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澪「じゃあ、本題に移るか……」
唯「……うん」
澪「”ゴースト”との遭遇条件。知りたかっただろ?」
澪「梓と同じように”未帰還者”が出たんだ……」
澪「パーティからなんとか聞き出したんだ」
澪「結論から言うと……”ビショップ”」
唯「”ビショップ”?」
澪「そう。共通しているのは、ただそれだけなんだ」
澪「遭遇したパーティは必ず”ビショップ”がいた」
唯「職業が条件なの?」
澪「いや……手っ取り早く”ビショップ”を仕立て上げてもダメなんだ」
唯「……もしかして、レベル?」
澪「いいせんいってるよ」
澪「クラスAコンプリートそして、レベル12以上の”ハイ・ビショップ”」
澪「これが条件だ。間違いない」
澪「ロストした梓はソロで……」

レベル12の……。

唯「”ビショップ”だった……」
澪「唯のレベルは12か13くらいでしょ?」
唯「そうだよ」
澪「その軽く二倍以上の経験値がいる……梓を見ればわかる」
澪「”ビショップ”のレベル上げには膨大な時間とお金がいる……」
澪「それこそ、パーティのバックアップなしには無理だ」

唯「職業を変える気はないよ」
澪「……あんまり言いたくはないけど……そうなると……」
澪「パーティを組むしかない」
唯「……澪ちゃん」
澪「でもな、唯」
澪「”ハイ・ビショップ”自体そうそういるものじゃない」
澪「こんな話には無理があるんだ」
唯「澪ちゃん……」
澪「あと、これ。アヴァロン……アーサー王伝説の方のね」
澪「それについての本とか」
そう言って袋から本を何冊か取り出す。
『アーサー王伝説の起源 C リトルトン&L マルカー』
『アーサー王伝説 R キャヴェンディッシュ』
『アーサー王物語 A ホプキンス』
『アーサー王伝説万華鏡 高宮利行』
高そうなハードカバーばかりだ。
唯「こんなにもらっちゃ……悪いよ」
澪「気にしないでいいよ唯。せっかく買ってきたのに、もらってくれなきゃ私が困る」
唯「ありがとう、澪ちゃん……ぐすっ……」
澪「な、何で泣くの……!?」
唯「ごめんね……澪ちゃん。ありがとう……本当にありがとう」

それから少し、澪ちゃんとお話しました。
唯「外まで送るね」
澪「ごめんな。今日は押しかけちゃって」
唯「いいよいいよ~。また来てね」
澪「ああ、また」
目が真っ赤なままで、澪ちゃんを見送る。


澪ちゃんの姿が見えなくなってから、私は虚空を見上げた。
唯「憂のこと……話してなかった」
ただの偶然だよね。
明日になったら、また帰ってくるよ。
唯「帰ってきたらちょっとだけしからなくっちゃ!」
唯「お姉ちゃんをこんなに心配させてっ、って……」

また涙がこぼれてきた。
涙を袖でぐしぐしと拭って、玄関に入ろうとしたそのとき……。

誰かの気配を感じて、私はとっさに後ろを振り返った。
右手がパッとホルスターの位置に飛ぶ。
でも、腰には何も引っかかってはいない。

真っ白な帽子、ふわふわのコート。
ウェーブした髪。
?「……唯ちゃん」
たくあんのような眉毛。
唯「ムギ……ちゃん……!?」

紬「……求めよ、さらば与えられん……」
ムギちゃんは優雅な、深みのある笑顔で、私に迫る。
重攻撃ヘリを破壊したときと、同じ顔。
唯「どうして来たの……?」
紬「私を必要としているのは、唯ちゃんの方だと思うわ」


