「りっちゃんが着たがってたあの高校の制服、お友達から借りられる事になったのー」
ほんの少しの楽器の練習の後、お茶の準備をしながら、いつもと変わらないほんわかとした柔らかい表情でムギが微笑んだ。
「えっ? マジで? ホントに?」
少し大袈裟に私はムギに尋ねてみる。
勿論、疑ってるわけじゃない。
三日前に何となく「あの高校の制服、着てみたいよなー」と雑談のついでに出した話題を、しっかりとムギが覚えていた事に少し驚いたからだ。
その私の驚きを分かっているのかどうなのか、それでもムギはいつもの優しい笑顔で続けてくれた。
「うん。中学の頃のお友達があの高校に通ってて、休日でよければ貸してくれるんだって」
中学の友達から借りられるとか、流石は相変わらずのムギの人脈の広さには驚いてしまう。
あの高校はかなりの進学校で、私なんかじゃ背伸びしても足下にも及ばない偏差値の進学校だ。
しかも、ついでに言うと県外だ。
それなのに、そんな進学校に通う友達が居るとか、どんな人脈だよ……。
「ムギちゃん、すごーい」
そう無邪気に感心した声を上げたのは唯だった。
もっとも、唯の場合はムギの人脈の広さに驚いているのか、何でも出来るムギ自体に驚いているのか、どちらなのかは微妙なところだけど。
「あの高校の制服か。私も着てみたかったんだよな」
普段、さわちゃんの衣装を着る時には、ほぼ確実に無駄な抵抗する澪も意外に乗り気な様子で呟いた。
まあ、あの高校の制服は流石に進学校の制服だけあって、別に露出度とか高くないしな。
最近では際限なく露出度の限界を極めようとしているさわちゃんの衣装を考えれば、あの高校の制服なら内気な澪でも百倍は気楽に着れるだろうし。
不意に視線をやると、何かを言いたそうにしながらも、言い出す機会を見失っている様子の私の後輩を見付けた。
悪戯に微笑み、私は座っていた自分の席から少しだけ身を乗り出して、ツインテールの後輩の頭を撫でてやる。
「大丈夫、大丈夫。成長の様子の見られない梓にもぴったりな制服があるって。なあ、ムギ?」
「なっ……! だから、律先輩には言われたくないです!」
ムギが応じるよりも先に、梓が自分の胸を押さえて赤面した。
胸の事は一言も触れてないのに、相変わらず可愛らしい反応を見せる後輩だ。
まあ、さっきの言葉は胸を見ながら言ったんだけどね。
その私達の伝統となりつつあるやり取りを見守った後、ムギがフォローの言葉を入れてくれた。
「大丈夫よ、梓ちゃん。私の友達にも、梓ちゃんくらいの身長の子がいるもの」
「そうですか……。安心しました。ありがとうございます、ムギ先輩」
本気で自分のサイズの制服があるか心配だったんだろう。
梓は本当に胸を撫で下ろすような表情をしていた。
「でも、ありがとな、ムギ。あの高校の服、女子高生のうちに着ておきたかったんだ」
私が言うと、ムギは給仕しながら、いえいえ、と微笑んだ。
学園祭が終わり、少し秋が深まり始めたこの頃、私達軽音部は受験シーズン真っ直中にも関わらず、ほとんど毎日部室に集合していた。
部室ではお茶をしたり、少し練習したり、やっぱりお茶したり、まあ、大体がそんなところ。
いやいや、勿論受験勉強だってしてるぞ?
