最近、ムギちゃんは私たちとお昼を食べません。
私と澪ちゃん、りっちゃん、和ちゃんでお弁当を囲う毎日が続いてます。
「でもなんで最近ムギちゃん一緒に食べないんだろー」
「うーん…なんでだろーな」
りっちゃんもひたすら頭に疑問符を浮かべていて。
「さっき廊下でお弁当持ってどこかに行くムギを見たよ」
これは澪ちゃん情報。
「ということは、他のクラスで食べてるんじゃないかしら」
そんな和ちゃんの結論に、私は口を開く。
「うーん、どうして私たちと食べないんだろ…」
「…まさか…ムギに嫌われちゃったか?私たち」
澪ちゃんが、少し否定的な意見を言いました。そう言われちゃうといたたまれない、凄く寂しい気持ちになった。
「それはないと思うけど…だってそんな素振りないじゃない?」
和ちゃんはそう言うけど、私はなんだか凄く辛かった。ムギちゃんに何か悪いことしちゃったのかな…。
ただ、それしか考えられなくて。
「唯…」
澪ちゃんが私を心配してくれた。ありがとう、澪ちゃん。
「…よし、そうだな」
りっちゃんがおもむろに立ち上がる。
「なんだよ、律」
「明日の昼休み…ムギを尾行だ!」
翌日の昼休み。
「~♪」
いつものように、自分のお弁当箱を持ち教室を去るムギちゃん。
「…行くぞ、唯隊員」
「はい、りっちゃん隊員」
「はぁ…本当、尾行好きだな」
「澪は行かないのかー?」
「…行くけどさ。和は?」
「…私も行こうかな」
というわけで、私たちは全員でムギちゃんをつけることになりました。
「どこ行くんだろね」
「全く検討つかないよなー」
少し先を行くムギちゃんにバレないように、四人でつける。
「そういえば昨日、ういが言ってたんだけど…なにやらあずにゃんもういたちと一緒にごはん食べないんだって」
「梓が?ふーん…」
りっちゃんは何やらニヤニヤしていた。なんで?
ムギちゃんは私たちに気付くことなく進行中。
「ねぇ…あっちって音楽室なんじゃない?」
和ちゃんが気付く。た、確かに…。
「ということはまさか昼休みに1人で練習してるとか?」
「あー…ありうるねーっ」
澪ちゃんの意見に私は納得した。
案の定、ムギちゃんが向かっていたのは音楽室だった。
音楽室前についた私たち。
「ちょっと聞き耳たててみようぜっ」
りっちゃんがききとして耳をドアにくっつける。私も負けじとくっつけると…。
『相変わらずスゴいですね、お弁当…美味しそう』
『そうかな?』
2人分の声が聞こえた。
それは…ムギちゃんと…
「梓だな、もう1人は」
澪ちゃんも聞いていた。和ちゃんはなんだか恥ずかしそうにしながら私たちを見ていた。
「和ちゃんも聞こうよーっ」
「わ、私はちょっと…」
「しっ!黙って、2人とも!」
私も再びドアに耳をくっつける。
『お茶、いれるね』
『あ…今日は私にやらせてください』
なにやら2人だけでお茶会を開いているらしい!
「ずるい…ずるいよムギちゃん!」
「なぁ…ドアちょっと開けて覗いちゃおうぜー」
りっちゃんは聞くだけじゃ飽きたらず、私たちはいよいよ覗き見することになった。
「お茶ー…私も飲みたいよぅ」
「放課後いつも飲んでるだろ?」
「もっと飲みたいもーん」
そう、澪ちゃんと話していたら。
「静かにしろってー。バレちゃうぞ?」
りっちゃんにいさめられちゃった。
こっそり覗いた先には、やはりムギちゃんとあずにゃんがいた。
毎日2人でお昼を過ごしていたのかな…?
「どうですか…私のいれたお茶…」
「おいしいわ、梓ちゃん」
「よかった…」
心なしか、頬が赤らむあずにゃん。
「ムギ先輩にいつもお茶もらっちゃってるので…私も…その…」
「ありがとう、梓ちゃん。嬉しいよ」
「えへへ…」
仲良いなぁ、2人。こんなに仲良かったっけ?
