○ ○ ○
紬が十四歳、菫が十一歳になると二人の関係は屋敷内でも噂の立つほど緊密で恋仲を疑われる程であった
どこへ行くにも菫はぴったりと紬の傍を離れない常に鞠躬如として侍坐する如く控えている流石にお互い学校がある時は
そうもいかないが屋敷で二人が別々になるのはトイレへ行く時くらいであった但し一部では菫が紬の下の世話もしているのではと
まことしやかに噂されることもあったという。
或る日菫が父に曰く
「紬お嬢様が夜でも安心してお休みになられるように私の宿を紬お嬢様のお部屋に移させて下さい」と。
当然父は反対した使用人の分際でそのような頼み事が許される訳がない、お前の熱心な仕事ぶりは私も認めよう
けれども行きすぎた奉公はお互いの為にならんと云って厳しくたしなめた
その翌々日の事である琴吹会長から突然菫の宿泊許可が言い渡された菫の父は仰天して会長に問い詰め
何故一介の使用人に過ぎない菫を此のように特別扱いするのですかと云ったすると会長は紬の達ての願いなのだ
確かに少々やり過ぎではあるが珍しく紬が我儘を云うので私もきつく反対できんでなと苦笑いした
読者の中には菫が裏で紬に頼み込んだのではと推測する者もあろうけれども菫の普段の行いから言ってそれは
有り得ないと断言できる。 前にも述べたように菫は一方的に紬を崇拝していたお嬢様の言い付けならば例え自身が
傷ついても一向構わない平気であると事ある毎に左右の者に吹聴していた又紬お嬢様は容姿気品性格すべてに於いて
私など遥かに及ばない高みにおられる方ですどうして私があの方に意見することなど出来ましょうとも云った
そこまで己を卑下した菫が厚かましくもお嬢様と同じ部屋で寝泊まりをしたいと紬に申し出るとは考えにくい
したがって菫の希望とは別に紬自らが相部屋にしたいと会長に頼んだのであろう他人の気持ちに敏感な紬の事であるから
菫の願望をそれとなく察したのではないか。
普段菫は内にたぎる情熱をことさらに示したりはせず飽くまで黙然と仕えることを目指したが此の時幾分小学生である
不器用に加えて喜怒哀楽が豊かであったから仕草や態度、表情を見れば何を考えているのかは容易に知れた。
此の例に限らず紬は菫の分かり易い気持をさりげなく汲んで云わずとも彼女の願望を実現してやったりした
表面は素知らぬふりで偶然を装う紬であったが菫はその心遣いをすぐに理解し、その度に無限の感謝を捧げるのであった。
斯くして二人は殆ど同居の形となり菫は相変わらずまめまめしく奉公に励んだ少くとも表面上はそう見えた
使用人共は会長の一人娘と執事長の一人娘との中を疑わしく思い様々な陰口を云った菫ちゃんは人目の付く所では
ああして澄ましているけれども紬お嬢様のお部屋は誰にも監視されていないから中ではきっと秘密の情事に勤しんでいるに違いない
而もお嬢様は多感な年頃であるから女同士とは言え過ちを犯さないとも言い切れないと半ば面白がって噂立てるのであった。
菫の父も二人の仲に懸念を抱いた噂は屋敷中で囁かれ琴吹会長にも知れたが会長すらも面白がっているので始末に負えない
此の頃は紬のしつけのおかげで菫の仕事ぶりも中々手際が良くなってきたそれは喜ぶべきであったが若し菫が忠義心を履き違え
一線を越えてしまうような事があれば紬に悪い影響を及ぼさないとも限らない。
こうした危惧があったにも関わらず菫の父は彼女らを深く追求することが出来なかった二人は飽くまで完璧な主従関係を守り
主君と召使の料簡を頑なに崩さなかった既に他人が探りを入れる余地は無かったのである。
風呂に入るときでも必ず菫は紬に付いて行った紬が幼い頃は専属のマッサージ師と乳母が世話をしていたが
此の頃は菫が一人で入浴を手伝いマッサージの術も学んで紬の体をほぐしたのである又浴室は広々としていたので此の時菫もついでに体を洗った。
他の女中たちが興味本位で脱衣所からすりガラス越しに二人の様子を覗くとぼんやりとした二つの影が時々ぴったりと重なって妖しく動いた
菫が紬の体のあらゆる所に手を滑らせて丹念に浄めているのである脱衣所に二人分の衣服が投げられているのを見ると菫も全裸であろう
すると俄かに艶めかしい場面を女中たちは想像した
十一歳ともなれば菫も発育めざましく中学三年になる紬とほとんど背丈が変わらないましてやお互い若々しい色気に満ちていた
広い浴室にシャワーの水の弾ける音が響き密着した二人が何やら言葉を交わすと外で見ている者にはそれが甘い官能的な囁きに聞えた
中の詳しい状態は分からないけれども紬の白く透き通った肌や処女の繊細な影を落とした茂み、柔らかに張った小高い乳房とその先の
薔薇色のつぼみなど巨細に至るまで菫の指が這っている空想はどこか背徳的で完成された美の象徴を思わせた。
此の年頃になると菫も垢抜けて大人っぽくなり紬に負けるとも劣らない美人の片鱗を見せ始めた二人が並んで立つと自然と
背景が明るくなり彼女らの美貌は益々映えたそれは恰も名家の令嬢の姉妹であるかのように凛として見えたという。
或いは血の繋がった姉妹よりも深い絆がそこにはあったかも知れない菫は紬の目配せと仕草だけでその意思を汲み二人が
長々と言葉を交わすことは稀であった大抵は二言三言ですべてが通じた又そうして話す時もお互いにそっと顔を寄せて