私達は高校三年生で、やらなきゃいけない事とやるべき事があって、当然今やるべき事は受験勉強なわけで。
でも、私が、私達が大切にしたいのは、それだけじゃなくて。
こう言うのも照れるけど、放課後に部室に集まって、お茶をしたり、他愛もない事を話したり、
そんな時間が本当に楽しくて、とても大切な時間で、手放したくないくらい素敵な時間なんだと思う。
皆がそう考えているからこそ、こんな受験シーズンにも皆で集まっていられるんだろう。
自分で言うのも何だけど、本当にいい部だなって思う。
これも部長の人望の賜物だな。なんて自慢するわけじゃないけどさ。
「どしたの、りっちゃん?」
私が少しだけ黙っていたのが気になったのか、いつも隣の席に陣取っている唯が私の顔を覗き込んで首を傾げた。
何となく考えていた事を察された気がして、私は軽口を叩く事で誤魔化す事にした。
「いやー、梓くらいの身長の子はいるんだろうけどさ。
梓くらいのスタイルの子がムギの友達にいたらいいよなー、って部長として心配してあげてたんだよ」
そう言うと、やっぱり梓が胸元を押さえて、だから律先輩には言われたくありません、と頬を膨らませた。
ははっ、お約束お約束。
まあ、確かに私も梓の事を言えた立場じゃないのが、悲しいところなんだけど。
「おいおい、後輩をあんまりいじめるなよ、律」
幼馴染のくせに一人だけ嫌味なくらい成長した澪が、諌めるように言いながら肩を竦める。
何だよー、富裕層め。
持つ者には持たざる者の苦しみは分かるまい。
この私と梓のやり取りは、持たざる者同士の魂の触れ合いなのだ。
梓……、おまえだけはずっとこちら側の人間だと信じているぞ……。
そういう思いを込めて視線を移してみると、私の思いには一切気付いていないらしい梓が自分のポケットを探っていた。
こちら側の人間……だよな?
そんな願いも込めつつ、私は梓に訊ねてみる。
「どうした、梓? 忘れ物?」
「あ、いえ、すみません。忘れ物じゃないです。どうも携帯が鳴ってるみたいで……」
「あー、マナーモードにして、制服のポケットとかに入れとくと結構気付かないよねー」
私の質問に答えた梓の言葉に唯があるある的な表情で腕を組んで頷いていたが、
着信音が鳴る状態にしておいても、休日は寝てて着信に気付かない事が多い唯が言っても説得力は無かった。
いや、そんな事は今はどうでもいいか。
ポケットの中から携帯電話を取り出した梓が液晶を見ると、あ、純だ、と小さく呟く。
「すみません、ちょっと電話に出させて頂きますね」
そう丁寧に断ると、梓は席から立って、私達の鞄を置いている長椅子まで歩いて行った。
純ちゃんか……。今度の日曜に遊ぶ約束でもするのかな?
そう軽く考えていた私の耳に、それを打ち崩す非日常的な梓の会話が届いた。
「急にどうしたの、純。え? やっと繋がったって、何? 電波が悪いの?
え? そうじゃないって? うん、今軽音部だけど……。え? 変な冗談やめてよ。
冗談じゃないって……。嘘でしょ?
そんな……、世界が終わっちゃうなんて、急にそんな事言われても……」
世界が終わる?
映画かゲームの話か?
だけど、梓の様子を見る限りとても冗談には……。
突然過ぎる会話の流れに、あまり出来が良いとは言えない私の思考回路ではついていけない。
と。
不意に私の携帯電話のバイブレーターが震え始めた。
いや、私のだけじゃない。
周囲を見渡すと、唯の携帯電話のバイブも震えているようだった。
唯と二人で携帯電話を取り出して、突然過ぎる不自然な着信に不安な面持ちでお互いの顔を見合わせる。
何だ……? 何が起こってるんだ……?
