軽音部に入部してから早2ヶ月
最初は辞めたいとばかり思っていた私も、今では毎日が中々楽しいと思えるまでになりました
いやー、慣れって怖いね

律「てめぇ!絶対ゆるさねぇ!」

澪「上等だ!ぶっ殺してやるよ!」

和「あなた達!喧嘩は止めなさい!」

律「うるせぇ!外野はすっこんでろ!」

紬「まったく、愚民共はいつも騒がしいわね…」

和「なんであなたはそんなに落ちついていられるの!?唯も何とか言って…」

唯「あはは…毎日が楽しいなぁ…」

和「唯!?現実に戻ってきてよ!」

そもそも、何故、どうして彼女達が喧嘩しているのか
それは遡ること1週間前…


―1週間前 部室

唯ふんふふ~ん♪」

ジャカジャカーン

澪「お、唯なかなかギターがうまくなったな」

唯「えへへ♪なんたって澪さんからもらった本を見て毎日練習してるからね!」

澪「へぇ、そりゃ頼もしいじゃねえか。あたいらもあんま、うかうかしてられないな」

律「姉御は練習なんかしなくたってお上手ですぜ! なんたって天才なんですからね!」

澪「おう、言われんでもわかっとるわい」

律「これはこれは…失礼いたしやした!」

紬「何が天才よ、馬鹿みたい」

律「んだとぉ!?姉御に向かってなんて口のきき方しやがる!」

紬「本当のことを言ったまでよ、天才だからって練習をしないで上手くなれる訳ないでしょ
  己の力を過信する前に、少しは練習したらどうかしら?」

律「このアマ…!もう黙っちゃおけねぇ!ぶっ殺してやる!」

澪「待ちな律…確かにムギの言う通り、練習は必要だ…よし!一旦全員で合わせてみるとするか!」

唯「みんなで合わせるんですか?」

澪「そうだ、そういや唯は初めてだったな みんなで一緒に演奏するのは楽しいぞ」

律「そうだぞ、そりゃもうやみつきになるくらいに」

唯「やみつき…楽しい…か…」

それってどんなだろう…
すごく、ワクワクするなぁ…

唯「…早く演奏したいです!」

紬「くす、まるで子供みたいね」

澪「まぁいいじゃねえか、私達も最初はこうだったろ?」

律「ですよね!姉御と初めて合わした時の感動、一生忘れられませんぜ!」

紬「流石愚民共ね、それ以上の感動を味わったことがないからでしょ?」

律「ああん?そう言うてめぇはどうなんだよ!?」


紬「私?私は勿論………」

律「? なんだぁ?急に黙りやがって」

紬「……楽しかった、わよ…」

唯澪律「………」

紬「な、何よあなた達…文句でもあるの!?」

澪「…こりゃ驚いた、まさかムギの口から楽しいなんて言葉が出てくるとはな…」

律「明日大雨でも降るんじゃないですかね…?」

紬「なっ!?う、うるさいわね!私だってたまにそう思うこともあるのよ!///」

…私も正直驚いた。普段は私だけにしか、自分の本当の気持ちを表さないムギちゃんが
まさかみんなの前で楽しいなんて言うなんて…ムギちゃん、なんだか変わったなぁ

唯「えへへ♪」

紬「あ、あなたは何笑ってるのよ?」

唯「ん?ムギちゃん変わったなぁって思ってさ♪それがすごく嬉しいんだよ」

紬「それは……あなたのお陰よ唯ちゃん、ありがとう…」ボソッ

唯「ん?なんか言った?」

紬「な、何でもないわよ!それより早く練習を始めましょう!」

澪「それじゃ始めるぞ、律」

律「はい姉御!…ワンツースリー!」


初めて体験する、みんなと合わせた演奏
それは音楽とは呼べない程、リズムもバラバラで音程も外れていたが
それでも私には、どんな有名な音楽よりも素晴らしく思えた

ああ、自分達で音を紡ぐのって、なんて楽しいんだろう
これが軽音部、これが音楽、これがバンド演奏
本当に素晴らしい、私はもっと、この感覚を味わいたい!


