唯「ふぁー、お腹いっぱいー」
梓「憂、和先輩、ご馳走様でした。美味しかったです」
和「私は手伝ったくらいだから気にしないで、梓ちゃん」
夕ご飯を食べ終わりました
やっぱり、みんなで食べるご飯は美味しいです
両親が仕事だったり旅行だったりでほとんど家に居ないから、いつも憂と二人きりだもんね
憂と一緒なら、寂しくはないんだけれど
梓「ほら、唯先輩。食べてすぐ寝るなんてだらしないですよ」
唯「だってー。お腹いっぱいで動けないよー」
ゴロリと横になります
梓「もう、唯先輩ったら」
ゴロゴロしてたら、視線がスカートで座ってるあずにゃんの足に向きます
……チラっと見えないかな
憂「お粗末様でしたー」
そう言って、憂は食器を片付け始めます
憂「ごめんね、つい張り切って作りすぎちゃった。全部食べてくれてありがとうね」
梓「美味しいから全然大丈夫だったよ。あ、私も手伝うね」
憂「え、大丈夫だよ梓ちゃん。お客様なんだし……」
梓「料理は全部任せちゃったんだから、これくらいさせてよ」
憂「ゆっくりしてもらうはずだったんだけど……そうだ、お姉ちゃんとお風呂入ってきなよ!」
梓「え!?」
ほっほう……
唯「今すごく魅力的な言葉を聞いたんだけど」
梓「ゆ、唯先輩……」
唯「一緒に入ろっか!あずにゃん!」
梓「お断りします」
唯「なんでさー!」
あずにゃんとお風呂だよ?こんな機会、滅多にないよ?
梓「恥ずかしいじゃないですか……それに、もう子供じゃないんだからお風呂くらい一人で入ってください」
唯「ちぇー」
まあ、嫌がってるなら仕方ないか
無理強いして嫌われるのもいやですし
唯「じゃあ、和ちゃん。久しぶりに一緒に」
梓「誰でもいいんですか?」
唯「一人でお風呂入ってきます」
梓「はい。いってらっしゃい」
あずにゃんの目が怖かったよー
なんで睨むのさー
なんか怒らせるようなことしたかな……
―――
唯「ふいー。いいお湯だったよー」
お風呂から出ると、憂は洗濯物をたたんでいて、あずにゃんと和ちゃんはテレビを見ながらお茶を飲んでいました
憂「おかえり、お姉ちゃん」
唯「気持ちよかったよー。和ちゃんはお風呂掃除の天才だね!」
和「誰がしても同じだと思うわよ」
そんな謙遜しちゃってー
もう秋も深まって、最近では夜になると肌寒い日が続いてます
そんな時期のお風呂はどうしてこんなに幸せなんでしょうか
梓「はい、唯先輩」
そんなことを考えていると、何やら冷蔵庫の方でごそごそしてたあずにゃんがやってきました
唯「アイスだ!」
梓「唯先輩が買ったんじゃないですか。憂が『お風呂上がったら食べてもいいよ』って言ってましたから、はい」
唯「ありがとー、あずにゃーん」
思わず抱きしめちゃいます
あー、やっぱ大好きだよあずにゃん
梓「……唯先輩あったかい」
唯「あれ、抵抗しないね、あずにゃん?」
梓「抵抗しても抱きつくじゃないですか」
唯「まあねー」
梓「っていうか唯先輩。髪がちゃんと拭けてませんよ」
唯「え、そう?」
梓「適当にするからですよ。憂、タオルある?」
憂「うん。はい、これ」
洗濯物の中から憂がタオルを出して、あずにゃんに渡します
唯「……おお?」
梓「動いちゃだめですよ」
わしゃわしゃと
あずにゃんが
あのあずにゃんが……!
