澪さん……ここではホウワだったが、その部下とも言うべき5人組に至っては沈黙の誓いを立てた修道僧のように無口だった。
だが何よりも私の関心を惹いたのは、このパーティの編成と装備だった。
通常、パーティは様々なミッションにフレキシブルに対応するため、
情報分析に優れたビショップ、正面戦力のファイター、索敵や罠の解除をするシーフ、強力な火器を装備するメイジの4つをレベルを考慮し、バランスよく編成するのが常道とされている。
理屈ではそうなっているものの、これを実際にやってみると意外と難しい。
<アヴァロン>にパーティの上限人数は規定されていないから、いくらでも増やすことはできる。
しかしポイントはパーティ人数で割って配分されるため、人数が増えすぎるとレベルアップどころがアクセス料金を稼ぐことすら危うくなる。
そのためほとんどのパーティは6人程度で編成されているのが現状となっている。
いざ戦闘になると、ファイターは戦力のメインとなるためメイジと並んで重宝されるが、
ビショップやシーフのような装備の重量制限のきつい階級は下手すればお荷物扱いになってしまう。
かといってシーフを省略したために対人地雷に引っかかって壊滅するパーティも少なくない。
ビショップに関しては、私自身不要論者の一人なのだけれど、集団が生き残るためには優秀な指揮官が必要、という原則が今も大勢を占めている。
実際戦場で敵と対峙すればわかることだけど、結局の所ファイターほど頼りになる正面戦力は他になく、これがやられた場合、パーティには壊滅かリセットの選択肢しかない。
<アヴァロン>において増援などというものはなく、戦力を立て直すなどということは意味をなさない。
普通は一人でもファイターが多く欲しいのが、現状だ。
パーティの理想と現実をめぐるこの課題は、様々なプレイヤーの試行を促した。
メイジを増やす、という試みもあった。
しかしメイジは成長も遅く、装備にかかるポイントが莫大なためどんな稼ぎのいいパーティでも一人以上に増やすことは出来なかった。
結局のところ、パーティ編成は通常のバランスに加えビショップやシーフにAKSなどの短小化した突撃銃を持たせる程度、
という現実的な妥協をすることとなった。
そしてこの<ドッグズヘッズ>の編成は、パーティ編成をめぐるあらゆる試行が挫折していった中で比較的まともに検討された編成でもある。
それは、「ファイターによるパーティの純血化」だった。
元来ファイターは<アヴァロン>の標準的な階級であって、良くも悪くも戦闘に必要な全ての技能をバランスよく備えていた。
レベルアップ時に不足となる能力の基礎パラメータにポイントを当て、さらに装備の多様性によってこれを補完していけば、
パーティ全員の戦力化という理想に矛盾することなく指揮、索敵、重火力などに特化したファイターの集団を編成することが可能だ。
しかし現実にファイターだけで構成されたパーティが登場していない理由もまた、<ファイター>という階級独自の性格によっていた。
<アヴァロン>のプレイヤーに共通する心理に、超人願望があることは言うまでもないだろう。
そしてその願望に取り憑かれる人間の多くは個人主義者で、特にファイターにはその傾向が著しかった。
戦闘能力に欠けるビショップ、シーフ、そして金食い虫のメイジ……パーティの存在を前提としたプレイヤーには、帰属意識が芽生える。
しかしそれらと違い、パーティを前提としない自律的な階級であるファイター。
とりわけ帰属意識は上級者のファイターほど薄弱になるもので、
この心理がファイターの純血化をしようとするパーティを阻害する。
”集団は多様性を内包するからこそ求心力を持ち、これを純化する理想によって崩壊する”という一般則に読み替えることもできるが、
私が思うに人間という身勝手な生き物が集団によって理想を追うこと自体に無理があるのだ。
今まで「戦士のパーティ」なんてものが存在したという話は耳にしたことがない。
