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純「その……すんませんでした」

広がる夜空の下、土下座している女子高生がいた。

鈴木純だった。

純「いやそのですね……私なりに真剣に考えた結果、このような所業に至ったわけです、はい」

梓「もう、だから私は反対したのに純ったら……」


とりあえず、悪びれもしないで責任の一切合財を鈴木純に押し付けようとしている中野梓にも謝らせた。

まあ、誤らせたと言ってもジト目で睨んだだけなのだけど。


結局、お馬鹿が企てたお馬鹿な作戦は却下した。


純「いいもん。次こそは必ず憂をギャフンと言わせるような作戦を考えてやるんだからっ」

これは去り際、私に置いてった鈴木の捨て台詞である。
まさに完璧に本来の目標を忘れた馬鹿の台詞である。


ちなみに中野には、私がお姉ちゃんに告白するということを
伝えた人間、漏れなく全員に実は嘘でした、というように伝えるように義務づけた。明日中に。


そして。

憂「……」

梓「……」

耳が疼くかのような静寂の中、私と中野梓は二人してベンチに腰をかけていた。

憂「……」

何か言わなければいけない。
そう思ったから、私はこうして隣で座っている彼女に残ってもらったのに。
いざ、話そうとすると、言葉は詰まったかのように出てこない。

静寂を破ったのは、中野の声だった。

梓「あのね、純は決して悪気があったわけじゃないんだ」

憂「うん、知ってる」

たぶん、一生懸命あの作戦を考えてくれたんだろうというのは、分かった。
私とお姉ちゃんをくっつけるために。
私はそう確信していた。根拠は無いけれど。不思議とは思わなかった。

憂「……ひとつ、聞いて……いい?」

鈴木の作戦を聞いてからずっと気になっていたこと。それをたずねた。

憂「……なんで、私の恋愛に……反対してたのに、今になって、協力しようと思ったの?」

出てきた言葉は表面上は辛辣だったが、自分でも驚くほど声は穏やかだった。

梓「憂と唯先輩見てて、二人の共通点を見つけた」

憂「共通点?」

梓「何だと思う?」

暗闇の中でも、中野が悪戯っ子のような微笑を浮かべているのが窺えた。

憂「共通点……」

梓「残り五秒……三、二、一、ゼロ。はい、終了。答えは……」

少しだけ間を置いて、中野は答えた。

梓「お互いがお互いのことを好きってことだよ」

憂「!」

それじゃあ両想いじゃん。

梓「言っとくけど、憂と唯先輩の想いは少し違うと思うよ」

憂「違う?」

梓「憂のは本当に恋愛感情だけど、唯先輩のは妹愛って感じ」

憂「……なんで……なんで、そんなことが分かるの……?」

言わずもがな、私の方がお姉ちゃんとの付き合いは長い。

梓「分かるよ。というか分からない方がおかしいよ。
  だって憂は普段は全然喋らないのに、口を開いたらお姉ちゃんのことばっかだし」

憂「……」

梓「唯先輩はよく喋るけど、その半分くらいが憂の自慢なんだもん」

憂「……!
  お、お姉ちゃんが私のことを……?」

梓「うん、しょっちゅう話してるよ」


ヤバい。顔がニヤケそうだ。いや、もしかしてもうニヤケてる?


