たとえどんなに… 0(唯view)

------------------------------------------------------------------------------------------------

 最近よく過去の夢を見る。

『…寝てるのか?』

 まどろみの中で聞こえてきた澪ちゃんの声。
 静かで…囁きかけるような声。その声に惹かれて薄目を開ける。

『……唯…』

 熱に浮かされたように、私を見つめている。
 一度も見たことも無い顔で、動けなくなった。

 澪ちゃんは丁寧な動作で私の髪を一房持ち上げ、ゆっくり顔を近付ける。

(…え…?)

 澪ちゃんの唇が私の髪に触れた――。

 まるで神聖な儀式でもするかのように、口付ける澪ちゃん。
 その姿がこんなに似合う人はきっといないと思う。

 でも胸が苦しかった。
 だって…この時の私は澪ちゃんに振られたばかりだったから。

 どうして…?そんな疑問を浮かべたときに澪ちゃんは離れていく。

 時間を空けてから、私は何も知らない振りして起きた。

 その後、私は澪ちゃんの行動の意味を知ることになる…。





 何度か気持ちを伝えたことがある。

 その度に澪ちゃんは傷ついた顔で私に謝っていた。『友達でいたい』とも…苦しげに言っていた。
 もうそんな澪ちゃんを見たくなくて、2人きりを避けているようになった。

 それでも私たちが今も一緒に笑っていられるのは、皆と過ごす時間が楽しいから。

 あずにゃんに抱きついたり、りっちゃんと騒いで澪ちゃん困らせたり。
 ムギちゃんと一緒になって、りっちゃんを弄ったこともあったっけ。

 澪ちゃんがりっちゃんを大切に思うように、皆は私にとってもかけがえの無い存在。

 だから…澪ちゃんが本心を言ってくれるまで待つことにした。

 いつも一緒のりっちゃんに嫉妬することも多いけど、澪ちゃんが笑ってくれるならそれでいい…。

 …ずっと自分の心を誤魔化し続けた。



 でも、ある出来事を境に私は再びこの想いと向き合うことになる。




「澪ちゃん…」

 病室のベッドの上で澪ちゃんが眠っている。
 眠りは深く目覚める様子は無い。

「…どうしてかなぁ…」

 枯れるほど泣いた後で、私はぼんやりと呟く。

 事故にあったのは2人で久しぶりに出かけた帰りのことだった。

 そのときボーとしていたのが悪かったんだろう。信号で渡り遅れたらしい。
 いつの間にか車が目前に迫っていて、私は身動きできなかった。

『唯!』

 腕を強く引っ張られたのは覚えている。
 でも気が付いたのは、私の代わりに澪ちゃんが車にはねられた後だった。


 本当は私が怪我するはずだったのに…どうして澪ちゃんが寝ているの?
 どうして私を庇ったの?

 幸い澪ちゃんの怪我は軽いものだったけど、最悪の事態を想像してゾッとする。

 胸が張り裂けそうだった。

 たとえどんなに苦しくても、待つつもりだったけど…失う怖さを体感した今は堪えられそうにない。

 私は澪ちゃんに覆いかぶさる。息が吹きかかるほどの近い距離で覗き込んだ。

 穏やかな寝息と温かい澪ちゃんの身体。

 生きている――。
 そう実感して、再び涙が込み上げた。

「澪ちゃんっ…」

 起きて――。願いを込めて澪ちゃんに触れた。





 普段は誰よりも頼りになる澪ちゃん。
 でも怖がりで、恥ずかしがりで…。
 そんな姿に可愛らしく、私は愛しかった。

 知っているかな…?今でも澪ちゃんが好きだっていうこと。

 気付いているのかな…?私がずっと澪ちゃんを待っているということ。

 澪ちゃんに振られてから、2年。想いは募っていくばかり。

 辛くて切ない、この気持ちを他の誰にも言わずに抱え続けている。

 後悔はしてないよ…。だって沢山の幸せも貰ったから。

 でも…もう限界だよ。

 ………澪ちゃん、助けて――。


2
最終更新:2011年12月02日 19:50