家のドアを開けて、ムギちゃんを家に入れる。
このムギちゃんは何かが決定的に違う。
ムギちゃんはこんな裏のありそうな表情をしない。

紬「本物の肉に……本物の野菜……米……」
ムギちゃんはキッチンに置いてあるカレーの材料をちらりと見る。
紬「幸せな姉妹ね」
唯「……!!」
ムギちゃんはわかっている。憂のこと。
でも私はその事を声に出すつもりはないし、表情に表すつもりもない。
紬「私たち人間のためには……本物の酒……タバコ、インターネット」
紬「……閲覧できなくなった知識」
『アーサー王伝説万華鏡』を手に取り、ぱらぱらとページをめくってみせる。
紬「全てアヴァロンの賜物……ソロプレイヤーの特権ね」
紬「ゲームは手段でなく、目的だけどね……」
紬「いろいろと調べさせてもらったわ」
唯「ムギちゃん……」
紬「情報分析能力の高さは”ビショップ”の重要なスキルのひとつだから」


紬「当時、様々な憶測を呼んだ”放課後ティータイム”の解散……」
唯「やめてよ……ムギちゃん」
紬「その詳細は未だ不明」
紬「指揮を無視した”ファイター”が単独でリセットをかけたことが直接の原因……」
紬「そういう人もいる」
ムギちゃんは優雅な笑顔で続ける。
紬「前衛が逃亡したパーティが壊滅する……よくある話よ」
紬「問題があるとしたら……無敵を謳われた”放課後ティータイム”だったことだけ」
私は閉ざしていた重い口をやっとの思いで開いた。
言うべき事はひとつ。
ムギちゃんは”ビショップ”だ。
私はムギちゃんを利用する。
唯「パーティを招集したいの……私含めて6人」
唯「3人の”ファイター”と優秀な”シーフ”、”メイジも”」
そこで私は黙る。
紬「私のことは聞かないのね」
唯「ムギちゃん……教えてくれるの?」
紬「アヴァロンのフィールドでなら、ね」
そう言うとムギちゃんは立ち上がり、玄関に向かった。
紬「お邪魔しました、唯ちゃん」
紬「明日24時に……”高射砲塔22”で会いましょ」

次の日の夜、私は誰もいないロビーのベンチで座っていました。
カウンターでは和ちゃんが各部屋の電気を落としています。

和ちゃんが懐中電灯を持って、シャッターを降ろしに行こうとしたけど、私を見て立ち止まった。
和「唯、そろそろしめるわよ」
唯「ごめん、和ちゃん」
唯「クラスAのフィールドで、0時にムギちゃんと待ち合わせしてるの」
和「そう……」
和ちゃんは私の前に来ると、ベンチに腰を下ろした。
和「ねえ唯……アヴァロンにクラスSAなんて存在しないわ」
唯「え……」
私は和ちゃんを見る。ロビーは真っ暗で、顔は見えない。
和「どれほどリアルでも、ゲームはゲームにすぎない……」
和「クリアを拒むプログラムは、既にゲームとはいえないものよ」
和「だから隠されている……禁断のフィールドとしてね」
唯「和ちゃん……どうしてそれを……?」
和「私も、紬にスカウトされた一人よ」
和「もっとも、プレイヤーとしてではなく、管理者としてだけどね」
唯「紬ちゃんは……何者なの?」
和「彼女はどこからもアクセスしていないわ……つまり、自前の端末で侵入しているのよ」
唯「そんなことが……!?」
和「何の問題もないわ……膨大な設備と資金、それが可能なのは……」

このゲームの、支配者……。

和「悪いこといわないから、紬とはもう関わらないほうがいいわ。唯」
唯「ダメ」
和「どうして?」
唯「”スペシャルA”には……あずにゃんがいる」

和ちゃんは黙ったまま、カウンターに歩いていた。
静まりかえったロビー内に、キーボードを打つ音だけが響く。
和「スタンバイしておいたわよ。9号室で、ゲームマスターが待ってる」
唯「ありがとう、和ちゃん」
和「いいのよ、唯」
個室への通路の電気がつき、私は歩き出す。
和「気をつけてね」


端末を被ると、さわちゃん先生が現れた。
さわ「座標は入力してあるわ、唯ちゃん」
唯「ありがと、さわちゃん」
さわ「私としては、行かせたくはないんだけど……」
唯「ごめんなさい」
さわ「よきゲームマスターは、ゲームに介入しないものよ」
唯「ひとつだけ聞いていい?」
唯「さわちゃんも、どこかの端末からアクセスしてるの?」
唯「……それとも、システムの一部なの?」
さわ「いずれにせよ、あなたにそれを確かめる術はないわ」
唯「そっか……わかった。始めて、さわちゃん先生」