ジャーン

澪「…ふぅ、唯、初めてにしてはなかなか良かったじゃねえか」

唯「……」

澪「唯?」

唯「…なんて言うか、言葉じゃ表しづらいんですけど…」

唯「すごく、楽しかったです!私、この部に入部して良かったと思いました!」

澪「…そうか、ありがとよ」ニコッ


澪「しっかし久しぶりに演奏すると、やっぱり腕がなまってるなぁ」

紬「だから言ったでしょ、練習は必要だって」

澪「ああ、少しは唯を見習わなくちゃいけねぇな」

律「何言ってんですか!?姉御がこんなぺーぺー見習う必要なんてないですよ!」

唯「ぺーぺー…」

まあ、見習われても困るのは事実だけど、あなたにぺーぺーとは言われたくない
だって律さんのドラムは、素人の私でもわかるくらい、その…下手糞だったから

律「…おい平沢、何だそのツラは?私のドラムが下手糞だったとでも言いたいのか、ああん?」

ええ言いたいですよ
でも言いません

澪「…実際下手糞だったろ、唯は本当のことを思ったまでだ」

律「…え?姉御?」

律「私が下手糞だってどういうことですか!?」

澪「言った通りの意味だよ、てめぇは下手糞だ律 どうせずっと練習サボってたんだろ?」

律「た、確かにそうですけど…でもそれは姉御も同じじゃないんですかい!?」

澪「あたいは家で時間のあいた時にちゃんと練習してたよ
  何も喧嘩ばかりが全てじゃないからな」

律「…喧嘩ばかりが全てじゃない?はは、姉御から喧嘩をとったら何が残るって言うんですかい?」

澪「…なんだと?おい律、今のは聞き捨てならねぇな」

律「はいはい…申し訳御座いませんねぇ…」

澪「…てめぇ、誰に向かって口聞いてんのか分かってんのか?あぁ?」

澪さんはそう言うと、律さんの胸倉を思いっきり掴んだ
これはまずい…早く二人を止めなくちゃ

唯「ちょ、ちょっと二人とも!喧嘩はダメだよ!」

澪「うるせぇ唯!てめぇはすっこんでろ!」

ひぃっ!?…なんていつもみたいに怯えてる場合じゃない!

唯「…嫌です、すっこみません」

澪「…なんだと?」


唯「だって、同じ部員同士仲間みたいなものじゃないですか!
  なのに仲間割れなんてダメです!」

澪「唯…そうだよな、確かにそうだ」

澪さんは律さんの胸倉をゆっくりと離した
よかった…どうやら私の気持ちが伝わったみたい

律「仲間…ねぇ…はははっ!そうか、仲間か…」

唯「そうだよ、私達は仲間…」

ドガッ!

