トントン。
「唯入っていいか?」
 澪ちゃんだ。こんな時間に珍しいね。どうしたのかな。
「いいよ~」
「……おじゃまします」
 おそるおそるドアをあけて覗き込む澪ちゃん。小動物みたいに可愛い反応するなぁ。
 満面の笑顔で招き入れると、澪ちゃんの目は机の上で止っていた。
「澪ちゃん?」
「いや…何でもない!」
 慌てて座る澪ちゃん。いつになく緊張しているようで…どこかぎこちない。
 ……ん~、本当どうしたんだろうねぇ?ひとまず、隣に座ってみる。
「…………どうしたの?」
 澪ちゃんが1人で夜…それもこんな遅い時間に来るなんて、滅多にない。
 きっと何かあったんだろう。そう思って覗き込む。
「……じゃないかな…って思って…」
 ?…よく聞こえなかった。
「……寂しいんじゃないかと思ったんだ!」
 真っ赤な顔の澪ちゃん。言った後は更に赤くなった。
 へ?………どういうこと?
 澪ちゃんは、泣きそうなほど恥ずかしそうな顔を背けている。 
 その姿は可愛らしくて、見るだけでドキドキする。
「去年までは…憂ちゃんが居て、
 ときどき一緒に寝てたって聞いたから…」
 うん。そうだね…クリスマスや誕生日。
 そういった日の夜はよく憂と一緒に眠ってた気がする。
 …だから今年の夜は少し寂しかったのかもしれない。
「それに…以前言ってただろう?
 …過ごす時間が少なくなって少し寂しいって…。
 だから…今夜は唯が良かったら、寝るまで傍に居ようかな…って」
 そう言われて思い出す。

 …あれは大学に入った後の話、
 皆でムギちゃんへのプレゼントを準備してた時期だった。
『唯は欲しいものってあるか?』
『……ん~、憂の料理?寮の食事も美味しいけど…
 やっぱり憂の作ったものの方が好きかな…』
『…別の物で』
『じゃあ澪ちゃんが欲しい』
『………はぁ!?』
 顔真っ赤に慌てる澪ちゃん可愛かったなぁ。
 でも同時に凄く困惑してたのが分かったから…。
『あははっ。冗談だよ。』
『あ…冗談…そうだよな…』
 どこか安心した様子の澪ちゃんの姿に少し胸が痛かったけど。
『うん。
 会ったばかりの頃…高1のときはもっと澪ちゃんと過ごしてたような気がして
 …なんだか少し寂しかったんだよね…』
 そういって誤魔化したんだった…。

 …そっか…あの時のこと覚えてて…。うわぁ…嬉しくて泣き出しそう。
「…澪ちゃん!」
「うわぁ!?」
 抱きつくと驚いてたけど、優しく撫でてくれた。
「どうせだから一緒に寝ちゃおうか」
「な…!どうしてそうなるんだ!?」
 折角澪ちゃんから来てくれたんだもん。逃がさないよっ。
「寝るまで傍にいてくれるんだよね?
 だったら一緒に寝ようって♪」
 誕生日だし…今夜は良いよね?
「…………分かった。準備してくるから少し待ってて」
 もっと渋るかと思ったけど、澪ちゃんは意外とあっさり頷いてくれた。
 ふふっ。やった~!
 小躍りしつつ机の上のものを整頓する。
 その中の可愛らしいフォットフレーム。皆で撮った写真が入っている。
 澪ちゃんのプレゼントだ。どこに置こうかなぁ。
「あれ?」
 手にしたときに違和感を感じてひっくり返す。
 裏蓋を外すと、中には写真の他に一枚の便箋が入っていた。
 そこに書かれていたのは……
「あははっ。凄いや!」
 これは秘密にしないとね。
 ふふ~ん♪鼻歌交じりに、フォットフレームを元の状態に戻す。
 寝る準備が整ったところで、パジャマ姿で澪ちゃんが戻ってきた。
「…消すぞ」
 電気を消して、澪ちゃんが一緒のベッドに入る。
 胸が…澪ちゃんのパジャマ姿は目に毒だよ…。
 出来るだけ見ないようにしてたけど…この距離になると嫌でも気になる。
 匂いも凄く良いし…。
「…………」
 何を思ったのか澪ちゃんが背を向けようとした。
 その動きに気付いてしがみ付く。
「…ゆ…ゆい…?」
 戸惑った声。でも…今日は下がらない。これが本当の気持ちだから。
 澪ちゃんの体から力が抜けた。そっと優しく私を抱き締めてくれる。
 みおちゃん…。
 目を閉じて、温かさに身を委ねる。
 あんなに気になっていた匂いも眠りを誘うものになっていた。
「……おやすみ、唯」
 心地よい優しい声。…大好きな澪ちゃんの声だ。
「………おやす…み」
 ありがとう。みおちゃん。
 すごく嬉しいよ。
 こんな素敵なプレゼントをくれるなんて。
 だから…楽しみにしててね。
 みおちゃんの誕生日には本当の心を届けるから――。

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END

2  ※澪side
最終更新:2011年11月27日 00:00