梓「さ……」

梓「寒い……」ガチガチ

梓「これ程までとは……」

梓「雪国……舐めてた……」

梓「でも頑張らないと……」

梓「…………」

梓「……はっ、ぼーっとしてた」

梓「何か考えてないと危ない……えーっと」

梓「そもそも、何でこんな所まで来たんだっけ……?」

梓「えっと――」


~~~

梓「――え? 何ですか?」

律「だからぁ、雪国」

梓「雪国って、あの雪が降り積もって大変な事になる雪国ですか?」

律「そうだよ。それ以外あるか?」

梓「まぁないですけど……どこに行くんですか?」

紬「私の別荘よ~。結構積もるから、雪だるまでもかまくらでも何でもできるの」

梓「……要するに遊びに行くんですか?」

律「ちっがーう! 冬期合宿だ!」

澪「一面の銀世界……うん、いい詩ができそうだな」

唯「もちろんあずにゃんも行くよね!」

梓「まぁ、そういうことでしたら構いませんけど……」

唯「やった~」

律「よーし、決定だな。ムギ、手配を頼む!」

紬「かしこまり~」

唯「ねえねえ、りっちゃん。スキーとスノボ、どっちにしようかな?」

律「今年はスノボにするかー」

梓「……遊びに行くんですか?」

澪「毎度の事だ、諦めよう――」

~~~


梓「――そうだった、そうだった」

梓「それでいつも通りになし崩しで来たんだった」

梓「うぅ、寒い」ブルッ

梓「雪、いいや吹雪で視界が……」

梓「ああ、それでどうして今現在私は、こんな猛吹雪の中を行脚してるんだっけ?」

梓「えっと確かあれは別荘に着いてから――」


~~~

唯律「――着いたー!」

紬「着いた~」

澪「いやー……何というか」

梓「もう疲れましたね……雪道を歩くのって神経使いますね」

澪「少し積もってるだけでもそうなのに、この積雪だからなぁ」

唯「それじゃあ~、何する何する!?」

律「そうだなぁ、それじゃあ早速スキーでも――」

澪「何しにきたんだ!」スパァン!

律「こ、これからの放課後ティータイムの動向会議と、連携の強化合宿であります……」

唯「あわわ……」

梓「でもあれじゃないですか? これだけ雪が積もってる中で演奏しても大丈夫なんですか?」

唯「ふぇ? なんで~」

梓「よく言うじゃないですか。大きな音を出したら雪崩が起きるって」

唯「えぇっ、そうなの!? どうしようムギちゃん、私この年で氷漬けになっちゃうの!?」

紬「大丈夫よ、唯ちゃん。この別荘の防音設備は完璧だから」

唯「でもでも、ムギちゃんを疑うわけじゃないけど、それでも完璧じゃなかったりするし……」

律「ムギが大丈夫っていうんだから大丈夫なんじゃないか」

唯「りっちゃん……」

澪「それに、その雪崩云々は都市伝説って聞いたことあるぞ」

梓「えっ、そうなんですか?」

澪「ああ。詳しくは知らないんだけど、大げさに取られた結果というか」

唯「へえぇ~、澪ちゃん物知りさんだね! 歩く生き字引さまだよ~」

梓「さすがです、澪先輩」

澪「おいおい、ちょっと褒めすぎじゃないか。はっはっはっ」

