「むねくら!」


かぽーん

律「背中洗うぞー」

梓「お願いします」

律「」ワシャワシャ

梓「泡あわ~♪」

律「力加減はどうですかお嬢様」ワシャワシャ

梓「ちょうどいいですよ」

律「かしこまりました」ワシャワシャ

律「そんじゃお湯かけるぞ」バシャーン

梓「ひゃぅっ」

律「きゅきゅっとな」ゴシゴシ

梓「にゃあっ」

律「うし、ぴかぴかだ」

梓「ありがとうございます。今度は私が流しますね」

律「頼んだ!」

梓「……」ワシャワシャ

律「おぉう」

梓「……」ワシャワシャ

律「うむ、至福のたいむ」

梓「……」ピタッ

律「?」

梓「……」

律「どした?」

梓「相変わらずのちっぱいですね」

律「んだと! お前に言われたくないわい!」

梓「いーえ、私の方が大きいです」

律「何を!? それじゃ比べてみるかっ?」

梓「お望みのままに。やってやるです!」


律「おるぁっ!」ペタッ

梓「ふんっ!」ピター

律「……」

梓「……」

律「なあ、梓。こういうの何て言うんだっけ」

梓「どんぐりの背比べってやつですよ」

律「ああ、それそれ」

梓「りつあずの胸比べ」

ヒュー

律梓「……」


律「むなしい」

梓「むねなし」

律梓「」クシュンッ

律「……」

梓「……」

律「風呂、入るか」

梓「そうですね」




「としつき!」


河原

律「……ふんっ」

ヒュルルルル… ポシャン

澪「……」

律「……」

澪「それっ」

ヒュルルルル… ……ポシャンッ

澪「……」

律「……」

澪「ふふ、私の方が飛んだ」

律「何威張ってんだか」

澪「知ってるか?」

律「何をー」

澪「もうすぐ今年も終わりらしいぞ」

律「へぇ~、道理で日の入りが早いわけだ」

澪「……」

律「それが?」

澪「もう一年経っちゃうんだなって」

律「うん、そうだな」

澪「大学生の時間の経ち方って早い」

律「何でだろな。高校時代と同じぐらい充実してると思うのに」

澪「残りの時間なんて、多分あっという間」

律「……」

澪「……」


シュッ

ヒュルルルル… ポチャンッ


澪「じゃあ、これは知ってる?」

律「今度は何だよ」

澪「地元のお肉屋さん、店畳むんだってさ」

律「……そうなんだ」

澪「やっぱり知らなかったのか」

律「実家から情報入ってこないんだから仕方ないだろ」

澪「ごめんごめん、そうだったな」

律「……なーんか寂しいや」

澪「よく二人してコロッケ買いに行ったな」

律「あっこのメンチカツ美味しかったのになぁ」


澪「……」

律「……」

澪「今度さ、最後に一回行かない?」

律「わざわざコロッケ食べに桜ヶ丘帰るのか?」

澪「うん」

律「あんまりあっち行きたくないんだけど」

澪「ダメ?」

律「……」

澪「……」シュン

律「あー分かったよ、今度一緒に行こ」

澪「……うん!」


シュッ

ヒュルルルル… ポシャッ


澪「こうやって二人で話すのも久しぶり」

律「お互いなんだかんだで忙しいもんね」

澪「律は梓にべったりだしな」

律「あら、もしかして妬いてらっしゃる?」

澪「別に」キッパリ

律「あ、そう」


シュッ

ヒュルルルル… ポチャンッ


澪「最近さ」

律「うん」

澪「梓、きれいになったな」

律「きれい、なのかな……可愛いけどさ」

澪「いや、大人っぽくなったよ」

律「そうか?」

澪「そうだよ、ちゃんとよく見てみろ」

律「毎日嫌ってほど顔合わせてるし」

澪「近くにいるとかえって気づかないんだよ」

律「そういうもんかな」

澪「灯台下暗しってさ」

律「……」

澪「……」

律「……」

澪「いつから梓のこと好きになったんだっけ?」

律「いつの間にか」

澪「ふぅん」

律「はじめはあんまり仲良くなかったような気がするけど」

澪「そういえば、そうだった」

律「気づいたら、大切になっててさ」

澪「……」

律「大切な後輩が、もっともっと大切になって」

澪「……」

律「そしたら、いつの間にか」

澪「律らしいや」

律「どういう意味だ」

澪「誉めてるんだよ」

律「そりゃどうも」

澪「でも、ちゃんと想いが通じてよかったな」

律「……うん」

律「ずっと片思いだと思ってたから、オッケーもらった時は正直信じられなかった」

澪「……」

律「みお?」

澪(鈍感)

