唯「…………ん~~………あふ……受験勉強疲れたぁ~~~」
唯「憂もお買い物行ってるし……暇だなぁ~……」
言いながら、私は伸びをしつつ部屋を見回します。
すると、壁にかけてあったギー太が目に止まって……。
唯「……そだ、じゃあ今日は久々に……♪」
勉強する気もいまいち沸かないし、今日はギー太と遊ぼっと♪
―――そんなわけで今日は日曜日、お休みの日ですっ。
―――――――――――――――――――
和「さてと、それじゃ、そろそろ向かおうかしら」
軽く身支度を整え、私は家の玄関へと向かう。
和「いってきまーすっ」
和母「のどかー、今日夕飯はいるのー?」
和「食べて来るから平気~、それじゃ母さん、あとよろしくね」
和母「はいはい、いってらっしゃいな」
和「うん、それじゃ、いってきます」
母に軽く挨拶を済ませ、私は家を出る。
……11月も終わり頃のこと、すっかり冬を迎えた青空は、まさに透き通るように晴れていた。
――びゅうぅぅっ!
和「……寒い…………」
吹きすさぶ風は容赦なく私の肌を刺し、それがいやがおうにも私に冬がやってきたと認識させる。
和「唯、風邪引いてないと良いけど……」
そんな事を思いながら、私は商店街へと向かうのだった……。
家から歩くこと数分、商店街のファンシーショップであれこれと品物を見ていた時だった。
和「えと…これは……ん~、イマイチねぇ…」
声「あれ? 和?」
和「……?」
声のした方を向いてみる。
澪「ほら、やっぱり和だ」
律「珍しいな~、和がこんなとこにいるなんてさ」
声の主は、クラスメイトの澪と律だった。
和「こんにちわ、二人も買い物?」
澪「うん、ちょっとこのあと用事でさ、その買い物でね」
律「へへ、澪と買い物なんて久々だなぁ」
和「そうなんだ、それで…澪、そのカゴの中は?」
澪「ああ、これ? …可愛いでしょ?」
澪の持っている買い物カゴの中には、中途半端にデフォルメされた動物(おそらくカエルだろう、これは)のぬいぐるみとストラップが入っていた。
眠そうな目をしているそのカエルからは、何ともやる気の無さそうな雰囲気が感じられる。
……今流行りの『ゆるキャラ』っていうやつなんだろう、これは。
和「……澪らしいわねぇ」
律「でしょ?」
澪「えー、可愛いじゃんか、これ」
律「………まぁ、確かにな」
和「いいんじゃないの? 澪のそう言う所、私好きよ?」
澪「和……うん、ありがと」
律「まー、そういうわけなんだ、和も一緒にどう?」
和「そうねぇ……ご一緒したいのは山々なんだけど、私もこのあと用事があるのよ」
澪「そっか、残念だけど、またの機会だなぁ……和、今度都合が付いたら、一緒に買い物行こうよ」
和「ええ、楽しみにしてるわね」
律「ぶ~、私はのけ者かよ~~」
澪「もちろん、律も一緒だよ」
律「へへっ、そう来なくっちゃな♪」
和「それじゃ、私ももう行くわね」
澪「うん、それじゃまた」
律「和~、まったね~♪」
2人に手を振り、私は再度買い物に移る。
澪と律、さすが幼馴染というか、いつ見ても変わらずに仲良しな2人だった。
私と唯も、はたからはああ見えるんだろうか?
―――――――――――――――――――
憂「えっと……これとこれと……あ、これ可愛いなぁ~」
それは、夕飯のお買い物で近くのスーパーに来てた時の事でした。
憂「ん~……悩むなぁ……」
憂「こっちのお肉、綺麗で美味しそうなんだけどちょっと高いかな……あーでもでも……」
声「私、こっちがいい、この脂身たっぷりの方」
憂「そう? じゃあ、こっちにしよっと……って、えっ?」
ふと横から聞こえた声の方に振り返ります。
憂「あー、純ちゃん♪」
純「よっ、奇遇だね、憂っ」
振り返った先には、お友達の純ちゃんがいました。
声「ったく……純~、いきなり走らないでよ~~って、憂?」
憂「あ、梓ちゃん♪」
純ちゃんの後ろから顔を覗かせたもう一人の女の子、それは、もう一人のお友達の梓ちゃんでした。
なんだか奇遇だな、ここで2人に会えるなんて♪
梓「こんにちわ、憂は夕飯の買い物か何か?」
憂「うんっ、梓ちゃんと純ちゃんもお買い物?」
純「ん~……いやね……その……」
梓「私、今朝から純に付き合ってるんだ、どうしてもって聞かなくて…」
純「梓、ホントにありがとっ」
憂「純ちゃん、どうかしたの??」
純「いやね、実は今朝、兄貴とちょっと喧嘩しちゃってさ……今、家に居づらいんだよねぇ……」
憂「お兄さんと喧嘩って……純ちゃんお兄さんいたんだ?」
純「うん……」
梓「私も、ついさっき知ったんだけどね」
憂「それで、お兄さんとなんで喧嘩なんか?」
純「実は、兄貴のお気に入りの服にコーヒーを……その……」
憂「あらら……」