……よかった、真っ暗で。こんな顔誰にも見せたくない。


梓「……もしかして、憂笑ってる?」

憂「……」

ワラッテナイヨ。

梓「笑ってるでしょ!?
  憂の笑った顔見たい!ちょっとケータイ出すから待ってて!」

憂「い、いや」

梓「少しだけだからっ」

憂「……絶対に…………いや」

梓「じゃあ写真だけ!」

憂「もっといや!」

やっぱり私が笑うのってすごく珍しいんだ、と抗議しながら思った。

しばらくの間、私と中野は私の笑顔を巡って取っ組み合いするハメになった。


もちろん、コミュニケーション能力以外はハイスペックな私が勝った。


梓「オホン、ええ、というわけで、さすがに夜も遅いし、親が心配するんで帰ります……」

中野は肩で息をする程度には疲れていた。

憂「そうだね……」

しかし、肩で息をしているのは私も同じだった。残念ながら平沢憂は持久力はあまり高くない。

梓「……憂、そういえば時間大丈夫?とっくに唯先輩帰ってくる時間でしょ?」

憂「!」

しまった……!
まさか、お姉ちゃん好き好き大好きラビューな私が、お姉ちゃんのことを失念するなんて。
私は中野のことなど、さっそく放置して全力ダッシュした。

梓「うーいー!」

それでも。
そんな風に呼ばれて、私は思わず立ち止まって振り返ってしまった。

梓「また明日ー!」

大きな声を出すのが、恥ずかしい私は――思いっきり声のした方向に手を振った。









家に帰るまでの道のり。

途中で私はコンビニで一冊、新たにノートを購入した。


今日からもう一つつける日記を増やそうと思う。




――二ヶ月後


さんさんと輝く太陽は夏を象徴するかのように鋭く、思わず目を細める。


高校生になってようやく迎えた夏休み。

今日は、初めて梓ちゃんとお出かけする。

……純ちゃんは夏休み早々、夏風邪に見舞われた。近いうちにお見舞いに行こうと思っている。


憂「……にしても遅い」


既に待ち合わせ時間から、十分以上が経過していた。


高校生になってまだ四ヶ月も経ってないけれど、
そのたった百二十日の間に私は今までしたことのなかった色々な経験をして、様々なことを学んだ。

そして、色々と変わった。
前よりも少し明るくなった。
相変わらず、人見知りでシャイな部分は変わらないし、お姉ちゃんラブなままだけど。

ちなみにお姉ちゃんとの関係については、特に変化していない。

現状維持、と言えば聞こえは良いものの、要は私が何のアクションも起こしていないにすぎない。


でも、まあそれでいいって思ってる。


そして、私の性格にある意味でもっとも強い影響を与えた純ちゃん。

純ちゃん。

マリモ女でもカニ女でもモップ女でもなければ、鈴木でも、鈴木さんでもない――純ちゃん。

いつからこんな風に呼ぶようになったのかと言えば……。
まあ……きちんとしたエピソードがこれにはあるのだけど、恥ずかしいからカット。

何でもかんでもは教えない。

……大事な思い出でもあるし。

うん、でもこれだけは言っておきたい。純ちゃんには本当に感謝している。

純ちゃんが言ってくれたあの言葉。


――誰かのことを思って不安になったり、誰かのことを思って心配したりするのは――優しくなきゃできないじゃん


憂。

嫌いで嫌いで、仕方なかった名前は、今ではそれなりに気に入ってる。

素敵な友達が素敵な由来を教えてくれたことだし。

これからもこの、憂、って名前は大事にしよう。


そして、今、私が待っている梓ちゃん。

この女の子が今思うと、全ての始まりだった。

全ての始まり、はちょっと格好つけすぎかもしれないけど。
それでも、私が変わるきっかけを作ったのは間違いなく梓ちゃんに他ならない。
勝手に人のノートを見て笑い出したり、私の秘密をカミングアウトしまくっちゃたりしたこともあったけど。

でもやっぱり、心の優しいイイ娘だと思う。

梓ちゃん。

今思うと、私もずいぶんと梓ちゃんに酷いことを言ってたなと思う。心の中とはいえ。

ゴキブリ女に猫娘……それが今では梓ちゃんだから世の中は本当に不思議。

二人のかけがえのない友達のおかげで私は変わることができた。

本当にありがとう。

そして、いつまでもお友達でいてください。

……なんて、そんなことを言うのはまだまだ今の私には無理。

でもこの気持ちは絶対に二人に届けたいと思う。


ううん、届けてみせる。

いつになるかは分からないけど。


私を変えてくれた、私の素敵で大切で大好きな友達に。


この気持ちを伝えよう。


不意に風邪が吹いて、私の髪が少しだけ揺れる。
振り返ってガラス張りのハンバーガー店を見た。
正確にはハンバーガー店ではなく、ガラスに映った自分を見て、髪型のチェック。

そういえば、髪型も変えたんだよね。

他の人にとってはどうでもいい場所だろうけど、ここは初めて三人で来た記念の場所。

そして、このハンバーガー店に新しい記念が今日できた。


梓ちゃんと初のお出かけの集合場所。


「うーいー!」


聞き慣れた声がして、私は振り返る。

笑顔の梓ちゃんが、手を振って走っているのが、遠目からでも分かった。


憂「梓ちゃん、おそいよー!」


私は梓ちゃんに届くように、そして夏の日差しに負けないくらいの笑顔で思いっきり大きな声を出して手を振った。




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最終更新:2012年01月20日 01:03