「うちの交戦規定は簡単なんだ」
と澪さんが接続前のブリーフィングで、それこそあっさりと私に言った。
「誰も逃げない、全員で戦い、全員で帰還する、ザコは相手にしない……質問はある?」
確かに簡単だった。
その通りに行動できる人間がいれば、だけど。
「逃げる人がいたら?」
と訊くと、澪さんは即答した。
「私が殺す」
私は高校時代に何度か目にした澪さんとの変わりように半ば感心し半ば呆れながら、もうひとつ質問した。
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「撤退時の殿を頼みたい。それまでは……自分の身を守っていてくれるだけでいいよ」
澪さんという人もずいぶんと傭兵をナメた奴じゃないかと思ったが、クライアントの意向に添うのが私の営業方針なので黙って肯いた。
この強力な編成で何故傭兵を雇う必要があるのかわからないが、さらにわからないのはその装備だった。
私にはこれが納得できなかった。
ホウワと呼んでくれ、と名乗った由来でもある、TH64。
なぜTH64なのか……しかもどうして全員がTH64なのか。
TH64は自衛隊がその昔に正式化したセレクティブファイア可能な30口径ライフルで、正式には64式小銃という名前だったそうだけれど、<アヴァロン>ではタイプ・ホウワ64――TH64と呼ばれている。
この小銃はガスオペレーションシステムとティルトボルトによるロッキングシステムを組み込んだ、
当時の標準的な性能をクリアした自動小銃のひとつだ。
重量は装弾したマガジン込みで5キロを超え、自動小銃の小口径化が進み始めた当時でも重い部類に入る。
<アヴァロン>での重量制限の基準ギリギリなのは私のFALと同じだけれど、人気の点ではFAL以下だった。
その理由は二つある。
ひとつは、弾薬が308NATO弾であること。
大口径の308弾は高い威力を誇る優秀な弾薬である反面、全自動で発砲した場合制御がきかないという大問題を抱えたシロモノだった。
当時の東側がいち早く小口径高速弾を使用するAK-74
シリーズを開発したのに対し、西側はFALやG3などの30口径弾を使用する突撃銃を採用した。
そして西側は小口径弾を使用する小銃の開発に切り替えるまで、30年近い迂回を経ることとなった。
ちなみにG3はHK33という名称で小口径弾を使用するスケールダウンモデルに生まれ変わった。
FALの方はというと、英国のL1A1のように全自動射撃機構を廃した半自動タイプが普及することになった。
308自体に罪はないが、銃の開発において弾薬の選定がどれだけ重要かが後世に伝えられた弾薬となってしまった。
TH64は308NATOと全く同型の弾薬を使用するように設計されている。
だが、TH64に実際に使用された実績がある弾薬は日本人の肉体的条件に合わせ発射薬を減量した減装弾だったのだ。
TH64のレシーバーは生産性の高いプレス工法ではなく、FALと同じ削り出し加工によって製造されている。
この方式は大量の弾薬を発射しても変形が少なく、耐久性が高いことで有名だが、プレス工法を多用したG3に比べると単価が高価となる。
フルロードの308を使用した実績がなく、しかも高価なTH64は30口径を愛用することの多い傭兵の間でも、コストパフォーマンスの面で疑問を持つ者が少なくない。
そしてもう一つの理由……「幻の名銃」であること。
TH64には軍用銃として必要とされる、「戦場における実績」が存在しない。
TH64の公表データによればその性能は半・全自動ともに高い命中精度を誇り、特に半自動による遠射性能の良さが強調されている。
しかし、そんなカタログデータ……いわば御題目を信じる人間は、現実の兵士にも<アヴァロン>のプレイヤーにもいない。
過酷な環境下で酷使され、「洗礼」を受けた銃が高い信頼を得る軍用銃の世界において、
「専守防衛」をかかげた自衛隊の採用したTH64という銃は、武器の禁輸もあって実戦を一度も体験したことがない「幻の名銃」だった。
