菫「何を……あっ」

菫「あああああっ!」パァァ

菫「よっ、ようこそお出でになられましたぁー! 田井中様!」

律(名前覚えてくれたんだ!)

律「あ、ああ 遊びに来たよ。菫ちゃん」

斎藤「ふむぅ?」

斎藤「あなた様はお嬢様の客人なのでは」

律「えっと、それはそうなんですけど」

斎藤「菫?」

菫「あ、あ、えっと……」

菫「私の事を、見に来て下さったそうです」

斎藤「お前を?」

菫「犬の私を……///」

律(なんかエロいぞ)

斎藤「むぅ」

斎藤「そうか、そういう事なら。では、老いぼれはそろそろ…失礼いたします」

律「あ、はい…」

菫「」ソワソワ

律(そろそろ戻らなきゃ、ムギたちが心配してるかな)

菫「それはそうと、田井中様。どうしてこのお部屋に」

律「ちょっと偶然ね」

菫「偶然……そうですか……」

菫「……このお部屋は――――」


「りっちゃん?」


律・菫「!」

紬「ああ、りっちゃん。ここにいた」

紬「お手洗いの場所 ちゃんとわかったか心配で」ホッ

律「し、心配掛けてごめんな…」

紬「あら、たくわんも一緒だったの?」

律「!」

菫「……」

菫「わ、わん」

紬「よしよし」ナデナデ

律「わんって、おい……」

律「ムギ、その子は!」

紬「たくわんはね、家の中では放し飼いにしてるのよ。だからあっちこっちに行ちゃって」

紬「噛まれたりしなかった? でもこの子とてもいい子だから噛むなんて」

律「いや、そんなことは…」

律(どうなってんだ)

律「ムギ! こ、この部屋はたくわんの部屋って聞いたけれど…」ス

紬「……」

紬「何のことかしらぁ。さ、そろそろみんなのところに戻りましょ」

菫「あ…」

紬「たくわんはどこかで遊んでらっしゃい。ね?」

菫「……」ションボリ

律「……」

唯「あ、りっちゃーん 随分遅かったね~」モコモコ

律「唯……は何やってんだアレ」

梓「犬たちに埋もれるのが夢だった、と」

澪「羨ましい」

律「マジか」

紬「唯ちゃん楽しい?」

唯「うん! しかも温かいし~」

唯「あ、そういえばたくわんは?」

律(ナイスだ、唯!)

紬「ああ! そういえばあの子も見せることになってたのよねっ、ついつい忘れてたわぁ」

紬「でもあの子のこと遊びに行かせちゃったし…良かったらアルバム、写真でいいかしら?」

律(アルバム?)

澪「これは小さい頃のムギ?」

紬「そうよぉ」

梓「わぁ、可愛いっ」

唯「ねー 隣にいるのが?」

紬「そう、たくわん」

律「え……?」

紬「この子はふかふかであったかくて、小さいころからいつも私ベッタリみたいだったらしくて」

澪「あはは、微笑ましいな。な、律?」

律「……」

澪「律?」

律「…そ、そうだな」

律(小さい頃から、たくわんが一緒?)

律(てことはこんな頃から菫ちゃんは犬だったのか?)

唯「写真いっぱいだねぇ」

紬「これは高原で撮ったの、それでこれは」

律「……」

澪「律?」ヒソヒソ

律「え」

澪「もしかして、菫ちゃんって子のことを考えてる?」

律「あ、うん…」

澪「どうも律が言ってた話と合致しないんだけど」

律「私にも、さっぱりだよ」

澪「その子には?」

律「ああ、さっき会えた事は会えたんだけど…」

紬「もう帰っちゃうの?」

唯「うん。もうそろそろ夕飯時だし」

梓「長居もできませんもんね」

梓(これ以上この豪邸にいたら気疲れしちゃいそうだし)

