澪「思いだせないって、嘘だろ?」
律「唯、もう冗談はいいって!お茶しようぜ!」
唯「ううん、ホントに何の事言ってるか分からないの・・・」
紬「唯ちゃん・・・」
唯「ロンドン旅行って、なんのこと・・・?」
N女子大に通う大学一年生
今日お茶をしていたら皆がおかしな事を言い出しました
高校の卒業旅行でロンドンに行った・・・というのです
何の話・・・?最初は忘れてるだけかと思いました
でもそんなこといくら私でも忘れるわけがないです
一体どうなっているの・・・?
律「高3の夏にパスポート取りに行ったよな」
唯「うん、行ったね」
澪「それは覚えてるのになんで・・・」
律「唯、もうほんとに止めようぜ!唯にしちゃ演技美味すぎて怖いくらいだよ!」
唯「・・・」
紬「りっちゃん、唯ちゃんは本当に・・・」
唯「あ、ごめんねなんか・・・私ちょっとおトイレに行ってくるよ」
澪「あ、うん」
律「・・・」
律「ほんとに、ほんとのほんとに覚えてない・・・のか?」
澪「そう考えた方が自然だな・・・あれは演技とは思えない」
紬「どうなってるのかしら」
唯「・・・」
唯「いたっ・・・!」
唯「何?」
ザザザッ・・・
「not so much A as にゃん」ドヤッ
「―――」
・・・・・・・・・
唯「何?今の・・・?」
唯「そう言えば」
唯「天使にふれたよってどうやって作ったんだっけ・・・?」
唯「ただいま」
澪「あ、おかえり」
律「あのさ唯・・・」
唯「りっちゃん」
律「ん?なんだ?」
唯「天使にふれたよって、いきなりぶっつけ本番なのになんであんなに上手に出来たんだろ」
律「・・・え?」
唯「おかしいよ、だって練習もせずにいきなり本番なんて」
唯「いったいどうなってるの・・・?」
唯「私・・・おかしくなっちゃったの・・・?」
紬「唯ちゃん・・・」
澪「唯、今日はもう寮に戻って休め」
唯「え、でも・・・」
澪「いいから」
唯「・・・わかった」
―――
唯「天使にふれたよは卒業式の日演奏した」
唯「でも曲も歌詞もぶっつけ本番で歌ったんだよね・・・」
唯「・・・そんな事出来る訳ない」
唯「ロンドン旅行の事もそうだし」
唯「忘れてるの・・・?」
唯「いやだからそんな重要なこと忘れるわけ・・・」
唯「そもそもそんな記憶が・・・」
唯「ない」
―――
紬「唯ちゃんはおそらく記憶喪失なんじゃないかしら」
澪「記憶喪失」
律「にしちゃピンポイントで忘れてるよな」
紬「そうなの」
紬「パスポートの事は覚えてる」
紬「でもロンドンの事は覚えてない」
紬「天使にふれたよ自体は覚えてる」
紬「でもその過程を忘れている」
紬「・・・明日また唯ちゃんに確認してみましょう」
紬「『どの記憶を無くしているか』について・・・」
律「唯・・・」
澪「私たちも考えておこう、原因とか」
律「あ、ああ」
―――
唯「・・・」
唯「・・・」
「―――あずにゃんへのプレゼント―――」
「―――歌だよ!―――」
唯「!!何!?今の!?」
「―――あずにゃん―――」
「―――だよ―――」
「――――――」
「――――――」
唯「あ・・・」
唯「・・・なんだっけ」
唯「今何か考えたような」
唯「気のせい・・・だったの・・・?」
―――
唯「おはよう」
紬「おはよう唯ちゃん」
唯「今日の講義なんだっけな~」
紬「唯ちゃん、今日はサボっちゃお♪」
唯「え?」
紬「講義はほら、あの子に頼んで」
唯「昌ちゃん?」
紬「そうそう」
唯「でも・・・」
紬「今日はおかしもたくさんあるから、ね?」
唯「うん、じゃあそうするよ」
紬「それじゃあ私の部屋に来てね」
唯「うん、着替えたら」
紬「じゃあさっそくお茶にする?」
唯「ムギちゃん、私の事心配してこんな・・・」
紬「まあまあ、はいお茶」
唯「おいしいね」
紬「うふふ」
唯「・・・」
紬「そうね、じゃあ本題に入りましょうか」
紬「これからする私の質問に答えてもらえる?」
唯「うん」
紬「じゃあまず―――」
~~~
紬「なるほどね」
唯「・・・」
紬「唯ちゃんは記憶喪失・・・かも知れないわ」
紬「断片的な記憶はところどころ在るけれど」
紬「主にロンドン旅行とその前後、そして卒業式前後について記憶が失われつつある」
紬「でも」
紬「あずキャット」
唯「あ、その単語は覚えてるよ」
唯「なんで覚えてるのか忘れたけど」
紬「他にも覚えている物があったりするし」
紬「完全に消えているわけじゃない」
唯「私はいったい・・・」
紬「ごめんなさい・・・今の段階じゃまだなんとも」
紬「琴吹グループの医師団にも協力を仰ぐわ」
唯「そんないいのに・・・でもありがとう、ムギちゃん」
紬「いいえ、一番つらいのは唯ちゃんですもの」
唯「ん」
ザザザッ・・・
「―――荷物あずキャットいて―――」
「―――流行っちゃった!―――」
「―――荷物―――」
「―――流行っ―――」
「――――――」
「――――――」
唯「・・・」
紬「あ、あずキャットって梓ちゃんは使ってなかったわね~」
唯「あずキャット・・・?」
紬「えっ・・・?」
唯「なあに、それ・・・?」
紬「なっ・・・」
唯「じゃあ今日はありがとうね」
紬「ええ、じゃあまた明日」
紬「・・・」
紬「記憶が、今も徐々に失われつつある」
紬「でも『失われる記憶』の個所は決まってるみたい」
紬「どういうこと・・・?」
紬「何故そこだけが失われていくの・・・?」
紬「分からない・・・」
―――
「私たちに翼をくれたのはあずにゃんなんだ」
「この歌も、あずにゃんの羽になるかな」
「でーもね、あえーたよ、すてーきな」
「てんーしに」
唯「・・・」
唯「覚えてる・・・これだけは」
唯「忘れたくない」
―――
紬「今日みんなに集まってもらったのは」
憂「あの、ほんとにあのメールは・・・」
律「ああほんとだぜ、憂ちゃん」
澪「さすがに冗談でこんな事言わないよ」
和「唯が記憶喪失なんて・・・」
さわ子「何が原因なのかしら」
純(私も呼ばれたけど、私役に立つのかな?)