「じゃあ食べようっか」
「はいっ!」
ようやくお弁当に箸をのばす2人。
ぐぅー。お腹が鳴ったのは私。
(…お昼食べてくれば良かった)
(早めに退散するかー?もうムギの所在はわかったし)
(そだねー)
このとき、もう引き返していれば良かったんだ。うん。
「ムギ先輩…いつもの…」
「え?あぁ…梓ちゃんたら、甘えん坊さんね」
「うぅ…うるさいです、ムギ先輩ってば」
ニコニコ笑うムギちゃんと、少し照れるあずにゃん。
(いつもの…?)
「はい、あーん」
「…あーん…」
(!?)
それは驚くべき光景だった。
(わーお)
りっちゃんがなんか凄くニヤニヤしている。澪ちゃんは何か顔赤いし、和ちゃんは目をそらしていた。
ていうか、和ちゃん覗き見はするんだ。
(仲良しだったんだね、あずにゃんたち)
(仲良し…ねぇ)
(?)
「玉子焼き、どうかな…」
「甘くて美味しいですっ!というか…」
「というか…?」
「む、ムギ先輩のお箸で食べてると思うと…よけい…甘い…」
顔を真っ赤にしながらそう言うあずにゃん。そう聞いてムギちゃんまで顔真っ赤。
「…梓ちゃんたらっ…もう」
「えへへ…」
こんなの…あずにゃんのキャラじゃない。
(な、なんだこれ…私もあずにゃんにあーんしたいのに!)
(はぁ…唯…鈍いなぁ)
(え?なにが?)
私はりっちゃんの言う意味がいまいちわからなかった。
「あ…ねぇ、梓ちゃん」
「なんですか?」
「…呼び方の件なんだけど…」
「…あ………はい………」
呼び方の件。果たして、なんだろう。
「2人のときに、梓ちゃんが言ってた通りにするのじゃだめかな?」
ムギちゃんがそう言うと、喜んだあずにゃんがいた。
「はい!いいです!私も2人じゃないときは恥ずかしいですし」
…2人きり…。私はこの二人の間柄がわからなくなってきた。
「じゃあ…こほん…」
「…。」
なんか緊張してる二人。私は釘付けだった。
「…あずにゃん…」
(!?!?)
私は驚愕した。…あずにゃんって呼ぶの、ムギちゃん!?
すると今度はあずにゃんが…
「…ムギちゃん…」
(!?!?)
なんだこれ。なんなんだこれ。
わけがわからない。二人きり、とか。呼び方が変わる、とか。
「…やっぱ恥ずかしいです」
「もー、梓ちゃん…ううん、あずにゃんたら。自分から提案したんでしょう?」
「…そうですけど…」
…わかったよ。ようやく私にもわかった。
(カップルでしたか…)
(今更かよ!)
(ええー…まさか2人がこんな仲だったとは…)
「…あーずにゃん」
「ひゃあ!?」
ムギちゃんがいきなりあずにゃんの手を握る。
「な、な、なんでしょうムギちゃん」
めっちゃ動揺してるあずにゃん。…なんか見てて恥ずかしくなってきた。
「…ゆっくり…ゆっくり、慣れていこうね」
「…ムギ…ちゃん…」
…あれ。二人の距離が縮まってるんですけど。
…あれ。なんか、口と口が近づいてるんですけど。
…あれ。なんかいい雰囲気なんですけど。
(わーお)
(ひゃあ…うわぁ…)
りっちゃんと澪ちゃんが熱狂している。和ちゃんに至っては、なんかもう帰りたそう。
(もっとよく見えないかなー)
(うわぁ、りっちゃん!押さないでよ…)
(あ…うわ、バランス崩した…)
(え?え?)
「「「きゃあーー!!」」」
ドアを押して、音楽室になだれ込む私たち。
「え…」
あずにゃん、ムギちゃんがすぐこちらを振り向く。
「あ…これは…その…」
「…なんだ…うん…」
「あはは…ごめんね、二人とも」
「………」
私たちは謝る。もう、いろいろ手遅れだった。
「い…い…いやぁぁぁぁぁぁあ!!」
あずにゃんの絶叫は、ういのクラスにも届いたらしいです。
おわり
最終更新:2012年02月01日 23:03