『5:5!』


ポツ… ポツポツ……

律「やば、雨降ってきた」

梓「傘持ってるよね」

律「うん。お前は?」

梓「持ってない」

律「雨降るって言っただろうが」

梓「忘れた」

律「忘れたってお前」

梓「入れて」

律「……たくっ、仕方ねえなぁ」


ザー シトシト… ザー


梓「ねえ、律先輩」

律「んー?」

梓「手つなご」

律「傘持ってるし」

梓「じゃ、腕組んでいい?」

律「暑いからダメ」

梓「いいじゃん、ちょっとぐらい」

律「てか、すぐ着いちゃうし」

梓「それじゃ待ち合わせ場所まで」

律「ん、分かったよ」

梓「わーい」ギュッ

律「……」

ザー…

ミーン ミンミンミーン

律「セミが鳴いてるな」

梓「もうすっかり夏だね」

律「それにしたってうるさいぞこいつら」

梓「この辺は木が多いから」

律「雨降ってんだから静かにしてくれたっていいのに」

梓「風情があっていいじゃん」

律「お前が風情って……」プッ

梓「何か言いたいことでも?」ギュウゥゥ

律「いだ、痛いって! 濡れるだろバカ」

梓「ふんっ」

律「……」

梓「……」

律「腕組まなくていいのか?」

梓「……」ギュッ

律「……」ニヤニヤ

コツコツ コツコツ

律「……」

梓「……」

律「梓」

梓「……」

律「もうすぐ着くぞ」

梓「……」

律「みんなに見られてもいいのか」

梓「……」スッ

律(やっぱ人前じゃ恥ずかしいんだな)クスッ

律「また帰りにな」

梓「……」コクリ

―――

唯「でね、憂ったらひどいんだよ」

澪「それって唯が悪いんじゃないか?」

憂「そうだよお姉ちゃん」

唯「ぶー、そんなことないもんっ」

紬「りっちゃんと梓ちゃん遅いなぁ」

純「あ、あれそうじゃないですか?」

澪「ほんとだ。おーい!」

「おーい!」

律「悪い、遅くなった」

澪「いや、大丈夫」

梓「律先輩が悪いんですよ」

律「何でだよ」

梓「律先輩が寝坊するからです」

律「お前も起きなかっただろうが」

律(てか、みんなの前だと敬語に戻るんだな)ヒソヒソ

梓(うるさい後で殴る)ヒソヒソ

律(ひゃー恐い恐い)ヒソヒソ

梓(むっ……何か気に障るなぁ)ヒソヒソヒソ

律(言いたいことあれば言えば)ヒソヒソヒソ

紬「どうしたの二人とも」

梓「大体律先輩が!」

律「何だよ、元はと言えばお前が!」

澪「いつものケンカか」

梓「律先輩の意地悪! 女たらし!」

律「な、何だと!」

紬「まあまあ、二人ともそのぐらいにして」

澪「相変わらずだな」

憂「まあ、ケンカをするほど仲が良いとも言いますし」

唯「みんな甘いよ!」

澪憂「?」

唯「人前じゃケンカばかりでも、きっと二人きりになるとイチャコラベタベタさっさになるんだよ!」

律梓「」ギクッ

紬「何それ素敵」

澪「ま、同棲までしてるんだから有り得るな」

憂「いいな、梓ちゃん。羨ましいな~」

梓「そ、そんなことないもん!」

律「そ、そうだぞ! 変なこと言うなよ!」

澪(焦り方が二人ともそっくり)ヒソヒソ

憂(ですね)ヒソヒソ

純「あの、そろそろ店の方へ行きませんか?」

梓「あ、純いたんだ」

純「いたよ!」

ワイワイ ガヤガヤ

紬「ねぇ、乾杯しましょう乾杯」ワクワク

律「いやさっきもやったし」

紬「だって楽しいんだもん」

澪「いいよ、三人でやろう」

律「はいよ」

律澪紬「かんぱ~い」

紬「ビールってすごく美味しいわ。何杯でもいけちゃう」ゴクゴク

澪「あんまり飲み過ぎるなよ、ムギ」

律「ムギはお前よりずっと強いから大丈夫だよ」

澪「うるさい」

律「澪はびっくりするほどお酒弱いからな」

紬「そういえば、一年生のときの飲み会で真っ先に潰れてたわね」

律「だろ? すぐ顔赤くなるしさ」

澪「体質なんだから仕方ないだろ」

唯「あはは、憂が回ってる~」

憂「お姉ちゃんが回ってるんだよ」

梓「最初から飛ばして飲むからです」

純「唯先輩、相変わらずだなぁ」

唯「純ちゃん、何で頭に掃除用具なんかのせてるの?」ワシャワシャ

純「いたたっ、髪ひっぱらないでくださいよ」

唯「備え付けのモップ? 便利だね」

純「違いますっ」

憂「お、お姉ちゃん!」


律「……あっちはすっかりできあがってるみたいだな」

澪「だな」

律「唯は相変わらずだ」

澪「今日は憂ちゃんがいるし大丈夫だろ」

紬「りっちゃん、『かがみつき』って何?」

律「手っ取り早く酔いたい人が飲むお酒」

紬「へぇ~~」キラキラ

澪(ムギの目が輝いてる……なんか嫌な予感)