律(あれは多分、心配になって調べたんだろうな……)

律「それよりさー、温泉行こうぜ。温泉」

唯「おおっ、りっちゃん隊員、いい提案ですね!」

梓「温泉ですか?」

唯「この辺に温泉が何ヶ所かあるんだって。ねぇ、ムギちゃん」

紬「うん。いろんな効能の温泉があるの」

澪「へぇ。どういうのがあるんだ?」

紬「結構立ち寄る人が多いみたいで、パンフがあるの。はい」

唯「わぁ~、本当にいっぱいあるね」

梓「そうですね」

律「!」

澪「? どうした、律」

律「ちょっと用事を思い出して!」ダダッ

澪「お、おい! 全く……」

唯「わ~、ここ、おっきいね~」

梓「やっぱりお客さん多いんですかね?」

紬「そこはスキー場が近いから、そっちから流れる人が多いかも」

梓「なるほど。それに、ここからじゃ遠いですしね」

澪「私はあんまり人がいない所の方がいいかな」

梓「その方がゆっくりできますもんね」

唯「ほかの人いたら泳げないもんね~」

梓「そういう意味じゃないですし、泳ぐのは唯先輩くらいですよ」

唯「えぇ~、そんなことないよ。ねぇ、澪ちゃん」

澪「する訳ないだろ!」

唯「えぇ~」

紬「ふふ……それじゃあ、どこにしようか?」

梓「そうですね……近くのこれなんかどうですか」

澪「悪くないな」

梓「あ、でもここ、混浴って書いてありますね……」

澪「ここ、こ、混浴!?」

唯「ムギちゃん、こんよくって?」

紬「男湯と女湯に分かれてなくて、一緒に入る所よ」

唯「おお! 大人の階段二、三歩駆け上がれそうだね!」

澪「ぜぜぜ、絶対行かないからな!」

梓「わ、私も遠慮したいです」

唯「えぇ~、何事もチャレンジだよ~」

紬「今日は吹雪いてるから、誰もいないかもね」

唯「ほら、澪ちゃん!」

澪「い・や・だ!」

唯「えぇ~」

梓「そこは無しとして、隣のここにします?」

澪「混浴じゃないならそこでいいよ」

紬「じゃあそこに決める?」

律「ちょっと待ったー!」バーン!

唯「わっ、びっくりした」

澪「どこに行ってたんだ」

律「温泉を決めるのはまだ早い! こんなとこもあるぞ!」

唯「おぉ~」

澪「なんかカラーコピーしたみたいな紙……怪しい」

紬「これって……」

唯「伝説の秘湯だって! わくわくするね!」

澪「ますますもって怪しい」

梓「裏にも何か書いてありますよ」

唯「あ、ホントだ。なになに……効能みたい」

澪「どれどれ、神経痛、筋肉炎、冷え性、肩こり、うちみ、くじき、疲労回復、豊胸効果……か。何か最後だけ手書きじゃないのか?」

梓「!!!」ガタッ!

唯「ど、どうしたのあずにゃん!?」

梓「あ! い、いえ! 澪先輩、その温泉ってどこにあるんですか?」

律「きたきた」ニヤニヤ

澪「えっ、場所か? えっと……何だ、手書きの地図? おい律、これって――」

梓「ありがとうございます!」バッ

澪「――お前の……って、梓!」

梓「私が先行して見つけてきます! お気になさらずにー!」バタン

唯「あずにゃん!?――」

