――私は空を飛んだ。
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_ |.ノ 「Tt 向ハ / kヽ // | | \
ノ_|\ ノ.虫レ 7可口 ./ ヽヽ Xヽ | | \
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| i l l | し | | | | ヽ
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~ ー―-―-‐'――''´ iし'ノ
小さい頃から私は、何処に行くのもお姉ちゃんと一緒だった。
近隣の子供たちが集まる公園には、毎日お姉ちゃんと通ったし、
お婆ちゃんに連れられて商店街までお買い物に行くときも、
玩具だとかお菓子だとかいつもお姉ちゃんと同じ物をねだった。
お姉ちゃんが同世代の友達の家に遊びに行くときすら、
ほとんど必ず私もお邪魔していたのだから、筋金入りだったと思う。
こうして今歩いている見慣れた道も、
二年間、何度もお姉ちゃんと手をつないで往復した道のりだ。
「ふう・・・」
目の前の信号は赤。 歩を止め、一息入れる。
頭の上を太陽が照りつけるので、ちょっとだけ気分が落ち込んだ。
天気が良いのはいい事だけど、この季節は勘弁して欲しい。
・・・・・・正確に言えば、
いつも一緒に居たのはお姉ちゃんの方ではなく、私の方だった。
お姉ちゃんは自由な人だったから。
人一倍好奇心旺盛で、あっちこっち行っては来たり。
そして人懐っこくて、誰とでも仲良くなれてしまう。
私はそんなお姉ちゃんに置いていかれたくなくて、
一生懸命付いて行くだけだった。
――甲高い音が鳴り響く。
2つのランプが交互に点灯している。
思考している間に、もうここまで辿り着いていたようだ。
目の前を電車が通り過ぎた。
しばらくするとランプが消えて、踏切が上がる。
踏み切りを超えると、辺りは少しだけ賑わいはじめた。
そう言えば、この近くで新しくスーパーができるとか、
噂好きの友達が言っていたっけ。
両手一杯に荷袋を抱えた人たちとすれ違った。
どうやらセールで良い物がたくさん安く買えたらしい。
私もそう言うことには目ざといけど、
この辺りまではチェックしていなかった。
もう意味は無いけど少しだけ反省してみた。
ふと目に付くものがあった。
すぐそこに、ふわりふわりと赤とオレンジ。
2つの丸いそれは紐で括り付けられていて、
反対側をそれぞれ二人の女の子が、キュッと掴んでいる。
なるほど、集客のために配っていたのだろう。
風船には、二人の後ろで微笑む女性の抱える袋と同じ文字が書かれていた。
顔の横を赤い風船が通り過ぎる。
私は立ち止まり、しばらく二人を眺めていた。
並んで歩く二人はとても仲が良いみたいで、
風船を握る手のその反対側の手は、お互い繋がれていた。
その笑顔はよく見るとそっくりなのできっと姉妹なのだろう。
しかし、年はそんなに変わらないのか背丈もほとんど違いがなくて、
そのせいで、どちらが姉でどちらが妹なのかはわからないけど。
似たもの姉妹。
そんな姿にありし日の私たちの姿が重なる。
もっとも私たちの場合は簡単に見分けが付いた。
前にいるのがお姉ちゃん、後ろにいるのが私だ。
オレンジの風船の女の子が何か見つけたようだ。
まるで、ものすごい大発見をしたのかの様に、
きゃっきゃっと、何時の間にか離した手で道端を指差している。
道路の端に花でも咲いていたのか。
あるいは蟻さんの行列でも見つけたのかもしれない。
あのくらいの年の子は何にだって興味を持つ。
お姉ちゃんもそうだった事を思い出して、軽く笑みがこぼれた。
オレンジの風船の女の子はそれをもっと近くで見ようと座り込んだ様だ。
そのため、母親らしき女性は少しだけ困っている。
――甲高い音が鳴り響く。
一方で赤い風船の女の子は
その大発見にはあまり興味が無かったみたいで、
――2つのランプが交互に点灯し始める。
トテトテと一人で先に歩いて行ってしまう。
母親は気付いていない。
――左右から踏み切りが降りてくる。
私の体はとっさに動いていた。
踏み切りを潜り抜けようとしていた女の子の手を掴む。
強く握ってしまったためか、彼女は驚いた目を向けていた。
「危ないからお母さんから離れたらダメだよ、めっ」
少しだけ語気を強くして、叱る。
女の子はちょっと涙目になりながらも、こくりと小さく頷く。
「ごめんなさい」
良い子だ。
電車は何事もなく通り過ぎていった。
