私達はみんな明日からの卒業旅行を楽しみにしていた。

行き先はロンドン。私、英語喋れないけど大丈夫かな?

唯「律っちゃん明日の準備できた?」

律「もちろんだぞ!唯はまだ終わってないのか?」

唯「そうなんだよ~。今夜、憂に手伝ってもらうよ~」

律「唯は憂ちゃんがいなくなったらどうすんだ?少しは自立しろよ」

唯「へへへ~」

梓「そうですよ。唯先輩はもうすぐ大学生なんですから」

澪「唯はこのままだと留年かもしれないな」

唯「ええぇ!」

紬「みんな~お茶が入りましたよ~」

みんな「はーい!」


~唯、その晩、ベッドの中~

明日は待ちに待った卒業旅行。

この三年間、本当にたくさんの事があったけど、それももう終わっちゃうんだなー。

あずにゃんとも離ればなれになって悲しいけれども

そのぶんこの旅行を絶対に忘れない旅行にしよう!

卒業してもみんな一緒だもんね!

ところで、あずにゃんには何をプレゼントしよう?

あずにゃんが欲しい物って何かな?

そんな事を考えているうちに眠ってしまった。


~翌朝~

憂「おねえちゃーん、遅刻しちゃうよ」

ガチャ

憂「おねえちゃん?…わぁ!すごい熱!」

唯「だいじょーぶだいじょーぶ」

起き上がろうとしてベッドから落ちてしまう唯。

憂「おねーちゃん!」

結局私は卒業旅行に行く事はできなかった。

私はその日から謎の高熱を出し、目を覚ましたのはその2日後だった。

そして、旅行前日に部室でけいおん部のメンバーと話したのを最後に二度と会うことはなかった。

あの日みんなが乗っていたロンドン行きの飛行機はロシア上空を飛行中に墜落したのだ。

原因は不明。ウラル山脈付近に墜落したということもあり、生存者の確認も困難を極めていた。

ある人は私の事を本当に気の毒だと言い、ある人は私の事を幸運だといった。

でも、私は自分の事を幸運だなんて思わなかった。私はみんなを裏切ってしまったのだ。

放課後ティータイム。それは私を変えてくれた。人生最高の友達と出会わせてくれた。

私もみんなと飛行機に乗るべきだったのだ。私にはもう何も残っていない。

何故私だけ残ってしまったの?


あの事故から一ヶ月後の四月。私は秋葉原にある大学に入学した。

本当は四人そろって入学するはずだった大学。

またみんなで演奏できると思ったのに。

今でもあの日の事を思い出す。何度も。何度も。

そして思う。あの日のみんなに伝えたい。

「この飛行機に乗っちゃダメ」だって。


ある日、一般教養として履修している地理の授業での事だった。

先生の言うことが頭にひっかかった。

「軽度が15度ずれると1時間戻します。それでは、ロンドンでは現在何時でしょう。それでは…平沢さん、答えをお願いします」

突然のロンドンという言葉に私は少し混乱していたが、それ以上に「時間を戻す」という言葉が私を混乱させた。

時間を戻せる?私が現在いる位置から15度移動すると、時間を1時間戻せるのだとしたら…

「先生、それじゃ私がロンドンにメールを送ったら、未来にメールを送る事になるんですか?」

教室がざわついた。

アイツ何言ってんの?

高校で習った事だろ?

電波じゃね?

その時だった。

「フゥーハハハ!お前は面白い事を考えるな。しかしそれは間違っている。なぜならロンドンも日本も流れる時間の速さは同じだからだ」

見ず知らずの男が急に立ち上がり、私の質問に答えた。この人は一体誰?

さっきの話だけどよく考えれば当然の事だ。混乱していて変な事を言ってしまった。それに未来にメールを送れても何の意味もない。

私が変えたいのは過去なのだから。

授業が終わり教室を出ていこうとすると、さっきの男が話かけてきた。

「貴様、平沢唯だな?どうやら時間に興味を持っているようだったが」

「あの、あなた誰ですか?」

「私の名前は鳳凰院凶真。未来ガジェット研究所のリーダーだ。実は私は世紀の大発明をした。それを使えば貴様の過去を変える事ができるかもしれない。どうだ?被験者になってみないか?」

私はふたつ返事でその申し出を受けた。明日の13時、秋葉原駅で待ち合わせをすることになった。


秋葉原駅に来たものの、段々と怖くなってきた。

鳳凰院凶真?絶対本名じゃないでしょ。

それに過去を変えるって…鳳凰院さんて大学生でしょ?そもそも大学生じゃない?