澪「じゃあ、ムギ。また明日、学校でな」

紬「うん! それじゃあまた明日」

ガチャリ

律「……」

唯「りっちゃんさっきから元気なくない?」

律「え、マジで?」

梓「確かに今日は大人しい方でしたよね」

律「生意気な後輩め、うりっ」

梓「ぎゃー!」

澪「はぁ……にしても花壇までこんなに綺麗に…」

律「あー…………ん?」

菫「」チョロチョロ

律「!」タタタ…

梓「律先輩?」

律「おーい!」

菫「え? ……あ!」

律「ふぅ、おっす」

菫「ど、どうもです…」

菫「あの先程は」

律「ああいいって、いいって! 別に気にしてないし」

律「それよりさ、後でいつもの公園に来れないかな?」

菫「はい? いつもの」

菫「……わかりました」ニコ

律「よっし!」

律「いやー、待たせてごめんな!」

唯「さっきの女の子りっちゃんのお知り合い?」

澪「まさか」

律「そう、あの子が」

梓「私はその子見えなかったんですけど」

律「そんなお前らに関係ある子じゃないからいいよ」

梓「な、何がいいんですか…」

唯「とりあえずそろそろ帰ろうよー、私お腹減っちゃって」

澪「お菓子たっぷり平らげてたお前がそれを言うかな」

律「」ウキウキ

律(ちょっと早すぎたか)

律「あそこのスーパーでも行くかな」

律(なんかあそこに由縁があるんだよな、あの子とは)



スーパー


律「」チラチラ

律(どうも気がつくと無意識に探してるな、私)

律「なんでこんなに気になってるんだかな」

律「…ん?」

うろうろ

菫「~……」

律「いた!」ガシッ

菫「えぇっ!?」



公園


律「まさか偶然あそこで会うなんて思わなかったよ」

菫「わ、私もです」

菫「ごめんなさい。すぐに公園へ向かおうとは思っていたんですけど、つい…」

律「つい? 何か探してた?」

菫「……はい」

律「お屋敷にはないものなのか」

菫「ありません。恐らく」

菫「……」

菫「たくわんの好物だった、魚肉ソーセージを探していたんです」

律「……」

律「え、ソーセージ」

菫「はい、ソーセージを」

律「てことは菫ちゃんの好物だったってこと?」

菫「え!? あ、えっと…」

菫「そ、そうなります……ね…」

律「?」

律「そんなの探せばすぐにでも見つかるだろー」

菫「いえ、普通のじゃないんです。よくわかりませんけれど…」

律「ふーん?」

律「何で急にそんな物を探してるんだ? 食べたい?」

菫「そういうわけではないですけど…えと…えっと…」

律「」ゴクリ

律「……ま、いいよ。私飲み物買ってくるね」

菫「ああっ、また!」

律「はい」

菫「いつも私なんかに、ありがとうございます」

菫「…ズルいです。今日は私が買おうと思っていたのに」ムス

律(あ、膨れた)

律「珍しい反応ー。いつもいつも謝られてばっかだったのに」

菫「そう、でしたか?」

律「そうだよ!」

菫「そうでしたか。えへへっ…」

律「!」

律(か、可愛いじゃん)

菫「きっと…田井中さんに出会えたから…」

律「田井中さん――――!?」

律「や、やめろやめろ! なんかむず痒い! おえーっ」

菫「ですけどっ」

律「律でいいよ 律で!」

菫「そんな! 私の様な犬が下のお名前で」

律「いいんだよ! 怒るぞっ」

菫「ひっ …………り、律さん?」

菫「……///」

律「はい。よくできました」

菫「あ、ありがとうございます…」

菫「…えへへ」ニコニコ

律「ん、どうした?」

菫「あ、いえ! 別にそんな!」

菫「……ただ」

律「ただ?」

菫「なんだか、嬉しくて」

律「嬉しい?」

菫「はい。私、お仕事の事もあって、学校で中々友達が作れなくて…」

菫「だから、こうやって普通に話し合えるのが、楽しくて!」

律「お……」

律「そっかー!」

律「私もさ 菫ちゃんと話せて楽しいよ」

菫「ほ、本当ですか!? わ、私よろこんでいただけて幸せですっ!」

菫(よかった、本当によかったよぉ……)

律「それでな、澪が」

菫「す、すごいですね!」

律(本当にこの子といると楽しい)