更に数秒後。
その携帯電話の着信を取るより先に、私達の日常を完全に壊す無慈悲な音が響いた。
それは聞き慣れた校内放送のチャイム。
だけど、その内容はあまりにも私達の日常とはかけ離れていて……。
それが私達の……、いや、人類の終わりの始まり。
そして、終末までの長くて短い最後の日常の始まりだった。
――月曜日
自宅でドラムの練習をしていた私は手を止め、ラジカセの電源を入れる。
少し遅れたかと思っていたけど、ちょうど時間はぴったりみたいだった。
軽快な音楽が流れる。
「胸に残る音楽をお前らに。本当の意味でも、ある意味でも、とにかく名曲をお前らに。
今日もラジオ『DEATH DEVIL』の時間がやって来た。
まあ、時間がやって来たって言っても、休憩時間以外は適当に喋ってんのはお前らも知っての通りだけどね。
こんな人類滅亡の寸前で死の悪魔なんて縁起の悪い事この上ないけど、聴いてくれてる物好きなお前らに感謝。
そんな物好きなお前らには今更だけど、一応毎度の番組紹介から入らせてもらうよ。
日曜休みで一日空いたし、もしかしたら初めてこの番組を聴いてくれてる新顔もいるかもしんないしね。
知ってるお前らはトイレにでも行って、スタンバイしといて。
この番組は人類の終わりまでとにかく色んな曲を紹介し続けようって、適当でご機嫌なソウルフルラジオ。
それで、メインパーソナリティーのこのアタシがクリスティーナってわけ。
新顔のお前らがいたらよろしく。
クリスティーナって言っても、本当はガチで日本人なんだけど、その辺りは触れないのがお約束。オーケー?
さてさて、前回の放送から、日曜挟んで遂に訪れちゃった人類最後の一週間。
日本政府が国家非常事態宣言……、誰が言ったか通称『終末宣言』を宣言して一ヵ月半。
宣言されての一週間は暴動やら何やらで、今思い出しても相当に騒がしかったよね。
変な宗教は出てくるし、自暴自棄に適当な暴動を起こす奴等もいるし、そりゃ騒がしかった。
芸能人なんかも海外に逃げ出す奴がいるかと思ったら、急に自分はロリコンだとか、同性愛者だとかってカミングアウトする奴までいる始末。
まあ、海外に逃げ出す奴より、カミングアウトする奴等の方がよっぽど信用出来るけど。
ただあの大御所がロリコンでショタコンでバイセクシャルだってカミングアウトしたのは、流石のアタシでも驚いたけどね。
でも、それだけ皆、最後くらいは偽らざる本当の自分を誰かに知っていて欲しいって事なのかもしれないね。
あ、期待しても駄目だぞ、お前ら。
残念だけど、アタシにはカミングアウトする様な秘密なんか持ってないからね。
強いて言えば、本当は日本人だってことくらい?
それはさっき聞いたって?
こりゃまた失礼。
とにかく『終末宣言』から約一ヵ月半、悟ったのか、飽きたのか、
最近は各地の暴動も沈静化してきたみたいで、ひとまずは一安心ってところだよね。
暴動なんかよりやるべき事が見つかったんならいいけどさ。
ただ最低限の警戒だけは忘れないでよ。
意味不明の暴動に巻き込まれて、終末より先に死んじゃうとかそれこそ馬鹿らしいってもんだ。
願わくば、お前らがこの番組を最後まで無事に聴き終えられますように。
週末まではお前らと一緒!
それがこの番組の最後のキャッチコピーってね。
似合わないって?
