澪「(・・・やっぱり、あのおじいさんのこと、・・・他人なんだけど、ちょっと気になる)」
ヴーッ
澪「!」
『律:良いよー、私もそのおじいさん、ちょっと興味あるし(笑)』
澪「お・・・やった、OKしてくれた」
澪「・・・」
澪「(でもどうしよう・・・行って・・・なにをすればいいんだか)」
澪「・・・うーん、歌詞も・・・つまったな」
澪「(・・・寝るかぁ・・・)」ボフッ
澪「(・・・おやすみ)」
澪「・・・すー・・・すー・・・」
ヴーッ、ヴーッ・・・
澪「・・・ん」
『着信:3件』
澪「・・・」
澪「・・・!っば・・・!もう11時・・・!」
澪「えっと、えっと、確か集合は・・・ああああっ、ごめん律~・・・!」
澪「き、着替え着替え・・・!」アタフタ
澪「ごめん!」
律「遅いぞ澪ー」
澪「本当にごめん!」
律「ったくもう・・・まあ、いつもは私が遅れてるから別にいいけどね」
澪「うう・・・不覚だ・・・アラームで起きられなかったなんて・・・」
律「あはは、よくあるよねー」
澪「ごめんね律ー・・・」
律「だからいいってー、さ、行こう行こう」
澪「・・・うー・・・」
律「さむいなー・・・さすが冬だぁあ・・・」
澪「ああ・・・こう、手先にくるよな」
律「うんうん、じーんってくるよなー・・・学校じゃひどい時はペン持てないし」
澪「あ、それ私もたまにあるー」
律「ほんと、かじかむと辛いよな・・・ベースとかだと弦も冷えるんじゃない?弾けないでしょ?」
澪「あー、あるな・・・それにボディがひんやりしてるし・・・」
律「うっわ、それは嫌だなー・・・」
ザッザッ・・・
澪「・・・ここがそうだな」
律「あ、ここなんだ?全然近いじゃん」
澪「・・・うん」
律「・・・あれ、でもさ」
澪「?」
律「そのおじいちゃんの部屋の番号とかわかってんの?」
澪「・・・あっ」
律「・・・おいおい」
澪「どうしよう・・・」
受付「・・・?はぁ・・・声のしわがれた・・・・と言われましても・・・」
澪「む、無理だって・・・!帰ろうよ!後でおごってあげるから!」
律「あ、諦めてなるものかっ!この病院にいることは間違いないんだっ!」
澪「だって名前も知らないし・・・」
律「部屋をひとつひとつ調べればいいのよっ」
澪「それこそ迷惑だバカっ」
ごつっ
律「・・・どうするんだよ」
澪「・・・どうしよう・・・か・・・」
??「・・・おんや」
律「んぇ?」
澪「・・・あっ・・・!」
老人「おお、こないだお会いした、いやしっかりした女の子じゃないか」
律「(あ、この声だ)」
澪「あ・・・こ、こんにちは、お元気そうでなによりです・・・」
老人「はっは、この人生しぶとさだけが取り柄でしたもんで・・・」
律「あ、あの、澪の友達の律っていいます・・・はじめまして」
老人「・・・ほう、ミオちゃんとリっちゃん・・・か、はっは」
澪「・・・りっちゃん・・・ふふ」
律「な、何がおかしい!?普通だろ!普通!」
澪「・・・ありがとうございますっ」
律「あ、ありがとうございますっ」
老人「はは、いいんだ、もう必要ないからね」
澪「・・・」ポチッ
ジーッ・・・
澪「・・・」ポチッ
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「ううっ・・・やっぱり怖い・・・」
律「デリケートだなー」
老人「・・・はっは・・・」
律「でさでさ、ていうかさ澪ー」
澪「・・・え?」
律「このさ、」ポチ、ポチッ
『アンドゥ ヲ ドウゾ』
澪「ひい・・・」
律「あんどぅをどうぞ ってなんなのかな、気になってたんだけど」
澪「・・・?うーん・・・なんだろうな」
老人「・・・・英語は、わからん」
澪「・・・UN DO をどうぞ・・・かな」
律「?どういう意味?」
澪「えーっとつまり・・・うーん」
澪「やり直しをどうぞ・・・って感じかな」
老人「・・・」
老人「やり直し・・・か・・・ふ、ふっふ」
律「?」
老人「ちょっと、散歩に・・・でかけようかな」
澪「あ、じゃあ私たちも付き添います」
老人「?ほう、こりゃいい、両手に花か、はっは」
律「おじいちゃんは幸せ者だよー、あはは、なーんて」
老人「・・・はは、幸せ者か・・・そうだな」
老人「・・・幸せ者だ、私は」
律「わ、広い庭ー」
澪「・・・病院の近くの公園ってすごいよなー・・・」
老人「いいところだ、じいっと、考え事ができるからな」
律「ふーん」
老人「・・・どっこいせっ・・・っと」キシ
澪「・・・辛くないですか?どこか痛くないですか?大丈夫ですか?」
老人「ん?・・・はは、大丈夫大丈夫・・・一晩ゆっくりしてな、もう元気になった」
澪「・・・・よかった」
律「・・・あー、のどかだねぇ・・・」
澪「・・・だなー・・・」
老人「冬はな、あまり人がいないが・・・夏はもうね、すごい人ですよ、子供が走り回るくらい」
律「へぇー・・・和むなあ・・・」
澪「・・・」
澪「・・・そうだ律、丁度良いし・・・」
律「!」
澪「丁度、もってきてるだろ?」
老人「?」
律「・・・ここでやんの?」
澪「・・・うん、なんだか、気分がいいからなっ」
~♪
ドンドン、ボーンボンボン、
老人「・・・」
ドンドン、ダンダダダン
ボーンボーン
老人「・・・」
ドンドン・・・ドン・・・ダッ・・・ダダダダッ・・・
ドゴォーン・・・ ダダダダ・・・
“突撃ー!怯むな!我々には天皇の加護がついている!”
