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スーパーウルトラグレートデリシャス大車輪山嵐分かりづれええええっ!
和と仲がいいだけに優等生コンビだな、とは思ってたんだけど、
ここまで高度で知的なボケを駆使する子だとは知らなかった。
そうして私が呆けた顔をしてるのが面白いのか、高橋さんは笑顔を崩さず続ける。

「終末に邪神とか言ってるから、そういう話なのかと思っちゃって、つい……。
本当にごめんね、りっちゃん」

「風子って本当に北欧神話が好きよね。
でも、風子がそれを言うなら、
私としては終末はキリスト教圏の方を支持したいわね。
天使が七つのラッパを吹く事で訪れる黙示の日。
そっちの方がこれから訪れる終末には相応しいと思うのよ。
大体、これから訪れる終末がラグナロクの方だとしたら、
もう既に巨人族の侵攻が起こってる時期でしょ?」

高橋さんのボケ(?)に更に和が難しい会話を被せ始めた。
やめてくれ……、日本語で喋ってくれ……。
隣に目をやると、唯も私と同じように頭を抱えて唸ってるみたいだ。
頭がいい人と自分が一対一で話すのならともかく、
頭がいい人同士が話すのを傍から見せられる事ほど、どうしようもない事は無いよな、マジで。
特に和は頭のいい天然ボケだ。下手すれば唯の数倍は強敵となるだろう。

これはどうにか空気を変えねばなるまい。
大丈夫。私は居るだけで空気を変えられる事で定評のあるりっちゃんだ。
相手が和達という強敵ではあるけど、違う話くらいは振れるはずだ。

「そ……それよりさ、和。
和が生徒会の仕事をしてたってのは分かるけど、どうして高橋さんと一緒に居るんだ?
高橋さんは別に生徒会ってわけじゃなかったよな?」

私が言うと、唯が和に見えないように私の後ろで親指を立てた。
グッジョブって意味なんだろう。
幼馴染みとは言っても、唯も和の知的過ぎる一面は苦手としてるみたいだ。
私もたまに暴走する澪は苦手だからなあ……。

私の言葉を聞いて、流石の和も自分が高橋さんと話し過ぎてたと実感したらしい。
一つ咳払いをしてから、風に揺らされる眼鏡を掛け直した。

「今日はね、風子には生徒会の仕事を手伝ってもらってたのよ。
風子とは一緒に音楽室に顔を出す予定だったから、それまでの時間、ちょっとね……。
おかげで溜まってた仕事は全部片付いたわ」

「音楽室に顔を出す予定……?」

澪が首を傾げて和に訊ねると、それには高橋さんが応じた。

「うん、そうなの。
昨日ね、唯ちゃんから土曜日にライブをやるってメールを貰ってから、
居ても立っても居られなくなっちゃって……。
土曜日に会える事は分かってたんだけど、それまでに軽音部の皆の顔を見ておきたかったんだ」

「そうなんだ。嬉しいな。ありがとね、風子ちゃん」

唯が笑顔で近付いて、高橋さんの手を取る。
すると、唯に釣られるみたいに、高橋さんも満面の笑顔になった。

「ううん、私の方こそお礼を言わせてほしいくらいだよ、唯ちゃん。
私ってこんな性格でしょ?
終末が近付いてるからって何ができるわけもなくて、図書室でずっと本ばっかり読んでたの。
本を読んでる時だけは、終末に対する不安も見ずにいられたから……。
でも、この前ね、図書室でたまたま会った若王子さんから聞いたの。
こんな時だけど、軽音部がずっと練習してるよって。
多分、最後にライブをしようとしてるんだろうねって。
私……、嬉しかったなあ……。
こんな時でも頑張ってるクラスメイトが居るって思うと、すごく心強くもなったの。
だから、唯ちゃんからメールを貰った時、
私もそのライブを見ていいんだって思うとすっごく嬉しかった。
ありがとう、皆……」

その高橋さんの言葉に、唯は少しだけ呆けていた。
高橋さんが何を言ってくれているか、ちょっと理解し切れていないらしい。
私は唯の近くまで駆け寄って、耳元で「褒められてんだよ」と教えてやった。
少し赤くなって、唯がまた幸せそうな笑顔を浮かべる。
鈍感な奴だが、それも仕方ないかな。
こんなに褒められる事なんて、ライブやった時もそうは無かったからなあ……。
ふと振り返ると、澪達も頬を染めてるように見えた。
褒められ慣れてないから、照れ臭いんだろう。
背中がむず痒くなってる私も、人の事は言えないんだけどさ。