梓「唯先輩・・・」
和「突拍子もない話だけど、唯の記憶は誰かに奪い取られているんじゃないかしら」
紬「えっ?」
和「あまり本気にしないで聞いてね」
和「『特定の記憶のみが失われる』・・・これってやっぱりおかしいと思うの」
和「『全体的に無作為に』なら病気とかもあるだろうけど」
和「何者かの意思によってそこだけ記憶がむしり取られていく・・・」
和「そう、つまり私たちの知らないところで誰かが唯の記憶を奪ってる」
和「・・・なんて、ごめんなさいね。真面目な話の最中にこんなおかしな話」
紬「・・・いえ」
紬「そうなのかも」
紬「いろんな可能性を考えることも大事よ」
紬「それに今の話、なんだか妙に納得できた」
紬「馬鹿げているのは分かってるわ、でも」
澪「いや、私も今の話なんか納得した」
律「奇遇だな、あたしもだ」
純「あ、私もです」
さわ子「おそらくここにいる皆そう感じたはずよ」
全員「・・・」コクン
憂「でもそれじゃ」
梓「私たちにはどうにもできないって事ですよね・・・」
紬「じゃあ各自対策を考えておくって事で今日は」
梓「ムギ先輩」
紬「あらどうしたの梓ちゃん」
梓「唯先輩に会いに行っていいですか?」
紬「いいわよ、唯ちゃんきっと喜ぶわ」
梓「じゃあ今度寮の方に伺いますね」
紬「うん、メールちょうだい」
梓「はい、それでは」
―――
唯「私、どうなっちゃうんだろ」
唯「でもムギちゃんは『特定の記憶だけ無くなるみたいだからとりあえず心配しないで』って言ってた」
唯「でもねムギちゃん」
唯「一番怖いのは忘れることじゃない」
唯「『忘れたことを忘れること』なんだよ」
唯「なーんにも無くなるんだよ」
唯「そんなのないよね」
唯「あはは・・・」
「お、神シーンキタwwww」
「後ろ姿とかwww外れじゃんwww」
「屋上シーンマダー?」
「モブかよwwwww」
「なんだ外れかよ」
「イラネ」
唯「・・・」
唯「私、また忘れちゃったのかな」
唯「忘れたのかどうかも分かんない」
唯「天使にふれたよを作ったことも忘れたし練習したことも忘れた」
唯「忘れた・・・んだよねきっと」
唯「最初から無かったとしか思えないけど」
唯「でもあずにゃんがこの歌で飛んでくれるかも・・・って思った」
唯「そのことまで忘れたら、この曲を誰のために歌ったのかまで忘れちゃう」
唯「私、絶対に忘れない」
唯「絶対」
ザザザッ・・・
「―――今日くらいは私がお茶入れようと思ったんですけど―――」
「―――駄目よ―――」
「―――卒業―――」
「―――しないでよ―――」
唯「あ」
唯「なんだっけ・・・」
唯「まあ」
唯「いいか」
唯「忘れたことを忘れる」
唯「これって一番さびしいと思ってた」
唯「でも」
唯「忘れちゃうなら最初から無かったってこと」
唯「さびしいって感情もほんとは存在しない」
唯「もういいかな」
唯「むずかしいことは分かんないし」
唯「極端な話みんなのドッキリかもしれないし」
唯「みんなの事も覚えてるし」
唯「もう疲れたよ」
「―――でーもね―――」
「―――あえーたよ―――」
「―――すてーきな―――」
「―――きーみに―――」
ザザザッ・・・
「―――き―――」
「――――――」
ザッ・・・
唯「・・・」
ザザザッ・・・
「―――すてーきな―――」
「―――こねーこに―――」
ザザ・・・
「―――こね―――」
「――――――」
ザ・・・
最終更新:2011年12月07日 20:36