唯「あずにゃんが私の髪を……!」
梓「動いちゃだめですってば」
優しく私の髪を拭いてくれるあずにゃん
とても気持ちいいです
どこか気恥ずかしいけれど、何故だろう、安心というか、暖かい何かが心の中を満たします
唯「はわー」
梓「はい、終わりました」
あずにゃんが一歩分、私から離れます
唯「あ、ありがとね、あずにゃん」
梓「いいですよ。それより、髪をちゃんとドライヤーで乾かしてくださいね。風邪引いちゃいますよ」
唯「うん。……あ、アイス」
梓「あ、ちゃんと髪乾かしてからですよ、唯先輩」
んーと
うん
唯「いや、あずにゃんがお風呂から出てからにするよ」
梓「え?でもそんな、先に食べてくれても……」
唯「ううん。いっしょにたべよう」
梓「……はい!じゃあ、急いで入ってきますね」
唯「ゆっくりでいいよー、あずにゃん」
憂「梓ちゃん、はい、新しいタオル」
和「私たちのことは気にしなくていいから、ゆっくり入ってきなさい」
梓「は、はい。じゃあ、お先に失礼しますね」
そう言ってパタパタと浴室に向かうあずにゃん
そんなあずにゃんの後ろ姿を眺めながら、
唯「ごめんね、お風呂あとになっちゃって」
和「ん?別にいいわよ。最初から、先に入ってもらうつもりだったし」
唯「え?そうなの?」
和「ええ。私、憂と一緒に入るからちょっと長くなるし」
憂「も、もう和ちゃんったら」
憂も顔が真っ赤です
唯「いいなー……」
私もあずにゃんと入りたかったなー
和「明日、誘ってみればいいじゃない。もしかしたら入ってくれるかも」
唯「うん、そうする」
まあ、あずにゃんに髪わしゃわしゃして貰えたから
お風呂は明日のお楽しみということで我慢しましょう
―――
憂「じゃあ、そろそろ寝ようかー」
みんながお風呂から出たあと人生ゲームをしていたら、もう日付が変わってしまっていました
本当はもうちょっと夜更かしをしていてもいいんだけれど
和「そうね、そうしましょうか」
真面目な和ちゃんはそう言って、片付けを始めました
憂「じゃあ、部屋割りだけど。私とお姉ちゃんの部屋に一人づつでいいかな」
和「いいわよ」
唯「はいはい!私あずにゃんと寝る!」
絶対にあずにゃんと寝る!絶対に!
唯「いいよね、あずにゃん!」
梓「は、はい」
唯「やったー!」
あずにゃんが真っ赤な顔してるけど、もしかしてあずにゃんも嬉しいのかな!?
梓「べ、べつにそういうわけじゃないです!」
ですよねー
和「じゃあ私は憂とね。計画通り」
唯「え?」
和「なんでもないわ。で、お布団だけど」
憂「あ、お客様用のお布団なら二階の押し入」
和「無いの?なら仕方ないわね。一緒に寝ましょうか」
和ちゃんが絶好調です
唯「お布団無いなら仕方ないね。あずにゃん、一緒のベッドだよ」
梓「な、無いなら仕方ないですよね」
和「そうよ。だから憂、今日は一緒に、ね?」
憂「う、うん。大丈夫だよー」
唯「それじゃあ……」
歯磨きして、部屋に行こう
私の部屋です
唯「あずにゃんの荷物はあらかじめ私の部屋に運んでおきました!」
梓「知ってますよ。着替えとか歯ブラシとか取りにきたんですから」
そうだったねー。えへへ
唯「あずにゃん、やっと二人っきりになれたね」
梓「ま、またそう訳のわからないことを……」
あれー?結構かっこつけたんだけどなー
あずにゃんって雰囲気を大事にしそうだから、まずは雰囲気からって思って色々考えてたのに
……まあ、どうなろうって期待はしてないけどさ
でも、もしかしたらって小さい希望は持ってたり
あー、でもなー
やっぱり、女の子同士だしね……
梓「唯先輩?」
ふと我に返ると、あずにゃんが私の顔をのぞき込んでいました
梓「どうしたんですか?なんか凄い真面目な顔してましたけど」
唯「……できるだけ長くあずにゃんと一緒に寝るにはどうしたらいいかを考えてたんだよ」
梓「はいはい」
なんとか誤魔化すことが出来ました
あずにゃんの前では、いつも通りの私でいたいのですが
やっぱり家の中だと、油断しちゃますね
梓「どうします?もう寝ますか?それとも、もうちょっとお話してます?」
唯「間を取って、お布団の中でお話しようよ」
梓「そうですね」
あずにゃんが、憂から受け取った枕を私の枕の隣に置きます
その枕と枕の距離が、心なし近いような気がして嬉しいです
……勘違いでしょうけれど
あずにゃんにしてみれば、きっとそれは先輩と後輩の関係なら、妥当な距離感なのでしょう
そんなことを考えつつ、布団に潜り込みます
梓「じゃあ、電気消しますよー」
唯「はーい」
電気が消えて、部屋の中が真っ暗になりました
ゴソゴソと音がして、ベッドが軋みます
唯「あずにゃん、おいでー」
梓「失礼しますね」
あずにゃんがお布団の中に入ってきました
ゴソゴソと身じろぎした後で、ふぅと息をつくのが聞こえます
唯「あずにゃん、寒くない?」
梓「大丈夫です。そっち、布団短くないですか?」
唯「大丈夫だよ」
あずにゃんの足が私の足に触れて、ちょっとドキっとします
少しくらいなら、ハメを外してもいいよね?