ほっといて。
さて、ラジオとは言え、アタシだけずっと喋ってても仕方がない。
そろそろお前らからのリクエストの一曲目といってみようか。
メールだけど、こんな状況でも届くもんだね。
さて、それじゃ今週の記念すべき一曲目、岐阜県のガンレックスからのリクエストで、
L'Arc~en~cielの『Driver's High』――」
放課後、と言うべきなのかどうなのか、とにかく普通だったら全ての授業が終わっている放課後の時間。
私は一人、部室で軽くドラムを叩いていた。
『終末宣言』から約一ヵ月半、多くの同級生が学校に来なくなる中、私はといえばほとんど毎日学校に足を向けている。
勿論、勉強が好きなわけじゃないし、高校生なら学校に登校しなきゃって使命感に燃えてるわけでもない。
人類の終末が近付いているらしいけど、焦って何かをする気にはなれなかったし、この状況で何処かに旅行するのも危険だった。
それにもうすぐ世界が終わるとしても、終わりまではいつも通りの日常が続くわけで、下手に特別な行動を取れるわけでもないわけで。
だからというわけじゃないけど、私は平日休日を問わず登校している。
飽きっぽい私にしては、これは快挙なのかもしれない。
でも……、
「日常に逃げ込んでんのかなあ、私……」
ドラムを叩く手を止め、自分に言い聞かせるように呟いてみる。
世界の終わりが一週間後に迫ったらしい今になっても、私は未だにその実感が湧いて来てなかった。
そりゃあそうだ。
もうすぐ死ぬと言われても、私の身体に異変が起こっているわけでもなし、私自身は健康体そのものだし。
病気にかかっているわけでもないし、大怪我を負っているわけでもない。
これで死の実感を持てと言われても、誰にとっても無理な話だろう。
だけど、思う。
それを実感しないように、私は『終末宣言』前の生活を繰り返してるんじゃないんだろうか。
いつも通りに過ごしていたら、一週間後の世界の終わりなんて夢みたいに消えて無くなって、何事もなくいつも通りの生活に戻れる。
澪をからかって、唯とふざけて、ムギとお茶をして、梓をいじってやる。
そんな変わらない日常が戻って来る。戻れる。
心の何処かでそれを期待してるんじゃないか。
だから、こんな時期になってもしつこく登校し続けてるんじゃないかって、そう思えてしまう。
けれど、そう思えたところで、今更私には他にどうする事も出来ないんだけど。
少しだけ溜息を吐いて、ドラムの練習に戻ろうかと思った瞬間、部室の扉がゆっくりと開いた。
「りっちゃん、おいっす」
扉を開いたのは唯だった。
『終末宣言』以来、私に次いで登校数の多い唯は、やっぱりいつも通りの唯に見えた。
こいつも私と同じように、一週間後に世界が終わるなんて、そんな実感は無いんだろうか。
そんな考えを顔に出さないように、おいっす、と軽く私が返すと、長椅子に鞄を置いて唯が続けた。
「相変わらず早いね、りっちゃん」
「まあなー。家に居てもやる事無いしなー」
「駄目だよ、りっちゃん。時間はちゃんと使わないと青春の無駄遣いだよ」
「家に居ても大体ゴロゴロ転がってるだけのお前が言うな」
「甘いね、りっちゃん。それが私の充実した青春なのです!」
「うわっ、言い切りやがった……」
苦い顔で私が言ってやると、唯はいつもの、してやったり、といった感じの表情を浮かべる。
ホント、こいつはいつでも何処でも変わらんなー。
それが唯の持ち味であり、唯の強さでもあるんだろうな。
『終末宣言』直後、私は軽音部の活動は以降自由参加という形式に変更する事を提案した。
そもそもが自由参加に近い軽音部だけど、あえて言葉にする事で皆の自由意思を尊重する事を伝えたかった。
勿論、誰も欠席するつもりなんてないだろう。
それでも、こんな状況だし、家庭や色んな事情で仕方なく欠席する事も多くなるだろうと思ったからだ。
幸いなのか我が田井中家は放任主義で、
数日家族で過ごすだけで家族の時間は終わって、後は家族各々が自由に過ごすという形になっていた。
少しクール過ぎやしないかと思わなくもないけど、それがうちの家族だし、聡もそれで不満はないみたいだった。
とにかくそれ以来、軽音部の活動に参加する頻度は多い順に私、唯、梓、澪、ムギという順番になっている。
「それより、りっちゃん」