辺りを憚るようにぽつぽつと囁くのであった完結した二人の世界がそこに出来上がっていたのである。
========================================================================================================
これより先は私の個人的な願望に基づいた妄想である故に不快に感じた読者は読み飛ばしても構わない。
或る後ろめたい秘め事を共有しているかのような二人の心の繋がりはようとして知れないけれどもその実態の示唆を得るには
紬の部屋で何が行われていたのか想像するに足るであろう然るに二人が誰にも明かすことのなかった部屋の内情を私が今此処に
推測で書き起こしてみる真に勝手ながら本人たちの了解は得ていない。
菫が紬の部屋での寝泊まりを許可され晴れて同居となった当初、菫は固い床に寝具を敷いて窮屈そうに眠った
菫自身はそれをまったく苦に思わなかったが、そうして召使一人を床に転がせておいて自分だけ快適なベッドで寝るのは
あまり気分の良いものではないと悟ったのか或る晩紬が思いきって云った
「……ねえ、菫ちゃん」
「はい、どうされましたか?」
紬の小さな声に菫は機敏に反応した
部屋は既に暗く時計は夜中の十二時を回ろうとしている
「床じゃ寝づらいでしょう?」
「いえ、私は平気です」
そう返事するとしばらく二人は沈黙した
なぜそんな事を聞いたのだろうと菫が考えていると紬が遠慮がちにこう云った
「……一緒に寝ない?」
思わぬ言葉に菫はドクンと心臓を高鳴らせた紬の声はか細くいつものように控えめな感じであったが
その愛撫するような言葉には寂しさと懇願とが含まれていた
「……いけません」
菫はへんに目が覚めてしまい暗闇から聞える紬の吐息に耳を傾けた
冗談かと最初は思ったが紬が冗談を云うことは少ないすると紬の吐息がわずかに乱れた
「ねえ、私寒いの……暖めてほしい」
菫はすっと立ち上がると紬のベッドに寄った
「もしかしたら風邪かも知れません。……失礼します」
そう云って暗闇におぼろげに見える紬の額に手を当てた
「特に熱はないみたいです」
菫が淡々と云うと紬がその手をそっと握った
「えっと……あ、足が冷たいの。だから来て、ね?」
紬が何を考えているのかは菫には分からなかった
ただ云われるがままにのそのそと布団にもぐった
菫は紬の下半身に足を伸ばすけれども自分の足の方が冷たいと感じるほど紬の全身は熱をもっていた
「お嬢様の足、暖かい……手も……」
そう不思議に思っていると紬が突然菫を抱きしめた
肌と肌が触れ合うのは菫にとって何ら特別な事ではなかった風呂では常にお互い全裸であったため羞恥もない
しかし紬の腕に俄かに抱き寄せられると菫はカッと身体が熱くなった動悸もどんどん速くなった
「お嬢様……?」
紬は何も云わない只菫を胸に寄せて黙っている菫はその柔らかな感覚越しに紬の鼓動を聞いた
菫はそのまま何もできず固まった
何が何やら分からない、紬お嬢様はいったいどうしてしまわれたのだろうと困惑していると
紬が抱いていた腕をすっと放したすると暗闇の中にお互いの顔がすぐ目の前にあるのが感じられた
口元に紬の荒い息が吹きかかり次の瞬間、
「……んっ」
菫の唇は生温い濡れた弾力に覆われた菫は驚きととろけるような感触とで息が止まった
紬の口唇はゆっくりと菫の口唇を広げたいつの間にか菫の手は握られていた
紬は指を絡ませて時々甘い息を漏らしながら一心に唇を動かした
菫はしばらく茫然としていたが次第に紬の求めるのに応じて自らも紬の唇を貪った
――この日以降二人は同じベッドに入り寝るようになった
始めは軽く接吻を交わす程度であった色欲も日が増すにつれて抑制し難いものになり行為は激しくなっていった
どちらが誘うという訳でもなく二人は自然とお互いの肉体を求めて触れ合った
まだ完全に発達し切っていない未熟な身体ではあったがそれが却って快楽の純度を高めたのかも知れない
菫などは恍惚とした表情で紬の体に顔を埋めるのであったこうすれば紬お嬢様は喜んで下さると我を忘れたように
紬の豊満な乳房を舐め敏感な乳首に吸いついた此の時決してお互い声を出すことは無かったが菫には紬が感じたことが
言葉にせずともはっきりと分かった紬が快感を得る時は身を細かく震わせ燃えるような熱を持つからである
又場合に依っては濡れた陰部に舌を這わす事もあったそうすると紬はよく絶頂に達した
紬が悦楽に身をよじらせることを菫は喜んだ。ただし紬の貞操のため決して挿入することは無かった
菫は当初小学六年生である故に肉体的な快楽を得るのは難しかった只紬が自分を抱擁してくれることが気持良かった
二人はついぞ男を知ることなく此の情事は紬が屋敷を出る高校三年まで続いた
斯くして紬と菫には誰にも云えない秘密を共有することになり主従を超えた同性の肉体関係が築かれたのである
以上に述べた事柄はすべて事実であるとは限らない殆どが私の個人的な妄想であることを改めて断っておく
=========================================================================================================
最終更新:2012年01月22日 21:47