唯「あうっ!」

一瞬何が起きたのか分からなかった
私は床に尻もちをつき、鈍い痛みを放つ右頬をさする

そうか、私は彼女に殴られたんだ
少し遅れてそう理解できた

律「馬鹿じゃねぇの?私はてめぇ等を仲間だなんて思ったこと一度もねえよ」

床に尻もちをついた私を、彼女は鋭く冷めた目で見下した

紬「唯ちゃん!大丈夫!?」

慌てたムギちゃんが、私の顔を心配そうに覗き込んだ
それに私は返事をする代わりに笑顔で答える

紬「そう…よかった…」グスッ

澪「律!!てめぇ…!!」

澪さんは律さんの胸倉を再び掴んだ
だがさっきとはまるで迫力が違う、澪さんは本気で怒っているんだ

律「…離せよ」

澪「仲間を殴るとはどういう了見だよ!あぁ!?」

唯「あ、あの…喧嘩は…」

ダメだ、うまく言葉が発せられない
それは彼女達に恐怖を抱いているから?だとしたらなんて情けないんだろう
ついさっき、彼女達のことを仲間だと言ったばかりなのに


唯「うぅ…」ポロポロ

自分の不甲斐なさに、思わず涙が零れた
泣いている場合じゃないのに、喧嘩を止めなくちゃいけないのに
しかし私がどんなにそう思っても、溢れる涙が留まることはなかった

紬「! 唯ちゃん…」

紬「…あなた達!いい加減にしなさい!!!」

ムギちゃんが今までに聞いたこともない程の大きな声で、彼女達を叱り付けた
その様子に彼女達を含め、私までもが驚き、同時に言葉を失った

紬「まったく…あなた達は喧嘩のことしか頭にないの?」

律「で、でもそれはこいつが最初に…!」

紬「黙りなさい。元はと言えば、あなたがちゃんと練習していなかったのが悪いんでしょ
  そのことを指摘されて怒るなんて、まだまだ子供ね」

律「んだと!?」

紬「あと唯ちゃんを見てみなさい、あなたが殴った所が腫れているでしょ
  これに対して、何か唯ちゃんに言うことはないのかしら?」

律「…ねぇよんなもん」

紬「はぁ…謝ることも知らないなんて、あなたって本当、子供以下ね」


律「…はいはい、どうせ私は子供以下ですよ」

紬「あら、自覚してたのね」

律「…ちっ、勝手に言ってろ」

澪「おい律、何処に行きやがる?」

律「帰るんだよ…こんな部もう2度とこねぇから、それじゃ」

ガチャッ  

バタン

澪「…たくあの馬鹿、何考えてんだよ……しょうがない、今日はあたい等も解散しよう」

紬「そうね、そうしましょう」

澪「じゃあ悪いがあたいは先に帰るわ…じゃあの」

紬「…大丈夫唯ちゃん、立てる?頬は痛む?」

唯「ムギちゃん…ありがとう、代わりに喧嘩を止めてくれて」

紬「どういたしまして。でも、喧嘩を止めることは出来たけど…」

唯「うん…」

確かに喧嘩を止めることは出来た
でも、結果彼女達の間にできた溝を埋めることは出来なかった
律さんは本当にもう2度と部室に来ないんだろうか?

そんなのは嫌だ、だって折角バンド演奏の楽しさに気づけたというのに

唯「…どうにか仲直りさせたいね」

紬「…そうね、でも今日は大人しく帰りましょう」

唯「うん…」



―帰り道

私達は一言も話さずに、帰りの道を歩いていた
いつもなら色々と話すこともあるのだが、今日ばかりは話す気になれなかった

そして無言のまま、お互いの家へと続く分かれ道に差し掛かった時
後方から私を呼ぶ声が聞こえた

「唯ー!」

唯「…あ、和ちゃん」

和「今帰り?…ってどうしたのその頬!?」

唯「あ…ちょっとね、えへへ」

和「ちょっとね、じゃないでしょ!それって殴られた痕でしょ? 誰にやられたの!?」

唯「だ、大丈夫だって!ちょっとぶつけただけだよ!」

和「そんな訳ないでしょ!?正直に言いなさい!!」

紬「…ねぇ、この騒がしい人は誰?」

和「! まさかあなたが唯を…!許せない…!」

紬「…は?」

和「…そう、そう言う訳だったの」

唯「そ、そうなんだよ…」

…良かった、やっと話を聞いてくれた
和ちゃんは憂とは違うベクトルで、私思いだからなぁ…

和「あなたもごめんなさい」

紬「いいのよ、誤解さえ解ければそれで…とこれであなた、名前は?」

唯「あ、紹介がまだだったね。彼女は真鍋和ちゃん、私の幼馴染なんだ」

和「真鍋和です、よろしくお願いします」

紬「そう、私は琴吹紬よ、よろしくね和さん」

和「でも言っちゃ悪いけど、軽音部って野蛮な所なのね
  そんな部、唯には向かないわよ。早く辞めた方がいいんじゃない?」

紬「! ダメよ!彼女は軽音部の大事なギタリストなの! 辞めるなんて許されないわ!」

唯「大丈夫だよムギちゃん、私は辞めるつもりなんてない」

紬「唯ちゃん…」

…まぁ確かに野蛮で、前まで辞めたいとは思っていたのは事実だけど…
それでも今は辞めたいなんて少しも思わない、むしろ軽音部が楽しいとまで思えてきている

和「…ふーん、唯にも打ち込めるものができたのね まぁ、それはいいことだわ」

和「…でも、唯がまた傷つくようなことがあれば、私は許さないから
  それだけは紬さんも覚えておいてね」

和「それじゃ私達はここで、さよなら紬さん」

紬「あ…あの…!」

和「? まだ何か?」

紬「そ、それは…その…」モジモジ

? ムギちゃんどうしたんだろう?何か言いたそうだな
もしかして悩みごとかな?ならここは友達の私が一肌脱がなくちゃ!