塔のてっぺんに、ムギちゃんはいました。
唯「招集してくれてありがとう、ムギちゃん」
彼女の横には、”メイジ”と”ファイター”がいる。

紬「いずれ、この招集は必要だったわ」
紬「私のことは?」

唯「ムギちゃんは……”九姉妹”……アヴァロンの支配者」
唯「このプログラムの供給者」
ムギちゃんはゆっくりと首を振った。
紬「私は”ビショップ”……使徒の継承者に過ぎないわ、唯ちゃん」
紬「創造主は別に存在するの」
唯「だとしても、向こう側の人間には違いないでしょ?」
紬「スカウトしてあげてもいいのよ?」
唯「その人達と組む自信は、ないよ」
紬「パーティに入る必要はないわ。ここにいる彼らはNPC、人格のないデータ」
”メイジ”と”ファイター”を指さす。
それから、私に微笑んだ。
紬「ねえ唯ちゃん……クリアできそうでできないゲームと、クリア不可能に見えて可能なゲーム」
紬「どちらがい良いゲームかなんて、言うまでもないでしょ?」
紬「その微妙な均衡点を探り、レベルアップしつつ、それを維持する」
紬「それが私たちの仕事よ」

それからちらりと、奥の階段を見て言った。
紬「さて、全員揃ったようね」

唯「……えっ!?」
階段を上ってきた人を見て、私は思わず声を上げてしまった。

?「よう、また組むことになるとはな」
?「ほんと、思ってもいなかったよ」

唯「澪ちゃん……りっちゃん……!!」
澪ちゃんはこの間会ったけど、りっちゃんとは長らく会っていない。
律「おいおい、びっくりするほどたくましくなったな、唯!」
澪「だろ? 律」

ムギちゃんは怖くてちょっと変で、私は前科持ちのソロで、あずにゃんはロストしたけど……。
ここに再び、”放課後ティータイム”が集結したのでした。


Field-class A "Ruins D99" +
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澪「前方の視界に反応なし!」
偵察の澪ちゃんから連絡が入る。

工場の跡地のような廃墟の中を、私たちは前進する。
律「怖がりの澪が偵察とは、すっげえ話だな!」
澪「うるさいなっ、馬鹿律~っ!」
りっちゃんは相変わらず脳天気で、とっても明るいです。

紬「りっちゃん、唯ちゃん、上へ」
自動拳銃を構えたムギちゃんが、私たちに指示を送ります。
紬「マカニト、ジルワン、バディ、前へ!」
NPCと呼んでいた人たちは名前がちょっぴり不思議。

律「唯、ずっとどうしてたんだ?」
足場を渡りながら、りっちゃんが言った。
唯「ここでずっと、一人で戦ってたよ」
律「……そっか。大変、だったんだな」
唯「うん……」
これ以上何も言わなくても、りっちゃんはわかってくれていた。
やっぱり、みんな私の大切な仲間だ。

軋む足場を走り、床に空いた穴を飛び越え、澪ちゃんが前に偵察したポイントまでたどり着いた時、無線連絡が入った。
澪「……大変だ……!」
律「え? 何だって?」
唯「どうしたの、りっちゃん……?」
澪「出たあっ!!」
律「おわっ!!?」
澪ちゃんが大声を上げたのか、りっちゃんのホンから音が漏れてくる。
澪「大変だ……こいつ……!」
澪「”ツィタデル”だああっ!!!」
律「うわーーっ!! 耳いてええ!」
唯「大丈夫!? りっちゃん!?……この音……キャタピラ?」
りっちゃんの悲鳴に混じって、何かものすごい重い車両が走るような音が聞こえてくる。
そしてお腹にまで響くエンジンの音。
律「澪のやつ……”ツィタデル”って言ってたな」
紬「ツィタデル……!? 落ち着いて、澪ちゃん……!」
ツィタデル、クラスA最強のフラグ。
巨大な塔のような戦車で、車体のあちこちが展開して、機銃タレットが現れる。
主砲の榴弾砲は建造物を粉々に吹き飛ばす。恐ろしい敵キャラクター。
紬「クラスA最強の敵でも……弱点はあるわ」
紬「接近戦に持ち込めば、主砲は無力化できるから……」

