すいません…」


バスタオルを手渡させる。それはとてもふんわりとした手触り。おそらくは柔軟剤を使っているのだろう。

梓「(むぎゅう先輩の香り…)」モフモフ



~紬家~


紬「さぁ、上がって」


梓「はい…お邪魔します」


梓「ほぁぁ…」


車の広けりゃ家も広い。
キョロキョロと辺りを見回す梓。


梓「へっくち」


雨に打たれたせいか体が冷え、くしゃみをする。


紬「梓ちゃん、お風呂にしましょ?」


梓「いや…そんな…いいです」ズズッ


紬「遠慮はしないで、風邪引いたら困るもの」


梓「えと…じゃあお邪魔します」


紬「ほいきた♪ちょっと待ってて」


梓「はぁい」


麦はスキップで家の奥に行った。バスタオルや着替えを取りに行くためだろう。

梓「……」チョコン


梓は無言のまましゃがみ込む。心身ともに疲れ果て立っているのもちょっと疲れる。


梓「うぅ…いたた」


謎の先輩にやられた痣が疼く。転んだ時に擦りむいた膝も…


紬「お待たせ~…あら?」

梓「あ、はい」


紬「痛む…?」


梓「大丈夫です、さぁ行きましょう」



~風呂~


紬「…」ヌギヌギ


梓「…」チラッチラッ


梓「(むぎ先輩たら…緊張しないのかな?)」ドキドキ

なんだか変に意識してしまう梓をよそ目に紬はいそいそと制服を脱ぐ。


紬「~♪」ハラリ


梓「!」


プツンという音とともにブラが外された。


梓「(柔らかそう…)」ハァフゥ…


紬「梓ちゃん…そんなジッと見られると恥ずかしいわ」


梓「あっ…さぁ行きましょうむぎ先輩!」


紬「はいはい」クスクス


バスタオルを体に巻くと、浴室に向かう。


紬「おいで、梓ちゃん」


梓「いや、いいですよ…自分で洗えます」


紬「いいからいいから」


紬「ゴシゴシ♪」


梓「(世話好きだなぁ)」


梓「じゃあ、むぎ先輩も洗ってあげます」


紬「ありがとう」


梓「…」ゴシゴシ


梓「(色っぽいな…)」


白い肌に金髪が良く映える。18歳とはいえもう大人の体になった紬を見て、自分の体はどうしても見劣りしてしまう。
自分の体は一部のマニア向けであり、紬のようにオールラウンドではない。


梓「むぎ先輩」


紬「ん、なに?」


梓「今日はありがとうございます」


紬「ううん、これも先輩の役目かな…って」


梓「…」モミュモミュ


紬「んっ…」


その時、風呂のドアが開けられた。


律「やぁ、お邪魔するよ」

澪「律、前隠せって…」


梓「えっ…!」


なんだこれは…ドッキリか?まるで銭湯に来たかのように振る舞う律澪。


律「いや…梓が心配でさ、ムギの家に居るっていうから」


澪「お迎えまでしてもらって悪いなムギ」


紬「いえいえ」ニコニコ


梓「先輩方…」ジーン


梓「うっ…うわぁぁん!」


ダキッむぎゅむぎゅ!
梓は抱き着いた。


律「ははっ、裸で抱き着かれるなんて」


梓「澪先輩っ!」


澪「よしよし」


梓「(柔らかい…柔らかいよぉ…)」


その後は律が犬神家の一族のあれをやったり、泳いだりして過ごした。


梓「(唯先輩がいたら…もっと楽しかっただろうな…)」


先輩に感謝しながらも物足りなさを感じる。やはり5人全員が揃わなきゃ駄目だ。


律「ぷはっ、いや~美味いな」


澪「完璧おじさんだな」


律「なんだってー」


梓「…」チビチビ


皆でむぎゅの部屋で牛乳を飲む。しかも瓶だ。


紬「りっちゃん、そろそろ…」


律「ああ、そうだ…」


梓「?」


何かあるのだろうか、枕投げでもするというのか…


律「ふ~んふふーん♪」


律はお面を付けはじめた。

梓「これって…!」


律「唯ですぅ、よろしくお願いしますぅ」


澪「おいおい、真面目にやれよ」


紬「梓ちゃん、りっちゃんを唯ちゃんだと思って仲直りしてみて」


梓「えぇっ」


気持ちはありがたいが…、なんだこのシチュエーション、すべること請け合いじゃないか。


律「さぁさぁ!」


梓「(なんか違う…)」


梓「あっ…あの…唯先輩」

律「あ゛?」ギロ


梓「ひっ」


律「あーあ、あずにゃんに投げられて痛かったな~」

梓「うぅ…」


律「柔道とかいいんじゃないかな~」コキコキ


梓「うぅぅ…」


律「何か言えよコラ」


澪「はい!カットカット」パンパン


一瞬、キットカットと聞き間違えた。


澪「駄目だな…」


紬「そうね…」


律「何がよ」


澪「まず律がチンピラみたいだ」


紬「唯ちゃんって…威圧的と言うよりは、口数が少なくなって暗くなる感じじゃない?」


梓「(映画監督みたいですね、澪紬先輩…)」


律「ぬぬぬ…なら!監督に見本を見せてもらいましょう」


澪「なぬ」


しどろもどろし始める澪。律に無理矢理お面を付けられ、あら不思議、グラマラスな唯先輩だぁ


律「よーし!それじゃスタート!」


梓「み…唯先輩…」


澪「やぁ、梓…にゃん」


律紬「ムプッ…」


梓「この間は本当にすいませんでした」


澪「ああ…」


梓「そのっ…あの…」


澪「梓にゃん、もういいよ。私もどうかしてた」スッキリ

梓「唯先輩…」


澪「これからも頑張ろ!」グッ


律「はい!カットカットカットカット!」


再び映画監督のカットが入る。


律「なんだそのハッピーエンドは…」


紬「うん」


澪「けど、唯はこんな感じかなって…」


律「いやさー…、最終的にはそんな感じになってくれるだろうけどさぁ…」


紬「そこにたどり着くまでの過程がね」


澪「ぬぬぬ…」


梓「(照れてる…)」


澪「ムギに代わる…」


紬「よーし…!」


律「はい!スタート!」


梓「唯先輩…」


紬「あずにゃん!この間は痛かったんだから…」


梓「すっ…すいません」


紬「けどね、いっぱいギュッとさせてくれたら許してあげるっ」


梓「へっ」


紬「えいっ」ムギュギュ


梓「ふぁ…」


シャンプーの香りが梓の鼻をくすぐる。


紬「うふふ」ムギュ゙ュムギュュ


梓「(なんだか…気持ちいいよぅ…)」ポワワーン


律「はいはい!カットカットカットカットカット!」

澪「なんかいい感じだったな」


律「いやまぁ…ムギが単に抱き着きたかっただけな気がする」


紬「えへへ…ばれちゃった」パッ


梓「…」グイッ


紬「え…」


梓「もう少し…もう少しだけ…このままで」


紬「梓ちゃん…///」


澪「律、なんだこの展開…」


律「うん、二人の運命の歯車が動き出したな」


澪「違いないな…」


こうして唯と仲直りしよう作戦は失敗に終わった。


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最終更新:2011年10月27日 22:52