唯「…ムギちゃん、もしよかったら今から家に来ない?」

和「!」

紬「え…?いいの?」

唯「うん!友達だもん、大歓迎だよ!」

紬「…ふ、ふん!あなたがどうしてもと言うなら、お邪魔してあげてもいいけど!」

唯「なら決まりだね、早速私の家に行こう!」

ふふ♪ムギちゃんも相変らず素直じゃないなぁ
和ちゃんがいなかったらきっと、喜んでついてくるんだろうな
その姿が目に浮かぶよ

和「ま、待ちなさい!…私もお邪魔させてもらうわ」

唯紬「…え?」


―そして平沢家

唯「ただいまー…」

憂「お帰りお姉ちゃん。あ、和さんお久しぶりです」

和「久しぶりね憂ちゃん、相変らず元気そうね」

憂「はい♪…あれ?そちらの方は?」

紬「初めまして、琴吹紬よ。あなたが唯ちゃんの妹?
  姉妹揃って貧乏くさいのね。流石貧民だわ」

憂「…は?」

唯「!」

なななな…なんてことを…!
そうだ、彼女は知らないんだ、憂の恐ろしさを…
憂を咎めるだけならまだしも、彼女は私をも咎めた…
憂はそれを許すだろうか…?

憂「…へぇ、お姉ちゃんが貧民ですか
  ははは、そうですか…お姉ちゃんが貧民ねぇ…」シャキーン

で、でたーッ!憂の愛包丁、唯我独尊ッッ!!
これを出したってことは、憂は彼女を許さなかったってことだぁ~ッ!


憂「紬さん…でしたっけ?ふふふ…地獄で後悔して下さい
  私のお姉ちゃんを馬鹿にしたことをねぇ!」

唯「わ、わー!待って憂!」

憂「どいてお姉ちゃん、そいつ殺せない」

殺すって…
でも憂なら本気でやりかねない

唯「ダメだよ!前にお姉ちゃんと約束したでしょ!?」

憂「そんなの関係ないよ…私はこいつを『殺す』…」

紬「あわわ……」ガクブル

殺すを強調しないで下さい
ムギちゃんが怖がってます

唯「ダメ!彼女は私の大切な友達なの!…もし彼女を殺しでもしたら
  …私は憂を絶対許さない、嫌いになってやる」

憂「!!!???」


憂「そ…そんな…」

サクッ

憂の手放した包丁が、床にサックリと突き刺さる
…どんだけ切れ味いいんですか、その包丁

憂「お、お願いお姉ちゃん…!私を嫌いにならないでぇ!」

唯「なら馬鹿なことは考えないで、私の友達を殺すなんて絶対に許さないから」

憂「…わかりました…お姉様の仰せの通りにします…」グスッ

…お姉様?…まぁいいや
これで憂も少しは懲りたでしょ

唯「ごめんねムギちゃん、怖がらせて…」

紬「あうう…」グスッ

…これはいけない、涙目になってる
どうやら相当怖がらせてしまったみたいだ

とりあえず彼女を部屋まで連れて行こう



―そして唯の部屋

紬「まったく!あなたの妹は一体何なの!? 流石貧民ね!本当、失礼しちゃうわ!」

唯「あはは…ごめんごめん…」

あれから数十分後、ムギちゃんはいつもの憎まれ口を叩けるまでに、ようやく落ち着いたみたいだ 妹があれだけ怖い思いをさせたんだ、私は黙ってそれを聞くしかない

紬「まったく…!」プンプン

唯「…そう言えばムギちゃん、何か私に話があるんじゃない?」

紬「え…?そ、そんなものないわよ!」

唯「いいから、この部屋には私達しかいないんだからさ 何か思うことがあるなら話しちゃいなよ」

その為に、私は彼女を自宅に招いたんだから
二人っきりで話しやすいように、と

紬「唯ちゃん……実はね…」

唯「うんうん」

和「実は何かしら?」

紬「……え?」


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最終更新:2010年01月27日 02:19