紬「唯ちゃん、前衛がツィタデルの足を止めるから、あなたは後ろのグリルを狙って」
ムギちゃんから連絡がはいる。
唯「わかった!」
紬「りっちゃんは唯ちゃんを護ってあげて」
律「了解! ムギ」

律ちゃんが機関銃のコッキングレバーを引いて、にこりと笑う。
私もウィンクして、SVDを手に持った。
唯「行きますぞ、りっちゃん隊員!!」
律「了解、唯隊員!!」
二人でいっせいに走り出す。目指すはツィタデルの背後。
不気味な音を立てて走るツィタデルの上を走り抜ける。
敵キャラが召還されて銃撃を浴びせてくるけど、当たるわけもない。
すると数発銃声が聞こえて、敵は撃ってこなくなった。
紬「唯ちゃん、りっちゃん、早く!」
唯「ありがと! ムギちゃん!」

下を見れば、マカニト、ジルワン、バディの3人がツィタデルに銃撃を加えて足止めしている。
私たちも急がなきゃ!
工場の端までたどり着いて、二人で足場から飛び降りる。
そして見事着地。
律「決まってたな!」
唯「もっちろん!」

バシュ、バシュと噴き出すような音が聞こえて、続いて爆発音。
澪「前衛がツィタデルのキャタピラを壊した!」
紬「急いで、唯ちゃん! 持ちこたえられないわ!」
律「行くぞ唯!」
りっちゃんが機銃を撃ちまくって、敵が私を狙えないように弾幕を張ってくれる。
車体のそこら中から機銃が生えて、ツィタデルは私たちを狙い撃ちにしようとする。
紬「マカニト、左上部のタレットを!!」
私の頭上に機銃が弾丸を注ぎこもうとしたところで、RPGが着弾した。
唯「ムギちゃんナイス!」
律「唯! 弾薬が少ない! 急ぐぞ!!」

そして巨大な側面を走り抜け、二人で背後に滑り込む。
唯「やった!!」
敵兵が落としたRPGを取って、ツィタデルの後部エンジングリルを狙う。
トリガーを引き、発射。

初弾は命中。グリルの網の目が吹き飛んだ。
律「こいつを使え!」
りっちゃんが弾頭を投げ渡してくれた。
唯「ありがと!」
次の弾を装填して、再び照準機を覗き込む。
発射、着弾。
律「そらっ!」
次の弾を受け取って、装填、発射。
4枚の展開式安定翼を広げて、ロケットモーターに点火した弾頭は一直線に飛んでいく。

そして着弾と同時にひときわ大きな爆発。ツィタデルの装甲板がバラバラに弾け飛ぶ。

そしてさらに大きな爆発があたり一帯を巻き込み、ツィタデルは消滅した。

Mission Complete


有り余るほどのポイントが表示されて、あたりは沈黙に包まれる。

紬「やったわね……」
澪「……”ゴースト”は?」

りっちゃんが不意に振り返る。
律「あそこだ!!」
澪「っ!!」
唯「……!!?」

みんなが一斉に振り返る中、私は驚愕した。
唯「うそ……なんで……」
私の手から離れたRPGが地面に落ちる。
”ゴースト”は、確かにそこにいた。
哀しい目をした少女が、たたずんでいる。
でも……これっておかしいよ……。


唯「憂……なの?」


そこには、憂がいた。


澪「きゃああっ!!?」
銃声と、澪ちゃんの悲鳴が同時に響いた。
律「澪!!?……この!!」
機関銃を一連射加えられ、澪ちゃんを撃った敵は消滅した。
私は、上の空。

ただ、憂を見つめていた。


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最終更新:2010年01月25日 21:08