律「なんだよその顔は」

澪「呆れて物も言えないの」

律「はぁ?」

澪「そういえば、ご飯の用意とか大丈夫なの?」

律「今日は梓の当番でさ」

澪「へぇ、梓の手料理か」

律「ちゃんと見張っておかないとすぐ失敗するんだ」

澪「今度食べさせてもらおうかな」

律「ダメ」

澪「何で」

律「あいつの飯は、まだまだ誰かに食べさせられるレベルじゃないのっ」

澪「ふぅん」

律「……」

澪「そんなこと言って、他の人に食べさせたくないんだろ」

律「なっ!? 違うし!」アタフタ

澪「分かりやすい」

律「違うっての!!」

澪「相変わらずだな」クスッ

律「むぅ~~~」

チャララーララ チャラララララー

澪「……」

律「……」

澪「そろそろ寮に帰らなきゃ」

律「そうだな、もうこんな時間だし」

澪「あっちに行く日決めたいから、空いてる日メールして」

律「了解」

澪「じゃ、また」

律「うん、ばいばい」


律(……)

律(今日梓何を作ってくれるんだろ)

律(……失敗しないように見張っとかないと)


律(……)

律(何でかよく分からないけど)

律(早くあいつに会いたい)


「りーつせーんぱーい!!」


律(この声は……)

律「おっす、あず……」


律「!」ドキッ


振り向いた先に見えたのは、髪を下ろした梓だった。

いつもと変わらない笑顔で近づいてくる恋人は

いつもとちょっぴり雰囲気が違って、可愛いというより――


梓「奇遇ですね、今帰りですか?」ニコニコ

律「……」

梓「律先輩?」

律「お前、その髪」

梓「あ、ちょっとイメチェンしてみようかなって」

律「なんだ、結び忘れたのかと思った」

梓「むっ、失礼な」

律「……」

梓「澪先輩にそっくりで綺麗でしょ?」

律「体型は似ても似つかないのにな」

梓「よし殴る」

律「どおどお」

梓「もうっ」

律「……」

律「まあ、でもさ、その……なんて言うか」

梓「?」

律「……似合ってるよ」

梓「えへへ、ありがと」

律「……」


律(澪の奴が変なこと言うから意識しちゃうじゃん)ドキドキ

梓「今日も寒かったね」

律「……」

梓「早く暖かくならないかなぁ。春が待ち遠しいです」

律「……」


律(てか、梓って……)


梓「そういえば、今日商店街で黒猫を見かけたんですよ」

律「……」

梓「何となくあずにゃん二号に似てるから、さんごうって名付けました……って」

律「……」

梓「律先輩?」

律「……」

梓「ねえ、律先輩」

律「……」



律(こんなに美人だったっけ……?)


梓「律先輩ってば!」

律「わっ……どうかした?」

梓「ちゃんと話聞いてます?」

律「ご、ごめ。ぼっとしてた」

梓「もうっ」

律「……」


律「あいつの言うとおりだな」

梓「へっ」

律「灯台下暗し」

梓「……どうしたんですか、さっきから変ですよ?」

律「んにゃ、何でもないよ」

梓「ふぅん」

律「それよりさ」

梓「はい」

律「……手、つないでいい?」

梓「……」

律「……」

梓「え、ええっと。具合でも悪いんですか?」

律「なんだよ、ダメなのか?」

梓「いえ、いつもそんなこと言わないから……」

律「私らしくないってか?」

梓「はい、まぁ」

律「悪かったな」

梓「……」

律「どうせ私らしくねーし」

梓「自分で言ったんじゃないですか」

律「……」プイッ

梓「……」

梓「……クスッ」

キュッ

律「!」

梓「律先輩の手、あったかいですね」

律「お前の手は冷たい」

梓「むっ……手が冷たい人は心が温かいんですよ」

律「じゃ私の心は冷たいってか」

梓「はい」

律「ちぇっ」

梓「なんて、冗談ですよ」

律「……」

梓「律先輩は心も温かいです」

律「……」

律「それで、いつまで髪下ろしてるんだ」

梓「しばらくこのままでいようかと」

律「だめ」

梓「えー、何でですか」

律「何でも」

梓「……?」

律「……」

律(似合ってるからだよ)

律(ずっと可愛い後輩だと思ってたけど)

律(気づかないうちに、こんなにきれいになってたんだな)

梓「そうだ、今日はカレーにしますね」

律「変な隠し味入れんなよ」

梓「入れませんよ」ムー

律「冗談だって、楽しみにしてる」

梓「はい!」

律「……」

梓「……」

律「なんかさ」

梓「?」

律「時間が経つのって早いな」

梓「ぷふ、律先輩じじ臭い」

律「うっせ」


こんなに美人で温かい恋人がいて、私はとても幸せだ。




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最終更新:2012年02月25日 20:44