実のところ、思っていたような危険は無かったかもしれない。
女の子が踏み切りを潜り抜けたところで、
電車が来るまでに時間差があるわけだし、
無事に向こう側まで辿り着くこともできただろう。
なので、先ほどから何度もお礼を言われるのは正直むず痒い。
母親も我が子が踏み切りをくぐろうとしている事に気付き、
慌てて動こうとしたが、彼女は荷袋が持っていたため、私の方が先に動けたようだ。
と言う事は私が動かなくても、きっと大丈夫だったわけで、
なおさら私が大いに感謝されることは無いのではないかと思う。
少し居心地が悪くなり、目をそらせば、
先ほどの女の子が今にも泣き出しそうな顔をしていた。
強く叱りすぎてしまったか、と思ったけど違った。
「ああ・・・・・・」
上を見れば赤い風船はずっと高くに飛んでいってしまっていた。
様子を見るに、私が手を掴んだ際に、驚いて手を離してしまったらしい。
つまり、それは私のせいと言う事であり、とても悪いことをした気になる。
そうなると、ちゃんと謝らないといけない。
「はい、あげるよ。」
しかし、私が謝るよりも先にオレンジの風船の女の子がそう言った。
「でもこれ・・・」
風船は1つだけ。
私が貰ったらあなたの分が無くなってしまう、と言いたかったのだろう。
「いっしょにつかおうよ。」
オレンジの風船の女の子は言い切った。
二人の女の子が笑顔になる。
・・・・・・そうしてその後
私が彼女に謝れば、姉妹は私を許してくれて、
私は母親に改めて御礼を言われると、彼女たちは帰って行った。
二人の女の子は手を繋ぎ、その間にはオレンジの風船。
――
――小さかった頃、
お姉ちゃんと夏祭りに行った日の事を思い出した。
人ごみにはぐれないように、しっかりと手をつないで、
お姉ちゃんは行きたい場所に、私はやっぱり後ろを付いて行く。
くじ引きを引いた。 当たりを引いたお姉ちゃんは可愛い文房具を貰っていた。
お面を買った。 お姉ちゃんが好きなのは、流行の魔法少女・・・ではなく、ヘンテコで面白いお面だった。
甘いリンゴ飴を買った。 一人では食べきれないので二人で交互に食べた。
金魚すくいをした。
これが難しくてなかなか金魚は捕まらず、
終には一匹もすくえないままポイがやぶれてしまった。
そんな私の隣で、お姉ちゃんは次々と金魚をすくっていた。
狭い水槽の中にいながら、それでも自由に泳ぐ金魚の向かう先に、
さりげなくお姉ちゃんのポイが待ち構えている。
そして金魚がその上まで近づいてくると、ひょいと簡単にすくい上げてしまうのだ。
それを見て私は、まるで金魚の気持ちがわかっているみたいだと思った。
お姉ちゃんのポイがやぶれる頃には、水槽に残っている金魚はほとんどいなかった。
「もう一回。」と元気よく言ったお姉ちゃんに、
屋台のおじさんが参った顔で降参のポーズをしていたのが面白かった。
結局のところ、子供の私たちにたくさんの金魚を持ち帰れるはずなんてなくて、
すくった金魚の多くは元の水槽に戻し、お姉ちゃんは金魚を2匹だけ貰った。
2匹の金魚は1つのビニール袋の中を仲良く泳いでいた。
「私たち二人の金魚だよ。」
お姉ちゃんは笑顔でそう言った。
祭りの間、私はずっと、ずっと、飛び跳ねるくらいにウキウキしていた。
お姉ちゃんが楽しそうだから。
後ろをついていく私も本当に楽しい。
お姉ちゃんは楽しいことを見つける天才なんだ。
私は今でもそう信じて疑わない。
そして、お姉ちゃんの見つける楽しい時間を一緒に過ごせる私は、
この世の誰よりも幸せだって、
もしかするとお姉ちゃん本人よりも幸せなんじゃないかって、そんな風にさえ思っていた。
だから、よほど浮かれていたせいだろうか。
私は人ごみにぶつかってしまって、衝撃で手を離してしまったのだ。
「あっ。」
離したその手に持っていたのは、
お姉ちゃんからもらった、二人の金魚。
手放した金魚の袋は地面に落ちてしまって、
すごく簡単にやぶれてしまった。
水が弾け、こぼれ出す。
残された2匹の金魚は苦しそうにもがいていた。
「うあ・・・・・・」
あまりの状況に私は戸惑ってしまっていた。
そして頭によぎった悪い予感。
お姉ちゃんに怒られてしまう。
目の前で消耗して行く2つの命を前にして、
私は残酷な子供だったかもしれない。
しかし、私の予感は外れた。
「まだ、大丈夫だよ。」
そう言うと、お姉ちゃんの行動は早かった。
足元でもがく2匹を優しく拾い上げ、
一目散にすぐ近くの屋台に走っていく。
「まって、お姉ちゃん。」
私も走って追いかける。
最終更新:2012年01月23日 22:56