「いらっしゃいませー」

純「やった、梓ー!」

純「まだクリアファイル置いてた! しかも一杯!」

梓「……驚いた。てっきりもう無くなってるとばかり思ってたのに!」

純「1枚ずつゲットしちゃえー」

梓(フェアは繰り返すたび、難易度が下がる)

純「ほら、あずぐるみもまだあるよ」

梓「!」

梓「都内のコンビニでしかも夕方! なのにまだぬいぐるみが存在してる!?」

梓「もしかして私のぬいぐるみは人気がないのでしょうか!?」

「さぁ、僕に聞かれましても」

梓「くっ……!」

「ありがとうございましたー」

純「えへへ、買っちゃったぁ」

梓「良かったね」

純「梓はよかったの? ファイル」

純「またいつかみたいにどこに行ってもないみたいなことになると」

梓「私はいいの。今回のフェアには参加しない……金欠で」

梓(今月調子に乗って、アルター憂とフィギュアーツナイト買っちゃったし)

純「え、じゃあ一番くじは? フェアと同時期なんだよ!?」

梓「……たぶん、やらない」

梓(もうお小遣いの先借りはできないし、そんな私に来月まで収入は期待できない)

純「どうした、梓……」

梓「もういいんだよ。私の運は前回で尽きた……」

梓「私は、燃え尽きて死んだんだよ」

梓は、変わった
戦争は、ない

けいおん!!(パーティ時間)一番くじ発売中


(残り3回! これが最後! 最後です!)
「お客さん! 早く」
「わあああああああぁぁぁああああああああああああああああああ!!」


梓「私はこれまで戦った。私のために」


「む、ムギ先輩……」
「なぁに? 梓ちゃん」
「ぷぷぷっ、プレゼントです!! よければ貰ってくださいぃっ」ドッサリ
(こんなに可愛くてキラキラしてる笑顔が見れたんだから……いいんだよ)
「ハッピーバースデー! ムギー!」


梓「何も後悔はないよ。だから今回は……ううん。もう、これからは」

梓「一番くじをスルーします」

純「あ、梓……そんな」



自室

唯『もうすぐ劇場版けいおん!の公開日だね~』

梓「そうですね。とっても楽しみです!」

唯『あずにゃんが前売り券5枚も持ってたおかげでみんなで行けそうだねぇ』

唯『りっちゃんも澪ちゃんもムギちゃんも! 全員でけいおん!が見れます!』

唯『きゃー!!』

梓(テンション高いなぁ)

梓(それより……今言ってしまおうか、どうしようか)ピラ

梓(皆さんと行く分とは、別にペアチケットを用意してあると)

梓「あの、唯せんぱっ」

唯『あ、私明日早いから~。じゃあねー、おやすみあずにゃんチュッチュー!』

ブチッ

梓「唯先輩いぃ……うう……!」ムスッ

ピロリン

梓「メール? あ、唯先輩」

『そういえばローソンであずぐるみ売ってたから買ったよー 可愛いでしょ? あげなーい これと一緒に寝るね! ピースピース』

梓「写メつき……うわ」

梓「唯先輩も今回のくじやらフェアやらには関心ないのかな」

梓「律先輩たちも忙しいからって理由で放置みたいだけど……」

梓「あー、何だろう。まだ愛は残ってるよ」

梓「でも何か、もう私は着いて行けない感が」

チラ

部屋に埋もれるこれまでの戦利品たち

梓「フィギュア、そろそろちゃんと飾らないと……きゅんキャラぐらいなら」

梓「ケース買わなきゃだよね……」

梓(あれだけ狂ったように手に入れた品々を粗末に扱って)

梓「どうしちゃったんだろう、私……」


――――

憂『梓ちゃんが倦怠期?』

純「そう! 今日だっていつものハリキリがなかったっしょー?」

純「あの一番くじだってスルーしちゃったんだよ! 私、もうビックリ」

憂『あの梓ちゃんが……きっと、部長になってから忙しくて、それどころじゃ』

純「いーや、おかしい」

憂『うーん』

憂『でも、それって悪い事かな?』

憂『確かにあの梓ちゃんがグッズ総スルーなんて珍しいけど』

憂『もしかして、飽きちゃったとか』

純「あ、飽きた?」

憂『うん。それにローソン行っても、そこまでグッズの取り合いもなかったでしょ?』

憂『張り合いっていうか、やる気がそれで起きなかったのかも』

純「あー……」

純「……ふっ、所詮梓もただのお祭り大好きっ子だったってわけかねぇ」

――――

『レンシュウスルゾ!』

『マズハオチャデショー』

梓「……」

梓(私はけいおんが好き、私はけいおんが好き)