「それにね……」

私達の顔を見ながら、高橋さんが続ける。

「嬉しかったのは私だけじゃないよ。
皆の顔が見たいって子は、他にも居るんだよ」

言うと、高橋さんがグラウンドの端の方に生えてる樹の陰に視線を向ける。
これまで気付かなかったけど、その木陰には見覚えのある人影があった。
小柄で、後ろに髪を束ねている、眼鏡のクラスメイト……。

「宮本さん?」

澪がその人影に向けて声を掛ける。
小さくなりながらだけど、
その人影……、宮本さんはゆっくりと私達の方に歩み寄って来た。
すごく仲がいいわけじゃないけど、宮本さんが照れ屋で赤面症なのは私も知ってる。
それで宮本さんは遠くから私達を見てたんだろう。

「アキヨちゃんもライブを観て来てくれるの?」

唯が嬉しそうな声色で、近寄って来た宮本さんに訊ねる。
宮本さんは赤面しながらも、唯の瞳を見つめながら軽く頷いた。

「宮本さんはね……」

宮本さんが何を言うより先に、和が嬉しそうに微笑みながら言った。
人より先に話し始めるなんて和らしくないけど、
多分、それだけその話を伝えたくて仕方が無かったんだろう。

「宮本さんとはさっき音楽室に顔を出した時に出会ったんだけど、
宮本さんはずっと音楽室の中の様子を気にしてたみたいだったわよ。
人の気配がしないから、本当にライブをするのかって不安になってたんじゃないかしら。
だから、私は宮本さんと一緒に貴方達を捜す事にしたのよ。
練習はあんまりしない部だけど、今はたまたま音楽室に居ないだけで、
ちゃんとライブに向けての準備はする部だって知ってもらいたかったしね」

「普段から練習くらいしとるわい!」

私が口を尖らせて言うと、「そうかしら?」と和が苦笑する。
高橋さんがそんな私達を楽しそうに見つめ、宮本さんも軽くだけど表情が緩んだ。
小さな声だけど、はっきりと宮本さんが言葉を出し始める。

「皆……、最後のライブ、頑張ってね……。
私、応援してるから……。
ずっと皆で、終末なんか関係なく、音楽続けてね?
私、軽音部の音楽、好きだから……。
軽音部のライブ、すっごく面白かったから……!」

こんなに宮本さんの声を聞いたのは初めてかもしれない。
口数が少ない子だし、照れ屋な子だしな。
それでもこんなに話してくれるって事は、
私達の音楽を本当に好きでいてくれてるって事なんだろう。
面白かったって感想は複雑だけど、好きでいてくれてるんならそれでもいいよな。

頑張らなきゃな、と私はまた思った。
和も高橋さんも宮本さんも、
勿論、それ以外の皆も私達のライブを楽しみにしてくれてる。
これはもう私達だけのライブじゃないって感じる。
これは私達放課後ティータイムに関わってくれた皆が、
世界の終わりに見せ付けてやる一大的なロックイベントなんだ。
見せてやろうじゃないか。
神なんだか何なんだか、世界を終わらせようとしてる誰かさんに。
私達は生きているんだって。

「ねえねえ、和ちゃん」

そうやって決心を固める私を置いて、
唯がまた場にそぐわないマイペースな事を言い始めた。

「どうしたのよ、唯?」

「予備の眼鏡とか持ってない?」

「何よ、いきなり」

「だって、皆が眼鏡掛けてるから、私も掛けたくなったんだもん」

「何を言い出すんですか、いきなり……」

呆れた表情で梓がこぼす。
確かにまたいきなり何を言い出すんだ、唯は……。
まあ、唯の言う事も分からないでもない。
今ここに居る軽音部以外のメンバー全員が、見事なまでに眼鏡を掛けてるからなあ……。
妙な所で流行に敏感な唯が眼鏡を掛けたくなったとしても、不思議じゃなくはある。

だけど、残念ながら、和が呆れた表情で唯に返した。

「悪いけど予備の眼鏡は、今日は持って来てないわ。
私の眼鏡をちょっとだけ貸してあげるから、それで満足しときなさい」

「えー……。
皆で眼鏡を掛けて、記念撮影とかしたかったのにー……」

「おいおい。何個眼鏡が必要になると思ってん……」

「ならばその願い、私が叶えてあげましょう!」

私が唯に突っ込み終わるより先に、
その言葉はよく聞き慣れたあの人の声に潰されてしまった。
そう。
その人こそこれまた眼鏡を掛けたファッションパイオニア……、さわちゃんだった。
またいつの間に来たんだ、この人は。やっぱり瞬間移動の使い手なのか?
和と高橋さんは何となくさわちゃんの本性を知ってるみたいだから特に驚いてなかったけど、
無垢で儚げな印象の宮本さんは、さわちゃんのそんな本性に思いも寄ってなかったみたいだった。
若干怯えてる感じで私の方に走り寄って、私の背中の後ろに隠れる。