「待たせたな」鳳凰院さんが来た。

「こんにちは~」その後ろに女性がいる。

「こいつはまゆり。我が研究所のラボメン兼幼なじみだ」

「こんにちは~。まゆしぃです。ゆいちゃんよろしく~」

なんだかぽわっとしててムギちゃんみたいだ。いや、ムギちゃん以上かも。

「こんにちは。平沢唯です。本日はよろしくお願いします!」

「ミスヒラサワ。そんなに固くなるな。それでは我がラボへ行くとしよう」

そのラボは秋葉原駅から近かった。雑居ビルの2階。ちょっと怖いけどもう行くしかない。

部屋の中に入ると不思議な匂いがした。今まで嗅いだ事のない匂い。男とコンピュータの匂いが混ざったような。

「オカリン、この美少女誰?」

奥の部屋から巨漢が覗いているのが見えた。

「オカリンではない!鳳凰院凶真だ!」

「はいはい。で、オカリン、この美少女がもしかして平沢氏?」

「だから…チッ。そうだよ、ミスヒラサワだ」

「おお、可愛いなぁ!唯ちゃんぺろぺろ」

「ダル君やめなよ~。唯ちゃん固まってるよ~?」

「うちのラボメンが失礼した。アイツはダル。我がラボのスーパーハカーだ」

「スーパーハカーじゃない。ハッカーな」

これが男の人なのか。今まで見たことのないノリでついて行けないよ…。

「失礼。ところでミスヒラサワ。あなたの事は少し調べさせてもらった。2ヶ月前の飛行機事故で友人を失ったそうだな」

ギュっと胸が苦しくなる。

「そうです。みんなで行く予定だった旅行に私だけ行けなくて。それでみんなが乗った飛行機は…」

「もう話さなくていい。で、お前はその過去を変えたい訳だな」

「はい」

変えたい。変えたい。みんな戻ってきて。お願い。

「だが、過去を変えるというのは大きな代償を伴う事になりかねない。貴様にそれが負えるか?その決意はあるか?」

わからない。でも、みんなを助けたい。みんなと一緒にいたい。

私は頷いた。

「分かった。それではDメールを送る準備をしよう。まずは送るメールの本文を考えるのだ」


5分後

「これでどうだ?」

ロンドン行き
飛行機乗るな
事故が起こる

「もっと詳しく書けないんですか?」

「6文字かける3通。18文字しか送れないのだ」

「これで分かると思いますが…でも私はこれを信じるのかな?」

「それは俺にも分からない。だが、これ以外に良いメッセージも無かろう」

確かに。

「それで、このメールをどうやって過去に送るんですか?」

「これを使うのだ」

「え?これって電子レンジじゃ…」

「貴様、これは電子レンジじゃない!未来ガジェットNo.8、電話レンジ(仮)だ!」

「オカリン、いい加減(仮)とろうぜ」

「まあいい。とにかくコイツを使って過去にメールを送るのだ」

こんなもので過去にメールを遅れるの?だけど今はこの人を信じるしかない。

「唯ちゃん、大丈夫だよ~。きっと唯ちゃんの思いは伝わるよ~」

「それはどうかな。あまり期待しすぎない方がいい」

準備が整った。卒業旅行の2週間前にメールを送る。

「ダル、レンジをスタートしろ」

ターンテーブルが回転を始める。

ロンドン行き
飛行機乗るな
事故が起こる

このメールがどのように過去を変えるのかな?ん?変わるのは未来かな?

怖い。怖いけど期待感も大きい。みんなと会える。きっと会える!

私はぎゅっと目を閉じていた。

すると鳳凰院さんが私の耳元でささやいた。

「必ず未来を変えてこい。ミスヒラサワ」

はっとして目を開いた。

「メール送信!」

目の前で電子レンジが発光を始めた。

突然足元が揺れるような感覚がきた。転んじゃう。目の前の映像が歪む。怖い…意識が遠のいてく…

―――

俺が目を開けると、ミスヒラサワはいなくなっていた。

あたりを見回すとダルとまゆりがいた。

「ミスヒラサワは?」

「何それおいしいの?」ダルが答える。

どうやら過去は変化したのようだ。

「飛行機事故は?」

「飛行機事故?そんなもんここ最近は起こってないけど?」

飛行機事故は無くなってしまったようだ。

Dメールひとつで飛行機事故がなくなるのか?そこにどんな因果関係があるか分からないが、事実は事実だ。

「ダル、少し散歩してくる」

俺は平沢唯の自宅へ向かった。


~平沢家前~

ここへ来るのも5度目になる。近隣の住民に声をかけて調べるとしよう。

そこへちょうど老婦人が家から出てきたので、聞いてみることにした。

「ご婦人、私は平沢唯さんの同級生の岡部と申します」

ここでは仮の名を使っておくとしよう。

「平沢唯さんのご自宅はこの辺りだと伺ったのですが、ご存知でしょうか?」

「平沢さんのお宅ならすぐそこですよ。でもねぇ、唯ちゃんなら2ヶ月前に亡くなったわよ」

「そうですか。原因はなんだったのでしょうか」

「なんでもね、雪山にスキーをしにいって雪崩にあったらしいの。結構ニュースになったじゃない。あの事故ですよ」

これが運命石の扉の選択なのか。平沢唯はまたも死んでしまった。一体どういうことなのだろうか。


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最終更新:2012年01月11日 21:22