<アヴァロン>は可能な限り現実の戦闘を模したゲームであり、特に銃器の設定に関しては入手可能なあらゆるデータを参照している。
しかし<アヴァロン>のシステムがこの類の「幻の名銃」についてどのような評価を下したのかは実はよく判っていない。
このような理由から、現実でも虚構でも評価の定まらないTH64は、プレイヤーたちから敬遠されている。
ちなみに、TH64は現在では小口径の223口径弾を使用するTH89に更新され、余剰銃は廃棄処分された関係もあり現品が存在するならば凄まじいプレミアがつくだろうと言われている。
<ドッグズヘッズ>は澪さんの言った交戦規定通り、他のパーティとトルーパーたちの小競り合いを避けるように慎重に進んでいた。
彼女の指揮は淡々としたもので、ハンドシグナルのみで5人組を自在に動かす様はボーダーコリーを操る飼い主のよう。
正直澪さんが何を目論んでいるのかは、後衛についた私には皆目わからない。
市街地を離れ、一度はずれの橋の前に集合した。
そして先へと踏み込めば、ダミーの遠景の市街地、空、橋すべてが剥がれ、崩れ落ちるように消えていく。
――世界が消失した。
一瞬の意識の中断ののちに、私たちは<ウェイストランド>に立っていた。
プレイヤーたちが荒れ野と呼ぶこの土地は、その見てくれは何もない見捨てられた土地のようだ。
しかし実際は、点在する戦場を繋ぐいわゆる緩衝地帯で、厳密には<アヴァロン>のシステム空間に近いものがある。
地形ではわからない、表示されない接点から全てのクラスにアクセス可能なワールドマップでありながら、戦場でのルールは適応される。
もちろん、敵とのエンカウントも発生する。
<アヴァロン>の開発者たちが何故こんな空間を設定したのかは例によって謎とされているが、
プレイヤーにとっては戦車や攻撃ヘリが遊弋する極めつけの危険地帯でもあり、一度踏み込むと二度と戻れない無限ループのマップでもある。
禁断の土地。
私自身も何度か踏み込んでしまい、セーブポイントを発見する前に道に迷い、惨めにリセットをかけたことがある。
周囲は、ただ茫漠たる荒地が広がっているだけ。
私にはどこが接触点なのかどころが、何もわからない。
私は深く息をつくと、FALを肩に担いで、澪さんがセーブポイントの所在を知っていることを信じてその後を追った。
もしもこんなところで攻撃ヘリが現れたものなら、私たちはたちまち全滅だろう。
爆音が響き、雲間に鴉のようなシルエットが出現したときが、このパーティの命運の尽きるときだ。
……しかし、結局私たちはヘリはおろか、戦車にも遭遇することなく、目的地らしき場所へと到着した。
それが思いがけない運のよさによるものかはわからない。
なぜなら私は、澪さん率いるこのパーティの作戦におおよその見当をつけていたからだ。
緩やかな斜面が這い上がるように小さな丘陵が私たちの目の前に現れた。
そこを登り詰めると、反対側は大きく抉られた崖になっていて、その底には黄昏の空を映した鏡のような湖面が望めた。
5人組が休む間もなく散開すると、湖を囲むようにほぼ等間隔の射撃位置で、TH64のバイポットを開いて伏射の態勢についた。
澪さんも適当な射撃位置を選んでバイポットを開き、膝をついて腰のパウチから抜き出した20連マガジンをいくつか並べた。
「荒野に大物の湧出地があるって噂……本当だったんですね。一体何が湧いてくるんですか?」
澪さんの傍らに腰を下ろしながら訊いた。
「半自動のFALで墜とせるか、試してみたいだろ?」
澪さんが腕時計をちらりと眺め、TH64の銃床を肩に引き寄せながら答えた。
「もちろん、そのつもりで」
私はそう答えて、TH64の排莢を避けるために左側へと移動し、伏射姿勢に入った。
予備弾倉は、準備しなかった。
308を20発半自動で撃ち尽くして、まだ射撃の余裕があるとは思えない。
私は横目で澪さんを見ながら、セーフティレバーを押し上げた。