「また神出鬼没だな、アンタ!」

宮本さんを庇いながら言っってみたけど、
さわちゃんは私の突っ込みを華麗にスルーし、ひどく心外そうな表情で唯に言った。

「もう……、駄目でしょう、平沢さん。
着たい服がある時とか、ファッションに関しての悩みがある時とか、
そういう時はいつでも先生に相談してっていつも言ってるじゃないの」

「あー、そっか。さわちゃんに相談すればよかったんだよね。
忘れててごめんね、さわちゃん」

「次からは気を付けるのよ、平沢さん」

「はーい」

ボケなんだか何なんだか、
和と高橋さんとは違った意味で高次元の会話を交わす唯とさわちゃん。
これはもう私達に踏み入れる領域じゃないな……。

「って、先生。
願いを叶えるって、もしかして……」

澪が不安そうにさわちゃんに訊ねる。
さわちゃんは心底うれしそうに、その澪の言葉に答えた。

「そうよ。貴方達、眼鏡を掛けたいんでしょ?
安心しなさい。被服室に二十個くらい眼鏡を置いてるから、貸してあげるわ。
秋山さん達も遠慮なく掛けたらいいわよ」

どうしてそんなに眼鏡を置いてるんだ、とは誰も訊ねなかった。
さわちゃんはそういう人なんであって、それに対して疑問を持つのは、
何で酸素と水素が結合すると水になるのか、って考えるのと同じくらい無意味だった。
さわちゃんの謎は、そういう自然の摂理みたいなもんなんだ。
それでいいいのだ。

そんなわけで。
筋道を立てて話すのも面倒臭いけど、
何故だか私達はこれから皆で眼鏡を掛ける事になった。




被服室に行ったさわちゃんを見送り、
皆でぞろぞろと音楽室に戻ると、一人の人影が私達を待っていた。
もうさわちゃんが眼鏡を取って来たのかと一瞬思ったけど、そうじゃなかった。
私達を待っていたのは、大きな弁当のバスケットを持った憂ちゃんだった。
私達にお弁当の差し入れを持って来てくれたらしい。
そういえば、もう昼時だ。
気配りのできる子の憂ちゃんに、私達は感心する。
でも、予想外に人数が増えちゃったから、弁当足りるかな。
私達だけで食べるのも、和達に悪いし。
さわちゃんは間違いなく、つまみ食いしてくるだろうし。
……とか思っていたら、
憂ちゃんの持って来てくれたバスケットには、明らかに十人分を超える量の弁当が入っていた。
憂ちゃんが言うには、軽音部のお客様が居ると思って、
念を入れて多めにお弁当を作って来たんだそうだった。
すげー。エスパーか?
本当に準備のいい子の憂ちゃんに、私達は心底感心する。

量的に問題が無くなった事だし、
私達は和達と一緒に一足早めの弁当を頂く事にした。
床にシートを敷いて、憂ちゃんの弁当を広げる。
一応私達が個人で持って来ていた弁当も一緒に並べると、
異常なくらい豪勢な食卓がシートの上にできあがってしまった。
こう言うのも何だけど、最後の晩餐……って感じか?
不謹慎な上に不吉ではあるけど、本当にそんな気がしてくる。
……って、駄目だ駄目だ。
何だかんだと、あの空の光景に少し圧倒されちゃってるのかもしれない。
負けないよう、しっかりしなきゃな。
頭の中に浮かんだ後ろ向きな考えを振り払い、私はどんとシートの上に腰を下ろす。
あぐらを組んだ事を澪に注意されたけど、それは気にしない事にした。
これから訪れる世界の終わりに真正面から向き合うには、
正座で縮こまるより、あぐらで大きく構えてた方がいいと思ったからだ。
勿論、あぐらの方が楽だからってのもあるけどな。

そうして皆で弁当を食べていると、
何故か少し疲れた感じでさわちゃんが音楽室に入って来た。
どうしたのか訊ねると、被服室の眼鏡はすぐに見つけたんだけど、
走って音楽室に来ようとしているところを、古文の掘込先生に見つかったらしい。
それで「終末が近いのに変わらんな」とか、
「そもそも高校生の頃から何も変わってないぞ」とか説教されたんだそうだ。
道理でさわちゃんにしては音楽室に来るのが遅かったわけだ。
普段のさわちゃんなら、下手すりゃ私達より先に音楽室に来ててもおかしくないもんな。

疲れた様子のさわちゃんを尻目に、
唯が興味津々な表情でさわちゃんの持って来た袋の中に手を入れる。
私も唯の腕の隙間から袋の中に目をやると、中には大量の眼鏡ケースが入っていた。


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最終更新:2011年11月01日 00:03