純「わ、私悪くないもんっ! 悪いのはあのコントだもんっ! あんなに面白いコントやられたらそりゃコーヒーだって吹くよ~~」
梓「だからって……いくらなんでも向かいに座ってるお兄さんの服を汚すまで吹かないってーの……」
憂「あははは……」
純「だから、今日1日は家に居られないから、梓に電話して付き合ってもらってるんだ」
梓「私、ギターの練習したかったのに……」
純「ううう……今度お礼におやつ奢るから許してよ~」
梓「ま、いっか…♪」
憂「じゃあ、二人とも今からうちに来ない? 今日ご馳走なんだ♪」
純「え、マジで? うんっ! 行く行く~♪」
梓「今日って………ああ、そっか」
今日と聞いて、梓ちゃんはすぐに分かったみたいです。
憂「うふふっ♪」
純「…? 2人ともどうかしたの??」
梓「じゃあ、この後適当に商店街見て回ろうよ」
憂「うんっ、そうだね~」
純「2人ともなに~? 私にも教えてよ~~」
梓「純もすぐにわかるよ~」
憂「…あっ、その前に2人にお願いなんだけど……。 この後タマゴの特売やるんだ、お一人様1パック限定なんだけど……それで……」
純「うんっ、1パックでも10パックでも持ってくよ、私にまっかせて~♪」
梓「それじゃあ、早く売り場に行こうか? 時間迫ってるんなら、そろそろ行かないとまずいんじゃない?」
憂「そうだね、みんな、ありがとうっ♪」
梓純(……ほんと……憂ってしっかり者だなぁ……)
タマゴも多く買えたし、純ちゃんと梓ちゃんも来てくれるって言うし……それに今日は………。
うふふっ、今日は……いつも以上に素敵な1日です♪
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和「ま、こんなもんかしらね……でも、まだ時間あるわね……あ、そうだ」
目的の品を買った私は店を後にし、本屋で時間を潰す事に決めた。
和「新刊…出てるかしら……?」
小説の新刊コーナーに行き、目当ての作家の本を探してみる。
……が、既に品切れのようだった……。
和「残念ね……参考書でも見て行こうかしら」
新刊コーナーを後にし、参考書のコーナーに向かう。
すると、そこに見覚えのある後姿が見えた。
和(あれ…ムギ?)
参考書のコーナーには綺麗な金髪をなびかせ、周りの客の目を惹いている一人の女性の姿が見える。
その着ている衣服もどこか高級そうなイメージがあり、私には、一目でそれがムギだと分かった。
……ムギも、参考書を買いに来たのだろうか?
和「ムギー、ムギも買い物?」
その後ろ姿に声をかけてみる。
女性「……………」
和「あれ、聞こえてないのかしら?」
遠くで聞こえていないのだろうか、なら、今度は近くまで行って声をかける事にしてみよう。
そう思い、私はムギに再度声をかけてみた。 そして……。
和「ムギ?」
女性「…ふぇっ? わ、私??」
声をかけた人が慌てて私に振り返る、……後姿こそ似ていたけど、その女性は明らかにムギとは違う顔立ちをしていた……。
その瞬間私は、自分がまるで知らない女性に声をかけていた事に気付いたんだった……。
和「…と、ご、ごめんなさいっ、人違いでした……」
女性「いえ、その……」
和「すみません、後姿が友達に似てたもので…ついそうだと思って……」
女性「あははは……すみません、私の方こそ、そのお友達じゃなくって……」
照れ笑いを浮かべながら微笑む女の子だった。
ぱっと見で、私の2つ3つは年下なんじゃないかと言う事が伺える、気品の中にもどこか幼さの残る顔立ちをしていた。
和「本当に失礼しました……それでは……っ」
女の子に謝り、私は恥ずかしさで紅くなった顔を隠すようにしてコーナーを抜け出そうとする。
その時……。
女性「……すみません、もしかして、桜が丘高校の生徒の方ですか?」
和「って……はい?」
女性「いえ、間違ってたらすみません……私も見覚えある顔だったから、もしかしたらと思って」
和「えっと、はい、私、桜高の生徒ですけど……もしかして、あなた1年生の方?」
女性「ん~……ていうか、来年そうなりたいなぁと…あははは……」
そう、笑いながら話す女の子。
話を察するに、どうやらこの子は、来年桜高を志望する受験生らしい。
和「そうだったんですか……それで、どうして私の顔を?」
女性「先月、桜高の文化祭でお見かけして、もしかしてと思いまして」
和「なるほど」
そっか、この子、先月うちに来てたんだ、それで……。
女性「文化祭、すっごく楽しかったです! 特に軽音部のライブ、すっごく盛り上がってたと思いますっ!」
和「それは良かった、うふふ、わざわざ来てくれてありがとう」
女性「私も、桜高に受かったら軽音部に入ろうかな……なんちゃって」
和「あははっ、もしかしたら、優しい先輩がいろいろ教えてくれるかもね」