~~~


梓「――そうだった……伝説の秘湯を探してたんだった……」

梓「しかし、今にして思えば非常に怪しい」

梓「カラーコピーに手書きの地図って……」

梓「律先輩もニヤニヤしてた気がするし」

梓「でもここまで来たら引き返せない」

梓「というか、どっちが前でどっちが後ろかもわからない……」

梓「もう駄目かも……くじけそう……」

梓「あぁ……」

梓「お父さんお母さん、先立つ不幸をお許し下さ……」

梓「…………」

梓「…………はっ!」

梓「……今のは本当に危なかった……」

梓「何でもいい! 何か楽しい事でも考えてないと!」

梓「えーっと、えーっと――」


~~~

梓「――うわぁ……それにしても、見事に積もってますね」

澪「これだけ積もってたら、確かにかまくらでも何でもできそうだな」

紬「それじゃあ雪だるま作らない!?」

律「生き生きしてるなー、ムギ」

紬「私、みんなと雪だるま作るのが夢だったの~」

澪「はは、まぁ構わないけどな」

梓「それじゃあ私、頭作りますね」

唯『甘い! 大甘だよあずにゃん!』

梓「唯先輩?」

紬「声はすれど、姿は見えず……」

澪「こっちの方から聞こえた気が……」

梓「唯先輩、どこですか?」

唯『ここだよ、あずにゃん!』

律「ここって」

澪「雪山、だよな」

梓「まさか」

唯『今出るよ! ちょっと下がっててね』

梓「やっぱり」

唯『う、うううう、ううううぅぅぅぅん!』ガラガラガラガラガラ

律「うわっぷ!」

澪「お、おい!」

唯「ぷわぁ~」

梓「唯先輩、あの――」

唯「あずにゃん!」

梓「は、はい!」

唯「雪を舐めてたら大怪我するよ!」

梓「どの口で言ってるんですか……」


唯「――いや~、一時はどうなることかと」

紬「はい、唯ちゃん。暖かいお茶よ」

唯「わ~、ありがとうムギちゃん」

梓「どうして埋もれてたんですか?」

唯「えっと、もっと上の方から見下ろそうと思って移動して」

律「ふむ」

唯「折角だから雪だるま作ろうと思って」

澪「うん」

唯「上から転がせば楽なんじゃないかな~、って思って」

紬「ふんふん」

唯「気付いたら自分が転がって、そこの木に激突して、木に積もってた雪を被った次第でして」

梓「身をもって雪山の恐怖を体験しないで下さい……」

唯「まぁ、そういうわけだからみんなも気を付けてね~」

紬「わかった! 唯ちゃんの敵は私が取るね!」

澪「よくわからん捉え方をしてるな」

律「まぁ確かに折角だから、各々雪だるま作ってみるのも面白いかもしれないな」

梓「各自で作るんですか?」

澪「また突然に……」

唯「よ~し、今度こそ作るぞ~!」

紬「私も頑張る!」

梓「ノリいいなぁ……やらなきゃダメですか?」

律「あったり前! おやぁ~、梓ちゃんは自信ないのかなぁ~?」

梓「むっ。いいですよ、やってやりますよ!」

澪「結局なし崩しだな……」

律「普通に作っても面白くないからさー、右隣の人に似せた雪だるまを作ること!」

唯「おっけ~。じゃあ私は頑張ってあずにゃん3号を作ります!」

梓「張り切らなくて結構ですよ。私は澪先輩ですね」

澪「私が律で」

律「私がムギ」

紬「それで私が唯ちゃんを作ればいいのね」

律「では各自スタート!――」


律「――どうだー、あらかたできたか?」

梓「はい、できました」

澪「私もできたぞ」

紬「ばっちりできたわ~」

律「唯は?」

唯「うーん、ちょっと気に入らないことがあって……」

律「ふん? じゃあ、梓から順番に見ていこうか」

梓「いいですよ。はい、どうぞ」

律澪紬「おお~」

律「これは結構……」

澪「私に似てる……かも」

紬「特徴を良く捉えてるわぁ。上手いわね、梓ちゃん」

梓「えへへ……澪先輩の写真を常に眺めてますからね、それはもう」

澪「え?」

律「なるほどなー、それじゃあ次は澪の番だぞ」

澪「いや、ちょっとサラっと怖いこと言わなかったか?」

紬「いいからいいから~」

澪「う、うん……それじゃあ、はい」

律紬梓「おお~」

律「これは……」

梓「律先輩のおデコが強調されてて」

紬「特徴を良く捉えてるわぁ。上手いわね、澪ちゃん」

澪「そ、そうか? あ、ありがとう」

律「なんか釈然としねー」

梓「まぁまぁ、律先輩。こんなに上手く作れるのって澪先輩だけですよ」

紬「やっぱり二人はベストフレンドね~」

律「う……そ、そんなことねーし!」

澪「さ、もういいだろ。次はムギの番だな」

紬「は~い。さぁ、召しませ~」

律澪梓「おお~」

律「これは確かに」

澪「唯なんだけど」

梓「何で裸像なんですか……」

紬「それは趣味……コホン、芸術を追求してみました~」

律「まぁ、単なる雪の像でここまで表現したのは見事だけどさ」

澪「邪な匂いがする……」

梓「このピンク色の禍々しさが、文章では伝えきれないのが残念です」

律「……じゃ、じゃあ、気を取り直して。唯、そろそろいいか?」

唯「うーん、うーん」

梓「何をそんなに悩んでいるんですか?」

澪「梓の像が二つ……どっちも上手く出来てるじゃないか」

紬「本当~、唯ちゃん上手ね」

唯「えぇ~、そう、かなぁ」

律「なーにが不満なんだよ」

唯「こっちのあずにゃんはここら辺がぐいんっ、ってなっててさー」

律「はい?」

唯「本当はそうじゃなくて、ばーっんとして、どーっんってさせたいんだよ~」

澪「……唯、こっちのは?」

唯「こっちはこっちでよくできたんだけど、肝心のこの部分がぱりっとしててさー」

紬「ふむふむ」

唯「こっちみたいにぐにってならないの。もっとがりがりさせたいのに~」

律「さっぱりわからん」


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最終更新:2012年02月25日 22:13