“軟弱な米兵など、蹴散らしてしまえ!”
“く・・・くそ、何故銃撃が許可されない・・・!”
“このままでは・・・”
老人「・・・!げほっ・・・」
澪「!」
律「!」
老人「ごほっ・・・だ、大丈夫・・・」
律「お、おい!口から血が・・・!」
澪「おじいちゃん!?し、しっかり・・・!」
老人「ぐ・・・ふぁ・・・良い・・・音だったよ・・・はっは・・・かはっ・・・!」
澪「しっかり・・・!だ、誰か・・・誰か!救急車・・・!」
律「落ち着け澪!病院は目の前だ!」
老人「はぁ・・・はっ・・・は・・・っ・・・!」
老人「(・・・帰れる・・・帰れる・・・帰りたい・・・戻りたい・・・)」
老人「(もう・・・罪は償った・・・いや、わからない・・・だがやれることはした・・・)」
老人「(・・・もう、良い・・・終わりだ・・・帰ろう・・・やっと・・・)」
ガラガラガラ・・・
老人「はっ・・・はっ・・・」
澪「大丈夫・・・もうすぐ手術室につくからな・・・!」
老人「・・・はっ・・・は・・・」
澪「やだ・・・やだやだやだ・・・」
ガラガラガラガラ・・・
老人「・・・ミオ、ちゃんか・・・」
澪「・・・え?」
老人「・・・悔いの・・・ないように、なッ」
老人「ガボッ・・・ごほ、っ・・・っ・・・」
澪「・・・・~!!」
律「澪!もういい!」
澪「で、でも・・・!・・・うう・・・!」
“手術中”
澪「・・・くすん・・・くすん・・・」
律「・・・」
澪「律・・・怖いよ・・・人が、目の前で・・・人が・・・」
律「・・・・私だって・・・はじめてだって」
澪「・・・ううっ・・・」
律「くそ・・・演奏の途中で死ぬなんて・・・やめてくれよ・・・」
澪「・・・私のせいだ・・・本当は庭へ散歩に行くなんて・・・無理だって、わかってたのに・・・」
律「・・・澪は悪くないよ」
律「・・・寿命・・・だったんじゃないの」
澪「・・・」
老人「・・・っ・・・」
十字砲火・・・生還できたのは、私が腰ぬけだったから。
いや、わかっていた。みんな逃げたかっただろう。勝てるはずがないとわかっていたのだ。
だが私はみんなよりも遥かに腰ぬけで、その砲火をみるなり、すぐに逃げてしまった。
逃げ、さまよい続けた揚句に捕虜となり、死んだ仲間の仇などうつこともできず。
ただ、あの気立てのいい米兵が差し出してくれた粥を・・・うまそうに食った。
死んだ仲間はこれを食えないのに。
教えられたうちでは、米兵は鬼畜であるという。
…そうでもない。少なくともこの作戦の指揮官よりは。
そんなとき、事件が起きた。この檻での生活にも慣れて数日数週間後のこと。
仲間が助けにきたのだ。
それは夜襲。檻を破り、私を逃がそうとしてくれた。
そこに居合わせていた“敵”はひとり。
私に優しく接してくれていた、気立ての良い米兵だった。
米兵は捕えられた。逆の立場だ。
森林をさまよい続ける過酷な生活。
逃亡劇の終わりは、袋につめられた兵糧の少なさが語っていた。
だが。
だが。
…ああ。
何故だ。
やり直したい。やり直したい。許されるのならあの時へ。
『UNDO ヲ ドウゾ』
最終更新:2010年01月25日 23:54