澪「最近、梓とはどうなんだ?」

律「うん、相変わらず」

紬「さっきみたいにケンカとかしてない?」

律「梓が一方的に怒ることはあるけど、私が折れてお終い」

紬「へぇ~」

澪「尻に敷かれてるわけか」

律「違う!」

紬「梓ちゃんに振り回されるりっちゃんって、何かすごく似合ってるわ」

律「……どういう意味ですかい、ムギお嬢さま」

澪「律と梓は高校時代ケンカばかりしてたな」

紬「そうそう、二人きりにするとすぐ言い争いを始めるし」

律「あーあーそんなこともありましたわね」

澪「距離を置けばいいのに、むしろ積極的に二人になろうとしてさ」

紬「きっとお互い口ゲンカがしたかったんじゃない?」

律「そ、そんなことねーし」

澪「それでいてどっちか一方が休むと、途端に魂が抜けたみたいに元気なくして」

紬「あれは見てて面白かったわね」

律「うぅ……二人とも私に何の恨みがあるんだよ」

澪「律をからかうのが面白いだけ」

紬「同じく」

律「お前ら……」

澪「それで突然『梓が好きになったみたい』って相談されるんだもんな」

律「ちょ、その話すとっぷ!」

澪「まさか告白のときまで協力させられるとは思ってなかったけど」

紬「懐かしいわ~」

律「わーわー!!」


唯「ちゃかちゃかちゃかちゃん、ちゃかちゃん、ちゃかちゃん!」

梓「唯先輩うるさいです」

憂「お姉ちゃん、お箸でお皿叩いたらめっだよ」

唯「うんたん、うんたん」

純「……私の頭を叩くのも止めてください」

唯「ちゃかちゃか……」

憂「お姉ちゃん」

唯「……」シュン


澪「そういえばさ」

律「うん」

澪「こうやって律とゆっくり話すの、久しぶりな気がする」

律「そうだっけ」

澪「最近あまり会わなかったし」

律「バンド練でしょっちゅう会ってんじゃん」

澪「でも、それぐらいだろ」

律「ま、確かに」

澪「昔はそれこそ毎日のように会ってたのにさ」

律「高校卒業したら自然にそうなるもんじゃねーの」

澪「そうかな」

律「私たちはむしろ頻繁に顔合わせてる方だと思うけど」

澪「……」

律「三年二組の連中なんて、去年に一度同窓会で会ったきりだろ」

澪「まぁ」

律「高校時代は毎日会ってたのにさ」

澪「……そうだな」

律「でも、顔合わせてなくても友達は友達だろ」

澪「……うん、その通り」

律「そういえば、和は元気なのかな」

澪「元気みたいだよ。時々唯にメールが来るって」

律「へぇ~」チラッ


唯「もっふぉ、レバー美味しいよぉ」ムッシャムッシャ

憂「お姉ちゃん、タレがこぼれそうだよ」

純「……てか、私の頭の上で食べないでください」

梓「そうですよ、いくら鳥の巣みたいだからって」

純「髪型は関係ない!」

唯「すなぎも!」

純「あ、それ私の!」

唯「う~ん、食感がたまりませんなぁ」モグモグ

純「……」

梓「純、私のあげようか?」

純「ほんと?」

梓「はい、あーん」

純「あーん」

梓「」パクッ

純「……うん、予想はしてたよ」

梓「あ、美味しい」

純「よかったね」


澪「なぁ」

律「ん?」

澪「大学に入ったらさ、交友関係って広く薄くなるのかなぁ」

律「何だよ急に」

澪「友達は増えたんだけど、腹を割って話せる人は少ないなって思って」

律「澪ちゃん、実は友達少ないんじゃないの?」ウププ

澪「そ、そんなことない!」

律「ほんと~?」

澪「本当だ!」

律「ならきっと、澪の方から積極的になってないだけだ」

澪「うぅ……やっぱりそうなのか」

律「表面的な話題じゃなくてさ、こういう深い話ができるようになったら、そういう友達は自然と増えるよ」

澪「……頑張らなきゃな」

律「……」

澪「……」

律「何かあったら相談しろよ?」

澪「間に合ってるよ」

律「そうは見えないけどな~」

澪「う、うるさい!」


梓「……」チラッ



律「~~」

澪「~~~!」

律「~~??」

澪「!!」

律「……?」

澪「!?」

律「~~~」

澪「!!!」



梓「……」




律「そういやムギ、さっきから静かだな」

澪「ん……?」

紬「ほへっ?」グビグビ

律「ちょ、お前何飲んでんだ!?」

澪「……これだな」

律「こいつ……鏡月といいちこをチャンポンしてやがる」

紬「幸せはDrinking! 笑顔づくしHeineken!」

律「……」

澪「完璧に出来上がってるな」

紬「私、地球が自転するほど酔っぱらうのが夢だったの~」

律「お前が飲まなくても地球は廻ってるよ」

唯「あ、ムギちゃんへべれけになってる~」ケラケラ

澪「お前もな」

憂「お姉ちゃん、あんまり迷惑かけちゃダメだよ。みなさん、ごめんなさい」

律「大丈夫だよ、憂ちゃん」

澪「それにしても随分飲んだみたいだな。日本酒に焼酎に……」

憂「ええ、私とお姉ちゃんで半分こしたんですけど」

律「てことは、憂ちゃんも同じ量を……?」

憂「はい、そうですけど」

澪「……」

律「顔色一つ変わっちゃいねえ」

律「そういえば、梓は?」

憂「梓ちゃんなら純ちゃんと……あれ?」

律「ん?」

憂「さっきまでそこにいたんですけど」

律「何か、グラスの山が……」

憂「おかしいなぁ、梓ちゃんが潰れてそこにうつ伏せて」

律「潰れたぁ?」

憂「はい、気づいたらすっかり酔っ払ってて」

律「……あのバカ」


「純ってチアガールとか似合いそう」

「そりゃどうも」

「頭がぽんぽーんってなってるところとか」ケラケラ

「それが言いたかっただけかいっ」

「ぐすん。純が怒った~」

「あ~~もうっ、めんどくさい!」


律「……あのトイレから帰ってくるのがそうか?」

憂「……はい、おそらく」


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最終更新:2011年11月29日 22:28