梓「けいおん、面白いなぁ…へ、へへへ……」

ブチッ

梓「何回も見たから飽きちゃった。2ch見ようっと」ウィーン

梓「けいおんフェアのスレがvipに立ってる……」

梓「あー、やっぱり。今回はそれほど入手困難ってわけじゃなさそう」

梓「あずぐるみすら難なく購入できる現状……ぬるいわね」

梓「あのハラハラ感、殺気、そして戦争」

梓「カムバック!!」

梓「まぁ、私にはもう関係ないんだけどねー」カチカチ


次の日

梓(いつ唯先輩にチケット渡そうかなぁ)

菫「あの、梓先輩。お茶が……」

梓「はぁ」

菫「もしもーし」

直「先輩、上の空。どうかしたんですか?」

純「最近はずっとこんな感じよー。つまんないでしょ」ツンツン

梓「……」

直・菫「無反応!」

憂「梓ちゃん大丈夫かなぁ、心配だよ」

直「でも寡黙で真面目な梓先輩というのも中々……」

純「やだー! くじに熱心なキモい梓じゃなきゃやだよー!」

菫「それって褒めてるんでしょうか」

純「はい、私なりに!」

梓(唯先輩の誕生日は27日。なら、誕生日プレゼントにさっと渡すのがいいのかな)

梓「あ、いやでももしっ! もし二回も映画見たくないとかで受け取ってもらえなかったら私惨めだし、向こうも気まずいし」

純「何? 映画?」

純「あ、梓……まさか男ができた……」

梓「は?」

梓「……別に、そんなんじゃないよ」

梓「しばらく私のこと放っておいて。ちょっと色々考えてて」

憂「考え事? よかったら私たちが相談に乗るよ」

菫「先輩の力になれるのなら、よろこんで!」

梓「ううん。いいの、私1人で悶々としていればいいから。だから……」

純「ね、梓!!」

純「今日は部活この辺にしといて、みんなでローソン行こうよ!」

梓「ローソン……」

「らっしゃせー!」

梓「何でまたローソンなんかに。昨日も来たでしょ?」

純「いやぁー、私くじ引きたくて」

憂「あ、私もまだ引いてないし、やるよー」

直「それじゃあついでで」

菫「梓先輩はいいんですか? くじ」

梓「パス……今200円しかないの」

菫「はぁ」

純「すげー! まだクリアファイル残ってる!」

憂「あれ、フェアって昨日じゃなかったの?」

梓(お、おかしい……1日で完売しない? ここ表通りのローソンなのに)

梓(そしてこの一番くじ! まだまだ上位賞が余ってる! おかしい!)ズビシィ

梓「おかしいですよ、店員さん!!」

憂「あ、梓ちゃんっ」

梓「何ですかコレは!?」

「けいおんっスね。俺もめちゃLOVEっスよ」

梓「じゃあ買えよ!!」

梓「あそこにはあずぐるみ、あそこにはクリアファイル!」

梓「パンもあればお菓子もある! 選り取り見取り、選び放題! さぁ楽しめ!」

「お客さん困りますよ……それに店員は、フェア商品で買える物がかなり限定されてるんス」←店によります

梓「チロルチョコも好きなの選べます! いっぱい詰めて買って!」

「お、お客さぁん……」

直「店員さん困ってますよ、梓先輩っ」

純「そうだよ! あんたどうしちゃったのさ!?」グイグイ

梓「は、離せー! わ、私はけいおんが好きなだけなのっ」

梓「嫌いになんかなってない! ずっと好き! 違うのぉっ」

純「あ、梓……?」

梓「……」

「えー、Iが1つ。Gが2つ。あとEっスね」

純「よーし、ムギ先輩ヒット!」

菫「ひゃあああ、ちっちゃいお嬢様可愛い……!!」

菫「よく見せてください! はぁぁ~……」

純「お、落ち着くんだ。スミーレ」

憂「うーん」

純「お、憂はどうだった?」

憂「A賞の大きいトナカイお姉ちゃん狙ったんだけど、残念ながらコップが3つでした」

憂「でもこれラバーコースター可愛いから気にいっちゃったよ~」

直「あ、いいなぁ」

梓(みんな普通に一番くじを楽しんでる)

梓(……本当のこと言えば、私だって一度は引いておきたい)

梓(でも、私がしたい一番くじはこんなじゃない。もっと殺伐としてて)