唯「あーずにゃーん」
梓「もー、唯先輩は……」
唯「いいじゃん。二人っきりだよ?誰も居ないし」
梓「……まあ、一緒に寝る時点で抱き枕にされるのは覚悟してましたけど」
唯「じゃあいいの?」
梓「……今夜だけですよ」
唯「やった」
あずにゃん公認です!
そうとなれば、今まで短縮していたあずにゃん分補給時間の埋め合わせです
唯「へへー」
まだ目が暗闇に慣れてなくて、よくわかりませんが
声の方向からして、たぶんあずにゃんはこっちを向いてるよね
なら、首筋に顔を埋めてみます
唯「むふー」
梓「ちょ!……く、くすぐったいですよ」
唯「あずにゃんの匂いがするー」
梓「当たり前じゃないですか」
嗅ぎ慣れてるあずにゃんとあずにゃんの髪の匂い、それに微かなシャンプーの匂い
私と同じシャンプーの匂いがあずにゃんからも漂ってきて、それが凄くドキドキします
唯「私と同じシャンプーの匂いだね」
梓「お泊まりしたんだから当たり前ですよ。そういえば、結構高そうなシャンプーとリンスでしたね。唯先輩の好みですか?」
唯「ううん。憂がね、『女の子なんだから、シャンプーとリンスは良い物を使わないと』って探してきてくれたんだ」
私はそういうの、詳しくないから
梓「そうですか。だから唯先輩も憂も、髪の毛サラサラなんですね」
唯「えへへ。さわってみるー?」
梓「じゃ、じゃあ、少しだけ……」
あずにゃんがすっと手を伸ばす気配がしました
私の髪に触れた瞬間、ビクッと指先が震えて、その後おずおずと撫でてきます
梓「すご……ふわふわのさらさらです」
唯「へへ、ありがとう」
優しく、まるで猫を撫でるかのようにあずにゃんの手のひらが私の髪を愛でていきます
気持ちいいです。猫になりたい
梓「んぅ……」
私もあずにゃんの髪に触れました
触れた瞬間、あずにゃんが可愛い声で反応します
唯「あずにゃんもサラサラだよ。何これすごい……」
今まで抱きついた拍子に髪に触れたり、意図的にあずにゃんをナデナデしたこともあるのですが
こうやってまともにあずにゃんの髪の感触を楽しむのは初めての経験でした
梓「そ、そうですか?」
唯「うん。なんか本当、お人形さんみたいというか」
梓「髪が黒いし長いから、日本人形みたいとはよく言われます」
唯「色も白いしね……」
梓「ひ、否定してくださいよ……」
唯「可愛いよ、あずにゃんは」
梓「へっ!?」
ちょ、そんな……。いきなり、言わないでくださいよ
消え入りそうな声でそう、あずにゃんは呟きました
実際、可愛いんだから仕方ありません
本当、可愛いっていうか美人です
私なんかとは全然違いますよ
梓「ま、まあ。ありがとうございます」
唯「お世辞じゃないよー。本当だよ」
梓「唯先輩も、その」
唯「んー?」
あずにゃんの髪を指で手のひらで楽しみながら、続きを促します
梓「唯先輩も、か、可愛いですよ」
あずにゃんの髪を撫でる手が、無意識に止まってしまいました
唯「へ?」
梓「だ、だから!」
ゆ、唯先輩も、可愛いですよ
これも消え入りそうな声で、だけどはっきりと聞こえました
声の小ささは、それほど気にならないくらいに近い私とあずにゃんの距離
そんな、ほとんど密着してるような状況でそんなこと言われると……
梓「……」
それからお互い、何も言えません
ただ黙って、お互いの髪を撫で続けているだけです
こ、この雰囲気は……
甘酸っぱいような、恥ずかしいような、そんな
今まで経験したことの無い空気です
唯「……」
最終更新:2012年02月27日 21:25