菫「お父さんとお母さんが!」

律「へぇー!」

律(笑顔を見るだけでこっちまで嬉しくなっちゃうよ)

律「聡って弟がいるんだけどさー」

菫「……///」

律(だ、だけど)

律(恥ずかしがってる顔も見てみたいんだよなぁ、私…)

律(あの時みたいな、死にそうなぐらい恥ずかしそうで、赤面してて)

律(そうだ、私はこの子の『犬』を見たい)

律(犬…犬…犬……)ハァハァ

律「……」

菫「あ、あの」

律「え?」

菫「突然どうしましたか? どこか体調でも…」

律「あ、いや そんな事はない」

律「けど」

菫「はい?」

ゴクリ

律「……ねぇ」

菫「なんでしょう? 律さん」

律「…ま、またアレやってくれよ」

菫「アレ?」

律「あああ、アレだよ…アレ…ほら、アレだ!」

律「わんわんって、鳴いてくれよ……!」

菫「えっ――――!?」

菫「り、律…さん……?」

律「……」

菫「その、あの……どうし、たんですか?」

律「……」

菫「め、目が怖いです……律さん…」

律「なぁ、頼むよぉ」

律「1度、1度だけでいいから…頼むよ…」ガシッ

菫「ひっ!」

律「鳴くだけ、鳴くだけだからさ……!」グイッ

菫「い、痛いっ」

律「菫ちゃぁんっ!」

菫「いっ…………わ、わっ、わん…わん…」

律「もっと、頑張ってよ。聞こえないんだよ!」

菫「わ、わぁ…わっ、わわん! わん! わん! わん!!」

律(ああぁー)

律(そうだ、この顔)

律(この顔がいいんだよ……)

菫「…………っう」ジワァ

律「……は!」

律「あ、えっと、そのっ! ご、ごめん…!」

律「私がどうかしてたよ…な、何だってこんな……」

菫「ぅう、ぅぐっ……ひくっ…あぁぁっ……」ポロポロ

律「ごめんな、ごめんなぁ……」

律「よしよし、よしよし…」ナデナデ

菫「ごめんなざっ…ごめんなさ、い」

菫「わ、私…急に泣き出したりなんかしちゃって……おかしいですよね…」

律「ううん、そんなことない」

菫「律さんは少し私をからかっただけだったのに、私は」

菫「っ……」

律「もういい、もういいんだって。よしよし」

菫「……律さんはどうしてこんなに私に優しいんですか?」

菫「私、そんなに優しくされてしまったら……私…」

律「甘えてくれていいんだよ。だって私と菫ちゃんはもう友達だろ?」

菫「友達…」

菫「は、はいっ!」

菫「あ…そろそろ、帰らないとお嬢様が」

律「そうだな。もうこんなに真っ暗だし」

菫「……」

律「どうした?」

菫「もっと、お話ししたかったなって…すみません」

律「…んー」

律「じゃあこうしよう! 今度の休みに一緒にどこか遊び行こうぜー!」

菫「あ、遊び!? で、でも私お仕事が…」

律「大丈夫。お父さんだって子どものためなら休みの一つくれるはずだって」

菫「……そう、ですね。はい、では1度お父さんに相談してみます!」

菫「だからきっと!」

律「うん じゃあ、その時までな!」

律「って感じでさー!」

澪『たのしそーーーだな』

澪『で、それは私に一々報告する事か』

律「それとそれとー! 菫ちゃんのメアドと番号も交換してだなー!」

澪『はぁ、まるで恋する乙女だな。お前』

律「菫ちゃんは友達だっての」

澪『そー……じゃ、私お風呂入るから』ピッ

律「遊べるかなぁ、楽しみだよ……」


菫『ひっ …………り、律さん?』

菫『こうやって普通に話し合えるのが、楽しくて!』

菫『め、目が怖いです……律さん…』

菫『わ、わぁ…わっ、わわん! わん! わん! わん!!』

菫『ぅう、ぅぐっ……ひくっ…あぁぁっ……』


律「……あ、あはは! あははは!」

律「」ニタニタ


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最終更新:2011年11月14日 20:35