FALの操作性の高さはまさに理想と呼べるもので、特に射撃に関わるあらゆる操作は追求されたデザインによって容易なものとなっている。
この区画の映像表示処理に、強力な負荷がかかり始めた。
処理落ち……まではいかないものの、周囲の物音がゆっくりと遠ざかり、湖面に映る空が彩度を低下させていく。
表示に重い処理を必要とするオブジェクトが出現する兆しだった。
湖面が大きく歪み、その上空に出現した夥しい数のポリゴンが、周囲のテクスチャを微細に反射させながら、<大鴉>を生み出し始めていた。
<フラグ>と呼ばれる終端兵器の湧出を目撃したプレイヤーは、私の知る限りほとんどいない。
私は目の前に巨大な攻撃ヘリコプターを出現させるシステムの底力を見つけられ、畏怖にも似た感情に圧倒されその荘厳な光景を見つめていた。
大鴉は、アーサー王が死後にその魂を宿した鳥として知られているが、<アヴァロン>ではその撃破が作戦終了の必要条件であるフラグ……
攻撃ヘリMi-24ハインドをその名で呼んでいた。
Mi-24は西側からは「ハインド(雌アカシカ)」と名づけられ、開発した東側では「クラカヂール(クロコダイル)」と呼ばれた。
ちなみに私は多数派にならってハインドと呼ばせて貰っている。
ハインドは旧東側諸国の標準的な地上攻撃用ヘリコプターで、チタンや鋼鉄を使用した徹底した重装甲化が施されている。
そして信頼性の高い駆動システムを併せ持ち、「世界一頑丈な攻撃ヘリ」として知られていた。
もともとは巨大な機体に歩兵一個分隊を搭載した強襲用の装甲兵員輸送ヘリとして設計されていたが、のちに攻撃ヘリとしてその真価を発揮した。
武装は機首のタレットに装備されたYak-B12.7ミリ機銃、スタブウィングにはUB-32対地ロケット弾ポッド4つと「シュトゥールム」対戦車ミサイル4発を装備する。
強襲や地上制圧はもちろん、巨大なペイロードを活かして爆撃や地雷散布すらもこなす一種の万能機でもある。
多くの派生型が生産され、世界中の軍用ヘリコプターをおさえて市場ナンバーワンの売り上げを誇った傑作機だった。
ハインドはその巨大な機体からは想像がつかないほど素早く、超過制限速度は320キロと、ヘリとしては破格の速度を叩き出す。
携行火器の装備しか許されない<アヴァロン>のプレイヤーにとって、<大鴉>を墜とすことがいかに困難であるかは想像に難くない。
有効な対抗手段は、メイジの装備する「スティンガー」携帯対空ミサイルだけだ。
赤外線ホーミングを採用する優秀な対空ミサイルではあるが、これを高い建造物の多い市街地で運用するのは難しい。
建物の隙間から、上空を擦過するハインドを捕捉することは難しく、当たるかどうかわからない一発に莫大なポイントをかけることになる。
それならば、掃射されるのを覚悟でRPGを持って突っ込む方がまだマシだった。
とはいえその直撃すら装甲の厚い部分に当たっては効果はなく、不死身のタフネスを誇る鋼鉄の鴉はあっけなく飛び去ってしまう。
アーサーの生まれ変わりを墜とすためには、凄まじい地上掃射に身を曝す勇気と、それ以上の幸運が必要になる。
それでも根拠のない幸運を信じて、無謀な突撃を繰り返すパーティが後を絶たないのは、<大鴉>を墜とすことには格別の意味があるからだ。
もちろん一度墜とせば全員のレベルアップと装備の一新を果たした上で、闇市で豪遊してもまだお釣りが返るほどの獲得ポイントは魅力だけど、
なによりも<大鴉>の撃墜することで「ミッションコンプリート」の輝く文字を宙に浮かべることは、<アヴァロン>の開発者が試練を乗り越えたプレイヤーに与える最高の栄誉だったからだ。
<アヴァロン>の中に生きる者たちにとって、それはただのゲームの中の名誉としてではない、大いなる名誉。
そして、それは私のような傭兵の端くれにおいても、変わることはない。
<大鴉>が実体化を終え、その巨大なローターを回すべくクリモフガスタービンエンジンが咆吼を噴き上げた。