急に真剣な顔になって、唯が言った。
何を言い出すのかと思って身構えたが、次の唯の言葉は本当にいつもと何も変わらない普段通りの唯の言葉だった。
「今日は久々にムギちゃんに会える日だねー。
美味しいお菓子いっぱい持って来てくれるって言ってたし、すっごく楽しみだよねー」
まったく……、こいつは何にしろお茶とお菓子が行動の基準なんだな。
そう思いながらも、私は微笑んでしまっていた。
ムギに会えるのが楽しみなのは私も同じだし、久々のムギのお菓子が楽しみなのも確かだった。
「うん、そうだな……。楽しみだよな、やっぱり。うん……」
「ん? どしたの、りっちゃん?」
つい何度も頷いてしまう私の様子を、唯が不思議そうに眺めながら訊ねる。
自分でも上手くは説明できないけれど、何故だかとても嬉しかった。
多分だけど、こんな状況でも顔馴染みと変わらず顔を合わせられるという事は、きっと幸せな事なんだ。
勿論、そんな恥ずかしい事を私が口に出来るはずもない。
その代わりに私は立ち上がって、唯の近くにまで歩いてからその腕を軽く取った。
「よっしゃ、行こうぜ」
「行くって……、何処に?」
「校門だよ、校門。そろそろムギも来る時間だし、紬お嬢様をお迎えにあがろうぜ!」
「おっ、いいねー。私達で紬お嬢様をお迎えしちゃおう! あ、そうだ!」
「お、どした? 何か面白いアイディアでもあるのか?」
「メイド服を着てお迎えするのはどうかな? ちょうどさわちゃんの服があるし!」
「いや、そこまではせんでいい……。軽音部の負の遺産については触れてくれるな……」
「えー……」
不満そうに唯が頬を膨らませたが、それでもその表情は少し笑っているようにも見えた。
そして、それは私も同じ。
いつもの唯のボケに呆れた表情を浮かべるように演じながらも、こみ上げてくる笑顔を抑え切れない。
馬鹿みたいだけど、本当に心地良い二人の距離。
良くも悪くも、これが私と唯の関係なんだろう。
それは変わらず続くはずだと思う。
世界の終わりまで。
きっと。
ずっと。
「とにかく行こうぜ。お嬢様をお待たせしては、執事の名折れ。遅れるわけにはいかん!」
「あ、メイドじゃなくて、執事って設定だったんだ。じゃあ、さわちゃんの執事服を着るとか?」
少し深呼吸をしてから唯に向けて宣言すると、
途端に笑顔になった唯が、嬉しそうにまた天然なのか本気なのかよく分からない発言をしてくれた。
やれやれ。
まあ、執事とか言っちゃってる私も、唯の事は言えないんだけどさ。
「いや、服に関してはもういい。とにかく行くぞ」
「ラジャー!」
そうして二人で部室から出て、私達はゆっくりと校舎の中を歩く。
お待たせするのは執事の名折れとは言ってみたけれど、実のところムギが来る予定の時間まではまだ三十分近くある。
校舎を二人でゆっくり歩く時間くらいはあった。
さっきまでの騒ぎぶりは何処へやら、私の隣に居る唯は珍しく静かに歩いていた。
私もその珍しい唯の様子を横目に、何となく口を噤んでゆっくりと校舎を見回しながら歩いてみる。
世界の終わりまであと一週間。もう一週間。
来週の月曜日は来ない……かもしれない。
かもしれない、と思うのは私の弱さなんだろうけど、とにかく今週で世界は終わるらしい。
そう考えると三年間過ごした何の変哲もない校舎が、何処となく特別に見えた。
今現在、登校する生徒が全校生徒の三割くらいになってしまった、我らが桜が丘女子高等学校。
登校してくる同級生達も目に見えて少なくなってきていた。
ほとんどの同級生の顔は、よくて数日に一度しか見ない。
逆によく目にするのは和に清水さん、それに意外といちごくらいかな。
関係ないけど、いちごをよく見かけるのは本当に意外だ。
いや、いちごの真似をしているわけじゃないんだけど。
とにかく、そんな生徒の少なくなった私達の校舎を見ながら、私は思う。
勿体ないなあ、って、そう思うんだ。
この光景を見られるのは、あとほんの少しかもしれないのに。
多分、そう思ってるから、私はずっと学校に来てるし、唯もよく来てくれているんだろう。
だから、私と唯は目に焼き付ける。
例え世界が終わらなくて、何事もなく卒業する事になったとしても、それでも。
私達の校舎を大切に思い出せるように。
「あれ、唯に……律?」
最終更新:2011年10月31日 20:36