女性「だといいんですけどね……そのためにも、勉強頑張らないと…っ」
声「―――すみれ~~、そろそろ行くよ~~?」
女性「うん、今行くから待ってて~~! それじゃ『先輩』、失礼しますっ」
和「ええ、勉強頑張って、是非受かってね?」
女性「はいっ! 頑張りまーす♪」
そして、すみれと呼ばれた女の子は友達の所へ向かって行く。
彼女が桜高に受かったら、きっと憂や梓ちゃんの良い後輩になりそうだなと、勝手ながらそんな予感がした。
和「卒業………か」
あの子がここに来るころには、もう、私も唯もいない。
――そう考えると、それがどこか寂しいと思う自分だった。
あと、4ヶ月で、私も……。
―――――――――――――――――――
適当に参考書を読みふけり、ふと時計に目をやる。
……そろそろ、ちょうど良い頃合いの時間になっていた。
和「…うん、そろそろ行きましょうか」
参考書を買い、私は店を出る事にする。
声「あれ? 和ちゃん?」
和「あら、憂じゃない」
店を出てからしばらく、ちょうど買い物帰りの憂と遭遇した。
そして、憂を挟むようにして、梓ちゃんと純ちゃんの姿も確認できる。。
3人の持つ大小様々な大きさの買い物袋の中には、これまたさまざまな種類の食材が詰まっており。
それは、今晩の夕飯が相当のご馳走になるんだと言う事が、十二分に伺える程だった。
梓「和先輩、こんにちわ」
純「こんにちわ~」
和「みんなお揃いね?」
憂「うん、これから家でご飯なんだ、そだ、和ちゃんもどう?」
和「ええ、私もちょうど唯に用事だったのよ、良かったら一緒に良いかしら?」
憂「うんっ、ご飯は大勢で食べると美味しいからね~」
梓「和先輩もやっぱり?」
和「ま、今日ぐらいはね」
純「む~、みんなして何なんだろう……今日って何かあったっけ?」
憂「あははっ、今度純ちゃんにもしてあげるからねっ」
純「……?」
和「しかし、人数も増えると夕飯の準備も大変でしょ、私も手伝うわよ?」
憂「うん、じゃあ、せっかくだしお手伝いお願いしちゃおうかな?」
和「それじゃ行きましょう。 あ、梓ちゃん、荷物重かったら持つわよ?」
梓「大丈夫です、和先輩、ありがとうございますっ」
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和「そういえば、さっき本屋さんで桜高を志望する子に会ってね…あまりにもムギそっくりだったから声を賭けたら人違いで……」
純「へ~、生徒会長でもそーゆー事あるんですね?」
憂「紬さんそっくりな後輩かぁ…受かるといいね~」
梓「その子…軽音部に入ってくれないかなぁ……」
和「唯達が卒業しちゃったら、軽音部、また廃部の危機になっちゃうものね……」
梓「は、廃部になんか絶対させませんっ!」
憂「そうだよ、私達も協力するから、がんばろ梓ちゃんっ!」
純「私もっ! 私も力になるよっ!」
梓「憂…純……えへへ……ありがとっ!」
和(唯……良い後輩に恵まれたわね……)
―――――――――――――――――――
のんびりと話をしながら、私達一同は唯の家に向かう。
そして、唯の家まで数分と言う所の交差点、そこで私達は律と澪とばったり会った。
和「あれ、あなた達?」
澪「あれ、和…?」
律「に、憂ちゃんに梓に純ちゃん?」
憂「律さんに澪さんこんにちわ、こんな所で会うなんて奇遇ですね?」
純「澪先輩、こんにちわっ!」
梓「お二人とも、どうしてここに?」
澪「ああ、実は私達、これから唯の家に向かうつもりだったんだ」
和「じゃあ、さっき言ってた用事って……」
律「ま、そーゆー事♪ て事はあれか、和も私達と一緒か」
和「そうなるわねぇ。 ……なんだ、結局一緒だったんだ、私達」
澪「そうみたいだなぁ……なんか、不思議な感じ」
声「あらあら?? みんなお揃いでどうかしたのかしら?」
一同「……?」
別の道からやって来る声にみんなが振り向く。
そこには……うん、今度こそ間違いない。
ウェーブのかかった金髪の良く知る同級生、ムギと……。
憂「あれ、さわ子先生??」
さわ子「やっほー♪」
私達の担任の、山中先生がいた。
律「さわちゃん、どうしてここに?」
紬「実は唯ちゃんの家に向かっていたら、偶然先生と会ったのよ~」
さわ子「なんか、今日はこっちの方に楽しそうな事が待ってるって占いで出てね、そしたらムギちゃんと偶然会って、ほいで今みんなと会ったってわけ」
梓「一体どんなセンスしてるんですか…」
律「まさにエサを見つける犬だな……すげー嗅覚してる……」
澪「まぁ……先生らしいというか……」
純「ですね…」
さわ子「ちょっと、みんなその目は何よー?」
和「しかしムギ……また随分な大荷物ねぇ」
紬「うふふっ、唯ちゃん喜んでくれるかしら?」
最終更新:2011年11月28日 20:20