崖の下から、眼下に上昇してくる<大鴉>の巨体を望む私たちは、狙撃するには絶好の位置についているが、誰も発砲する者はない。
五枚のメインローターが巨体を覆っているからだ。
ローターブレードはステンレスやFRPを使用し抜群の耐弾性能を誇り、取り付け位置にあたるローターヘッドや各種のヒンジは20ミリ機銃弾の直撃に耐える強度を有している。
攻撃のチャンスは、恐らく一度だけ。
上空に上がれば装甲が施された腹しか見えず、機首のガトリング機銃が猛威を振るう。
<大鴉>が上昇をゆるめ、水平飛行に移るため、その長大な尾をこちらに向けて大きく振った。
「撃てぇっ!」
澪さんが声を上げると、一斉に発砲が始まった。
その狙いは私の予想通り、<大鴉>に残された唯一の弱点である尾に取り付けられたテールローターだった。
この形式のヘリコプターは長い支柱の先に取り付けたテールローターの推力でメインローターのトルクを制御しているから、これを破壊されればバランスを失い、制御不能に陥る。
設計者はこの弱点を熟知しつつも、回転を伝えるシャフトを収めた長大な尾部全体に装甲を施すことは不可能だった。
<ドッグズヘッズ>の6人はテールローターに集中砲火を加えた。
それも単なる一斉射撃ではない。巧みに時間差を交えて交互に射撃し、マガジン交換のロスを補い尾を振って逃れようとする<大鴉>の動きに追随して射線を収束させた。
テールローターから火花が吹き上がり、強大な<大鴉>が目の前で身をよじるようにして苦しんでいた。
毎分500発の発射速度でフルロードの308を放つTH64の威力がついに功を奏し、破片をまき散らしてテールローターが停止した。
トルクを制御できなくなった<大鴉>がぐらぐらと揺れて、旋転しながら高度を落とし始めた。
機首をもたげて機銃を最大仰角で射撃し最後の絶叫を上げる<大鴉>は、急速に墜落を始めた。
そして、私の目には信じがたい光景が飛び込んできた。
黄昏の陽光をトンボの目のようなバブルキャノピーに反射させながら、もう一機の<大鴉>が上昇してきた。
「嘘だろ……!?」
澪さんが目を見開いて呟いた。
墜落した<大鴉>の陰から飛び出したもう一機の鋼鉄の鴉は、もはや地上掃射に十分すぎる高度をとっていた。
「伏せろオオっ!!!」
澪さんの絶叫の後、<大鴉>から5つのマズルフラッシュが噴き上がり、私たちは一瞬で爆風に飲み込まれた。
Mi-24ハインドには複数の発展型が存在することは知っての通りだが、今私たちの目の前に現れたのはおそらくその発展型の中のひとつ、武装強化型のMi-24Pだ。
機首の50口径ガトリング機銃は廃され、そのかわりにGSh-30Kと呼ばれる30ミリ機関砲が機体側面に取り付けられている。
30ミリ砲弾は破壊的な威力を誇り、徹甲焼夷弾などを使用した場合は、一キロ以上の距離からでも戦車の分厚い装甲板を貫通してしまう。
「バルカン」などの20ミリガトリング機関砲に初速で劣るものの、その破壊力においては対空戦闘にも十分なアドバンテージを発揮する。
これはただのバリエーションだが、この機体のスタブウィングにはロケットではなく23ミリ機関砲と大量の弾薬を内蔵させたUPK-23ガン・ポッドをぶら下げていた。
旋回するタレットに搭載されていないため、掃射の危険が従来の<大鴉>よりも少ないと思うかもしれないが、それは大きな間違いだ。
戦車を一掃射でスクラップにできるということは、建築物などの遮蔽物も意味をなさないということになる。
「システム側に手を打たれたのか……!?」
ハインドが掃射を1セット終えて飛び去り、次の掃射のため旋回をかける中、澪さんが顔を上げた。
なんと幸運なことか、5人の部下はまだ一人も死んでいない。
「どうやって生き残ります?」
「お手上げだな」
私が訊くと、澪さんは困り果てたような表情で首を振った。
どうやら、死ぬしかないようだった。
最終更新:2010年01月25日 21:29