直「結構大きい……あの、袋。スケスケで外から丸見えなんですけど」

「周りに見せつけて女子力UPスよ」

純「うわっ、すげぇー! トナカ唯先輩当てちゃったの!?」

直「ええ、偶然にも」

憂「いいなぁ」

直「……あ、あげられませんから!」

直「私、これ家宝にしますから! 家族のみんなにも見せたいし……」

憂「ほ、欲しいなんて言わないよ。大丈夫大丈夫」

憂(あとでローソンまわろうっと)

菫「梓先輩! 奥田さんがA賞を……」

梓「……ぬるゥい」

菫「え?」

梓「温すぎるの。まるで微温湯……! これじゃない……!」

梓「みんな、ごめん。私もう耐えられないよ……今日は帰るね」

純「は!? え、ちょっと梓ー!」

たたたたたっ

梓「なんで、どうして!」

梓「今の私にローソンは、けいおんが!」

梓「魅力的に感じられない……!」

梓「くじは引きたい……はっ」

梓(まさか、まさか私は)

梓「けいおんが好きだったわけじゃなくて、ただくじを引くのが好きなだけな」

梓「バカなギャンブラー」

梓「う、うう、うううぅぅぅ……!!」

梓「酷い……そんなの、あんまりだよ……」

梓「……そうだ」

ガヤガヤガヤガヤドヤドヤドヤドヤ

梓(う、うるさい)

梓「夕方だからかな、サラリーマンが多い」

梓(ああ、この辺空いてる。どれどれ)

「お、お客さん! 制服でここに来るのはダメですよ……!」

梓「うるさいです! 私は孤独なギャンブラー!」

梓「パチンコ、スロット! きっとこっちの方が相に合っているはず……!」

「はぁ!?」

梓「それに今お金がないんです! 精一杯稼がせて!」

「だからダメですって!」

梓「ええいっ、どれ。お金は……え、千円から?」

梓「」チラ

財布の中には200円とその他もろもろ

梓「帰ります」

「はい、お気をつけて」

梓「……」トボトボ

「梓? 梓じゃないか」

梓「え」

澪「私だよ、梓。どうしたんだ、暗い顔して」

梓「澪先輩……いえ、何も」

澪「ウソだ。絶対にそんな事ない」

梓「さすが澪先輩。何でもわかっちゃいますね……」

澪「何でもではないけど、後輩が悩んでるぐらいは私にだってわかるよ」

澪「言ってみて。話したら少しは楽になるかもしれない」

梓「……私、今までの自分がわからなくなっちゃったんです」

澪「というと?」

梓「一番くじを狂った様に求めていた、自分が」

澪「お前、そんなだったのか……」

梓「どうか引かないで……」

梓「澪先輩、その手に提げてるローソンの袋は」

澪「ああ、昨日からけいおん!フェアだったろ。結局色々欲しくなっちゃって、こっそり買った」

澪「律たちには内緒、ね?」

梓「別にいいですけれど。澪先輩はけいおんが今でも好きですか?」

澪「もちろんだよ。映画だって楽しみにしてるし」

梓「では一番くじは? けいおん!一番くじは!?」

澪「あればたぶん1、2回は引くと思うけど。まぁ、好きかな」

梓「そう、ですか」

澪「ていうか別に飽きたのならそれはそれでいいんじゃないのか。別に強要されてるわけじゃ」

梓「それが……内にいる自分がくじを引け、くじを引けと囁いてくるんです」

梓(唯先輩へチケットを渡す事に専念したいのに、さっきローソンに行ってから私は!)

『け、引け……くじを引け、くじを引け、くじを引くのです……』

梓「ううっ、頭がどうにかなっちゃいそう……」フラフラ

澪「梓? 大丈夫か、何かフラフラしてるぞ?」

梓「どうしたら」

梓「澪先輩っ、私どうしたらいいのでしょうか?」

梓「みんなに言った通りくじを引く事を止めるか、今までのように引き続けるか」

梓「お、教えて……でないと私……」

澪「……答えは」

澪「答えは梓、梓自身の中にあると思うんだ」

澪「私にそうしろって言われて満足? 違うよね」

澪「梓は自分で選択をしなきゃいけない。そうだろ?」

梓「そんなっ……!」

澪「梓。私、そろそろ帰らなきゃ」

梓「待って! い、行かないでっ」

澪「梓、自分を見失っちゃダメ。本当の自分を貫くんだ」

澪「じゃあね」

梓「う、ううぅぅ……わからない……!」


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最終更新:2011年11月24日 03:09